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2019.09.13

世界的なストリート人気の謎を菊地成孔が解説!

近年、ラグジュアリーブランドとストリートが急速に接近しつつある。それはなぜなのか? そもそもストリートとはどういうファッションなのか? アンダーグラウンドから先端モードの動向まで熟知する菊地成孔氏が、自らパリまで足を伸ばし取材を重ねてきた経験や豊富な資料を元に、前・後編に渡って徹底解説する。

CREDIT :

写真/吉田雅彦(M-focus) 取材・文/川瀬拓郎 編集/長谷川茂雄

パリモードを揺さぶり続けるストリート

デムナ・ヴァザリア率いるバレンシアガが起爆剤となり、現在のパリモードにはストリートのエッセンスが不可欠になっている。

さらに、ルイ・ヴィトンのメンズ・アーティスティック・ディレクターにOFF-WHITEのヴァージル ・アブローが就任し、ファーストコレクションが成功を収めた。

ストリートスタイルを得意とするデザイナーが歴史あるメゾンを大躍進させたことはまだしも、ストリート出身の黒人デザイナーがメゾンの未来を担うことになろうとは、誰が予想し得たであろうか。
「僕に言わせれば、少しも驚くことではありません。むしろ当然の帰結であり、余韻ですらあると言ってもいいのです。このビッグバンをもたらしたのは、カニエ・ウェストです。彼がパリコレに頻繁に出入りしていることが報じられたのが、7〜8年前のこと。当時のゴシップ誌には“付き合っていたモデルにフラれたカニエが、パリコレまで来てストーキングしている”なんて書かれていましたが(笑)、もちろんそんな訳ではありません。ラッパー(を含めた黒人音楽家)の服装は、ラグジュアリーブランドと手を組んでいかないとその先がないと彼は予見していて、自らアプローチしたという訳です」
写真:Shutterstock/アフロ
写真:Shutterstock/アフロ
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ストリートスタイルの萌芽は17世紀にあり

菊地氏は、『ザ・ストリートスタイル』を本棚から取り出し、ページをめくりながら解説を続ける。そこには過去300年以上に渡るファッションの推移と、そこから生まれたストリートスタイルの変遷が、豊富なイラストと文章によって構成されている。
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『ザ・ストリートスタイル』高村是州著(グラフィック社)。著者の高村氏は、数々の雑誌や広告でおなじみのファッションイラストレーター。現在は文化女子大学服装学部ファッションクリエイション学科の教授としても活躍。本書は豊富なイラストを元に、若者たちが生み出してきたカウンターカルチャー=ストリートスタイルを分かりやすく、時系列で解説。
「ストリートファッションをどのようなタイムスパンで捉えるかで、どこから話せばいいのかが変わりますが、その起源は17世紀まで遡ることになります。階級社会では、ラグジュアリーなものとストリートなものがはっきりと分かれていました。王族の着ていた仕立服と市井の人々が着ていた粗末な服とはまるで違う。そして、後宮の人が不要になって捨てた服を拾ったり、古着屋で買ったりした街の人々が自分たちのボロ服と一緒くたにして着る、これがストリートスタイルの始まりと言っていいでしょう」

アフロアメリカンによるストリートスタイル

このように階級によって明確に分かれていた衣服が、融合(ストリート化)し、飽和(一般化)し、離反(リセット)するというサイクルが現在まで繰り返されるのだが、この歴史はあくまでヨーロッパにおける白人においてである。

それが近代の服飾史に連なるものとなるのは、1940年代のアフロアメリカンの台頭だったと菊地氏は続ける。

「彼らは可処分所得が少ないから、高価な服など買えない。だから、古着のスーツや軍の放出品を着て、土産物屋で売っていたような風変わりな帽子やサングラスを合わせてステージに立ったのです。両親が資産家で裕福だったマイルス・デイビスという例外がありますが、ビバップと呼ばれるジャンルで活躍していたジャズマンが着ていたのは、極端に大きなたっぷりとしたサイズでズートスーツと呼ばれるものでした。つまり、貧しい黒人たちが少しでもステージで目立つために変わった着こなしをする、これが黒人初のストリートスタイルとなったのです」
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1940年代初期にアメリカの不良少年やギャングたちが愛用したのがズートスーツ。極端に肩が広く、身頃がたっぷりとした逆三角形のジャケットに、ぶかぶかなシルエットのパンツという組み合わせが特徴。戦後はジャズマンたちが好んで着用し、チャーリー・パーカーを頂点とするビバップとともに流行した。写真:Photofest/アフロ
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その後、ビバップからモダンジャズへ進化を遂げる中で、成功したジャズマンたちは、ズートスーツではなく、仕立てたスーツを着るようになる。

その影響で、それまでの古着や放出品を組み合わせた風変わりな着こなしではなく、身体に合わせて仕立てたスーツをきちんとタイドアップして着こなすことがヒップとされるようになっていく。

それがしばらく続いたことで、ジャズマン=スーツというイメージが定着し、ジャイビー・アイビー(またはエクストリーム・アイビーとも呼ばれる)など、独自のスーツスタイルを生み出していく。
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ビバップからモダンジャズの隆盛にかけて活躍し、数々の名曲と名演を数多く残した、伝説的ジャズピアニストが、セロニアス・モンク。作家の村上春樹氏も愛聴するアーティストで、彼を題材にした映画もある。テンプルの素材が竹のサングラスや、東南アジアの土産物屋で売っているような帽子など、キッチュな小物使いの名手としても知られる。
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ジャズ界の帝王と称され、その生涯に渡りジャズの最前線を切り開いてきたマイルス・デイビス。裕福な家庭で育ったマイルスは、デビュー時にはすでにブルックス・ブラザーズのスーツを愛用していた。その後、ジャズ界の中心的存在となると、イタリアの高級テーラーとして有名なカラチェニでスーツを仕立てるほど、身なりにこだわっていた。
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「仕立てたスーツを着ることが、ジャズマンにとって“上がり”の形となっていくんです。上昇志向が強い彼らにとって、最終的な“上がり”の形がピエール・カルダンを着ることになっていった。やがて70年代になって、ヒッピームーブメントが盛り上がるとカジュアルダウンの流れが浸透して、誰もがTシャツとジーンズでどこへでも出かけていくようになります。

そしてジャズマンまでもがTシャツとジーンズになり、(ジャズを発祥とする)スーツをベースにしたストリートスタイルは一度リセットされてしまう。また、当時は情報通信が今のように発達していたわけではなかったこともあり、黒人ジャズマンたちのスタイルがパリのメゾンに直接的な影響を与えることもなかったのです」

メゾンに影響を与えた音楽発信のスタイル

一方、ストリートスタイルがメゾンに直接的な影響を与えたのは、70年代前半のグラムロックであり、70年代後半に巻き起こったパンクロックだった。
「グラムロックのアイコン的存在だったデヴィッド・ボウイは、山本寛斎さんが作ったド派手な衣装を着ていたし、当時のピエール・カルダンですらグラムファッションの影響を受けていました。その次にやってきたのがセックス・ピストルズに代表されるパンクファッションです。

当時、お金のない若者たちは穴の空いたTシャツやチェーンやジッパーがたくさん付いた服を着ていたんですが、これをヴィヴィアン・ウエストウッドがランウェイに登場させ、ヨーロッパモードに大きな衝撃を与えました。

一時期のゴルチエもそうですが、ロックミュージシャンの衣装みたいな服がランウェイを占拠したんです。ストリートとモードが融合する、ある種のテストランが、そういうカタチで70年代に行われていたんですね。白人から白人への流れだったこともあり、このムーブメントは比較的容易に進んでいった。後年のエディ・スリマンによるディオール・オムもこの流れと同様です」
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長年、ファッションと音楽にまつわる考察を続け、あらゆる形態で発言してきた菊地氏。切れ味鋭い分析には定評がある。
こうして70年代から80年代前半にかけて、ヨーロッパでは白人によるストリートカルチャーがモードに吸収されていくが、82年に結成されたRUN DMCの登場によって、アメリカは独自のストリートカルチャーを形成していくこととなる。

ストリートとラグジュアリーはその後どう融合していくのか?【後編】へ続く

● 菊地 成孔(きくち・なるよし)

1963年生まれ、千葉県出身。ジャズの音楽専門学校でサックスを学び、卒業後の80年代はさまざまなレコーディングとライブで演奏を重ねる。90年代には自身のバンドSPANK HAPPYを結成。演奏活動と並行し、執筆活動も盛んに行い、非常勤講師として多くの大学で講義活動を続ける。ミュージシャンとしてはもちろん、文筆家、選曲家として多方面で活動中。

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