2025.08.27
料亭との共生で未来へと向かう唯一無二のホテル「パーク ハイアット 京都」
「パーク ハイアット 京都」の開業は2019年10月30日。そこは、創業148年の歴史をもつ「山荘 京大和」の敷地であり、珍しくもホテルと料亭が同居している。その環境があってこそ生まれた唯一無二の建築は必見。開発、設計・施工を担った竹中工務店に聞いたホテルの誕生秘話をお伝えする。
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- 文/大石智子(ライター)
一歩足を踏み入れれば、もうひとつの京都が広がる

「日本一厳しい景観条例」をもつと言われる京都。特にこの地域では高さ10m以上の建物は建てられないため、ホテルも高層のビルではない。上には階層をとれないため地下4階まで掘り、地下部分が延床面積の60%を占めている。

客室に向かって進みエレベーターを5階で降りると、窓の外には八坂の塔。それは宿泊者だけが眺められる、ラグジュアリーホテルが額縁になった京都の絶景だ。そんなユニークな共演が叶うのも、「京大和」の敷地の中にホテルを誘致するという「京都東山計画」が実現したから。歴史ある料亭と外資系ホテルの出会いを探ると、土地の歴史もみえてきた。

元宮大工だった建設会社が、老舗料亭と外資系ホテルの橋渡しに

「阪口祐男社長は、京都は歴史を紡いでいる街であるとともに、様々なイノベーションを起こし、国際的、業際的な性格をもつ街と捉えていました。例えば任天堂、京セラといった企業が京都を起源とし、京都大学に同志社大学、多くの学校も点在しています。そういった文化と土壌をもつ京都の性格を考え、料亭のある場所を国際交流の拠点となる形で世界に発信していきたいと考えていらっしゃいました。同時に、価値のある庭や建物を、未来永劫、京都市民にとっても、世界の皆さんにとっても貴重な財産として繋いでいきたいと強く望んでおられました」

そしてハイアットが加わったのは、竹中統一氏が現会長トーマス・プリツカー氏と長年親しく、竹中工務店がハワイの「グランド ハイアット カウアイ リゾート&スパ」やニューヨークの「アンダーズ 5th アベニュー」の事業パートナーである縁があったから。自然な流れで「京大和」と引き合わせることとなった。
しかし、残念ながら「京大和」の阪口祐男氏はプロジェクトが決まった直後に他界。祐男氏の意思を引き継ぎ、3社は2016年から開業直前まで毎月1回必ず話し合う会を設けた。その数50回以上。どのように未来に向けて共存していくか、どう助けあうか、自由にアイデアを出し合った。祐男氏の後を継いだ妻の惠子氏の意見も重要だったが、惠子氏もプロジェクト半ばで他界。2017年からは娘の阪口順子氏が代表となり、話し合いが継続された。
安全安心を基盤に歴史をつなぐ
「伝統的建造物群保存地区なので、どう周辺地域の景観にマッチさせていくかを配慮しました。そして、価値ある建物をいかに将来に向けて再生し、経済的に成立する環境を整えられるか。当時、茶室も傷んで傾いてしまっていたので、お茶会もできない状態でした。やはり経済性は非常に大事で、建物を保存・再生しても実際に活用し、歴史を紡ぐ原資を確保しなければなりません。活用のためには安全安心や快適性も必然となります。築300年以上の建屋の耐震性を高め、スプリンクラー等の防災設備を徹底し、見えないところまで工夫を凝らす必要がありました」
茶室は、伝統的な曳家(建物を解体せずにそのままの状態で移動させる技術)と現代の揚重技術を組み合わせ、仮移転させて修復。茶色のクレーンに吊られ茶室が空を飛ぶ様子を、二寧坂を歩く観光客も興味深く見守った。
そのままでは使えない柱などは継ぎ手(金具を使わず木の組み合わせで強度を高める伝統技法)を施した。材料は理想的な木を日本全国へ探し求め、一部は「冬の新月に切ると長持ちする」という古来のいわれにならって切ったとか。まるで大工の棟梁のような仕事。それでいてホテルの内装には台湾出身の世界的デザイナー、トニー・チーが共同設計者として参加するなど、現代のモダンなデザインも融合して形になっていった。

「弊社の技術研究所の生物に詳しい研究員に来てもらい、モリアオガエルを捕獲してDNA検査を行なったうえで、カエルの卵を事務所で孵化させ、おたまじゃくしを育て、また庭園に放ちました。モリアオガエルは英語で“Green Tree Frog”と呼ばれ、まさに木に登って移動するカエルなのですが、ホテルが開業後、再び庭園を棲家とし続けています」

「建設会社として近隣にどう貢献できるか。例えば、この地域はゲリラ豪雨や台風による大雨の際には山側より濁流が流れてきて、浸水被害のある家屋もありました。そこで、貯水槽を作り、いったん水を受け止めて放流することで浸水がなくなる対策を施しました。加えて敷地周辺は土砂災害特別警戒区域に指定されていましたが、東側に直径1.5m、深さ28mに及ぶ銅管杭を合計37本打設するという大規模な山留め工事を行いました。結果、指定は解除され、ご近所の皆さまに安全安心な生活環境を提供しています」
他にも電力会社の置いた大きな変圧器があったことでクルマが通りづらい状況だったのを、変圧器を敷地内に移設して暮らしやすくするなど、問題を改善。
「お手伝いさせていただいているといいますか、一緒に街づくりに取り組ませていただいていると思っています。商店主の方々を中心とした街づくり協議会の皆さんも、この場所を発展させていこうと強い想いをお持ちで、弊社としても非常に共感しています」


3社の相乗効果が、国内外での受賞を受け始める

大正時代から外国の賓客をもてなすために椅子を設えた茶室である「胡廬庵」は、いまは海外からの宿泊ゲストがお茶会を体験できる場に。料亭とラグジュアリーホテルが出会ったことで、時代が交錯するような新たな京都の過ごし方が生まれている。


ホテル内を知り尽くす人が選ぶ、おすすめスポット
1:レストラン「八坂」とバー「琥珀」を繋ぐ踊り場

さらに振り返っていただくと、料亭と庭園、東山の山並みが見えます。ここに立っていただくと、このプロジェクトの全景を体感していただけると思います」
2:ホテル玄関前の「叡心庭/プリツカーガーデン」

里山をイメージしたお庭で、角度・季節ごとに変わる表情にもご注目ください」
3:静寂に包まれた客室

完全に外の世界から隔離されるといいますか、ホテルの世界にどっぷり浸かっていただくコンセプト通りだと、ご滞在されると実感できるはずです」

そして客室内の飲料水は日本酒「黄桜」の仕込み水で、アメニティにはカップヌードルもあったりする。静かな部屋で食べる、仕込み水で作ったカップヌードルの美味しさは宿泊者のみが知る背徳の味だ。次々に知るディテールのアイデアは、誰かが会議でゲストを思いやって提案したことのはず。
「パーク ハイアット 京都」が海外のラグジュアリーホテルにして家の温かさがあるのは、「京大和」というある家族が大切に受け継いできた料亭と共存し、3社が話し合いを重ねて生まれたホテルで、業種を越えたチームにファミリー的な一体感があるからかもしれない。
人がこの場所を楽しむことが次の歴史に繋がっていくのなら、たった1日でも訪問はその一端を担うことになる。ホテル誕生までの背景を知りそう思ったら、一層ここでの時間に没入できそうだ。
■ パーク ハイアット 京都
料金/1泊20万円〜
HP/https://www.hyatt.com