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2022.03.26

古内東子「もっと深い部分で繋がりたい」恋愛ソングのカリスマがたどり着いた境地とは?

人を思う「せつなさ」を、流麗なメロディとピアノを中心にした美しいサウンドで表現。その楽曲に、性別や世代を問わず陶酔するリスナーがあとを絶たない、古内東子さん。デビュー30周年を迎えた彼女が思う「大人の恋愛観」、そして「カッコよさ」を尋ねてみました。

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文/松永尚久 写真/トヨダリョウ

1993年にデビュー、「誰より好きなのに」(96年発表)や「大丈夫」(97年)、「Beautiful Days」(05年)など、さまざまなヒット曲を生み出してきた古内さん。2022年2月には、古巣であるソニーミュージックへ復籍し、30周年記念アルバム『体温、鼓動』を発表しました。

1stシングル「はやくいそいで」のセルフカバーや、古内さんが編曲を担当した「この夜を越えたら」などを含む全8曲は、ピアノをメインにしたシンプルな音色でありながらも、90年代から変わらない「せつなさ」を描いていると同時に、さまざまな経験を重ねたからこそ表現できる深みもにじんだ、味わいのある仕上がりになっています。

女性は歌詞に共感を求めるけど、男性は「音楽」として接してくれる

—— 今年でデビュー30周年。振り返って、どんな時間でしたか?

古内 あっという間というか。30年も活動してきたと感じてないんですよね。それなりの重みのある年月を過ごしてきたなとは思いますが。

—— 古内さんといえば「誰より好きなのに」を筆頭に「せつない恋」を描く印象ですが、時代ごとの「せつなさ」に変化は?

古内 デビュー曲を発表したのが20歳で、「誰より好きなのに」を制作したのが23歳の頃なんですけど、当時は昭和を背負っていたなと(笑)。両親を見て育った影響もあったので、女性は3歩下がってついていくという感覚が、楽曲にも表現されていた気がします。でも、次第に男女の関係性が平等になって、女性から思いを伝えたり、男性をリードすることも当たり前になっていく社会環境によって、少しずつ描く歌詞も変化していったと思います。

—— いつ頃から心境の変化がありましたか?

古内 歌詞の中で、相手を「あなた」ではなく「君」と呼ぶようになったのが、2000年に入ってからなんです。90年代の私の楽曲では考えられなかった表現なので、変化はそこからかなって。

—— その恋愛観に、多くの人(特に女性)が共感や思いを巡らせています。そういった反響を意識して楽曲制作をすることはありますか?

古内 意識はしないように曲作りをしていたのですが、デビュー当時からライヴ会場に足を運んでくれるリスナーに同性が多く、周囲からも女性の支持が高いと言われるうちに、そういうイメージがついていったと思います。それでスタッフとともに、どういう楽曲を発表すべきか考えるようになったところもありますね。
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—— でも、先日のブルーノート東京でのライヴは、40~50代の男性客が7割くらいを占めていたような。

古内 そうですね、ちょうどLEON世代の方が多かったような(笑)。最近はライヴのお客さんに、逆転現象が起こっています。ブルーノートをはじめ、お酒を飲みながらじっくりパフォーマンスを堪能できる会場でライヴをする機会が増えたおかげで、男性にとって敷居が低くなったのではないでしょうか。お酒を一杯引っ掛けるついでに、ライヴを楽しむかんじ。「男の止まり木」みたいな役割になっているのかもしれないですね(笑)。

—— 95年に発表のアルバム『Strength』のジャズテイストなサウンドなど、その頃から音作りを評価する声も高かったと思います。

古内 女性は、歌詞に共感を求める方が多い印象ですけど、男性の場合は純粋に「音楽」として接してくれている雰囲気を感じますね。
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世の中は変わるけど、心の奥にあるものは変わらない。それが「真実」

—— 最新アルバム『体温、鼓動』からも、じっくり丁寧な音作りが伝わってきます。

古内 今回はピアノを中心にした作品にしようとスタートしたアルバム。さらにベースやドラムを加えたトリオ編成なら、より自由度が高まり、かつピアノの存在感が際立つ内容になると思い、完成させたものになります。

—— なぜピアノ中心にしたのですか?

古内 デビュー30周年だけでなく、ソニーミュージックに復籍して初という記念すべき作品だったので、自分の原点であり、作曲をするためのツールであり、人生をともにしてきたと言ってもいい楽器であるピアノを主役にしたアルバムを残したいという気持ちが強かったんです。

—— 収録曲それぞれ編曲者が違いますね。

古内 アレンジャー(編曲者)というより、曲ごとに異なるピアニストの方を選び、彼らに曲を託したというか。私が渡したデモ音源を、できるだけ雰囲気を変えずに演奏していただいたという感覚が強いですね。ただ、人によってはそこに自分の色を付け加えて、楽曲をより良いものに仕立ててくださいましたが。

—— タイトルを『体温、鼓動』にした理由は?

古内 始めから決めていたワケではなく、全曲が完成した時に「体温、鼓動」という楽曲をアルバムのタイトルにしようと思いました。

歌詞に関しては、ベーシックはラヴソングなんですが、ここ2、3年の経験が反映されているなって。世の中に変わらないものはないけど、心の声を聞くとその奥にあるものは変わらない、それが「真実」なんだと。その思いは他の楽曲にも表れていて、このアルバムのマニフェストなんだと感じたんです。

サウンドに関しても、5拍子というピアノ編成でないと表現できないもので、アルバムを象徴する仕上がりになったので、この楽曲をタイトルに決めました。
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—— やはり新型コロナの影響はありましたか?

古内 影響は誰しも少なからずあると思います。私も予定していたライヴが中止・延期になりましたが、オーディエンスの方々が声を出して盛り上がるタイプのステージではないので、そこまで大変な状況にはならなかったです。

ただ、ひとりの人間として、変化した部分はあるのかも。最初は「いつ元の暮らしに戻れるのか?」を考えていましたが、徐々に今の生活に対応していったというか。「体温、鼓動」をはじめ歌詞にも反映されている発想の転換があったのかなって。

—— これまでの常識に捕らわれずに新しい人生を歩みたいという思いに溢れた「虜」や、相手との距離を縮めたい心境を表現している「動く歩道」など、人への思いがストレートに伝わる楽曲だと感じます。

古内 デビュー当時と比べると、歌詞はシンプルになっていますね。あなたに思いを寄せているように、相手にも同じ気持ちを抱いてほしいという根本的な感情が、以前より削ぎ落とされて表現されていると思います。

若い頃は、結婚をゴールにして恋愛をしたいとか、恋愛と仕事を共存させて生きていくためにはどうしたらいいか? など試行錯誤する様子を描いていたのですが、今はその境地に頑張ってもなかなか辿り着けなくて(苦笑)。でも、シンプルに思いを寄せる人に愛されたいという気持ちは、ずっと変わっていないかなって。

—— 確かに、ゴールや目標を目指すのではなく、緩やかに人生を分かち合えるパートナーを探している印象を受けます。

古内 人生のパートナーにしたいと思う相手に対して、まず人間性を理解したうえで判断するようになったと思います。人として尊敬できる部分があるか、信頼できるか。そこを見極めてから恋に発展させていく。以前のように電光石火で恋に落ちてみたい気持ちもなくはないですが(笑)、もっと深い部分で繋がりをもちたいと思えるのは、大人になったからこそですよね。
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「カッコいい大人」の男性とは、話を聞いてくれて、一緒にいて楽しい人!

——古内さんはお子さんもいますが、楽曲制作に影響している部分はありますか?

古内 それはないです。ただ曲を作りながら子育てもしているので、まったく無関係とは言い切れないですけど、基本的にはスイッチが切り替わります。曲作りに没頭すると、プライベートなことを考えなくなりますね。

—— 最新アルバムでは、デビュー曲である「はやくいそいで」をセルフカバーしていますね。

古内 デビュー前からお世話になっていたソニーミュージックから、再び楽曲を発表できることが感慨深くて。この機会にデビュー曲をセルフカバーするのは、意味のあることだと感じたんです。

でも、オリジナルをそのまま表現するのは違うし、逆にこの楽曲を好きで聴いてくれている皆さんを驚かせるような斬新な音にするのも違和感があるので。絶妙に楽曲のいい部分を残しながらもフレッシュなサウンドを、今回参加のピアニストの中で最も共演歴の長い河野 伸さんとともに再構築しました。

—— 今回のアルバム制作で感じた手応えは?

古内 現代は、誰にも会わずに楽曲を完成させることができますが、この作品はメンバーが一堂に集まり、意見交換をしながらでき上がった、手作り感のある仕上がり。楽曲ごとに温もりがあるし、演奏者の方々のプライドも詰まっている。とても気に入っている作品になりました。

—— LEON読者は、古内さんの音楽とともに人生を歩んできた世代。このアルバムはどう響いてほしいですか?

古内 全体にミニマムな音になっていますが、温もりを感じてもらえればうれしいです。皆さんも徐々に人の温かみを求めるようになっている世代だと思うので、この音はフィットするのではないでしょうか。また皆さんは、クルマや時計、オーディオなど、モノにこだわりをもっている方が多いイメージ。その感覚に合う贅沢な音に仕上がっているので、ぜひ聴いてみてください(笑)。
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—— 30周年の計画を教えてください。

古内 秋のホール公演のほか、今回参加のピアニストと全国ツアーの予定もあります。ほかのピアニスト担当の楽曲も演奏するなど、アルバムとは異なる音色を楽しんでいただけると思います。

—— 40周年、50周年に向けて、どんな活動をしていきたいですか?

古内 30年間で、私は私にしかなれないとわかりました。劇的に自分を変えることなんてできないことが、はっきりした(笑)。違う自分になろうと必死に努力したこともありましたが、今は自分らしさを大切にしていきたいなって。きっと70歳になっても、その思いは変わらないでしょうね。

—— ますます恋愛(もしくは人間愛)の真髄に迫った楽曲を発表していくんですね! 理想の歳の重ね方についても教えてください。

古内 「可愛らしい」と言ってもらえるのが理想。周囲を見ていると、歳とともに意固地になっていく人が多いので(笑)。そうではなく年下の人からも気軽に接してもらえる存在になりたいです。

—— 古内さんにとって「カッコいい」大人とは?

古内 余裕のある人でしょうか。何かとセカセカしている状況が多い現代で、この人の周りだけは時間がゆっくり流れているといった雰囲気を纏っている人がカッコいいと思います。

—— 特に男性に求める「カッコよさ」はありますか?

古内 何も言わず、話を聞いてくれる人。私がそういうイメージをもたれているらしいのですが、実は逆のタイプなので(笑)。ご飯をたくさん食べ、お酒も嗜む方も素敵ですね。食事に行ったり、お酒を飲んだり、一緒にいて楽しいと思える人が一番です。

● 古内東子(ふるうち・とうこ)

1993年4月に1stアルバム『SLOW DOWN』を発表。97年リリースのアルバム『恋』で第39回日本レコード大賞アルバム賞を獲得、98年発売のアルバム『魔法の手』は自身初のオリコン・アルバムチャート首位に輝くなど、ヒット作多数。22年4月〜『TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY LIVE TOUR』がスタート、6月にはビルボード公演『TOKO FURUUCHI 30th ANNIVERSARY 体温、鼓動』、さらに10月には東京と大阪にてホール公演が控えている。

『体温、鼓動』古内東子

3300円/ソニーミュージックダイレクト
https://www.tokofuruuchi.com

※掲載商品はすべて税込み価格です
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