• TOP
  • CARS
  • いいクルマは人を幸せにするのか? プロが語り合った

2019.09.29

岡崎宏司×岡崎五朗スペシャル対談

いいクルマは人を幸せにするのか? プロが語り合った

LEON.JPのリニューアルスタート当初から続く本連載も、いよいよ3年目にさしかかろうとしています。そこで今回は、著者の岡崎宏司氏にスペシャルな対談をして頂きました。お相手はご子息でありモータージャーナリストでもある岡崎五朗氏。「イイクルマ」とは何かを徹底的に語ります!

CREDIT :

イラスト/溝呂木 陽 まとめ/LEON.JP 

岡崎宏司の「クルマ備忘録」特別企画

岡崎宏司と岡崎五朗の親子対談「いいクルマ」ってなんだ!?

50年に渡ってジャーナリストとして活動しながら、メーカーの開発にも携わってきた岡崎宏司氏と、そのご子息で同じくモータージャーナリストの五朗氏。今回はそのおふたりに、特別に対談をして頂きます。もちろんテーマは「クルマ」。さてさて、どんなお話しになるのか!?
null

長い間クルマを見てきた親父に聞きたいのは、今の車はよくなったのか? ってこと(岡崎五朗)

岡崎五朗(以下岡崎G):この連載によく開発を一緒にやったっていう話が出てくるじゃない? いろいろなメーカーと発売前に車に乗り一緒にテストしながらこうした方がいい、ああした方がいい、もっとこうしろとかやったっていうエピソードが。
そんな風にしてメーカーと一緒に多くのクルマを作ってきたジャーナリストってきっと他にいないよね。
そこが、僕から見ると羨ましいなと思う。親父はきっとそこの感性が鋭いんだよね。

岡崎宏司(以下岡崎K):エンジニアリング的に、形状的にっていうんだったらきちっとデータを取ればすぐわかる。ただ、普通に運転をしながら、姿を眺めながら、データでは分からない行間を読んで、それを言語化する感覚っていうのを持っている人は少ないのかもしれないね。
PAGE 2
岡崎G:今思うと、昔は文章でいったら、箇条書きみたいな感じでクルマを作ってたんじゃないかと思うんだよね。でも、ちゃんと人に読ませるものってのはそれじゃ伝わらない。
食べ物に例えると、塩と酸味と苦味と甘味を数値通りに配分しました、でも旨味がない? みたいな感じかな。
じゃあ、その旨味をどう作り上げていくのかっていうのは、これはもう数字ではない。
僕はずっと言い続けてるんだけどね。数字じゃないクルマづくりが大事ですって。

つい最近になって、某国産車の試乗会でエンジニアから「やっとうちも数字じゃない物作りができましたよ」って言われた(笑) つまり、それだけ数字の説得力を覆すのは大変なんだよね。
特にエンジニアリングの世界だと、データを見ればこっちの方がいい数字ですよってなるわけで。
そうじゃなくて僕が気持ちいいのはこっちだと言っても、やっぱり数字が出ちゃうとそっちでしょ、となるわけで。
最近になって、そういう思考からやっと抜け出してきたのかなって感じるよね。

岡崎K:そうだね。こっちは全くの素手なんだから、ただ見て感じて思ったことを言えばいい、と僕は思ってきた。例えば、美意識だけに集中してみて、どこかバランスがずれてると思ったら、そこをぴしっと指摘する。するとメーカーの人たちは、理由があってどうしてもできなかった、とか言うんだけどね。あと少しだけお金をかければクリアできる、という状況でも内部では通らない。でも、外部の僕が言えば通っちゃう、なんてこともあるんだ。
我々にはそういう役割もあるんだな、とも思ったよ。

岡崎G:ちょっと面白いのはみんな親父のことを理系だと思ってる。でも、本当はモロ文系(笑)。 感覚の人なんだよね。教授とか呼ばれてるから理系だと思われちゃうのかな(笑)

岡崎K:ほとんどの人が僕のこと理系だと思ってるみたいだね(笑)

岡崎G:ところでさ、長い間クルマを見てきた親父に聞きたいのは、今の車はよくなったのか? ということ。 どう感じてるの? 
昔みたいにハズレの車は無くなったから、どの車乗ってもほぼ同じだろうっていう人が結構いるんだけど。でも、それは当然な気もしていて、初代66年カローラから数えたって40年以上経ってるわけで。親父はそれをどう捉えてるのかな、と。
null
記念すべき連載100回では、対談でも出てくるポルシェ356のエピソード「最後のポルシェ356がわが家へ」。当時のポルシェの技術の高さや、どんなイメージだったのかが分かる貴重な回
岡崎K:それは例えば80点主義というトヨタの考え方があるんだけど、その視点から見るとかなり良くなっている。確実によくなっている。

岡崎G:落第点がなくなったってことね。当時はそういうクルマもあったの?

岡崎K:もちろんあったし、40~50年前は普通に乗れていたクルマも、いま乗ると怖くて乗れない。よくこれで走ってたなとか、よくこんなブレーキで平気でいられたなって思う。
でも、連載にも書いたポルシェ356の後期型B,Cは、今乗っても平気で乗れる。すぐ走り出せる。これはすごいことだよ。今その時代のフェラーリとか乗ると、走り出す前の儀式もあれこれ難しいし、運転も難しい。
PAGE 3

まだすべてとは言えないけれど、メーカーも数字ではない「味」みたいなものを意識し出している(岡崎宏司)

null
伝説の名車R32型GTRの開発に携わっていたときのエピソードを綴った連載82回「日産R32型GT-R、アウトバーンとニュルブルクリンクで見せた脅威の走り!」。当時の日本メーカーの熱が伝わってくる必読の回。
岡崎G:そう聞くと、当時のポルシェとかメルセデスとか素晴らしいと言われていたクルマが、いまもブランドとして支持されているのは当然なのかなと思うよね。
一方で大衆車のレベルもぐんぐん上がって、その差は縮まってきたってことなのかな?

岡崎K:トップレベルの話で言うのであれば、全然縮まっていない。例えば、某国産メーカーのスポーツカーのエンジニアは自社のモデルが世界の頂点レベルに達したと思ってたりするんだけど、そんなことないですよって、僕が運転して、ポルシェと当該車の助手席に乗ってもらって、テストコースを全開で走る、、そうすると、「うちの怖いですね。やばいですね。まだまだですね」ってなる。 まだまだ先は長いし、やることはいっぱいある。

岡崎G:頂点のモデルはそうなのかもしれないけど、高速道路を走るだけでフラフラしてっていうレベルのクルマは減ったんでしょ?

岡崎K:そこは確実に減った。ただ、そこで、じゃあ日本の高速は時速120キロ制限なんだから、少なくとも時速140~150キロぐらいまではしっかり安定していてほしいよね。でも、そのレベルで緊急事態に急ハンドルを切ったりしたら、やはりヤバイ車はまだある。もちろん個体差はあるけど、高い速度領域や厳しい路面条件下での、、ということになると、ヨーロッパ車と国産車にはまだ差があるよね。

岡崎G:なるほど。僕は最近でもリーマンショック後は残念ながら、そういうレベルじゃないくらい、とんでもないクルマが多かった印象。バブル後も一時期そうなっていたけど。でも、2019年になり再び世界を狙えるようなクルマが出始めたのかな、と思うんだよね。例えば、カローラスポーツはおそらく部分的にはゴルフを超えてるんだろうなと。そういうクルマが、ここ数年で少し増えてきている気がする。
だから、セルシオ、R32、レガシィが次々と登場した80年代末から90年代頭の、あの世界に誇れるような、輝いていた日本車の時代がまた戻りつつあるような気がしているんだけど。

岡崎K:すべてではないけど、その兆候はあるね。まず、トヨタが変わってきたことは大きい。すべてとは言えないけれど、数字ではない「味」みたいなものを意識しだしている。トヨタの動きは影響力があるから、おそらく今後は他メーカーもそうなっていくだろうな。そう期待したいね。

岡崎G:実は今までの話は前振りでさ、車をよくするっていうことは、つまりどういう意味があるのかっていう、根源的な疑問をちょっと話したいんだよね。
その味わいだとか、行間に滲み出てくる良さとかって、日本でクルマに乗る人の何パーセントがわかってんだろうなって。
我々は原稿にずっと書いてきたわけだし、親父は開発にも携わってきたし、トヨタをはじめ各メーカーもそういうことに真剣に取り組み始めているんだけど、、、それ、そんなに重要だったっけ? っていった空気がやっぱあると思うのよ。

岡崎K:そうだね。その辺は最近かなり議論され始めていて、やっぱり重要なんだよねっていう方向に向いていると思う。
トヨタは世界一になったけど、「味」という部分では、他に先行するメーカーが、車が、多く存在することに気づき、それを意識しはじめた。
電気自動車や自動運転という、乱暴に言えば移動のためだけの「楽しくないクルマ」とか「シェアリング」とかを多くのメーカーがやっていて、トヨタもそうなんだけど、やっぱりクルマをなんとかして楽しいものとして残したいっていう気持ちをトヨタの豊田章男社長は強くもっていらっしゃる。トップがそういう思いを持っているからこそ、そういう命を下せることもある。だから、これから変わっていくと思うし、そう願っているよ。
PAGE 4

飛ばしてイイと思えるクルマは時速5キロで走り出したときでも、間違いなくイイ(岡崎五朗)

null
対談に出てくる五朗さんとのヨーロッパ旅のことを綴った「アウディ200クアトロ 欧州の旅」。ヨーロッパのクルマ事情や、五朗さんへの想いが伝わる回なのでこの対談の合わせて是非読んで頂きたい
岡崎G:一つ言えるのは、飛ばしてイイと思えるクルマは時速5キロで走り出したときでも、間違いなくイイよね。時速5キロでイイと思うクルマは飛ばしてもイイ。そこがコンフリクトした経験はあまりない。

岡崎K:それは人間でいえば体幹がビシッと決まっている感じだね。
体幹が鍛えられている人ってまず歩く姿がかっこいい。
だから一歩二歩踏み出しただけでもすぐにわかるんだと思う。

岡崎G:スーツでも袖を通した時にわかる心地よさとかあるし、それと似てるよね。

岡崎K:まぁ、そこは自己満足の世界でもあるんだけど。でも自己満足はとても大切だと思うし、自己満足の世界が無視されたらなんだかなぁ、と思う。
ちょっと話はそれるけど、僕は五朗が免許取るのが楽しみだったし、免許を取ったら絶対うまくなってほしいと思ってた。五朗が免許を取ったその週に下田に連れ出して伊豆半島一周をしたよね。そのときに、もっと飛ばせもっと飛ばせってずっと言っていた。すごく疲れたようだったけど、翌日からはスイスイ走れるようになった。その時の車は、WRCのホモロゲーション用に200台限定生産されたセリカだったよね。
それから19になった時、絶対外国の道路に慣れさせたいと思っていたから、一緒にミュンヘンからイタリアのベニスまで2000キロくらい走った。それもほとんど五朗に運転させて。五朗は結構平気で飛ばしたけど、家内はスピードが怖い人だから後ろで凍りついてた(笑)
その旅で印象に残っているのがフィレンツェ。あの、ものすごいごちゃごちゃな道で、大型で高価なアウディ200クアトロを運転するのはさすがに五朗もプレッシャーだったようで、音を上げちゃったね。それで、試しにフィアット・ウーノのレンタカーを借りて運転させたら、あっという間に全開でフィレンツェを走ってた。それから先はもうどんな道でも全然オッケーになったよね。つまりこれも僕の自己満足って話なんだけどね。

岡崎G:そんなこともあったね(笑)僕が印象に残っているのは、物心ついたときにうちにあったジュリアスーパー。音とか、ガソリンとかオイルの匂いとか、幼心ながら記憶が残ってる。母親がクラッチが重いって嘆いてるのとかも。今は物心つくとミニバンって子が多いと思うんだけど、幼少期の刷り込みみたいのはあると思う。ああいう経験は人生を豊かにするんだろうなぁ、と自分事ながら思うよ。

岡崎K:ジュリアスーパー懐かしいね。

岡崎G:で、その自己満足って僕も大事だと思うんだけど、ミレニアル世代って一番クルマに冷めてる気がするじゃない? 彼らはみんなで楽しく平等にやっていこうよって教育されていて、自己満足を肯定されなかった世代なのかなって。それに対してもう一世代若い20代前半は変わってきていて、クルマが好きっていう人が多いのはなんでだろうなって。
環境ももちろんあるけど、親の影響はやはり大きいのかなって思う。とすると“車育”みたいな事だよね、食育と同じ様に。趣味としてもそうだけど、交通安全という意味でも大切だし、そういう風に個人レベルで思いが伝わっていくと、ひょっとしたらクルマ離れは無くなっていくのかもって思う。

岡崎K:そうだね。そういう意味では、僕はクルマ好きとしては最高の時代を過ごしたんだろうね。仕事を始めたのが60年代で、70、80、90年代っていま振り返るとやはりモータリゼーションが最高に盛り上がっていった時代だったと思う。

岡崎G:モデルチェンジするたび良くなるってのが日々、実感できた時代だよね。

岡崎K:そうだね、今みたいに、しらけた空気はまったく無かったから。
null
多くのクルマに乗ってきた岡崎氏を緊張させたというロールスロイスでの思い出を綴った回「RRに圧倒されたあの日」クルマと乗り手の関係性についての考えは、こんな実体験に基づいているということを伺い知れるエピソード
岡崎G:でも、それっておそらくすべての産業において言えることでさ、iPhoneがここまできて次に期待するかっていうと、どうしても最初の頃のような期待は薄れてしまうわけで。次に驚くような機能がある? って。これ以上スクリーンが綺麗になったところで、目が追いつかないし。クルマなんかは結構昔からそうなってるわけじゃない?
いまはiPhoneとクルマの融合で新しい価値が生み出されていたりするんだけど、例えそれがクルマにおけるキラーコンテンツになったとしても、いわゆる良いクルマっていう価値はやっぱり変わらないとも思うんだよね。トヨタとかはやはりそう思ってるわけだしね。一方でテスラみたいな、まさにデジタル時代のクルマがあったりしてさ、そこのせめぎ合いっていうのも僕は面白いんじゃないかと思う。

岡崎K:僕はデジタルすぎるクルマ、例えばテスラみたいなものが後世に残るのかな、って疑問がある。というのも、いまやあらゆるクルマメーカーも電気自動車でカッコよくて、ちゃんと速いものを作り始めてるから。最初にテスラに乗ったときは感動したけどね。iPhoneも新型出るたび買い続けてきたけど11に買い換えるか、、迷ってる。迷ったのは初めてだよ。

岡崎G:その止まったときにどう新しい価値を生み出していくのかっていうのがすごく重要でさ。多分そこが数字でCPUを早くするとか画素数を大きくするとかじゃない、つまり数字ではない世界での勝負になるってことだと思うんだよね。

岡崎K:そうだね。美味しいものってセブンイレブンでも十分美味しいんだけど、それを3日続けられたら、なんとなくきつくなるよね。美味しいとか、異性に対する感情とか、友達、いろいろな人間同士の付き合いとか、家の住みごこちだとか、そういう曖昧な部分というのはこれからもずっと生き残ると思うし、曖昧なところにこそ価値を見出す時代になっていくと思う。
クルマでいうとメルセデスのSクラスとレクサスのLSはデータで比べたらほとんど変わりはないんだけど、乗ると、走り出した瞬間に違いがわかる。やっぱりSクラスの方が断然イイんだよね。
そういうのをトヨタの人たちはわかり始めてきてるんだと思う。

岡崎G:売れればいいみたいなものは、数としてはまだまだ主流だけど、変わりはじめてるよね。今までは車にこだわる人はドイツ車を選んできたけど、これからはちょっとその辺りの事情も変わってくるんじゃないかなって感じていて。その兆候は、プジョーとかボルボに注目が集まってきていることなんかが象徴しているかなって。
クルマってどれ乗っても、同じだよ、って思うしらけ世代がいて、今は大手メーカーにもいいものも微妙なものも混在してて、ちょっとしたカオスみたいな状態だから、本当にいいクルマを選ぶことが難しい時代なんだと思う。
だから、ドイツ車がこうとかトヨタはこうとか日本車はこうとか、大きくくるのも難しい気がする。同じブランドのクルマでも、モデルによってだいぶ中身が違うから。だからこそ、ちゃんと乗って自分に合うクルマを探すと意外に面白くなってきている気がするよね。
PAGE 5

おばあさんもおじいさんも良いクルマって分かっているんだよね(岡崎宏司)

null
クルマが人を幸福にする、岡崎氏のことばからはそんな想いが伝わる。それもきっとこういう経験の積み重ねによって醸造された理屈抜きの言葉なのだと、感じさせられる回「ハッピーを連れてきてくれた2台のゴルフGTI
岡崎G:でね、そのイイねって感覚が二人の間では伝わるんだけど、そのイイってなに?っていうところが、じつは読者もふくめ多くの人に伝わりづらい部分な気がするんだよね。
僕は同業者でも試乗してみて「ハンドリングが良くてサーキットでもアンダーステア出なかったんですよね」って言う人とはクルマの話するのやめようかなって思っちゃう(笑)
そのぐらいなかなか共有しづらい感覚なのは分かっているんだけど。

岡崎K:ほんのわずかにハンドルを切ったときにどう動くかとか、ずっとRが続いてるときにハンドルの修正が必要かとか、音の伝わり方とか、いろいろな要素はあるんだけど、一言で言うと、やっぱり「乗り味」ってことなんだと思う。

岡崎G:その「乗り味」を僕らは良いとか良くないとか言っていて、それはやっぱり味でしかないんだよね。数字じゃない。例えばあそこのレストランうまかったよっていうのと一緒で。味っていうのは言語化しづらいし、数値化もしにくい。でも、我々の共通認識の良いクルマっていうのは「味」の部分が一番大事なんだよね。

岡崎K:当然メーカーの人も信頼してるある一定の人に求めるのはそこ。非常に曖昧で、感覚でしか評価できないところを求めてる。
ただこれは実は特別なことではなくて、誰しもが感じてるんことなんだと思う。おばあさんもおじいさんも感じている。ただ言語化できないだけ。でも良いものは気持ちいいなとか、良いクルマだとか感じているんだよね。
 
岡崎G:そうだね。でも美味しいものを食べると、おいしさに気づいて、不味さもわかるっていうのはあると思う。そういう意味でトヨタが美味しくなってきたのは、日本が変わるきっかけになる気がするなぁ。
例えばメルセデスベンツのS400Dは大トロのようなものだよね。その大トロの美味しさをどういう風に伝えるのかってのがものすごく難しくて、数字で伝えようとすると脂が何パーセントとか、たんぱく質がいくらでとかの話になってしまうけど、そういうことじゃない。
うわ、気持ちいい! とか、うわ、楽しい! とかそういうところ。そしてそういう気持ちいいとか楽しいとかって感覚は、試乗を始めて数分後もしくは数秒後にはなんかわかる。1時間試乗ができるなら、残りの59分でなぜなんだろうって考える時間だよね。

岡崎K:そうだね。我々はそれを言語化しないといけないから。

岡崎G:そう思うと、親父の50何年っていうのは、その味を伝える言葉を探す時間だったんじゃ無いのって思うけど?

岡崎K:まあひたすらその積み重ねではあったと思う。時代に対しての擦り合わせみたいなのも当然必要なことはあるけれど、基本的には思ってること、やっていることはあまり変わらないね。

岡崎G:だから世界中のうまいもん食べ歩いてきたわけだよね(笑)

岡崎K:そうだね(笑)五朗が乗ってるメルセデスベンツのW124とか90年代のだけど、すごくイイよね。でも僕の歳だと、運転支援システムがないと嫌だな、とかっていうのはあるから、乗る人間によってもクルマの評価、選び方は少し変わるのかもしれない。
ただ、その時代のクルマはまさに乗り味命のクルマ、今の時代に性能で比較したらなにもないんだよね。その乗り味とっちゃったら、ただの古いクルマでしかない。

岡崎G:古ければいいとも思わないけど、味に関して言えば新しいモノはそこだけを追求しづらくなっている社会ではあると思う。例え話で僕がよくするのは、PCのキーボードのこと。いま、新しいPCを買うと付属で付いてくるキーボードがすごく安っぽい。昔の機械式のIBMのキーボードは人殺せそうなくらい重いんだけど、指に吸い付くように動くわけ。それはパソコンが高級品だった時代だったから実現できたようなプロダクツなんだよね。
でも今はPCの単価が下がっているから、マスプロダクトとしてそんなもの作ることはできない。だから性能は上がっているんだけど、味は薄まってしまう。クルマもこれと同じで、安全性能とか機能や数値は非常に進化しているんだけど、味はやはり薄れてしまっていた。とくにメーカーがローレンジ用に作るクルマは乗っていると自分になんの価値もない、って感じちゃうくらい、味がない(笑)

岡崎K:大手のメーカーはやはり膨大なマーケットのデータを持っているから、商売として考えると多くの人がそれほど求めていない「味」に投資する必要がないって考えてしまっていたんだと思う。ただ、トヨタの現社長の豊田章男さんはそういうクルマ作りをなんとか変えよう、よい方向に向けようとしている。

岡崎G:そうだよね。でも一方で現行の大衆車でもフランスとかイタリアなんかは楽しいんだよね。少なくても、乗っている自分に存在価値ないって思わされるクルマはない。もしかすると庶民の心持ちとか生き方に関係あるのかもしれないけど。お金がなくてもみんな楽しんでるよね。それが日本だと、なんだかお金持ちに対しての恨み節が強い。

岡崎K:そうだね。フランスとかイタリアとかラテン系の国はクラスとか全く気にして無くて楽しそうだね。それがドイツになるとクラス感がはっきりしちゃって、日本と少し似てる。でもイタリアとかは、おじさんとおばさんがパンダとかに乗って、コーナーをはみ出しそうになりながら、全開で楽しそうに走っているんだよね。

岡崎G:そうそう。で、そういう人たちってこっちが速いクルマ乗ってると道譲るんだよね。その話しをイタリア人としていたら、「だってあいつら高い金払って速いクルマ買ってんだから、先にいかしてやんないとかわいそうじゃん」って言うんだよ(笑)
そこには妬みがないわけよ。奴らは奴ら。俺たちは俺たち。日本は多分そういう感じじゃない。あんな高級車乗り回しやがって、みたいな。
だからトヨタがやるべきことは、一番下のクルマでももっと楽しくなるようなクルマを作ることだろうね。

岡崎K:まったくその通りだね。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

●岡崎五朗/自動車ジャーナリスト

日本自動車ジャーナリスト協会理事。 東京都出身。父親は、同じく自動車評論家である岡崎宏司。青山学院大学理工学部機械工学科在学中から、自動車雑誌などで執筆をはじめ、現在はTVなどでも活躍中

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        いいクルマは人を幸せにするのか? プロが語り合った | 自動車 | LEON レオン オフィシャルWebサイト