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2025.10.24

【第33回】

日本独自のイタリア料理「イタメシ」がなぜこんなにイタリア人である僕の心を掴むのか⁉

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

BY :

文/マッシ
CREDIT :

写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「イタメシ」って言葉に、心がキュンと高鳴っちゃう!

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのマッシさんが、今回は日本独自のイタリア料理である「イタメシ」の歴史と魅力についてお話しします。
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▲ イタリア現地のバールで食べながらも日本のイタメシのことを考えてしまう。
「イタメシ」という言葉を初めて聞いた時、「イタリア料理」と結びつかなくて、いったい何のこと? と不思議だった。だけど、一度その魅力を知ったら、もう「イタリア料理」って聞くよりも「イタメシ」って言葉のほうが、心がキュンと高鳴っちゃう。まるで、特別な魔法がかかっているようだ。
日本では、1980年代後半から1990年代のバブル期に、イタメシの高級でお洒落なイメージが広がり、一気にブームになったイメージが強い。しかし、この流行の背景には、知られざるドラマティックな物語、つまりルーツがあるんだ!

イタメシの歴史は、今から約150年前にさかのぼる新潟県から始まる。驚きだよね! すべての始まりは、新潟港が開港した頃にやってきたフランスのサーカス団にいた一人のイタリア人コック、ミオラさんだった。

彼はサーカスの最中に大きな怪我を負ってしまい、そのまま新潟に残ることになってしまう。医者の竹山 屯(たけやま とん)さんが治療し、舞妓のお千さんが甲斐甲斐しく世話をしたというエピソードは、まるでドラマのようだ。
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▲  イタメシといえば、イタリアにない「ナポリタン」。
この話を聞いた当時の新潟県令(新潟県の県知事に相当する役職)、楠本正隆(くすもと まさたか)さんが、ミオラさんに「牛鍋屋をやったらどうだ?」と勧めて、なんと資金まで出してくれたんだ。親切にしてくれた新潟の人たちの温かいサポートに心から感謝したミオラさんは、明治7年(1874年)に、新潟初の西洋食品店をオープンさせた。

これが、日本における洋食文化の歴史の第一歩、そしてイタメシの聖地「イタリア軒」の始まりだ! 日本人の優しさと、一人のイタリア人コックの情熱が新潟で結実したなんて、感動しない?
「イタリア軒」の物語は、日本における洋食の夜明けであり、イタリアと日本が食を通して愛を交わした最初のドラマだった。そして、この新潟での情熱的な結びつきこそが、時代と共に日本の風土に根付き、「日本独自のイタリア料理」、すなわち「イタメシ」として花開くための土壌となったんだ。
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▲ 日本の麺を使った冷静トマトソースのパスタ。
その進化の最たる例が、僕たちを驚かせる、あの「フュージョン料理」の数々! イタリアと日本は、文化的には「白と黒」くらい違うのではないかと思われがちだ。でも、食に関して言えば、「インスピレーション」と「口に合うフュージョン」でかなり合う部分がある。イタリア料理のベースに、日本の食材とアレンジを活かせば、イタリアと日本のいいとこ取りができちゃうんだよ。
僕が初めて明太子スパゲッティを見た時の衝撃は忘れられない。「スパゲッティに明太子? スプーンも必要?」って、脳がフリーズした。でも、ひと口食べたら「うっま!」と声が出た。クリーミーなイタリアの風味と、日本の明太子の塩辛さとスパイシーさ、醤油の味が融合していて、もう最高! イタリアにはないのに、これは完全に「アモーレの味」だと感じた。
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▲  イタリアでは考えられない「明太子とシラスのスパゲッティ」。
そして、きのこパスタ。イタリアにもあるけれど、イタメシになると、あの「濃さ」と「うま味」が格別だ! その秘密は、やっぱり「醤油」。しめじや舞茸などに醤油を隠し味として加えることで、日本の「うま味」が爆発して、まるで日本の秋を丸ごとパスタで楽しんでいるような感覚になるんだ。長く日本に住んでいる僕にとって、この醤油とキノコのコンビを食べるたびに、イタリアの秋とは違う、日本の「懐かしい秋」を感じるんだよ。
イタリアの伝統的なカルボナーラだって、日本では独自の進化を遂げているよね。僕が日本に来てびっくりしたのは、「うどん」を麺として使ったり、イタリアではありえない生クリームを使って濃厚に仕上げるスタイル。もはやイタメシから日本料理に変わっていて、イタリア人としては「ええっ⁉」って驚きよ(笑)。 

でもね、これってすごい勇気だと思うんだ。伝統的な料理を、こんなにも自由に、そして美味しくアレンジする。その挑戦があるからこそ、日本はイタリアに負けない新しい「旨味」を生み出せる。
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▲ 鉄板焼ナポリタンと目玉焼き。イタリアでは絶対にしない組み合わせ。
時間が経てば経つほど、僕にとってイタメシは自然に食べたくなる「家庭の味」にもなった。外から来た料理が、ただ「口に合う」だけじゃなく、「自宅でも作りたい」「外食の時も食べたい」って思わされる。これはもう、日本の皆さんからの最大の「アモーレ」だと感じるよ!

今や日本のどこの田舎の奥地でさえ、イタリア現地かと思うような美味しいパスタやピッツァを味わえる。例えば、石川県の田んぼの真ん中にある喫茶店でもイタメシが頼めちゃうなんて、まさに現代の奇跡だ! 都会に出れば、イタリアの三色旗は本国より多いんじゃないかってくらい。スマホで調べなくても、十数分歩けば美味しいひと皿に出会える。
イタメシは、イタリアの伝統へのリスペクトと、日本の柔軟で繊細な食文化が織りなす「日本独自のイタリア料理」だ。僕たちの食卓に、これからもたくさんの「おいしい驚き」と「アモーレ」を運んでくれることだろう!
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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