2025.11.08
舘ひろし×眞栄田郷敦。「男というのは誰かを守ることでその人生や生き様が成就するんじゃないかな」
元ヤクザの漁師と、盲目から光を取り戻した少年の10年以上にわたる心の交流を描いた映画『港のひかり』(11月14日公開)。本作に企画から関わった舘ひろしさんが共演の眞栄田郷敦さんと映画づくりの背景と男の生き方について語り合いました。
- CREDIT :
写真/内田裕介 文/渡邉朋子 スタイリング/中村抽里(舘)、MASAYA (PLY)(眞栄田) ヘアメイク/岩淵賀世(舘)、MISU(SANJU)(眞栄田) 編集/鎌倉ひよこ、森本 泉(Web LEON)

スタジオに入ってくるだけで一気に空気が変わるほどの華やかさをもつ、世代を超えた銀幕スターのおふたりが揃い踏み。お茶目なトークも交えながら、カッコいい大人の溢れ出る色気とともに撮影秘話を語っていただきました。
男は基本的に弱いもの。自分の弱さを知っているから強くなれる
舘ひろしさん(以下、舘) 『ゴールデンカムイ』で最初にお会いした時、千葉真一さんの息子さんだということはもちろん聞いていたのですが、昔、渡(哲也)さんに言われた「ひろし、お前には華がある」という言葉を、まさに彼に言いたいです。本当に華のある俳優さんなので、ちょっと遠慮しちゃうというか(笑)。もちろん『ゴールデンカムイ』と今回では役柄も衣装も違いますけれど、その華のある印象は変わらなくて。変わらないってすごいことだと思うんですよ。そういう意味でも、本当にこれからのスターさんだなと感じました。
眞栄田郷敦さん(以下、眞栄田) 僕は、もともとお会いする前から思っていたとおり、やっぱりカッコいいな、渋いなと、こんな大人になれるかなという思いがまず最初にありました。

眞栄田 いやいや(笑)。でも『ゴールデンカムイ』も今回もそうですけど、一緒にやらせていただくなかで、お芝居だったり台本だったりセリフだったり、一つひとつに対するこだわりみたいな部分を現場ですごく感じましたし、自分もそうやっていかないとダメだなと思いました。
── 現場では、おふたりでお食事に行かれることもあったんですか?
舘 結構ありましたね。
舘 人に言えない話。ハハハハ(笑)。
眞栄田 いや、そんなことないですよ(笑)。男としても役者としても、本当にいろんなお話を聞かせていただいて勉強になりました。
舘 いやいや、そんなお恥ずかしい。
眞栄田 僕は本当に舘さんからめちゃくちゃ影響を受けています。
舘 眞栄田くんのような華のある俳優さんは本当に珍しいし、すごく目力もあって。俳優ってやはり目がすべてなんですね。だから、そういう意味でもすごく期待しているというか。今の俳優さんって、お芝居のことをすごく熱心にやられるんですけれど、それよりも存在感で見せていくような俳優さんになってくれたらいいなというような話はしました。

舘 三浦は、先代の親分から「強さというのは、誰かのために生きられるかということだ」と言われるんですね。ただ僕は、男って基本的には弱いものだと思っていて、そこには強くなろうとする男がいるだけだと思うんです。だから、自分の強さを誇るような男にはあまり魅力を感じなくて、弱さを知っているから強くなれる気がするんですね。三浦も自分の弱さを知っているからヤクザになって、幸太の中に自分を見た。そして、強くなっていこうとする幸太を見つめている。そういう三浦でいたいなと思って演じていました。
眞栄田 幸太としては、子どもの頃に舘さん演じる“おじさん”に見せられた強さとやさしさというものを12年間ずっと心の中で意識しながら育った人物だということを一番大事にしていました。と言っても、まだ弱いところはあるし、家庭の事情とかネガティブな部分も抱えているけれど、でも強く生きたいという思いをずっと抱えている人物かなと思いながら演じていました。
眞栄田 まず見た目の部分で、あの子が大人になったらどんな髪型かなとか、そういうとこから入って短髪にしたりしました。あとは眞秀くんが、厳しい家庭環境の中で家にいる時とおじさんといる時の雰囲気や表情の変化みたいなものを、すごく表現してくださっていて、それだけでおじさんの存在の大きさに説得力を感じたので、僕はおじさんに出会えたからこそ、12年後の今、幸せな人生を歩んでいるという姿を表現できればいいかなと思っていました。

舘 いや、あんなに若いのによくお芝居を理解されているなと、勉強になりました(笑)。目の不自由な役って難しいんですよね。それを難なくこなすというか。そこはやはり血筋なのかなとも思いましたし、幸太の耐えていく強さみたいなものをよく表現されていたなと思います。
自分のまわりの大事な人たちに恩返しできているか考えさせられた
舘 僕は2021年に『ヤクザと家族』で藤井監督とご一緒して、もう一度、監督とやりたいと思って脚本を書いてもらいました。そして亡くなられたプロデューサーの河村(光庸)さんに相談しながら、僕はどうしてもヤクザものをやりたくて……。もちろん色々な問題はあるだろうけれども、それが一番“男の人生や生き様”を描けるような気がするんですよね。最初は子ども時代の幸太のパートが長かったのですが、眞栄田くんが青年期の幸太役で参加してくれるということが決まって、大人のパートをもっと広げようとこの形になりました。
眞栄田 僕は今回の取材で初めてその話を聞いたのですが、最初に脚本を読んだ時はシンプルに話や設定、展開がすごくおもしろくて、企画の河村さんという方は天才だなというのが一番印象に残りました。役としては青年期からの芝居なので難しいだろうけれどチャレンジしてみたいという思いでした。

舘 実は僕自身の考えはそれとはちょっと違っていて、「強さとは誰かのために生きること」と言葉にした時点で、その大義が薄れると僕は思うんですよね。僕の中では三浦という男はやっぱり守りたかったのだろうと。それは自分の生き様ももちろんですが、幸太を守ることで自分の生き方を守る。男というのは誰かを守ることでその人生や生き様が成就するんじゃないかなと。タイトルの『港のひかり』も僕の解釈では、この光は幸太だったんじゃないかという気がします。三浦にとっての光は幸太で、三浦は幸太に光を与えたんだと思います。
眞栄田 幸太にとってもおじさんは光だったと思うので、僕が一番大事にしていたのは、12年間、おじさんを思い続けてきたことの説得力を出したいということでした。顔も知らないのに12年間という相当な年月、思い続けた。自分の人生にとってそれだけ大きな人だったということを、荒川さん(笹野高史)や、あや(黒島結菜)など、まわりの人との関わりの中で、幸太が今をどう生きているか、幸太の今の生き様を通じて表現できればと思っていました。
僕もこの映画を通じて、自分のまわりの大事な人たちの顔が浮かんで、その人たちに何ができるかな、恩返しできているかなということを考えさせられたので、みなさんにもそういうことも感じながら見ていただけるのではないかなと思います。
現場で藤井監督を木村大作さんから守るのが私の仕事(笑)

眞栄田 僕もお話には聞いてましたが、最初は本当にびっくりしました(笑)。でも、そういう熱い感じは僕も結構好きなほうなので、特に違和感はなかったです。フィルムの撮影でモニターがないことも、普段からあまりモニターを見ることはないので気にはならなかったです。
眞栄田 現場はやっぱり大作さんの空気感がすごく強かったかなと思いますね。ピリッと引き締まった感じだけど嫌な緊張感ではなく、生き生きとした現場だった気がします。
舘 大作さんは勢いのある現場を作りたいと思っていたんでしょうね。それが今の時代とちょっとズレる部分があったら調整するのがわたくしの仕事かなと思っていました(笑)。

舘 私は腹筋をやっています。朝起きた時に半分、寝る時にもう半分で合計1日1回(笑)。
眞栄田 あぁ、そういうことですね(笑)!
舘 あとはゴルフの練習には行きますけど。あまり身体づくりみたいなことはしていないですね。
── とてもかっこいい背中でしたが、それでこの体型をキープされているんですか?
舘 キープというか、まったくお見せできるような裸ではないんですけれども(笑)。ただ、舘家はみんな痩せっぽちなので、何もしなくてもそんなに太らないんです。
眞栄田 僕は警察官役ということでちょっとだけやりましたが、大したことはしなかったです。
カッコいい大人の男と言ったら、日本中の人が「舘さん」と答えると思う
舘 LEON! なるほど! やったね!(笑)

眞栄田 やっぱりパッと出てくるのは舘さんですよね。日本中のほとんどの人が「舘ひろしさん」って答えるんじゃないですか?
舘 よく言うよ(笑)。やめてください、本当に(笑)。
眞栄田 やっぱり存在感や色気に表れますし、人生経験で磨かれていくものなのかなと。
舘 そうなれる方法があればしますけれど、カッコいい男とはどういうものなのか、僕は本当にわかりません(笑)。
舘 石原裕次郎さんと渡哲也さんですね、やっぱり。裕次郎さんはヨット、渡さんはクルーザーがお好きで、毎年ハワイへ連れて行ってもらったりもしていました。そういう意味ではわたくしにとって海と言えばあのお二方かなと。
舘 昔は自分のヨットがあったので、たまに海に出ていましたけれど、最近は行かないですね。疲れちゃうので(笑)。
眞栄田 父が海大好きだったので、小さい頃は家族とよく行ってました。僕もその思い出が強いかもしれないです。

眞栄田 アハハ(笑)。でも最近はあまり行っていないです。
舘 僕、砂浜が嫌いなんですよ。砂がつくのが好きじゃないので。
眞栄田 わかります! それがあるから、あまり海に行きたくなくなっちゃうんですよね。
舘 そう、だから船に乗っている分には海はいいよね。
眞栄田 そうなんですよね(笑)。
── 今作は11月公開予定ですが、この秋やりたいと思っていることはありますか?
舘 僕はまずとにかく石川県の輪島の人たちのもとへ行って、この映画が完成した報告をしたいと思っています。
眞栄田 その時は僕もお供させていただければうれしいです。

●舘ひろし(たち・ひろし)
1950年3月31日生まれ。愛知県出身。1975年、ロックバンド「クールス」のボーカルとしてデビューし、翌年、映画『暴力教室』で俳優デビュー。1982年、ドラマ『西部警察』の出演を機に、石原プロモーションに入社。1984年には自ら作曲を手がけた『泣かないで』でNHK紅白歌合戦に初出場。その後、ドラマ『あぶない刑事』シリーズ、『上を向いて歩こう!』、『功名が辻』、『パパとムスメの7日間』、『坂の上の雲』、映画『免許がない!』、『アルキメデスの対戦』、『ヤクザと家族 The Family』、『ゴールデンカムイ』などに出演。2018年の映画『終わった人』では第42回モントリオール国際映画祭最優秀男優賞、第61回ブルーリボン賞主演男優賞、第42回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2020年には旭日小綬章を受章。2021年、石原プロモーションの解散に伴い、舘プロを設立。長きに渡り、第一線で活躍を続けている。2026年春には『あきない世傳 金と銀3』(NHK BS)が放送予定。

●眞栄田郷敦(まえだ・ごうどん)
2000年1月9日生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。2019年、映画『小さな恋のうた』で俳優デビュー。以降、ドラマ『ノーサイド・ゲーム』『私の家政婦ナギサさん』『レンアイ漫画家』『プロミス・シンデレラ』『エルピス-希望、あるいは災い-』『どうする家康』『366日』『あんぱん』、映画『ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜』『東京リベンジャーズ』シリーズ、『カラダ探し』『ゴールデンカムイ』『ブルーピリオド』『ババンババンバンバンパイア』など数々のヒット作で存在感を発揮。2021年には日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎新人賞、2024年にはエランドール賞新人賞を受賞。2022年ホラー映画No.1ヒットとなった『カラダ探し』の最新作『カラダ探し THE LAST NIGHT』にも出演している。

『港のひかり』
小さな漁村で暮らす元ヤクザの三浦(舘ひろし)は、漁師として日銭を稼ぎながら細々と生活していた。ある日、三浦は白い杖をついて歩く弱視の少年・幸太(尾上眞秀)が同級生たちに転ばされ、笑い者にされている姿を見かける。幸太は両親をヤクザ絡みの交通事故で亡くし、叔母に引き取られるもろくに食事も与えられず、その交際相手からも暴力を振るわれていた。そんな事情を知った三浦は、孤独な幸太にどこか自身を重ね合わせ、自分の船に乗ってみるかと誘う。三浦は自分を“おじさん”と慕う幸太を落胆させないように元刑事だと嘘をついていたが、二人の間にはいつしか世代を超えた友情が芽生えていた。かつて自分が慕っていた亡き親分・河村(宇崎竜童)の「強さとは誰かのために生きられるか」という言葉を胸に抱き続けてきた三浦は、幸太に視力回復の手術を受けさせるため、ヤクザから金を奪い、真実を明かさぬまま幸太に一通の手紙を残して刑務所へ。そして12年後、すべてを知った幸太(眞栄田郷敦)は刑期を終えた三浦を訪ねるが…。
11月14日全国公開
公式HP/minato-no-hikari.com
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