2026.01.11
紅茶会社が作ったホテルが3ミシュランキーを獲得!? 紅茶とホテルに魅せられる、スリランカ旅行のすすめ
多くの紅茶好きに支持されているブランドといえば、スリランカの「ディルマ (Dilmah)」。その「ディルマ」が生み出す紅茶をたどることは、スリランカをより深く知ることに繋がります。実は、紅茶会社にして、素晴らしいホテルも展開しているのです。そこで、紅茶とホテルをテーマにしたスリランカの旅を2回に分けてご紹介します。
BY :
- 文/大石智子(ライター)
- CREDIT :
編集/森本 泉(Web LEON)
「ディルマ」の旅で、本当のスリランカを知る

最近の旅のテーマとして、“土壌がいい所に行きたい”というのがある筆者。主に口にするものから体感します。本能的な欲求。そういう場所が落ち着くのです。地元や日本の多くがそういう土地だからかもしれません。
そんな話がありながら、今年ハマったのがスリランカ。北海道の8割くらいの面積の国です。今回は一週間の滞在で主に3つの異なる地域に滞在しました。それが全てではないと分かっていながら、この国の土地の豊かさに気づくには十分な体験に。スリランカの国名は、シンハラ語で“尊い(スリ)島(ランカ)”。旅を終えたあと、その通りだと納得します。
3回目のスリランカ渡航にして真髄を痛感したのは、ナビゲートしてくれたのが、スリランカが誇る紅茶ブランド「ディルマ(Dilmah)」だったから。

▲ スリランカの紅茶産業に大きく貢献したメリル・J・フェルナンド氏。
「ディルマ」は、創業者のメリル・J・フェルナンド氏(1930-2023)が1950年台に古いモーリス マイナーのトランクで紅茶を売り始めたところからスタートしたブランド。1988年、フェルナンド氏は息子のディルハン(現CEO)とマリクを合わせた名前の「ディルマ」を立ち上げます。彼は生前、「ディルマは私の3人目の息子」と語っていたそうです。
今回は、そんな「ディルマ」が提携する茶園を訪れながら、同社のホテルに泊まる旅。実は「ディルマ」は、「リスプレンデント セイロン(RESPLENDENT CEYLON=輝くスリランカ)」というスリランカ観光開発事業も行っているのです。そこに属するホテルが、実に素晴らしい! 全5軒中3軒は「ルレ・エ・シャトー」加盟ホテル。今年10月に発表されたミシュランキー(ミシュランのホテル版)では、うち3軒が鍵を獲得する快挙を成し遂げました。
3キー 「セイロン ティー トレイルズ」
2キー 「ワイルド コースト テンティッド ロッジ」
1キー 「ケープ ウェリガマ」

▲ ミシュラン公式サイトより。 スリランカ国内で2キー以上を獲るのは「ディルマ」のホテルのみ。
「ディルマ」の紅茶は、まるでその土地の要約。一杯にテロワールがぎゅっと凝縮しているのですが、ホテルも然り。そういった紅茶とホテルを同時に楽しめるものだから、忘れがたい旅に。3軒のホテルはいずれも素晴らしいロケーションに立ち、背景を広報担当者はこう話します。
「創業者のフェルナンド氏は、30年続いたスリランカ内戦時代に土地を購入していました。当時は観光業が壊滅状態で、誰も投資しようと思わなかった時代。しかしフェルナンド氏は、“戦争は永遠には続かない。観光は必ず復活する”と考え、先を見据えて土地を買い、保有していたのです。20~30年先を読むことができる方だったのです」
「ディルマ」は、ただの紅茶会社じゃない。最高の紅茶を作りながら、「スリランカをより良い国にしたい」と、本気で取り組んでいる会社だったのです。

▲ 若々しい茶葉。一番上の芽と二枚葉だけが丁寧に収穫されます。
意外と知らない、紅茶大国のこと

▲ 今回は1.6.7.8を訪問。
まずは玄関口であるコロンボへ。成田空港からスリランカ航空の直行便で約9時間半。今回は、行きは「ヒルトン・コロンボ」に1泊、帰りは「ナイン ホテルズ レイクロッジ」に1泊しました。帰路は夜便なのでコロンボに泊まらない工程も組めますが、気になっていたホテルでひと休み。
紅茶の旅は「ディルマ」のティーラウンジからスタート。もしも「ディルマ」の名前を知らない人でも、そこへ行ったら記憶が掘り起こされるかもしれません。なぜなら、店内には見たことがある人も多いはずの、“t”のロゴの缶が並んでいるから。漢数字の“七”に似たteaの“t”。ラグジュアリーホテル御用達で、筆者が初めてこの“t”を見たのもホテルでした。

▲ 販売商品では、“t”の缶はリーフティー用。
ティーラウンジでスリランカの紅茶事情を聞いたのですが、意外だったのは紅茶より先にコーヒーで栄えたということ。英国の植民地だった1820年代からコーヒー栽培が急拡大し、欧州に多く出荷。しかし、1868年にコーヒーのサビ病が大流行し、コーヒー農園は壊滅的被害を受けます。それを機に紅茶産業へ大きく転換。
1874年に茶葉を英国に持って行くと、金の価値の10倍になった逸話があるほど、紅茶産業は右肩上がりに。とはいえ、紅茶の価値が国内で高まるには100年以上かかったと広報担当者が話します。
「昔は、紅茶は労働者が空腹を満たすためのものでした。十分な食事を買えない人たちが、濃い紅茶にミルクと砂糖を入れて“エネルギー源”にしていたのです。現在のような贅沢な紅茶文化は比較的新しいものです。フェルナンド氏は、近い将来、消費者は最高品質の紅茶を楽しむようになるだろうと見越して、1988年にディルマを設立したのです」

▲ 「t-Lounge & bar by Dilmah-The Shoppes at City of Dreams」ではティーカクテルや食事も提供。「Dilmah」はコロンボにカフェやラウンジを8軒展開。
ティーラウンジの開業も、まずは市民に「本当に美味しい紅茶の淹れ方」と「産地の価値」を伝えることが目的。日本の緑茶にも言えますが、日常に根付いていても、知られていないことが多いのです。
そんな話を聞いて、いざ山間部の茶園と1軒目のホテル「セイロン ティー トレイルズ」へ。茶園のある地はヌワラエリア。クルマだと5時間かかりますが、シナモンエアーの水上飛行機だと30分で到着します。水上飛行機のもうひとつの利点は、上空から起伏の差が大きいスリランカの地形を把握できること。標高の差がお茶の味を変えると後に知るからです。
“シングルエステート”の紅茶で土壌を感じる

▲ 茶摘みは主に、手先が繊細な女性が担当。
水上飛行機を降りてからクルマで約10分。ヌワラエリアの「ラバーズリープ茶園」に到着します。ここに来たのは、「ディルマ」の真髄、“シングルエステート(単一茶園)”を知るため。その名の通り、ひとつの茶園で作られたお茶を指します。市場に多く流通しているのは、様々な茶園の茶葉を混ぜたブレンドです。
ワインと同じようにお茶の品質も“テロワール”が決めるもの。5km移動するだけで土壌や標高が変わります。ですからシングルステートの醍醐味は、土地の個性をダイレクトに味わえること。「ディルマ」には“お茶を作るのはスリランカの豊かな自然そのもの”という信条があるので、シングルエステートに力を入れているのです。
シングルエステートは、アールグレイともダージリンとも全く異なる紅茶。ごまかしが効かないので、茶葉を摘む人から乾燥させる人まで茶園全体の意識が高まり、その結果が個性的でピュアな味わいに表れます。コーヒー好きでお気に入りの農園がある人は、ぜひ紅茶のシングルエステートもお試しあれ。

▲ 標高約1700mに位置するラバーズリープ茶園。

▲ コロンボ出身で18歳から紅茶業界に入ったテイスターのエシャンさん。出社すると1日150種をテイスティングし、それとは別に日に4回はプライベートの紅茶を飲むとか。テイスティングではスプーンですくって口に含み、ポットにはき出します。ワインのテイスティングとの共通点も多数。

▲ 色をよく見るため明るいところで実施。
訪問した「ラバーズリープ茶園」の紅茶は淡いゴールド。一輪の可憐な花の、花びらも葉も蜜も感じるような味わいです。もともとヌワラエリヤの紅茶は“セイロンティーのシャンパン”と呼ばれ、スリランカ紅茶界で最上位の位置づけ。その中でも「ラバーズリープ茶園」は名園で、そういうものほどオラつかないと言いますか、優しく寄り添い余韻で印象づけます。

▲ 「茶葉が一番元気で幸せな時に摘むのが重要」とのことで、太陽による光合成が行われている時間に茶摘みが行われます。標高約1400mの「サマーセット茶園」にて。
「ラバーズリープ茶園」から14km先のディンブラ「サマーセット茶園」にも訪問。近所と思いきや、紅茶の個性がガラリと変わり驚きます。標高は「サマーセット茶園」が約300m下。見た目からして異なり、こちらは赤みを帯びた濃い茶色。飲めば綺麗な渋みが存在し、紅茶の王的な貫禄を感じます。緑豊かな渓谷に位置する茶園で、東京の家にいながらスリランカの野性を感じられる味わい。紅茶のもつトリップ力は凄いですね。
そんなトリップ力も「ディルマ」の強み。「スリランカに来られない人にも、紅茶を通してそれぞれの土地を旅している気分になって欲しい」と、『セイロンティー・ジャーニー』という日本限定シリーズも出しています。4つの茶園のシングルエステートティーと、4つのシングルオリジン(単一品種)のフレーバーティーからなる計8種を展開。

▲ 『セイロンティー・ジャーニー』の8箱には、スリランカ各地の環境を表すイラストが描かれています。1箱1620円〜。詳細はコチラ。
筆者の実家は静岡で農業を営んでいるのですが、毎日午前10時と午後3時にお茶の時間があります。そこでこの『セイロンティー・ジャーニー』を両親とパートさんに出したところ、みな「美味しい」との第一声。静岡茶を何十年も毎日飲んでいる人にも受け入れられる。自然の力が生み出すピュアな商品は、やはり支持層が厚いです。
世界最高の紅茶ホテルに泊まる

▲ 湖に面した「サマーヴィラ バンガロー」のプール。
現地を旅できる人は、是非とも「セイロン ティー トレイルズ」に宿泊を。個人的に2025年初訪問のホテルの中で、アジア上位2軒に入ります。そう思う理由は以下の3つが揃うから。
1 趣溢れるクラシカルなバンガローに滞在できる
2 美味しいカレーやアフタヌーンティーを紅茶と味わえる3 隣接する紅茶工場の見学が好奇心を刺激する
「セイロン ティー トレイルズ」は、茶園が広がる山間部に点在する5つのバンガローからなるホテルです。各バンガローが4〜6室を備え計27室。すベて、元は茶園主たちの邸宅でした。昔、英国人の茶園主たちは最高のロケーションを選び、惜しみない資金を自邸に投資。英国の田園邸宅に倣ったバンガローには時代を超えた美しさがあり、ホテルとして蘇らせたのです。
各ベッドルームはバンガローにゆかりのある人物の名前がついています。今回泊まった「ノーウッド バンガロー」で最もアイコニックだったのは、ヒョウがモチーフとなった「アンドリュー」。実は、この地域には昔からヒョウが生息し、いまも共存関係にあるのです。

▲ クッションなどがヒョウ柄となった「アンドリュー」。

▲ 優雅な猫足バスタブ。
施設内には当時の暮らしを感じさせる調度品やアンティーク家具が設らえれ、文化財的な価値もあり。「ノーウッド バンガロー」の広いダイニングは、スリランカ版『華麗なる一族』を思わせる重厚さ。お洒落のし甲斐もあります。
広い庭には草花が鮮やかに咲き、芝生にはクロケット用のコートも。英国人の茶園主たちが友人を招いて寛いでいた時間がここにあったことを想像させます。そんなタイムトラベル感のある空間で紅茶を飲めば、気分は茶園主。

▲ 暖炉の煙突が2本立つ「ノーウッド バンガロー」。

▲ 庭でワイルドに咲く花。朝靄越しの山々も美しい。

▲ 個人宅としては非常に広いダイニング。バンガローは、建物はそのままにフランス人デザイナーが内装を再構成。
紅茶とカレーが合う!紅茶のタンニンが肉に合う!

▲ 朝食のカレーセット
「セイロン ティー トレイルズ」に泊まるふたつ目のメリットは、紅茶と食事のペアリングを満喫できること。テラスで楽しむアフタヌーンティーが最高なのはもちろん、新発見はカレーや肉料理との相性のよさです。
最初に感動したのは、朝食カレーと紅茶のペアリング。スリランカの朝食カレーセットはココナッツや野菜が多く使われ、比較的軽やか。魚の出汁が効いたカレーも含まれ、日本人好みなはずです。ペッパーの刺激やタマリンドの酸味、カレーリーフの香りなど、スパイス&ハーブの鮮やかさもたまりません。そこに紅茶を飲むと、見事に馴染む。さっと切るのではなく、風味を引き立て、やがて静かに消えていくのを手伝います。

▲ 赤身肉がどしんと入ったビーフ・ウェリントン。
代わってディナーで印象的だったのは、ビーフ・ウェリントンと「サマーセット茶園」の相性。ここの紅茶は前述の通り濃い色合いで、ボディもタンニンもあります。それが赤身肉の血の味とよく合うのです。また、パイに含むバターや重めのソースを熱い紅茶が綺麗に流し、舌に残しません。肉には赤ワインが絶対と思っていましたが、紅茶がそれに変わるとは。酒量が減りそうで怖いです。
ラグジュアリーホテルに泊まりながら、紅茶工場見学

▲ 摘み取った茶葉の水分を12〜14時間かけて減らしていきます。
みっつ目のメリットは、「セイロン ティー トレイルズ」からクルマで30分ほどの「ダンケルド工場」の見学が出来ること。ここに行けば、青々とした茶葉がどのようにして紅茶になるのか、明快に理解出来ます。ツアーは爽やかに香る“ウィザリング”の部屋からスタート。
摘んだばかりの茶葉は水分を75%含んでいるので、発酵させる前に水分を43%まで減らさないといけません。そして発酵させ、火を入れ、ほぐしや選別作業へ。普段、当たり前に飲んでいる紅茶が作られる工程をこの目で見ると、一杯へのありがたみが増すものです。何より、スタッフの方々の情熱に触れることが出来るので、必須のアクティビティと言えます。

▲ 火入れをしてほぐした茶葉を大きさごとに選別。

▲ 「ダンケルド工場」では紅茶の歴史なども分かりやすく展示。
紅茶工場見学に関連するおすすめのアクティビティは、「ダンケルド工場」からスタートするトレッキング。ネイチャーガイドがこの地域の生態系を解説してくれるので、茶園の環境の豊かさを実感できます。

▲ 「お茶の木は最大20mまで大きくなるんですよ」とネイチャーガイドのキースさん。
茶園があるエリアは土壌がよいので、他の植物も豊か。そして、多くの動物たちも生息しています。
「骨の破片が見えますね。ここがヒョウの縄張りであることを示しています。おそらく、このヒョウの名前はノーマン。彼は8歳になる雄で、この辺りで見かける最大の個体です。私たちは15台のカメラとアプリにより、個体識別された29頭のヒョウがどこにいるかを把握しているんです」とネイチャーガイドのキースさん。
ヒョウは夜行性なので昼のトレッキングは危険ではないとのこと。ちなみにキースさんと共にガイドしてくれたのは、「ダンケルド工場」で可愛がられている地域犬のショート。スリランカの茶園にはよく地域犬がいるので、犬好きはそんなところもお楽しみに。

▲ マッサージされるのが好きなショート。

▲ ティーカップベンチでぜひ記念撮影を。
「セイロン ティー トレイルズ」へは1泊だけでしたが、3ミシュランキーというのが大納得のホテル。なんという豊かな滞在。5つのバンガローがあるので、はしごで連泊するのも楽しそうです。初めて紅茶会社が造ったホテルに泊まりましたが、「ディルマ」だからこそ、ここまでセンスが表れているはず。センスの根っこに、心ある企業哲学を感じるのです。
世界100カ国に展開するグローバル企業ですが、聞けば利益の15%を社会貢献に充てていると言います。この規模の会社で、非常に珍しい数字でしょう。
「ディルマは“世界最大“の紅茶ブランドになろうとしたことは一度もありません。“世界最高”の紅茶ブランド”になりたいと願ってきたのです」とは現CEOのディルハン氏。
次回は、続く2軒のホテルと「ディルマ」の社会活動についてご紹介します。
■ セイロン ティー トレイルズ
料金/1泊1室2名16万3900円〜(個人調べ)

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