2025.11.14
芦田愛菜インタビュー。「復讐心に燃える少女の、強さの中の脆さや弱さを演じたいと思いました」【前編】
細田守監督の最新アニメーション映画『果てしなきスカーレット』(11月21日公開)で、主人公の王女・スカーレットの声を演じた芦田愛菜さん。復讐に燃える中世の王女という役柄の難しさと面白さについて話を伺いました。
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文/浜野雪江 写真/土屋崇治 スタイリング/浜松あゆみ ヘアメイク/板倉タクマ(nude.) 編集/森本 泉(Web LEON)

国や時代を超えた役どころと、絵がない状態から芝居をし、先に音声を収録するプレスコという手法へのチャレンジ、演じる仕事に対する芦田さんの思いや、自身が考えるカッコいい大人像などについて伺いました。前後編にわたってお届けします。
現代の19歳とは違う、一国の王女としての自覚や覚悟がほしいと言われて
芦田愛菜さん(以下、芦田) スカーレットは19歳の設定で私と同世代ですが、最初に監督から、「中世を生きる19歳と現代の19歳は違う。一国の王女としての自覚や覚悟がある感じがほしい」という言葉をいただいたんです。
確かに、一国の王女であれば、その覚悟に加えて、民から慕われるような自分でいなければいけないという思いや、国王をおとしいれた叔父への復讐をやり遂げなければいけないという使命感など、背負っているものがとても大きくて重いはず。その自覚や覚悟は当時を生きるスカーレットならではのもので、演じるうえでどう表現しようかなと考えた部分でした。

芦田 父を失ったスカーレットが心を閉ざしてしまう様子はどういう感じなんだろう? というのもすごく考えたところで、見つけるまでには時間がかかりました。
また、中世を生きる役を表現するうえで、セリフひとつとっても“いかに現代人っぽくない口調で喋れるか”というのも悩んだ部分です。例えば、「行かねば」というセリフも、「か」の音が高くなる「行かねば」なのか、一本調子で抑揚のない「行かねば」なのか。
そういう細かいイントネーションに時代って出るなと思うので、そこは自分で考えたり、監督に指示を仰いだりして演じました。
芦田 役をイメージする過程で、中世の動乱の時代を生きた実際の女性たちを描いた映像作品や伝記を見たり読んだりしました。
その中で、一国の君主だったエリザベス1世も、英雄として讃えられたジャンヌ・ダルクも、やはり一人の人間であって、強さだけではないさまざまな思いを抱えていただろうし、そういった人間の感情は時代を超えて変わらないものではないかなと感じたのです。
スカーレットについても、最初はとても強くてカッコいいイメージなのかなと思っていましたが、本質は19歳の少女であって、弱い部分も甘えたい気持ちもあるのだろうなと。そこは同世代の女性として共感できる部分でしたし、むしろ、そうした強さの中に見える脆さや弱さみたいな部分をうまく演じたいと思いました。

芦田 まず、スカーレットはすごく気持ちが張り詰めている子だと思うので、普通に出す自分の地声よりは少し張り詰めた感じを意識しました。
そんな彼女が、岡田将生さん演じる日本人看護師の聖と出会い、ともに旅をする中で、心がほどけていくと同時に柔らかい声が出せるようになったり、セリフも少しずつ変わっていくので、そのグラデーションをうまく表現できたらいいなと思いながら演じました。
── 声の収録は、映像がない状態から芝居をし、先に音声を収録するプレスコという手法から始まったそうですが、聖との出会いによってスカーレットの閉ざされた心が変化する様子は想像で作っていかれたのですか。
芦田 声の部分に関しては想像ですが、全編を通して監督から絵コンテをいただいていたので、絵コンテに描かれたスカーレットの表情や、聖の表情を見て心情を想像することができました。
また、絵コンテと絵コンテの間の描かれていない部分については、どういう顔をしたらよいかを想像しながら、実写のお芝居に近い感覚で自由に演じさせていただきました。
芦田 プレスコで収録したシーンは、先に声を入れさせてもらい、映像をあとからつける形で、口の動きなども音声に合わせて描いていただいたのでとても演じやすかったです。
例えば、スカーレットの感情が高ぶり泣いているシーンでも、口の動きをあまり意識せずに声を出すことができたので、声のお芝居にとても集中することができ、自分なりに納得のいくお芝居ができたような気がします。
聖との後半のシーンではアフレコによる収録も行いましたが、やはり画(え)から受け取るものはとても大きいです。キャラクターの表情や動き、背景から受け取るスカーレット像を意識しながらできるという面ではすごく助けられたので、今回両方を経験して、両方のいいとこ取りができて(笑)よかったなと思います。

無我夢中でスカーレットに向き合えばいい
芦田 いろんな表情の叫びができたらいいなと思っていたので、そう言っていただけてうれしいです。
最初は少し戸惑いもありましたが、現世での復讐に失敗したスカーレットが《死者の国》で目覚めた時、決してきれいではない音を出すシーンがあります。その声を思いきって出したことで、「これだ!」と気持ちが吹っ切れて、躊躇なく臨めるようになったんです。
めちゃくちゃになってもいいから、無我夢中でスカーレットに向き合えばいい。叫び声も頭で考えるのではなく、その場面の気持ちに自分が追いやられるままに、とにかくスカーレットを演ってみようと。そう思えたあの瞬間から、どんどん役が体に馴染む感覚がありました。
芦田 そこにいくまでにはもちろん、家でも考え、練習を重ねましたし、“復讐”とはどのような気持ちなのかを想像することも含め、スカーレットという役にどう向き合い、どういうふうに声を出せばいいんだろうという不安や悩みもありました。
ただ、考えてみたら、スカーレット自身も《死者の国》というよくわからない世界に来てしまって、無我夢中で復讐を遂げようとしているわけで。そこに私の、よくわからない部分もあるけど頑張ってみようとか、夢中で飛び込んでみようという気持ちが重なって、スカーレットのように体当たりで臨もう! という心境になれたのだと思います。

芦田 お芝居には、考えてもわからないものってあると思うのですが、相手役の方や、ほかの俳優さんたちの声を聞くことによって、自分なりの解釈が生まれることもあると思うんです。実際、わからないなと悩んでいても、やってみたら結構ハマっているかも、と思うことも多いです。
なので、役について家で考えていくのももちろん大切ですが、それ以上に、現場に行った時に実際どんな声が出てしまったのかや、現場で自分がどうしたくなったかを大事にしていたいなと思っています。
芦田 私は結構臆病なので、どこにも行きたくないなぁと思ってしまいます(笑)。過去に行って何かを変えてしまい、自分が生まれなくなったり、自分が好きだったものが変わったりしたら怖いですし、未来は未来でお楽しみにとっておきたいので、あまり知りたくないなと思う気持ちもあったりして。
やはり、過去があるから今の自分があるし、今の自分があるから未来の自分もあるというふうに、時代って一方向だからこそ素敵なのかなと思います。そうして積み重ねていく今が一番なんじゃないかな(笑)と思いますね。
※後編(こちら)に続きます。

● 芦田愛菜(あしだ・まな)
2004年生まれ、兵庫県出身。TVドラマ「Mother」(10)で脚光を浴び、その後ドラマや映画で数々の新人賞を受賞。近年の作品には、ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」(23)、「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」(24)、映画『メタモルフォーゼの縁側』(22)、『はたらく細胞』(24)、『俺ではない炎上』(25)などに出演。『はたらく細胞』では、「第48回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞」を受賞している。

『果てしなきスカーレット』
『時をかける少女』から19年、『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』など、数々の名作アニメ映画を手がけてきた細田守の最新作。
国王である父を殺した敵への復讐を心に誓う王女・スカーレット。≪死者の国≫で目覚め、それでも復讐の戦いに身をゆだねながら旅を続けるなか、現代からやってきた看護師の青年・聖と時空を超えた出会いを果たし、彼への信頼と愛情に、心動かされ変化してゆく感動の物語。「生きるとは何か?」という本質的な問いを観るものすべてに突き付ける。また本作では、これまで描いてきた作風を一新し、まったく新しいアニメーション表現に挑戦。狂気に満ち溢れた世界が、2Dでも3Dでもない圧倒的な映像によって、壮大かつ鮮明に描かれる。
声の出演は、主人公スカーレット役を芦田愛菜、聖役を岡田将生が担当。スカーレットの宿敵で冷酷非道なクローディアス役を役所広司が演じる。そのほか、市村正親、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊など。
2025年11月21日(金)全国公開
配給/東宝、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
HP/映画『果てしなきスカーレット』公式サイト
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