2025.11.23
女性を輝かせるために男性ができることとは? ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークリポート
この秋、第38回東京国際映画祭の公式プログラムとして、グローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが開催したのが映画界で活躍する女性をエンパワーするプログラム「ウーマン・イン・モーション」トーク。女性に対する取り組みをグループの中心に据えるケリングによる一日限りのプログラムに潜入!
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文/牛丸由紀子 編集/森本 泉(Web LEON)

カメラの前と後ろで力を尽くす女性を応援する「ウーマン・イン・モーション」
日本でも、2019年から東京国際映画祭でケリング「ウーマン・イン・モーション」トークを開催。5回目となる今年、第38回東京国際映画祭でも国内外の映画業界で活躍する方たちを迎えたトークイベントが開催されました。

「映画監督という仕事はどうしても外の世界に触れる機会が少なく、世界が狭まっていく危機感を感じています。こういう形で外の世界の方と連携しながら、何が課題なのか、何が欠けているのかを見つめていく機会がとても重要。まずは自分の現場から変えていこうとしています」とスピーチ。「こういったイベントを通して、自分自身の意識改革にもつなげていきたい。皆さんにも、いま映画業界で変化が起きていることを受け取って帰って欲しいと思います」と言葉を投げかけました。
キャスティング・ディレクターはなぜ正当な評価がされてこなかったのか
キャスティング・ディレクターとは映画やドラマなどの企画で、適切な出演者を選定し、交渉・手配を行う専門職のこと。ハリウッドでは長らく女性が務めることが多い仕事でした。実は2026年、アカデミー賞®に初めて“キャスティング賞“が創設されますが、「映画の9割はキャスティングで決まる」(マーティン・スコセッシ監督)とさえ言われるのに、なぜ今まで創設されてこなかったのか、その裏事情と、キャスティング・ディレクターとはどんな意志を持つ仕事なのかがよくわかる実に興味深い映画でした。


キャスティングのポイントは役とのマッチング

「最終決定は監督が担いますが、キャスティング・ディレクターの意見が作品に大きな影響を及ぼすこともあるんです。意見が食い違った時には、監督と喧嘩をすることも(笑)」と映画製作の裏側を知る彼女の話に、会場のみならず現場を知る3人も興味津々。
女性の描き方に関しては「女性の眼差しや価値観を物語に落とし込むことを意識している」と言うのは、プロデューサー・福間さん。
「女性の生き様が描かれている『遠い山なみの光』でも、物語の中では複数の女性が登場しますが、それが一人の女性の多面的な一面に見えるように心がけて作っていました」

「自分では本当に合っているかな?と思う役でも、自分をよく見てくれる方が選んでくれたならと思ってチャレンジしてみることで、新しい自分や課題が見えてくるんです」
「僕もそう思います。これまでの映画だとまずはヒーローがいて、そこに対するヒロインがいるというような位置づけだったが、今は『バービー』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』など、女性が主体となって生き抜く力強さを描いた作品が増え、時代に順応した作品が作られているように感じます」

「コンコルディアの監督も女性でしたが、やはり中心に立つ女性は非常に強い。現場で陣頭指揮をとり、みんなが彼女についていく。その姿はとにかくかっこよかったですね。今日お話をいろいろ聞いて、彼女たちの姿にさらにリスペクトが増しました」
女性はアシスタントやサポート役を担うことが多いのが現状

「フランスで驚いたのは、撮影時間は8時間まで、土日は休みというルールが定まっていたこと。だから子供がいるスタッフも多い。日本では生活を犠牲にせざるを得ないことが長く続いてきました。そんな日本も変わろうとしています。意識をアクションに変えていく最中だと思います。
「これから子育てをしていく中で、『もっとこうだったらいいのに』と思うことが増えていくのかもしれません。でもそんな時は、我慢せずに声に出していくことで、働きやすい環境作りに貢献できたら嬉しいです」と未来への思いを語ってくれました。

「自分の撮影では、土日保育園に預けられないスタッフのために、撮影所には子連れで来てもOK。撮影時は保育室がわりの一部屋に預け、お昼も一緒に食事をするようにしています。子どもの笑い声や泣き声がセットに響いている状態ですが、それもまたいいんです。徐々にではありますが、そういう試みがもっと広まるといいですね」(是枝監督)
ケリング「ウーマン・イン・モーション」は今年創設10周年。多くの方々の賛同を得て、この日のディナーパーティーには国内外から多数のゲストが集まり華やかな一夜に。

● 高畑充希(たかはた・みつき)
俳優。2005年、山口百恵トリビュートミュージカル『プレイバックpart2〜屋上の天使』主演オーディションでグランプリを獲得し、デビュー。2007 年からミュージカル『ピーターパン』で8 代目ピーターパンを6 年間務める。2016年NHK 連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のヒロイン・小橋常子に。2018 年映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』で、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2025年、映画『国宝』、『秒速5 センチメートル』も公開。デビュー20周年・音楽プロジェクト第一弾、Night Tempoプロデュースによる「Over You」も配信中。

● 中島健人(なかじま・けんと)
俳優・アーティスト。1994 年東京都出身。2008 年ドラマ「スクラップ・ティーチャー〜教師再生〜」(日本テレビ)でドラマデビューし、2011年にはアイドルグループ「Sexy Zone」としてCDデビューも果たす。2013 年、ドラマ「BAD BOYS J」(日本テレビ)でドラマ初主演。映画初主演作の『銀の匙 Silver Spoon』(14)をはじめ、幅広いジャンルで主演を務める。2024年Sexy Zoneを卒業し、俳優・アーティストとして新たな活動をスタート。「コンコルディア/Concordia」(24)では、全編英語セリフでの演技にも挑戦し、国内外で活躍の場を広げている。

●デブラ・ゼイン(キャスティング・ディレクター)
キャスティング・ディレクター。米国フロリダ州マイアミ出身。サラ・ローレンス大学にて学ぶ。約30 年にわたりキャスティング・ディレクターとして様々な作品に携わる。これまでに手がけた長編映画は『アメリカン・ビューティー』(99)、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)、「オーシャンズ」シリーズ(01〜)、「猿の惑星」シリーズ(11〜)、「ハンガー・ゲーム」シリーズ(12〜)など。近年では『コカイン・ベア』(23)や、『トロン:アレス』(25)など、話題作のキャスティングにも精力的に取り組んでいる。CSA(キャスティング協会)主催のArtios賞に21 回ノミネート、4回受賞。

● 福間美由紀(ふくま・みゆき)
プロデューサー。島根県出身。東京大学大学院修了後、ジュネーヴ留学を経て、映像制作会社に勤務。2014 年、是枝裕和監督が率いる「分福」の立ち上げから参加し、以来、映画やドラマの企画・製作・海外展開を手がけている。主なプロデュース作品に、新進気鋭の監督たちによるオムニバス『十年 Ten Years Japan』(18)、是枝監督の『真実』(19)、『ベイビー・ブローカー』(22)、Netflix シリーズ『阿修羅のごとく』(25)、カズオ・イシグロ原作の『遠い山なみの光』(25/日・英・ポーランド/カンヌ国際映画祭「ある視点」部門)など。

● 是枝裕和(これえだ・ひろかず)
1962年東京生まれ。87年早稲田大学第一文学部卒業後、テレビマンユニオンに参加し、主にドキュメンタリー番組を演出。14年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。主な監督作品に、『誰も知らない』(04/カンヌ国際映画祭男優賞)、『空気人形』(09/カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品)、連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(12)、『そして父になる』(13/カンヌ国際映画祭審査員賞)、『海街diary』(15/カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品)、『万引き家族』(18/カンヌ国際映画祭パルムドール、第91回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)、日仏合作映画『真実』(19/ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品)。22年、韓国映画『ベイビー・ブローカー』が第75回カンヌ国際映画祭男優賞、エキュメニカル審査員賞をW受賞。23年、『怪物』(23/カンヌ国際映画祭脚本賞)。25年、Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」(25/ソウル国際ドラマアワード監督賞)。また26年には『箱の中の羊』の公開を控える。















