2026.04.29
松永エリック・匡史インタビュー【後編】
「AIは人の発想をどこまでも広げてくれる。使えない人はあまりに不利」。専門家が考える正しいAIとの距離感とは?
世界を大きく変えつつあるAI技術。我々オヤジはどう向き合い、付き合って行けばよいのか? そのヒントとなる新連載開始にあたって指南役の松永エリック・匡史さんにインタビュー。ドラマティックで破天荒な人生を語っていただきました。その後編です。
- CREDIT :
文/安井桃子 写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(Web LEON)

加速度的な進歩で世の中を大きく変えつつあるAI技術に、イケてるオヤジはどう立ち向かえばよいのか? その指針となる「AIとの付き合い方」をテーマとした連載が5月から本サイトで始まります。指南役は青山学院大学・地球社会共生学部長・教授の松永エリック・匡史さん。
インタビュー前編(こちら)では、エリックさんが音楽家とシステムエンジニアだった経験を活かし、経営コンサルタントとしてエンタテインメントの力でさまざまな業界のDX化を推進、エンタメ業界でも革新的なビジネスを推進させてきたお話を伺いましたが、後編では経営コンサルタントから大学教授になった経緯と、連載が始まる前に、AIとの付き合い方の基本のキを教えていただきました。
自分で仕事をつくる「創職」を学生にも意識してほしい
── 前編のインタビューでは経営コンサルタントとして活躍されていた日々までをお伺いしました。ビジネスの最前線にいたエリックさんが、青山学院大学教授となりアカデミアの世界に従事するようになったのはなぜでしょうか。
松永エリック・匡史さん(以下、エリック) 音楽家からエンジニア、コンサルとさまざまな仕事をしてきましたが、いつでもそこに憧れの人、魅力ある人がいて、彼等がキッカケになりそれぞれの世界に入っていきました。学問においてもそうです。MBAをとる際に、青山学院大学元学長の仙波憲一先生に大変お世話になりました。そのご縁で長い間、コンサルタントとしてお付き合いしてきました。 そして先生が引退される際に「青山学院大学を、 この学部を変えてくれないか?」と言われたのです。
当時僕はコンサルタントとして活動していましたし、教育や学問の世界のことはわかりませんでした。けれど僕には「この人に何か頼まれたら絶対にYESしか言わない」と決めている師と呼ぶ人が何人かいます。仙波先生もそのひとりでした。「変えてほしい」と言われたからには、教育業界にイノベーションを起こし、それまでの学問の世界になかったことを生徒たちに伝えよう、そういう気持ちで今の仕事を始めたのです。
青山学院大学の美学は、さり気なくカッコよくなければいけない、僕はそう思っています。そして大学教授になっても、僕はコンサルタントであり続けたいと思っています。創立150周年の際は青学と雑誌の『VOGUE』とのコラボレーションでダイバーシティの時代の次世代の美を提唱するビューティイベントを行いました。またデロイトトーマツグループと共同で始めた、女性がテクノロジー領域で働きやすくなるための共同プロジェクトは、4年目になりました。
── 教授でありながら、学校のコンサルもされていたのですね。
エリック そうなんです。これからも青山学院は新しいことをどんどん仕掛けていく予定です。そのひとつとしてこの4月から「女子駅伝チーム」も発足させました。原 晋監督の指導のもと、女性チームもどんどん活躍していくはずです。ほかにも動いている企画がたくさんあります。
コンサルタントとして学生たちにもっとも伝えたいのは「就職」ではなくて、自分で仕事をつくる「創職」を意識してほしいということ。僕もこれまでいろんな仕事をしてきましたが、こうして大学内でも勝手にコンサルして仕事をつくっているわけです(笑)。自分にしかできない仕事が創れれば競争率0ですから。学生のうちから自分で仕事をつくりだすことを考えてみてほしいんです。

発想力がなければ、AIは使いこなせない
── システムエンジニア、経営コンサルタントとして、これまで幾多の最新技術をビジネスにおいて提案されてきたと思います。現在は大学で、「デジタルフォーメーション」などさまざまな講義を担当されていますが、学生たちにはAIとどのように向き合うべきと伝えていますか?
エリック アカデミックの世界では、論文にAIを使うなんてけしからんという論調もありますが、僕はそんなことはまったく思いません。だってAIはもう世の中に空気のように存在しています。僕の授業では新規事業を提案するという課題があるのですが、まずAIを使わないとできないように設定しています。そのうえで、AIができるようなことをしない、つまり人間でしか価値を出せないことを、そこから学ぶのです。
AIの素晴らしいことのひとつは、人間に創造する時間を与えてくれるということです。AIが与えてくれた時間を、人間にしかできないようなブラッシュアップに使うことができるのです。
── 作業だけで疲れ果てて、最終的なチェックやブラッシュアップまで及ばずに提出するということが、仕事でもありますよね。
エリック そうでしょう。wordの段落崩れを直すために莫大な時間を使っていたなんてこともあると思いますが、そういうことってやっているうちに時間だけではなくてやる気さえも奪われていってしまう。だったらそんなことはAIにやってもらって、もっと人間にしかできないクリエイティブなことをすべきです。
そしてもうひとつ、AIのいいところは、発想を広げてくれること。「何かいいアイデアない?」と聞けば提案してくれて、「いや、ここはもっとこうしたい」とか「このアイデアも足せないかな」とか言葉を変えてAIに伝えながらまとめ上げていけば、結局は人間の手が加わっていきます。AIとアイデアを壁打ちしている間に人間にはさまざまなひらめきが降りてくるし、発想を広げてくれるんです。これまでの人間の作業を効率化する機能がメインだったコンピュータシステムでは到底ありえなかったことです。
── AIを使える人とそうでない人の差は、これから大きく開きますか?
エリック はい。まず新入社員の時点で使える人と使えない人では大きく差が出ます。AIを使えない人は仕事のスピードがとてつもなく遅くなりますので、あまりに不利です。ですからAI格差が社会に出た瞬間に起きないように早いうちから学校で教えるべきだと思っています。
そして知っておいていただきたいのは、そもそも発想力がなければ、AIを使いこなせないということ。例えばSORA2という動画生成AIは、プロンプトを入れればどんな動画もつくってくれます。SNSではこれを使った投稿がさまざまありますが、ひとつの動画がバズれば、みんな同じようなテンプレートで動画をつくってアップして、そして飽きてやめていきます。SORAのサービス終了は、そのことを実験したかったのではと思ってしまいます。
どんな動画もつくってくれるのですから、人間側に発想力さえあれば無限に面白いものが生まれるはずなのに。ですから技術を使いこなすという感覚でAIに触れるのではなく、自分の発想力を活かすものだとも考えてもらいたいです。

── まだAIとの付き合い方を模索中のLEON世代はどのように学んでいけばいいでしょうか。
エリック 先ほども申し上げたとおり、AIはすぐに空気のような存在となるでしょう。学ぼうなどとは思わず、自分ごととして触れて、未来を楽しんでみてください。まずはコミュニケーションに使うのがいいでしょう。例えば、ある人と仲良くなるためにはどうしたらいいか、どんな話題を話したらいいか、何を着ていったらいいか、AIに相談してみるんです。プライベートで使った方が、絶対に精度が高くなります。
相手が仕事関係の人だったら後々のリスクもありますし、そのリスクを考えて成功率を上げなければいけない。すごく考えるし、AIとも相当真剣に議論をするはずです。そしてリスクがあるなかでどう挑むか、さまざまな方向からさまざまなアイデアを出すのはAIの得意分野です。そうして使っていけば仕事でもAIを使えるようになります。
ちなみに僕はシステムエンジニア時代、プログラミングの技術が格段に上がった時期がありました。これは今でいう相性診断アプリみたいなものを、クライアントが喜ぶかと思って自分の時間を使って開発していたからなんです。「あなたと相性がいい人はこの人」と紹介するシステムなのですが、僕が開発者ですから、誰がやっても僕と相性がよくなる、というカラクリは入れちゃいましたが(笑)。これをクライアント企業の女子社員にやってもらいたくてプライベートの時間はそればっかりつくっていたら、プログラミングが上達しました。結局、ものごとの上達ってそうやって自分ごとに置き換えた方が早いんです。
自分がいい「上司」であればいいアウトプットが出てくる
── 大変基礎的なことなのですが、どのAIツールを使えばいいのか、オススメはありますか?
エリック ChatGPTやGemini等、それぞれ得意不得意がありますが、まずは使う側がAIをどこまで使い込んでいるか。性能の差を気にするのは、その先です。正直、使う側のレベルが低いと、ツールの違いはそんなにありません。個人の好みとしかいいようがないので、まずはツールがどうこうではなく使っていって、何か物足りなさを感じたら、そこから自分の特性に特化したものを見つけていけばいいと思います。
── ChatGPTなら月30ドルと300ドルのプランがありますが、この差は?
エリック もちろん300ドルの方が精度は高いのですが、プロンプトさえしっかりしていれば30ドルでもかなり使い出があります。 部下に適切な指示を出せる人、例えば「この資料をこのようにまとめてほしい。ターゲットはこんな人、伝えたいメーセージは何で、章立てはこのようにして、結論はこうして、だいたい2000文字程度で」と具体的な指示が出せる人であれば、30ドルのChatGPTでまずは大丈夫です。ただ「この資料、いい感じにまとめておいて」というざっくりとした指示しかできないなら、正直、どんなAIを使っても満足出来る結果は出ないでしょうね。

── 課金の有無に関わらず、AIを使うなら「指示」をしっかりと具体的にすることが大事ですよね。
エリック そうです。その「指示」がプロンプトです。もうひとり忠実な部下ができたと思って丁寧に指示をしていけばいいんです。そういう点ではそれまでの「上司力」が問われていますね。いい上司であれば、きっといいアウトプットが出てきます。逆にアウトプットに満足できないなら、AIを非難するのではなく、自分の指示=プロンプトの課題に目を向けて改善すべきなのです。
── 今後は、ビジネスにおいてさらにどんな新しい使われ方がされていくのでしょうか。
エリック すでにいくつかの企業は使っていますが、デジタルツインのAI役員が登場しています。12人の役員がいたとして、その12名の特性をそれぞれふまえた、いってしまえば「デジタルツイン=AIの双子」をAIで全員分つくるというものです。人間の12名とAIの12名、合計24名で会議をするんです。面白いのは、人間は地位や顔色を見て忖度したりしますが、AIはそんなことをせず、いや、出来ないんですけど、ただそれぞれが正しいと思うことを主張します。それを改めて聞いて、参考にして、最後は人間が判断する。実際に重要な経営判断の際に企業で用いられ始めています。
また、企画会議の内容を文字起こしするというものはよくありますが、文字ではなく、イメージ映像で起こす、ということもできます。一気にそれぞれのアイデアが視覚化できてわかりやすくなり、企画を決める際にも迷いが少なくなるでしょう。企画会議の議事を録音しておけば、文字起こしして、会議内容からサービスを整理し、宣材用の映像まで製作することも可能なのです。
AIに依存できるものならしてみればいい
── AIに依存、ということはあり得ますか?
エリック SNSに依存するのと、AIに依存するのでは意味が全然違います。SNS依存は流れてくる投稿や動画を受動的に受け取ってひたすら時間を溶かしていくものですが、AIはそもそも「問い」がなければ動きません。「問い」があるということは、そこに思考と発想力があるということ。だから「AIに依存」できるくらいに、発想力を高められるなら高めたっていい。依存できるものならしてみてください、ものすごい発想力の持ち主になれます(笑)。
── よく言われた「AIによって仕事が奪われる」という議論に関してはどう思われますか?
エリック 人間って新しいものが生まれると、仕事を奪われる恐怖を感じるんです。産業革命の時もそうでした。労働者による機械破壊運動(ラッダイト運動)は有名で、労働者は機械を壊して回ったんだそうです。でも結局、機械工業生産になって、古い仕事(職人)が失われる一方で、機械化、工業化、社会の変化に伴い、新たな職種が生まれたのです。
コンピュータが登場してきた時もそうです。仕事が奪われるどころか、コンピュータエンジニアに始まり、関連する仕事がたくさん生まれたわけです。AIだって同じで、新しい仕事はこれからどんどん出てくるし、クリエイティブな仕事も出てくるでしょう。コンサルタント業も今後なくなると言われていますが、それは単に「コンサルタントがやらなくていい仕事」をAIがやってくれるようになるだけ。厳しいことを言えば、そこで職を失うような人はそもそもコンサルタントではないのでしょう。
AIによって、無駄な仕事をする必要がなくなり、やっと私たちは人間的な仕事にたどり着けるようになるんです。

── ではAIが一般にも普及し始めた今この時は、産業革命やインターネットが一般化した時くらいのインパクトがあるのでしょうか。
エリック 改めて、産業革命以来を超える革命だと思います。パンデミックがあったことも大きいでしょう。オンライン会議が一般的になり、働き方を多くの人が考え直しました。そこにAIの波がやってきて、パンデミックでITが身近になったことにより、その波により多くの人がスムーズに乗れたのだと思います。
実はパンデミック以前もAIの技術はすでにあり、「シンギュラリティ」として語られ2045年にAIが人智を超えると言われてきました。しかし当時は「そんなSFじみた」という反応がほとんどだったと思います。けれど今は多くの人が「2045年よりも早く、そういう事案が来るのではないか?」と言うでしょう。すでに超えていると感じている人もいるかもしれませんね。
AIが身近な存在になった今の時代、改めて自分がしている仕事から生き方までを見直す良いチャンスだと僕は思います。これから始まる私の連載でもさまざまな提言をしていきますので、どうぞご期待ください。

● 松永エリック・匡史(まつなが・エリック・まさのぶ)
1967年生まれ、東京都出身。青山学院大学・地球社会共生学部・学部長。15歳からギタリストとして活動、国立音楽大学で作曲、バークリー音楽大学でジャズを学ぶが、帰国し青山学院大学に入学。卒業後はシステムエンジニアとして日立ソリューションズに入社。アメリカのAT&Tソリューションズでネットワークアーキテクトとして活躍したのち、経営コンサルタントとして、アクセンチュア、野村総研、日本IBMに勤務。その後、デロイト トーマツではコンサルティングメディアセクターAPAC統括パートナー・執行役員に就任。2015年にはPwCコンサルティングデジタルサービス日本統括パートナー就任。2019年に青山学院大学地球社会共生学部の教授に就任。デジタルイノベーション、国際ビジネス、アーティスト思考などの科目を学生たちに教える。2021年に学部長就任。青山学院大学のブランディングコンサルティングもつとめる。著書に『直感・共感・官能のアーティスト思考』 『バリューのことだけ考えろ トップ1%コンサルタントの圧倒的な付加価値を出す思考法』など。
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