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2025.10.25

刺激的なふたり、豊田利晃監督×窪塚洋介。「死は永遠の謎のままでいい」

孤高の修行者と謎の暗殺者が時空を超えて対峙するという摩訶不思議にして壮大なストーリーが展開される映画『次元を超える』の豊田利晃監督と修行者を演じる窪塚洋介さんが対談。映画の裏話とお二人の刺激的な関係についても語っていただきました。

CREDIT :

文/安井桃子 写真/内田裕介 スタイリング/三田真一(KiKi inc.) ヘアメイク/佐藤修司(botanica make hair) 編集/森本 泉(Web LEON)

豊田利晃監督 窪塚洋介 次元を超える WebLEON   LEON
窪塚洋介さん演じる修行者を、松田龍平さん演じる暗殺者が追いかける── 。深い山の中を舞台になんとも「異次元」な魅力を放つ映画『次元を超える』が完成しました。監督を手がけるのはこれまで『青い春』『泣き虫しょったんの奇跡』などを世に送り出してきた豊田利晃さん。長い付き合いがあるという監督と窪塚さんに、映画づくりへの思い、そして作品の根底に流れるそれぞれの「死生観」を語り合ってもらいました。
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パラレルワールドの自分みたいな役をいつも与えてもらっている(窪塚)

── これまで豊田監督は窪塚さんをコンスタントに起用されていますが、最初の出会いはいつでしょうか?

豊田利晃さん(以下、豊田) 最初に会ったのは26年くらい前、NTT docomoのCMの撮影だったんですよ。ふたりともまだ若くて、スキンヘッドだった。

窪塚洋介さん(以下、窪塚) そうでしたっけ!?  髪型は覚えてないけど、豊田監督の尖った印象はうっすら覚えていますね。今はだいぶ柔和になられてよかった(笑)。

豊田 尖っていたというか、周りがベテランばかり、僕らが一番若くて気が抜けなかったんですよ。

── そこから時間が経って、今お互いはどんな存在になっていますか。

窪塚 いやぁ、ここまで人生に大きな影響を与えてくる人になるとは、あの時は思ってなかったな。豊田監督は、俺に節目節目で刺激をくれる存在なんです。俺の息子の愛流(窪塚)が初めて映画に出させてもらったのも豊田監督の『泣き虫しょったんの奇跡』だったんですから。

もともとは愛流が小学生の時に、監督がドキュメンタリー映画『プラネティスト』を撮影していた小笠原に連れて行ったんです。それから数年経って、『泣き虫しょったんの奇跡』に出ないかと誘っていただいて。愛流が俳優になることは、俺にとってすごく大きな節目でした。
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豊田 この『次元を超える』でも愛流には声の出演をしてもらっているんです。久しぶりに会ったら身長も伸びて大人になっていて、親戚のおじさんの気分を味わいました(笑)。

── では豊田監督にとって窪塚さんはどんな存在ですか?

豊田 僕は映画がつくりたくて脚本を書き、そして書きながらいつも思うのは、窪塚の役は他にいなかったっていうこと。それはいつも僕の映画に出ていてくれる龍平(松田)に対してもそうなんですけれどね。窪塚だから言えるセリフ、言葉があるんです。窪塚だったらきっとやってくれるだろう、そう思いながら書くし、他の人がやるならセリフを変えないといけない。そういう存在ですね。
窪塚 不思議と監督の書くセリフは、俺自身の言葉のように感じることがある。「あれ、この話は豊田監督にしていたのかな」とか「これ、俺、同じこと言ってたよな」とか。虚構の世界である映画と、現実世界がめっちゃ曖昧になって、自分自身みたいな役、パラレルワールドの自分みたいな役を、いつも与えてもらっています。
豊田 哲学的なセリフでも、窪塚なら高い場所からではなくて、ちゃんと階段を降りて言えるんです。『モンスターズクラブ』という映画で「お前はまだ世界を愛している」というセリフがあるのですが、そんなセリフを違和感なく言える人ってなかなかいない。キャスティングっていうのはそういう人にどれくらい出会えるかということで、その積み重ねで僕は映画をつくっているんです。
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お互いに深く入り込んで、距離を近づけて映画の求心力も強くなる(豊田)

── 豊田監督の作品では松田龍平さん、千原ジュニアさん、渋川清彦さんなど長年同じキャストが登場しますが、作品ごとにまったく異なった存在感がみなさんあります。改めて同じキャストを起用し続けることの意味、意義を教えてください。
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豊田 正直、お互いに飽きたり、隙ができたりするデメリットはあります。それにもし同じようなことをするなら、役者を変えた方が簡単です。でもお互いの存在に、仕事に、飽きさせないよう緊張感を持って仕掛け続ける。そうしているうちにお互いが深く入り込めるんですよ。距離がどんどん近づいて映画の求心力が強くなっていく。スタッフも含めたら映画って100人くらいが撮影現場にいますから、監督とキャストがそういう関係性である方が、スタッフも動きやすいと思うんです。

窪塚 豊田監督の見ている世界を見たい、この人と一緒にいたらワクワクできる、そう思っているメンバーが演者もスタッフも集まっている印象ですね。

豊田 ギャラも安いし、仕事に来ているというより、みんな遊びにきているみたいなのかな?

── では監督はキャスト、スタッフを現場で楽しませている感覚なんですか?

豊田 いやいや、楽しませるというより「いいものをつくりましょう」って、ただそれだけ。意外とそういうシンプルに映画をつくっている人は少なくて、珍しがられているのかもしれませんね。

── 監督は映画制作の現場で、リーダーとして意識していることはありますか?

豊田 カットはこう撮りますってしっかり決めて狙って、無駄な労力を使わせない。枠がしっかり決められていれば、役者もその中で遊べるし、スタッフも動きやすいんです。ここから先は監督の仕事だから、この中でしっかりやってくれればいいと。だから結構みんな気楽にやっていると思いますよ。
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窪塚 でもロケ場所が気楽じゃないんだよな〜。今回は舞台が山だから、山中を歩いて延々移動。俺は修行者の衣装を着て撮影場所まで歩くから、本当に修行している気分になりました(笑)。役をなじませるような、そういう作業にもなりましたが、まぁそれにしても歩く距離が長すぎたぁ(笑)。

豊田 カメラ機材スタッフなんかは、山を何往復もしていましたからね。

窪塚 やっぱり全然気楽じゃないです(笑)。

死は永遠の謎のままでいい。戻ってきたやつはいない(豊田)

── 本作は周りの人の「死」とどう向き合うのかということもテーマにされた作品です。特に窪塚さんには「死」を滔々と語るシーンもあります。おふたりは実際に周りの人の死とどう向き合っているのでしょうか。

豊田 向き合うことは、難しいですよね。僕は今56歳で、両親も、映画の先輩も亡くなり、ずっと僕の映画に出てもらった鬼丸という役者も亡くなって。そのたび、難しいな、って思う。でも死は永遠の謎でいいんじゃないかな。戻ってきたやつはいないし。

窪塚 俺はギリギリ戻ってきたことありますけど。

豊田 いやいや(笑)。僕は生まれた時に臍の緒が首に巻きついてチアノーゼを起こしていたそうです。なんとか蘇生されたんですが、その話を幼い時から母親に繰り返し聞かされていました。
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窪塚 死にながら生まれていたんだ。

豊田 母親が幼い僕のことを占い師に見せたこともあって、「30歳までに死ぬ」と言われていたそうです。それをそのまま子供の僕に伝えるもんだから、自分でもそうなんじゃないかと思って生きていたところはありますね。

窪塚 多感な子供にそんなことを言ったんだ⁉ でも可愛い子には旅をさせよ的なことだったんですかね? きっとそれが映画の道につながったんじゃないですか。

豊田 だから早く映画つくらなきゃと最初の1本は焦ったんですよ。30歳をとうに越えた今でも、毎回これで最後の映画だと思ってつくっています。

── では、窪塚さんはどう「死」と向き合っていますか?

窪塚 俺は、誰かが亡くなって心に穴が開いた時は、こう思うことにしています。「こんなにでっかい穴を開けてくれた人と、俺は一緒に過ごしていたのか」と。そう思えば前向きでいられるし、きっとその人も喜んでくれるんじゃないかなって。
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豊田 窪塚は死をおろそかにはしない、そういう人だって僕は思った。だから今回の作品にも彼が死を語るシーンがあるんですよ。

窪塚 あのシーンは豊田監督の言葉が、死生観が、俺を通して外に出ていくような、不思議な感覚でした。今日も世界中で人は死んでいく。そういうことを考えると、ああこういう言葉になるのかなと。監督の中には、静かな怒りと祈りがあって、仕事をするたびにそれを感じる。俺の中にもきっとそういうものはあるんだけど、普段は見ないようにしているのかもしれない。作品の中に入ると、その自分の怒りと祈りに強制的に向き合わなければいけなくなるんですよ。
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監督の掛け声が次元を超えるきっかけになる(窪塚)

── 本作は、孤高の修行者と、謎の暗殺者、そして危険な宗教家となんとも「異常」な男たちが描かれます。お互いを「異常だな」と思ったエピソードを、教えてください。

豊田 異常かどうかはわからないけど、『怪獣の教え』という舞台を窪塚とつくった時、彼が気絶するシーンがあったんですよ。で、そこで窪塚は毎回本当に気絶するんです。そんなこと普通のやつにはできないでしょう。

窪塚 自力で気絶する方法をみつけまして。息を吐き切っておいて、酸欠の状態になってビカビカ光る照明を見ると、ガーンと。気を失うのはわかっているので体重を後ろにかけて頭打たないようにして(笑)。
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豊田 あれ、みんな本当にハラハラしていたんだから。本当にすごい役者だなと改めて思った日々でしたね。

窪塚 豊田監督はね、そもそも脚本が異常で最高! あと、撮影の時の「よーい、スタート!」の掛け声が異常にデカくて俺、大好きなんですよ。すごく殺気立っていて、あの声で気合いが入る。新人の役者さんだとビビっちゃうかもだけど(笑)。あの掛け声が世界を変える、次元を超えるきっかけになるんです。
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● 豊田利晃(とよだ・としあき)

1969年生まれ、大阪府出身。将棋棋士を目指し9歳から奨励会に入会。17歳で将棋を引退したのち阪本順治監督の『王手』『ビリケン』の脚本を手がける。1998年公開の映画『ポルノスター』で監督デビュー。『青い春』(02年)、『ナイン・ソウルズ』(03年)、『空中庭園』(05年)、『クローズEXPLODE』(14年)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18年)など数々の作品を手がける。近年は短編映画『狼煙が呼ぶ』(19年)、小笠原諸島を舞台にしたドキュメンタリー『プラネティスト』(20年)などを製作。現在『そういうものにわたしはなりたい。』も公開中。

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● 窪塚洋介(くぼづか・ようすけ)

1979年生まれ、神奈川県出身。1995年俳優デビュー。映画『GO』(01年)、『ピンポン』(02年)、ドラマ『GTO』(98年)、『池袋ウエストゲートパーク』(00年)などに出演。マーティン・スコセッシ監督作品『沈黙-サイレンス-』(17年)や、イギリスBBCとNetflix製作ドラマ『Giri/Haji』(19年)など国際的な作品にも参加している。豊田監督の作品出演は舞台『怪獣の教え』(15年)、映画『プラネティスト』(20年)、『全員切腹』(21年)など多数。

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『次元を超える』

孤高の修行者・狼介(窪塚洋介)が、危険な宗教家・阿闍梨(千原ジュニア)の家で行方不明になる。狼介の恋人・野々花(芋生悠)から依頼を受けた謎の暗殺者・新野(松田龍平)は、狼介を捜索するが──。2019年から豊田監督が発表してきた短編映画『狼煙が呼ぶ』『破壊の日』『全員切腹』などの「狼蘇山シリーズ」と呼ばれる作品群の集大成。
公式HP/映画『次元を超える』公式サイト
ユーロスペースほか絶賛公開中
©次元超越体/DIMENSIONS

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