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2018.04.12

自動車写真家が撮る、美しいクルマ【4】

クルマの写真はあくまで自然な光の方が、ドラマ性が強調されます

日本レース写真家協会の会長を務める小林稔氏。ル・マン24時間をはじめ、シズル感溢れるレース写真に定評がある。いわば、レース写真界の巨匠だ。今回はレース写真のほかにプロダクトカーの作品も織り交ぜつつ、撮影のポイントについてそのヒントを伺った。

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写真/小林 稔 文/南陽一浩

2013年のフォードシケイン。アウディがル・マン24時間を走り始めたとき方から、アウディジャパンの依頼で撮っていますが、この写真は日が落ちた頃合い。フィルムの時代なら暗過ぎて撮れなかったでしょう。道具が変われば作品も変わります
2013年のル・マン24時間レース。撮影場所はフォードシケイン。ル・マンは24時間をかけて戦うレースですから、その時間帯によってさまざまな表情を見せるのも被写体としての魅力。この写真は日が落ちた頃合い

レース写真には、思いもよらなかった瞬間が撮れたという喜びがあります

業界の大ベテラン、小林稔さんのキャリアの始まりは、怪我の功名というから面白い。

「『カーグラフィック』の社員フォトグラファーとしてキャリアをスタートさせたのですが、入社する前年の秋、富士スピードウェイでのレースの練習中に大クラッシュして右腕にケガをしたんです。そのせいでカメラを持てなくなり、卒業制作ができず留年となりました。そうしたら面接で、そんなクルマ好きなら、なおよろしいと内定をいただきました。すごい会社ですよね。入社1年目は週一で通学もさせてもらいました」

今もモータースポーツとニューモデルの撮影が活動の主軸。国内レースの頂点であるスーパーフォーミュラとスーパーGTでオフィシャルフォトグラファーを務める一方、ライフワークとしてル・マン24時間には毎年、足を運ぶ。

「すべて思い通りにコントロールして撮れた美しい写真とは異なりますが、レース写真では、思いもよらなかった瞬間が撮れた、という喜びがあります。モータースポーツは文字通りスポーツですから、コースアウトや接触と紙一重のことろで競り合ってコーナーに飛び込んでくるレーシングマシンがどんなラインを通過するかは、フォトグラファーの思い通りにはなりません。それをどう受け止めて切り取ることができるか? その歯痒さの面白さ。そこが報道的なスポーツ写真の魅力だと思いますね」

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レース写真はその時代その時代の記録でもあります

ストレートエンドの競り合いを斜俯瞰からとらえました

1989年、初めて訪れたル・マン24時間での1カット。まだユノディエールにシケインはなく、ミュルサンヌ近くの民家に櫓を組んで、そこで撮りました。先頭は2年後に優勝するマツダ。ガレージ伊太利亜や松田コレクションのポルシェ「962C」など、日本企業がル・マンにもっとも注力した時代の記録でもあります。
1989年、初めて訪れたル・マン24時間での1カット。まだユノディエールにシケインはなく、ミュルサンヌ近くの民家に櫓を組んで、そこで撮りました。先頭は2年後に優勝するマツダ。ガレージ伊太利亜や松田コレクションのポルシェ「962C」など、日本企業がル・マンに最も注力した時代の記録でもあります。

ボディに付着した汚れがル・マンの過酷さを物語ります

2004年に優勝したチーム郷のアウディ「R8」、荒聖治選手の最終スティント。昔から親しかった郷さんが作ったチームがル・マンを制覇するのは感慨深かった。この年を境にル・マンのイメージが変わり、被写体としての魅力にも目覚めました。
2004年に優勝したチーム郷のアウディ「R8」、荒聖治選手の最終スティント。昔から親しかった郷さんが作ったチームがル・マンを制覇するのは感慨深かった。この年を境にル・マンのイメージが変わり、被写体としての魅力にも目覚めました。

華やかな背景を入れ込むことでコース上の緊張感を際立たせました

夜の華やかさとコース上の緊張感の対比。ル・マンは変わらないようで毎年変わる。昔はダンロップブリッジ近くにあった移動遊園地は、この時はフォードシケインの向こう。今、ここはポルシェのエクスペリエンスセンターが建っています。
夜の華やかさとコース上の緊張感の対比を表現しました。ル・マンは変わらないようで毎年変わる。昔はダンロップブリッジ近くにあった移動遊園地は、この時はフォードシケインの向こう。今、ここはポルシェのエクスペリエンスセンターが建っています。

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ル・マンは夕日がきれいに焼けた時間帯もシャッターチャンスです

毎年、満足して帰れないことが被写体としてのル・マンの魅力です

2015年のル・マン、アルナージュコーナー。夕日がきれいに焼けた時間帯。ル・マンは今や写真家として楽しみで撮る。毎年状況が違って、もっとこうすればよかった、となる。満足して帰れないから翌年も来たくなります
2015年のル・マン、アルナージュコーナー。夕日がきれいに焼けた時間帯。ル・マンは今や写真家として楽しみで撮る。毎年状況が違って、もっとこうすればよかった、となる。満足して帰れないから翌年も来たくなります。

無事に朝を迎えられたという安堵感をレンズにおさめました

2012年、ポルシェコーナーの内側です。ポルシェコーナーは好きな場所。高速で入ってくるコーナーですが、ようやく朝を無事に迎えられたという、安堵感のようなしっとりした雰囲気がありました。
2012年のル・マン、ポルシェコーナーの内側です。ポルシェコーナーは好きな場所。各マシンが高速で飛び込んでくるコーナーですが、撮影した時間帯は、ようやく朝を無事に迎えられたという、安堵感のようなしっとりした雰囲気がありました。

雨の中で繰り広げられるギリギリのチャンピオン争いをとらえました

2015年フォーミュラ・ニッポン最終戦、鈴鹿のスタート直後。雨の中、チャンピオン争いをしていた山本尚貴と、中嶋一貴がイン側芝生に踏み込んでギリギリで競り合った。レンズ越しの光景に思わず叫んだほどの駆け引きでした。
2015年フォーミュラ・ニッポン最終戦、鈴鹿のスタート直後。雨の中、チャンピオン争いをしていた山本尚貴と、中嶋一貴がイン側芝生に踏み込んでギリギリで競り合った。レンズ越しの光景に思わず叫んだほどの駆け引きでした。

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道具が変れば写真も変ります

コーナーで大きくロールするマシンの躍動感を画角いっぱいに切り取りました

これは2017年シーズンのスーパーGTで、「LEON」がスポンサードしていたマシンですね。ファッション誌がモータースポーツを支援してくれる姿勢が、いつも嬉しいと思っています。
これは2017年シーズンのスーパーGTで、「LEON」がスポンサードしていたマシンですね。ファッション誌がモータースポーツを支援してくれる姿勢が、いつも嬉しいと思っています。

フィルムカメラでは撮れなかった日暮れ時のシーンです

2013年のフォードシケイン。アウディがル・マン24時間を走り始めたときから、アウディジャパンの依頼で撮っていますが、この写真は日が落ちた頃合い。フィルムの時代なら暗過ぎて撮れなかったでしょう。道具が変われば作品も変わります。

余計なライティングはせずにクルマをきちっと見せるのが身上です

富士フイルムのGFXという中判カメラのプロモーションで、箱根ターンパイクで大観山の駐車場で撮りました。僕は余計なライティングはせずにクルマをきちっと見せたいので、山の稜線とNSXのルーフラインが重ならないよう置きました
富士フイルムのGFXという中判カメラのプロモーションのため、箱根ターンパイクで大観山の駐車場で撮りました。僕は余計なライティングはせずにクルマをきちっと見せたいので、山の稜線とNSXのルーフラインが重ならないよう置きました。

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擬似的なライティングは必要ありません

一般オーナーの代表として自然体のままに撮影することを心がけています

広報写真用にドイツで撮ったカット。僕は疑似的な光を入れるのが好きじゃないんです。そのクルマを手に入れたら、どんな所に行って、どんなシーンが見られるか?という一般オーナーの代表として赴いて、自然体のままにクルマを撮ることを心がけています
広報写真用にドイツで撮ったカット。僕は疑似的な光を入れるのが好きではないんです。そのクルマを手に入れたら、どんな所に行って、どんなシーンが見られるか?という気持ちを大切に、いわば一般オーナーの代表としてロケ場所に赴いて、自然体のままにクルマを撮ることを心がけています。

● 小林 稔

日本大学芸術学部写真学科卒。1978年に二玄社に入社、「カーグラフィック」の社員フォトグラファーとして勤めた後、86年に独立。モータースポーツや新車の試乗記、広告やカタログで幅広く撮影。JRPA(日本レース写真家協会)の会長も務めている。

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『自動車写真家が撮る、美しいクルマ』

【1】クラシックカーは、自然な光を意識することでさらに美しくなります
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【2】クルマの走行シーンの撮影は、脳内シミュレーションが大切です
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【3】クルマの写真はコントラストが効いているほうがカッコよく見えます
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