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2025.11.23

女性を輝かせるために男性ができることとは? ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークリポート

この秋、第38回東京国際映画祭の公式プログラムとして、グローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが開催したのが映画界で活躍する女性をエンパワーするプログラム「ウーマン・イン・モーション」トーク。女性に対する取り組みをグループの中心に据えるケリングによる一日限りのプログラムに潜入!

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文/牛丸由紀子 編集/森本 泉(Web LEON)

ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON

カメラの前と後ろで力を尽くす女性を応援する「ウーマン・イン・モーション」

グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタなどのブランドを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが、映画界で活躍する女性たちに光を当てることを目的として2015年にカンヌ国際映画祭で創設したのが「ウーマン・イン・モーション」。現在は写真をはじめとする芸術分野にも活動を拡げ、「ウーマン・イン・モーション」アワードでの表彰や国際映画祭でのトークイベントなどを通し、クリエイティビティに携わる女性たちのエンパワメントを推進する活動を行っています。

日本でも、2019年から東京国際映画祭でケリング「ウーマン・イン・モーション」トークを開催。5回目となる今年、第38回東京国際映画祭でも国内外の映画業界で活躍する方たちを迎えたトークイベントが開催されました。
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ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON
▲ 是枝裕和監督。
オープニングスピーチには、このプログラムの意義に賛同した是枝裕和監督が登壇。

「映画監督という仕事はどうしても外の世界に触れる機会が少なく、世界が狭まっていく危機感を感じています。こういう形で外の世界の方と連携しながら、何が課題なのか、何が欠けているのかを見つめていく機会がとても重要。まずは自分の現場から変えていこうとしています」とスピーチ。「こういったイベントを通して、自分自身の意識改革にもつなげていきたい。皆さんにも、いま映画業界で変化が起きていることを受け取って帰って欲しいと思います」と言葉を投げかけました。
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キャスティング・ディレクターはなぜ正当な評価がされてこなかったのか

イベントではまず、伝説のキャスティング・ディレクターと呼ばれるマリオン・ドハティの功績を紹介するドキュメンタリー映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』が特別上映されました。

キャスティング・ディレクターとは映画やドラマなどの企画で、適切な出演者を選定し、交渉・手配を行う専門職のこと。ハリウッドでは長らく女性が務めることが多い仕事でした。実は2026年、アカデミー賞®に初めて“キャスティング賞“が創設されますが、「映画の9割はキャスティングで決まる」(マーティン・スコセッシ監督)とさえ言われるのに、なぜ今まで創設されてこなかったのか、その裏事情と、キャスティング・ディレクターとはどんな意志を持つ仕事なのかがよくわかる実に興味深い映画でした。
ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON
▲ 高畑充希さん。
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その後行われたトークイベントには、俳優・高畑充希さん、ハリウッド作品にも出演した俳優・アーティストである中島健人さん、映画『遠い山なみの光』など国際共同制作も数多く手掛けるプロデューサー・福間美由紀さん、そして映画『オーシャンズ』シリーズや『猿の惑星』シリーズなどでキャスティング・ディレクターを務めたデブラ・ゼインさんが登場。それぞれの立場・視点から、キャスティングや映画製作における女性の役割や立場の変化などについて意見を交わしました。
「この先、自分が子育てをしたり、母として生きていくうえで、試行錯誤したり、壁にぶち当たるときが来るのかなと感じています。そんななか、このイベントに招待いただいたのはとても良いきっかけになると思いました」と語るのは、今年大ヒットした映画『国宝』や舞台でも活躍しながら、プライベートでは第1子の誕生を控えている高畑さん。
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▲ 中島健人さん。
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今回の登壇者、唯一の男性である中島さんは、“映像業界における女性”というトークテーマについて「インティマシー・コーディネーターという職種ができたり、(現場で)子どものいる方にとって働きやすい環境が徐々に整ってきたりと、進化し続けているタイミング。皆さんと一緒に、女性がどう映画作りに尽力していくのか、しっかり学んでいきたい」と、男性だからこその視点で参加した意義を語ってくれました。

キャスティングのポイントは役とのマッチング

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▲ デブラ・ゼインさん。
アメリカから参加したキャスティング・ディレクター、デブラ・ゼインさんはこれまで約30年間ハリウッドで活躍。
「最終決定は監督が担いますが、キャスティング・ディレクターの意見が作品に大きな影響を及ぼすこともあるんです。意見が食い違った時には、監督と喧嘩をすることも(笑)」と映画製作の裏側を知る彼女の話に、会場のみならず現場を知る3人も興味津々。

女性の描き方に関しては「女性の眼差しや価値観を物語に落とし込むことを意識している」と言うのは、プロデューサー・福間さん。

「女性の生き様が描かれている『遠い山なみの光』でも、物語の中では複数の女性が登場しますが、それが一人の女性の多面的な一面に見えるように心がけて作っていました」
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ケリング「ウーマン・イン・モーション」 福間美由紀 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON
▲ 福間美由紀さん。
キャスティングに関しては「自身で役を選ぶというより、役に選ばれるという感覚になることがある」と言う高畑さん。

「自分では本当に合っているかな?と思う役でも、自分をよく見てくれる方が選んでくれたならと思ってチャレンジしてみることで、新しい自分や課題が見えてくるんです」
そしてゼインさんに直接「実際にキャスティングする時に心がけていることは?」と質問。ゼインさんの答えは「まず考えるのは役柄について。すごく演技が上手でも、大事なのは役とのマッチングなんです。そこを意識した方がいいと思います」と、演技をみるだけではなく、今この役に必要なのは誰かということがキャスティングのポイントなのだとアドバイス。
「映画の中で描かれる女性像も変化してきている」というゼイン氏の言葉には中島さんも納得。

「僕もそう思います。これまでの映画だとまずはヒーローがいて、そこに対するヒロインがいるというような位置づけだったが、今は『バービー』や『プロミシング・ヤング・ウーマン』など、女性が主体となって生き抜く力強さを描いた作品が増え、時代に順応した作品が作られているように感じます」
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ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON
中島さんは昨年世界配信されたHuluオリジナルドラマ「コンコルディア/Concordia」では全編英語での役にのぞみ、海外の撮影現場も経験。

「コンコルディアの監督も女性でしたが、やはり中心に立つ女性は非常に強い。現場で陣頭指揮をとり、みんなが彼女についていく。その姿はとにかくかっこよかったですね。今日お話をいろいろ聞いて、彼女たちの姿にさらにリスペクトが増しました」

女性はアシスタントやサポート役を担うことが多いのが現状

ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 福間美由紀  是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON
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海外との共同作品の経験も多い福間さんは、世界の現場と日本の現状についても言及。

「フランスで驚いたのは、撮影時間は8時間まで、土日は休みというルールが定まっていたこと。だから子供がいるスタッフも多い。日本では生活を犠牲にせざるを得ないことが長く続いてきました。そんな日本も変わろうとしています。意識をアクションに変えていく最中だと思います。
とはいえ、監督やプロデューサーといった、各部門の責任者はまだ男性中心。女性はアシスタントやサポート役を担うことが多いのが現状です。映画作りはチームであり一つの社会なので、意思決定のところで女性の視点も反映されるようになるといいと思います」
俳優として最前線に立ちながら、プライベートでは大きな変化を迎える高畑さんは

「これから子育てをしていく中で、『もっとこうだったらいいのに』と思うことが増えていくのかもしれません。でもそんな時は、我慢せずに声に出していくことで、働きやすい環境作りに貢献できたら嬉しいです」と未来への思いを語ってくれました。
ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON
▲ 東京国際映画祭公式プログラム TIFF スペシャルトークセッション ケリング「ウーマン・イン・モーション」トーク
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トーク後に改めて話を聞いた是枝監督も、映画製作の現場を変えていこうとしている当事者のひとり。

「自分の撮影では、土日保育園に預けられないスタッフのために、撮影所には子連れで来てもOK。撮影時は保育室がわりの一部屋に預け、お昼も一緒に食事をするようにしています。子どもの笑い声や泣き声がセットに響いている状態ですが、それもまたいいんです。徐々にではありますが、そういう試みがもっと広まるといいですね」(是枝監督)

ケリング「ウーマン・イン・モーション」は今年創設10周年。多くの方々の賛同を得て、この日のディナーパーティーには国内外から多数のゲストが集まり華やかな一夜に。
映画業界のみならず、女性をエンパワーするには男性からのサポートが不可欠です。従来の性別役割における過去の常識にとらわれず、仕事の上でも女性を理解し、最適なサポートができてこそ、女性が認める真のモテる男になれるのだと改めて思った次第です。
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ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON

● 高畑充希(たかはた・みつき)

俳優。2005年、山口百恵トリビュートミュージカル『プレイバックpart2〜屋上の天使』主演オーディションでグランプリを獲得し、デビュー。2007 年からミュージカル『ピーターパン』で8 代目ピーターパンを6 年間務める。2016年NHK 連続テレビ小説「とと姉ちゃん」のヒロイン・小橋常子に。2018 年映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』で、日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2025年、映画『国宝』、『秒速5 センチメートル』も公開。デビュー20周年・音楽プロジェクト第一弾、Night Tempoプロデュースによる「Over You」も配信中。

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● 中島健人(なかじま・けんと)

俳優・アーティスト。1994 年東京都出身。2008 年ドラマ「スクラップ・ティーチャー〜教師再生〜」(日本テレビ)でドラマデビューし、2011年にはアイドルグループ「Sexy Zone」としてCDデビューも果たす。2013 年、ドラマ「BAD BOYS J」(日本テレビ)でドラマ初主演。映画初主演作の『銀の匙 Silver Spoon』(14)をはじめ、幅広いジャンルで主演を務める。2024年Sexy Zoneを卒業し、俳優・アーティストとして新たな活動をスタート。「コンコルディア/Concordia」(24)では、全編英語セリフでの演技にも挑戦し、国内外で活躍の場を広げている。

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●デブラ・ゼイン(キャスティング・ディレクター)

キャスティング・ディレクター。米国フロリダ州マイアミ出身。サラ・ローレンス大学にて学ぶ。約30 年にわたりキャスティング・ディレクターとして様々な作品に携わる。これまでに手がけた長編映画は『アメリカン・ビューティー』(99)、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)、「オーシャンズ」シリーズ(01〜)、「猿の惑星」シリーズ(11〜)、「ハンガー・ゲーム」シリーズ(12〜)など。近年では『コカイン・ベア』(23)や、『トロン:アレス』(25)など、話題作のキャスティングにも精力的に取り組んでいる。CSA(キャスティング協会)主催のArtios賞に21 回ノミネート、4回受賞。

ケリング「ウーマン・イン・モーション」 中島健人 是枝和裕 高畑充希 LEON WebLEON 福間美由紀

● 福間美由紀(ふくま・みゆき)

プロデューサー。島根県出身。東京大学大学院修了後、ジュネーヴ留学を経て、映像制作会社に勤務。2014 年、是枝裕和監督が率いる「分福」の立ち上げから参加し、以来、映画やドラマの企画・製作・海外展開を手がけている。主なプロデュース作品に、新進気鋭の監督たちによるオムニバス『十年 Ten Years Japan』(18)、是枝監督の『真実』(19)、『ベイビー・ブローカー』(22)、Netflix シリーズ『阿修羅のごとく』(25)、カズオ・イシグロ原作の『遠い山なみの光』(25/日・英・ポーランド/カンヌ国際映画祭「ある視点」部門)など。

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● 是枝裕和(これえだ・ひろかず)

1962年東京生まれ。87年早稲田大学第一文学部卒業後、テレビマンユニオンに参加し、主にドキュメンタリー番組を演出。14年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。主な監督作品に、『誰も知らない』(04/カンヌ国際映画祭男優賞)、『空気人形』(09/カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式出品)、連続ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」(12)、『そして父になる』(13/カンヌ国際映画祭審査員賞)、『海街diary』(15/カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品)、『万引き家族』(18/カンヌ国際映画祭パルムドール、第91回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート)、日仏合作映画『真実』(19/ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品)。22年、韓国映画『ベイビー・ブローカー』が第75回カンヌ国際映画祭男優賞、エキュメニカル審査員賞をW受賞。23年、『怪物』(23/カンヌ国際映画祭脚本賞)。25年、Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」(25/ソウル国際ドラマアワード監督賞)。また26年には『箱の中の羊』の公開を控える。

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