• TOP
  • LIFESTYLE
  • イタリア人はなぜケチャップを「トマトの魂が抜けたジャンクなソース!」とののしるのか?

2025.11.28

【第35回】

イタリア人はなぜケチャップを「トマトの魂が抜けたジャンクなソース!」とののしるのか?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

新鮮なトマトを軽く煮詰めて、オリーブオイルとバジルを少し。これが最高!

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのマッシさんが、今回はイタリア人が眉をひそめ「ジャンクなソースだ」とののしるケチャップについてお話しします。
massi   マッシ 思考する食欲 イタリア  ケチャップ LEON
イタリア人が「ケチャップ」という言葉を聞いた時、頭に浮かぶのは、きっとフライドポテトやハンバーガーにドバッとかける、あの「ジャンクなソース」だろう。体に悪そう、栄養なんてない、しょせん子供だまし、と、イタリア人が眉をひそめる気持ちがよくわかる。

トマト栽培と食文化の本場であるイタリアから見れば、ケチャップはなんだか「本物のトマト」から遠く離れた存在のように見えるから。でも、イタリア人が知って目から鱗が落ちるほど驚愕した日本のケチャップの「真実」。これこそが、僕たちが今、大声で笑い感動を分かち合うべき、最高のネタだ!
PAGE 2
massi   マッシ 思考する食欲 イタリア  ケチャップ LEON
見た目も色も同じに見えるかもしれないけど、ほとんどのイタリア人がケチャップは「ジャンクフードにかけるもの」というイメージが強い。なぜかというと、イタリアの食文化の根幹には新鮮で質の高いトマトそのものを生かしたソース、つまり「マンマの味」があるからだ。

新鮮なトマトを軽く煮詰めて、オリーブオイルとバジルを少し。これが最高のソースなんだ。ケチャップ? あれは、トマトの魂が抜けた遠い親戚みたいなものだ。子どもがポテトにつけるくらいで、大人が使うなんてちょっと恥ずかしい。多くのイタリア人はそう思っているよ! この前、長期イタリア出張に行ってきた僕は「ケチャップって何だっけ?」と存在を忘れるほど、一度も会ったこがない。

一方で、日本でのケチャップは国民的な調味料だ。「オムライスの主役」「ナポリタンの魂」「タコさんウインナーの顔を描く必須アイテム」などなど。もし日本人が「ケチャップは体に悪いジャンクフードだ」と聞いたら、「え?じゃあ、オムライスは悪魔の料理ってこと⁉」と、冗談抜きで動揺するだろう。この感覚のズレがたまらなく面白い。
PAGE 3

日本のケチャップは開発過程で徹底的に繊細にカスタマイズされた

実は、日本のケチャップはレベルが高く、本物のトマトより栄養価が凝縮されているものもあるという事実を、イタリア人が知ったら驚くだろうな。これには、日本のケチャップが歩んできた、「日本らしい進化」の歴史が深く関係しているんだ。
massi   マッシ 思考する食欲 イタリア  ケチャップ LEON
PAGE 4
そもそも「ケチャップ」の起源は、中国や東南アジアの「魚醤」(魚を塩漬けにして発酵させたソース)にある、という説が有力だ。日本の「しょっつる」やタイの「ナンプラー」のようなものだ。これが交易でヨーロッパに渡り、魚介類やキノコ、クルミなどのさまざまな原料を経て、最終的に「トマト」を主役にしたソースへと変身を遂げた。そして明治時代、西洋文化が波のように押し寄せた日本に、この「トマトケチャップ」が上陸する。

当時、日本の農家が畑で作っていた「赤茄子(あかなす)」と呼ばれていたトマトは、なかなか売れなかった。見た目も味も、当時の日本人には馴染みが薄かったんだ。そんななかで蟹江一太郎という人物(後のカゴメ創業者)が、「西洋ではこれを加工して調味料にしている」と知り、「日本人好みのケチャップ」の開発に乗り出す。
日本のケチャップが、イタリア人から見て「レベルが高い」と感じられるのは、この開発過程で、「日本人の繊細な味覚と食生活」に合わせて徹底的にカスタマイズされたからだ。

アメリカのケチャップはハンバーガーなどの「ファストフード」の引き立て役として、かなり甘く作られる傾向がある。対して、日本のケチャップは炒め物(ナポリタン)や米料理(オムライス、チキンライス)、肉料理のソースとして使うため、火を通した時に香りとコクが引き立つように「酸味」や「香辛料」が工夫されている。米に合うように試行錯誤された結果が、あの絶妙なバランスなんだ。
PAGE 5
massi   マッシ 思考する食欲 イタリア  ケチャップ LEON

チューブタイプは日本のケチャップ文化が生み出した「愛の形」

また、日本のケチャップの栄養価が高いという事実。これは、日本のメーカーが、熟したトマトを濃縮して使用することにこだわっているからだ。トマトに含まれる抗酸化作用の高いリコピンは、実は生で食べるよりも、加熱したり油と一緒に摂取したりした方が、体内への吸収率が格段に高くなる。つまり、日本のケチャップはただの調味料ではなく、リコピンなどの栄養を美味しく効率よく摂るための「日本の知恵」が詰まった食品なんだ!
そして極めつけは、あの「チューブ容器」だ。イタリアでは、ケチャップは大きなガラスの瓶で買い、フライドポテトなどの料理にドバッと大量に使うということが多い。でも、日本の食卓では少しずつ丁寧に使うのが一般的だ。容器だと出すのが面倒、衛生面が気になる……そんな「日本の日常の小さな困りごと」を解決するために生まれたのが、あの「チューブタイプ」だ!

このチューブは、最後まで絞り出しやすく冷蔵庫のポケットにも収まりがよく、そして何よりオムライスに「ありがとう」や「LOVE」の文字を描くのに最高に適している! これはもう、日本のケチャップ文化が生み出した「愛の形」と言っても過言ではない。
PAGE 6
massi   マッシ 思考する食欲 イタリア  ケチャップ LEON
やっぱり、ケチャップは「人生」だ! イタリア人が抱いていた「ジャンクフードのソース」というイメージは、日本のケチャップと付き合ったらガラリと変わるはずだ。日本のケチャップは、魚醤からトマトへという壮大な歴史を背負い、日本の食卓のために生まれ変わって栄養まで凝縮させた、まさに「進化を遂げた調味料」なんだ。イタリアのマンマのトマトソースが「伝統と情熱」なら、日本のケチャップは「工夫と日常への愛」が詰まっている。
イタリア人のみんな! 次に日本に来た時は、オムライスの上に描かれたあの美しいケチャップ文字を前に笑って、そしてちょっと感動しながら日本のケチャップの奥深さを味わってくれ。「本物のトマトより栄養があるなんて……マンマ、ごめん!」と、空に向かって叫ぶ姿が目に浮かぶようだ!
PAGE 7
マッシ massi   webLEON イタリア人 思考する食欲

● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
公式X

こちらの記事もいかがですか?

PAGE 8

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        イタリア人はなぜケチャップを「トマトの魂が抜けたジャンクなソース!」とののしるのか? | ライフスタイル | LEON レオン オフィシャルWebサイト