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2025.12.03

板垣李光人インタビュー。「自分の仕事に満足したらおしまい。一生反省と改善を繰り返すと思います」

太平洋戦争中、激戦地となった南国の島における日本軍の戦いの日々を描いたアニメ映画『ペリリュー ──楽園のゲルニカ―』で主人公の日本兵役の声優を務めた板垣李光人さん。アフレコ前には実際に島を訪れ戦争の痕跡を自ら見てきた板垣さんが感じたこととは?

CREDIT :

文/安井桃子 写真/内田裕介 スタイリング/五十嵐堂寿 ヘアメイク/KATO(TRON) 編集/森本 泉(Web LEON)

板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ
3頭身のかわいらしいキャラクターが、太平洋戦争の中でも「忘れられた戦い」と呼ばれ、多くの犠牲者を出した「ペリリュー島の戦い」を生きる──。アニメーション映画『ペリリュー  ──楽園のゲルニカ―』は、武田一義さんによる同名漫画の映画化で、1万人の日本兵が動員され、最後まで生き残ったのが34名だったというパラオ・ペリリュー島の激戦を描いています。

主人公である21歳の日本兵・田丸の声を務めたのは俳優の板垣李光人さん。アフレコの前には実際にペリリュー島に飛び、80年経った今もなお生々しく残る激戦の跡を巡ったといいます。最後まで生き抜いた日本兵たちは、終戦を知らず2年近くもジャングルに潜伏していたというその島で、板垣さんが感じたことはどんなことだったのでしょう。近年出演作がメキメキと増えるなかで考える、役者としての責任と思いも語ります。
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実際に自分が歩いた大地の感覚を蘇らせた

── 太平洋戦争中の激戦を描く本作ですが、その主人公にオファーされて最初に感じたのはどんなことでしょうか。

板垣李光人さん(以下、板垣) 中高生ぐらいの頃までは、戦争って教科書や、『はだしのゲン』とか『火垂るの墓』で見るような、フィクションとして捉えてしまっていました。しかしここ数年、別の国での争いや惨事が連日報道されて、段々とフィクションではなくノンフィクションとして迫ってきている気がしていたんです。そういう恐怖を感じているなかでこの作品のお話をいただき、「役者の自分にできることは伝えることだ」と強く思いました。

── 板垣さんが演じる一等兵の田丸は、戦死した兵士の家族にその最期を伝える絵手紙を描く「功績係」を任命されます。この仕事のことはご存知でしたか?

板垣 オファーをいただき、武田一義先生の原作を拝見して初めて知りました。どんなに悲惨な亡くなり方でも、「勇敢だった」と遺族に絵や文章で伝える仕事があったなんて。でも、田丸は漫画家を志している青年ですから、戦場でも絵を描き、いつ死んでしまうかわからない状況下でも自分の世界に向き合える、そういうものがあったのは彼にとってはよかったのかなとも思いました。
板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ
▲ ジャケット、シャツは参考商品、パンツ18万7000円/すべてヴァレンティノ、ブーツ21万3400円/ヴァレンティノ カラヴァーニ(以上ヴァレンティノ インフォメーションデスク)
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── 実際にペリリュー島にも行かれたということで。この島には今も当時の戦車や墜落した零戦がそのまま残っているそうですね。現地ではどんなことを感じましたか?

板垣 終戦から80年経っていますから戦車からは草が生え、花も咲いている。最後まで日本兵が潜伏していたという「千人洞窟」と呼ばれる大きな壕に入ると、当時の生活を偲ばせるガラスの破片などが、生々しく残っていました。ここで戦争があったという過去は変えられません。島を訪れて、この作品に携わる責任を改めて痛感しました。

── 島を訪れた経験は、アフレコの際にどう活かされましたか?

板垣 アフレコをしている時のアニメーションの映像は、すべて完成しているわけではありません。絵はないけれど、想像しながら声を入れないといけない部分も多くありました。そういう時は、実際に自分が歩いた大地の感覚や壕の中の気温、聞こえてくる音など、自分の五感で感じたことを蘇らせて、声を入れていくことができました。

ペリリュー島の壕の中で蟹を見つけたのですが、その時に思ったんです。「当時はこうやって、防空壕内にいた蟹を捕まえて食べたりしたのかな。食料がないなかで、これを見つけられたらきっとすごいお祭り騒ぎだったんだろうな」と。資料だけでは得られない情報、感覚を掴むことができ、イメージを膨らませやすくなりました。
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現実はもっと恐ろしいものだったんだろうと、より深く突きつけられる

── 実際にあった激戦を描きながらも、一方でキャラクターたちは3頭身の愛らしい見た目です。リアリティとアニメらしい表現のバランスはどうとりましたか。

板垣 3頭身の絵柄について僕はそこまで意識しませんでしたし、いわゆるアニメっぽい声の出し方もしていません。というのも、原作者の武田一義先生は、僕がメディアで、役ではなく素の状態で喋っている声を聞いて「あ、田丸だ」と思ってくださったそうなんです。であればいつも通り、特に声をつくる必要はないんだ、とありのままで挑みました。

この3頭身のかわいらしいキャラクターが、戦場で実際にあった残酷な命のやりとりをしている。そのアンバランスさで戦場の様子がデフォルメされて、見る人に想像させる作品になっていると思います。現実はもっと恐ろしいものだったんだろうと、より深く突きつけられる作品だなと思います。
板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ
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── 激しい戦闘シーンも多いですが、声だけで命のやりとりを演じるという体験は、普段実写作品に出演されている板垣さんにとってどんなものでしたか。

板垣 そこが一番難しかったです。息を切らしたりうめいたり、本来は身体の動きも伴うシーンを、声だけで表現しないとなりません。また、弾を避ける、転がる、走る、という絵の動きの中で、声はすごく細かい秒数の中に指定されているんです。だから今回は身体の動きや感情は考えず、「ふさわしい音をつくり、ふさわしいタイミングではめる」ということに集中しました。実写で演じた場合はすごく感情も高まるシーンだと思うので、あえてそうやって演じたことは新鮮でした。
── 声優を務めるのは『かがみの孤城』以来2度目となりますね。声優としての手応えは今作でありましたか。

板垣 僕は普段は役者として、衣装を着てメイクをして、身体ごと演じています。けれど声優は、私服でブースに入り、マイクとモニターに向き合って、声だけでその役を演じる。実写作品を多くやっている自分としては、凄くイレギュラーで、慣れるのに時間がかかりました。

技術的にも難しいことが多く、アフレコ初日はもうパンクしそうだったんです(笑)。けれど最終日には芝居として楽しむ余裕も出てきて、初日に録ったシーンをまた頭から録り直すなんてこともできました。『かがみの孤城』の時は、「声優って本当に難しいな、これで合っているのかな」と思いながら終わってしまったので、アフレコで芝居を楽しむというところまで行けたのは、ちょっとだけ成長、なのかもしれません。
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理解できない部分もひっくるめて一番近くで役に寄り添う

── 本作では中村倫也さんが声優をつとめる吉敷上等兵が、板垣さん演じる田丸の戦友となります。板垣さんご自身には「戦友」と呼べる存在はいますか?

板垣 作品ごとに、一緒に頑張ってきたスタッフ、キャストの方々はみんな戦友です。すべての撮影現場が僕らにとっては戦場ですから。いい作品をつくるという同じ目標があって、夏は暑く、冬は寒い過酷なロケを一緒に乗り越えて。だから別の作品で以前の「戦友」に会うと、すごくうれしくなっちゃいます。
板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ
▲ ベルト7万9200円/ヴァレンティノ カラヴァーニ(ヴァレンティノ インフォメーションデスク)、ほかは上と同じ
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── 本作では、どんな戦友ができましたか?

板垣 アフレコの際、ブースには僕ひとりで入るので今回は孤独な戦いでした。初日だけ中村倫也さんと一緒だったのですが、役者と声優の両方をわかっていらっしゃるからこそ、自分のような役者がアフレコをするうえでやりやすい進め方も提案してくださって、本当に助けていただきました。戦友というか僕はもう、中村さんにひたすら、尊敬と羨望のまなざしを送っていました。
── 板垣さんは大河ドラマなどこれまでも歴史作品に出演されていますが、史実に基づく作品に携わる時に、大切にしていることはありますか?

板垣 今回の作品でペリリュー島の戦争の跡地に行きましたし、大河ドラマで演じた役でも事前にお墓やゆかりの地に行くようにしています。ご挨拶をしないまま作品に入るのはすごくそわそわしちゃうんです。マナーや礼節は、大切にしたいと思っています。
── ほかにも、俳優として大切にされていることはありますか?

板垣 その役に「寄り添う」ことですかね……。もちろん自分がその役に「なる」んですけど、まずは寄り添うことからだと思うんです。結局、役は自分自身ではないから、理解できない部分もある。そこもひっくるめて一番近くで寄り添うということは意識しています。
── 先ほど「役の感情を考えず、音としてアフレコした」とおっしゃっていましたが、普段そこまで役に寄り添う板垣さんが、「感情を考えなかった」というのは、逆に難しいことだったのではないでしょうか。

板垣 もちろん難しかったですけど、面白かったんです。いくつかの作品を経験させてもらっていると、こういう時はこうすればいいとか、だんだん自分のなかで「型(かた)」みたいなものができてしまうんです。だけど、それがまったく通用しない世界に行くことで、表現そのものと向き合えた気がします。すごく楽しかったし、今の僕にとって必要な時間でした。
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板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ
── 板垣さんにとって「いい仕事ができたかどうか」の判断基準はどんなところにありますか?

板垣 そもそも俳優の仕事って、正解がありません。セリフひとつにも無限に表現方法があって、考えだせばキリがないんです。役者を始めたばかりのころはその膨大な選択肢の中で戸惑って、「いい仕事」がなんなのかわからないような感じでした。けれど、ここ2、3年で携わらせていただく作品が多くなり、素直に「いい仕事かどうかは、監督に判断を委ねよう」と思えるようになりました。僕は素材を提供して、監督が最終的にそれを調理する、だから監督の判断をその作品の中での正解にしようと。もちろん、感情的なシーンで「もうこれ以上出せない」というところまで出し尽くした後に「もう1回」と監督に言われて、ガクってくることはありますけど(笑)。
── では、俳優をやっていて、幸福を感じられる瞬間はどんな時ですか?

板垣 本当は「完成した作品を観る時」って言いたいんですけど、どうしても自分の演技が気になって、「ああすればよかった」とか考えてしまうので、そうは言えないんです(笑)。でもプロモーションが始まって、舞台挨拶とか直接観てくれた人の反応が伝わってくると、「ああ、ちゃんと届いたんだ、頑張ってよかったな」と思います。僕自身もずっとエンタメに救われてきた人生。自分が携わった作品が誰かを救うことになるのかもしれない、そう思うとやはり、やりがいのある仕事だなと思います。

── では、ご自身の仕事にはいつも満足していますか?

板垣 満足することはないです。自分の出演シーンって今でも自分では見るに耐えないし、完成してもできれば観たくないですから(笑)。でも、自分の仕事に満足したらもう終わりな気がします。一生反省と改善を繰り返すことが、正解のない「表現」というものへの向き合い方なのかなと思います。
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板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ

● 板垣李光人(いたがき・りひと)

2002年1月28日生まれ。’12年に俳優デビュー。映画『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』で第48回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。’25年放送ドラマ『秘密~ THE TOP SECRET ~』でゴールデン帯連続ドラマ初主演。他出演作に『仮面ライダージオウ』、大河ドラマ『青天を衝け』『どうする家康』『silent』などがある。現在、放送中のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』に出演中。俳優業のほか、アートの分野で’24年に初個展『愛と渇きと。』を開催、絵本『ボクのいろ』を発売するなど幅広く活躍中。

板垣李光人 LEON ペリリュー楽園のゲルニカ

『ペリリュー  ──楽園のゲルニカ―』

太平洋戦争末期、南北の美しい島ペリリュー島で、漫画家志望の21歳の日本兵士・田丸は特別な任務を命じられる。亡くなった仲間の最期の勇姿を遺族に向けて描き記す「功績係」という任務を遂行しながら、米軍の攻撃のなかを生き抜き、頼れる上等兵・吉敷と励まし合い過ごしていくが。長期間にわたりジャングルに潜伏、飢えや伝染病で多くの死者を出し、1万人の日本兵のうち生きて帰還できたのはわずか34名。終戦後も生き残った日本兵は2年近くジャングルに潜み続けた、太平洋戦争のなかでも「忘れられた戦い」と呼ばれた「ペリリュー島の戦い」を舞台に描く。
公式HP/https://peleliu-movie.jp
12月5日公開

※商品はすべて税込み価格です

■ お問い合わせ先

ヴァレンティノ インフォメーションデスク 03-6384-3512

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