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2025.11.15

芦田愛菜インタビュー。「自分は何のために生きるか、より、何のために生きたいかを考えたい」【後編】

細田守監督の最新アニメーション映画『果てしなきスカーレット』(11月21日公開)で、主役の王女・スカーレットの声を演じた芦田愛菜さん。復讐に燃える中世の王女という役柄の難しさと面白さについて話を伺った、その後編です。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/土屋崇治 スタイリング/浜松あゆみ ヘアメイク/板倉タクマ(nude.) 編集/森本 泉(Web LEON)

芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON
幅広い世代に愛される俳優の芦田愛菜さんが、海外でも高い人気を誇る細田守監督の最新アニメーション『果てしなきスカーレット』(11月21日公開)に声優として主演。中世ヨーロッパを舞台に、国王である父をおとしいれ、死に追いやった叔父への復讐を果たすため、《死者の国》で戦う王女・スカーレットの声を演じています。

中世の王女を演じるうえでの工夫や、復讐に燃えるスカーレットを熱演する過程でつかんだ「吹っ切れた瞬間」などについて語ってくれた前編(こちら)に続き、演じる仕事に対する芦田さんの思いや、自身が考えるカッコいい大人像について伺いました。
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もともとダークな作品も好きなので、スカーレットにも入り込みやすかった

── 本作はシェイクスピアの古典劇を彷彿させる物語でもあります。読書好きの芦田さんとしては、シェイクスピアをはじめ古典作品の中に、今回の役のヒントを見つけるようなことはありましたか?

芦田愛菜さん(以下、芦田) 古典作品や明治の文豪たちの小説って、人間の本質を描いたものが多いですよね。人間の心は誰しも、ポジティブな感情だけではなく、ネガティブで影のある部分を持っていて、それが人間なんだよということを教えてくれるような気がしますし、人間のどうしようもなく隠せない負の感情は、ある意味人間らしくていいなと私は思うんです。

父を殺され、憎しみや復讐心が根底に渦巻いてしまっているスカーレットは、とても人間味のあるキャラクターだなと思いますし、私はもともとこういうダークな作品も好きなので、スカーレットにも入り込みやすかったと感じます。

映画の終盤で、スカーレットが自分の中の相反する感情と向き合う場面があるのですが、その時の自問や苦悩、負の感情の表現など、古典作品から教えてもらうものは多かったと思います。
芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON
▲ ブラウス10万5600円、スカート16万1700円/ともにERDEM(MAISON DIXSEPT)、靴はスタイリスト私物
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── 復讐という気持ちは、芦田さんご自身、普段感じることはないと思うのですが、本作を通して、復讐についてどのような考えで演技をされたのでしょう。

芦田 復讐とはどのような気持ちなのかと考えてまず思ったのは、復讐は(大切な人を思うがゆえの)愛の裏返しなんだろうなということです。スカーレットはお父さんのことが大好きで、その愛があるからこそ、お父さんを死に追いやった相手を絶対に許せないという気持ちがあるのかなと思うんです。

そして、復讐心になってしまった歪んだ愛が、岡田将生さん演じる看護師の聖に出会って純粋な愛を思い出すことで、本当の愛を知っていくのかなと。だとしたら、復讐心と愛という感情は、真反対にあるようで、実はとてもシームレスなものなんじゃないかなということに、役を演じていて気がつきました。
── 復讐に燃えるスカーレットの心が、聖のピュアな愛に触れて変化していく様子は、ご自身でも演じながら伝わってくるものがありましたか?

芦田 今回の役は、心の中から出てくる叫びや痛み、傷を表現するお芝居が本当に多かったので、スカーレットが苦しんでいる時に、とても優しい存在である聖がさまざまな場面で温かい声をかけてくれたのは、スカーレットだけでなく、彼女を演じている私自身も救われる思いでした。

── 岡田将生さん演じる看護師の聖は、現代から死者の国へやってきて、スカーレットとともに旅をします。スカーレットにとって、聖はどのような存在だと感じましたか?

芦田 聖とスカーレットはまるで対極にいる、正反対と言っても過言ではないふたりだなと思います。強くあろうとするスカーレットには、どこかポキッと折れてしまいそうな弱さがあり、一方の聖は、平和主義者でとても優しく見えるけれど、内側には柳のようにしなやかな強さを持っている。

たぶんその強さは、看護師というお仕事柄、人が傷ついたり亡くなったりするのをたくさん見て、その傷や痛みを知っているがゆえの優しさであり強さなのだと思います。

聖と正反対のスカーレット、というのは演じるうえでも意識した部分で、聖の存在があるからこそ、スカーレットの頑なさもより際立ち、本当は弱さを見せたいけれど、現実を直視して強く生きなければいけないと思い込んでいる自分、というのを対比しやすかったですね。
芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON
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役所さんの声でスカーレットスイッチが入り、奮い立つ気持ちに

── 収録の後半で行われたアフレコで、岡田さんと実際にお芝居をした時の感触はいかがでしたか?

芦田 岡田さん自身もとても柔らかい雰囲気を持ってらっしゃる方ですが、特に印象的だったのが、スカーレットが撃たれて、聖に治療してもらうシーンです。そこで、岡田さん演じる聖が心からスカーレットを心配し、寄り添ってくれる温もりを感じましたし、実写のお芝居のように、相手役の岡田さんから受け取るものによって自分の中に生まれてくるものが多くありました。
── 相手役と言えば、物語の終盤で、スカーレットが宿敵の叔父・クローディアスと対峙するシーンは凄まじい迫力でした。クローディアス役の役所広司さんの声との共演は、どのように行われたのでしょう。

芦田 そのシーンは、私より先に役所さんが声を入れられていたので、その凄みのある声をまずは自分の耳で聞くことができたのはとても大きかったです。

最初に聞いた時点で、やはり役所さんの声の迫力にものすごく圧倒されて、「この人に立ち向かっていかなきゃいけないんだ」というスカーレットスイッチが入り、奮い立つ気持ちにさせていただいたので。あの場面の私のお芝居は、本当に役所さんに引き出していただいたような気がします。
── 細田監督とは初タッグとなりましたが、細田守監督作品への参加という意味ではどのような受け止め方をしましたか?

芦田 細田監督の作品は幼い頃からたくさん拝見しているので、その世界に参加できるというのがまずとてもうれしかったです。同時に、テーマが「生きるとは」や「愛を知りたい」など、非常に深くて重いものなので、そこに自分がどう立ち向かっていけるのかや、本当にスカーレットになっていけるのかなという不安はありました。

ただ、先ほど申し上げたように、私はこういうダークな作品も好きなので、ぜひ挑戦させていただきたいなと思いました。監督ともたくさんお話をして、一緒にスカーレットという役について考え演じていけたのは、とても楽しく貴重な経験でした。
芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON
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── この映画を観て、「何のために生きるのか」を考えさせられる人は多いと思います。芦田さんご自身は、何のために生きるのかという問いの答えは見つかっていますか?

芦田 役を演じていて感じたのは、何のために生きるのかを考えるよりも、今この瞬間を生きている自分が何のために生きたいか、を考えることが重要なのかなということです。

スカーレットは、民のためや復讐のためなど、何かのために生きなければならないと強く思っていましたが、聖と出会って、「今を生きてる自分が何をしたいか」が、「何のために生きるか」へと繋がっていったのかなと思います。
── 完成の一歩手前の映像をご覧になっての感想も伺えますでしょうか。

芦田 まず、すごくうれしいというのが一番です。声を入れて息を吹き込んだスカーレットが、しっかり生きているなと思えたので。瞳の表現も、宇宙みたいにキラキラ輝いている時もあれば、瞳孔が揺れ動いたり、光を失うこともあって、それがスカーレットの気持ちと直結していて、言葉がなくても目から伝わる感情があるのも素敵でした。

映画全体で特に印象的だったのは、死者の国で出会う人々が、死んでもなお生きているという描写です。戦いで血が流れる瞬間もあれば、心が和むようなシーンもあり、それらが生き生きとして美しく、死者の国の中にも希望があるように感じました。

そして映像も本当にきれいで、早く劇場で見たい気持ちでいっぱいですが、空を背景にしたあるシーンでは、息をのむほど美しい圧倒的な表現があります。実写の作品でも、現実ではありえない描写をCGで作ることは可能だと思いますが、それを違和感なく物語に取り込むことができるのはアニメーションの大きな魅力かなと思います。
芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON
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相手役の方と気持ちが通じ合ったなと思う瞬間が一番楽しい

── 演じるうえでは、声優と通常の演技ではどのような違いがありますか?

芦田 実写のお芝居であれば、表情や動作で表現できる部分も多いので、アニメーションで声だけで表現するというのはやはりとても難しいです。

その一方で、実写の作品でお芝居をするのは肉体を伴う「私」ですけど、アニメーションでは現実の「私」が演じられない動きなどもたくさんしてくれたり、虚構の世界もダイナミックにつくり出せたりするので、現実だけじゃない、現実と虚構がより混ざり合う物語を生きられるのは、声優のお仕事の面白さですし、魅力だなと思います。
── そうした面白さも含めて、演じる仕事の一番の喜びをどのようなところに感じていますか?

芦田 演じたお芝居を「良かったよ」と言っていただけることもとてもうれしくて私の大きな糧になるのですが、それだけではなくて、演じている時に相手役の方と気持ちが通じ合ったなと思う瞬間がやはり一番楽しいなと感じます。

もちろん、セリフもやり取りも全部決まっているものを演じているわけですが、その中で相手の方から、本当に生きた、今生まれた言葉同士で会話をしてる時のようなリアクションをいただけたり、あるいは自分でそういうリアクションができた時は、気持ちが通った気がしてすごくうれしいというか。そういうキャッチボールができた時が、私は演じることがとても純粋に好きなんだというのを再確認する瞬間だなと思います。
── 本作には、悪い大人たちが数多く出てくる一方で、心優しい国王だった父や、他者に等しく愛を注げる聖という誰が見てもカッコいい大人も登場しますが、芦田さんにとってのカッコいい大人とはどんな人ですか?

芦田 こんな人でいたいということで言えば、誰かと結んだ約束を守れる人でありたいですし、そういう約束を結ぶような関係の人をちゃんと大事にできる人でいたいなと思います。

それは、すべてをきっちりやりたいということではなく、小さなことで言えば、例えば仕事が長引いて待ち合わせの時間に遅れそうな時があったとしても、仕方ないやと思ってしまうのではなく、その人に会いたい、話したい! という気持ちが真っ先に出て相手に伝わるような、相手に優しく、愛を注げる人でいたいですね。
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── 映画の舞台は中世で、現代とは時代背景は異なりますが、日々いろんな意味で戦っている読者の方々に、この作品を通してメッセージをいただけますでしょうか。

芦田 死者の国や中世という設定は、一見、私たちの日常から離れているように感じられるかもしれませんが、スカーレットを始め、登場人物たちの根底にある感情は、時代を超えて同じなのではないかと思います。

スカーレットのように、こうあらなければいけないと自分を自縛し、心が固まってしまうことは現代の私たちにも大いにあることで、そういう思いを抱えながらも一生懸命に生きようとするスカーレットの強さや生命力から、自分も頑張ってみようかなとか、明日への希望を少しでも感じていただけたらうれしいです。

また、生きるというテーマは、国も世代も関係なく、生きている私たち全員が持っているものなので、この作品がそういうテーマについても考えていただけるきっかけになったらいいなと思います。
芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON

● 芦田愛菜(あしだ・まな)

2004年生まれ、兵庫県出身。TVドラマ「Mother」(10)で脚光を浴び、その後ドラマや映画で数々の新人賞を受賞。近年の作品には、ドラマ「最高の教師 1年後、私は生徒に■された」(23)、「さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜」(24)、映画『メタモルフォーゼの縁側』(22)、『はたらく細胞』(24)、『俺ではない炎上』(25)などに出演。『はたらく細胞』では、「第48回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞」を受賞している。

芦田愛菜 果てしなきスカーレット WebLEON

『果てしなきスカーレット』

『時をかける少女』から19年、『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』『竜とそばかすの姫』など、数々の名作アニメ映画を手がけてきた細田守の最新作。監督・脚本・原作を細田、企画・制作を細田率いる制作会社スタジオ地図が手掛ける。
国王である父を殺した敵への復讐を心に誓う王女・スカーレット。≪死者の国≫で目覚め、それでも復讐の戦いに身をゆだねながら旅を続けるなか、現代からやってきた看護師の青年・聖と時を超えた出会いを果たし、彼への信頼と愛情に、心動かされ変化してゆく感動の物語。「生きるとは何か?」という本質的な問いを観るものすべてに突き付ける。また本作では、これまで描いてきた作風を一新し、まったく新しいアニメーション表現に挑戦。狂気に満ち溢れた世界が、2Dでも3Dでもない圧倒的な映像によって、壮大かつ鮮明に描かれる。
声の出演は、主人公スカーレット役を芦田愛菜、聖役を岡田将生が担当。スカーレットの宿敵で冷酷非道なクローディアス役を役所広司が演じる。そのほか、市村正親、吉田鋼太郎、斉藤由貴、松重豊など。
2025年11月21日(金)全国公開
配給/東宝、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
HP/映画『果てしなきスカーレット』公式サイト

※価格はすべて税込み価格です

■ お問い合わせ

MAISON DIXSEPT 03-3470-2100

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