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2025.11.01

宮藤官九郎「カッコつけてないとカッコ悪い。横山 剣さんだって、カッコつけてなかったら、ああはならないです」

11月6日よりPARCO劇場で上演される宮藤官九郎さん作の舞台、オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』は阿部サダヲさんと松たか子さんの主演による法廷劇! 期待しかない新作舞台誕生秘話と、クドカン作品創作の裏側についてもお話しいただきました。

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/内田裕介 編集/森本 泉(Web LEON)

宮藤官九郎 WebLEON   LEON 雨の傍聴席、おんなは裸足… パルコ劇場
一筋縄ではいかないクセ強の人間ドラマで新作ごとに日本中を魅了してきた宮藤官九郎さん。その宮藤さんが作・演出を務めるロックオペラシリーズ「大パルコ人」の新作、オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』が、11月6日よりPARCO劇場で上演されます。

ストーリーは、離婚を決断した、阿部サダヲさん演じるミュージカル俳優と、松たか子さん演じる演歌歌手の夫婦が、長男の親権を巡って法廷で泥沼の争いを繰り広げるという、ちょっとオカタイ物語。(副題にオカタイロックオペラ、とあるのです)。もちろん人間臭いユーモアに溢れる舞台を魅せてくれるはずなのですが、このロックオペラシリーズ、宮藤さんは毎回「今回が最後」という気持ちでやっているんだそうで……。
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まあ、忘れるんでしょうね、辛かったこと(笑)

── 大人計画(※宮藤さんが所属する劇団)とパルコが共同制作する、このロックオペラ・シリーズも今作で5作目となりますが、このシリーズはどんな背景で生まれたのですか?

宮藤官九郎さん(以下、宮藤) 昔はグループ魂のライブで長尺のロックオペラをやってたんです。ライブハウスだからお客さんは立っているんですが、そこでガッツリ稽古した芝居を見せるっていうのを。今思えば間違いだらけなんですけど(笑)。これはよろしくないと思って一回やめて、でもあの感じ、楽しかったよな〜、違う形でやりたいなと思ってパルコさんと一緒にやってみたのが、1回目のメカロックオペラ『R2C2〜サイボーグなのでバンド辞めます!〜』です。

── そこからシリーズ化しようということになったんですね。

宮藤 いえ、毎回最後だと思ってる(笑)。やってる最中に「次どうしよう」って思わないです。そんな余裕はないですね。毎回出し切るっていうか「これで最後だよね」って毎回言ってるんですよ。

まあ、忘れるんでしょうね、辛かったこと(笑)。だから毎回新鮮な気持ちでできている。よく言えば。
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── 単発のつもりで始めたものがシリーズになったというのは、評判の良さの裏打ちでもあると思います。でも、辛かったんですね(笑)。

宮藤 しんどいんですよ、他の仕事より(笑)。台本と同時に歌詞も書かなきゃいけない、後回しにできないんですよね。笑いも入れなきゃいけないし、やることがいつもより多い。自分にとって気持ちのいい理想の形があるので、そうならないと気持ちが悪くて先に進めないっていうのがずっとあって。他の作品より全然時間がかかるんですよ。それもわかってきているんで、今回も別にあの、まだビビってないですけど(笑)。

── なるほど(笑)。ところでこの作品はロックオペラでありミュージカルではないんですね?

宮藤 う〜ん、ロックオペラって言ってるからには、ミュージカルとはなんか違うんだろうなぁと思っているんですけど。

ただセリフにメロディをつけて歌にするのは嫌なんですよ。独立した楽曲として聴けるものを目指していて。作曲をミュージシャンの人にお願いするのが自分の中での決まりにしていて、バンドで歌を作る人が音楽を手がけるのは、意外とやっている人がいないと思って、3回目から怒髪天の上原子友康さんにお願いしています。

── 先ほどこのシリーズはしんどいと伺いましたが、逆に楽しい部分は?

宮藤 本番は本当に楽しいですね。毎回「終わらなきゃいいのにな」って思います。特に最後は「もうこの曲演奏しないんだなぁ。バンドだったらずっとやるのに」って。舞台が始まっちゃえば楽しいですし、稽古も楽しいんですけどね。
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僕がお芝居を始めた頃は、ロックとか演劇とか映画がもっと仲良しだった

── 稽古も楽しいんですね。役者さんは音楽も入って、多彩な演奏もされたりして、宮藤さんが脚本を書かれるのと同様、稽古が大変なのではないかなと思ったのですが、いかがでしょう。

宮藤 う〜ん、どうでしょうね。演奏に専念するミュージシャンやダンサーの方を入れた方がクオリティが上がるのもわかっているんですけど、そうすることでこのムードじゃなくなっちゃうよな、と。そうすると役者は“芝居のプロ”みたいになっちゃうじゃないですか。

私たちは演奏します、私たちは踊ります、私たちはお芝居します、みたいな。そうじゃないの、やれないかなって思って、結果5回も続けているんだけど、毎回メンバーが変わったり、変わらなかったりする、10人ちょいぐらいのバンドのつもりでやってます。

僕が20代でお芝居を始めた頃は、ロックとか演劇とか映画の世界が、もっと仲良かったっていうか、交流があった気がするんです。ミュージシャンが芝居に出たり、役者がバンドのライブに出たり。
── それでこの舞台では、ロックも芝居も一緒に表現されているんですね。そして今回は法廷が舞台になるとか。

宮藤 法廷ってちょっと舞台装置っぽいなあと。客席が傍聴席で、判事とか書記官が楽器弾いて、被告と原告が歌ったりして、しかも離婚裁判、いいじゃんって思って(笑)。

法廷は本来人に言われたくないこととか、内緒にしておきたいことまで、全部大っぴらになる場なので、それがすべて歌の歌詞になってたら面白いかなと思いついたのが3年くらい前です。
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── 主演の阿部サダヲさんと松たか子さんは、つい最近10年ぶりの夫婦役でドラマに出演されましたが(「幸せな結婚」/テレビ朝日)、そのことは配役に影響がありましたか。

宮藤 こっちの方が先に決まってたんです(笑)。だから影響はないですね。松さんはメタルマクベス(※シェイクスピア原作のマクベスを宮藤さんが脚色、松たか子さんが出演した劇団☆新感線の舞台)が素晴らしくて、いつか何かやれたらなと思っていたんですけど、舞台は野田(秀樹)さんのにいっぱい出てるから、俺じゃないのかなって(笑)、ちょっと思ってました。
── アハハハ。

宮藤 でも、打ち合わせで松さんの名前が出たので、あ、いいなと。歌すごいし、面白くなるんじゃないかなって思いました。

阿部くんは大パルコ人の1本目に出てもらったんですけど、それで2人の名前が出た時にパッと法廷ものをやりたいなと思ったんです。
── 閃いたんですね! 実際の裁判はご覧になったことがありますか。

宮藤 大人計画でミニコミを作っていた時代に、裁判の取材をしたことがあって、何度か行ったことがあります。知らない人の知らない事件を、いきなり関係ない人間が聞くという状況がすごく面白くて、その後もう一回どこかで行ったんだよな。いくつかの裁判を1日で、しかも短時間で全然違う話が見られるので、裁判所は面白いと思います。
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ずっとミーハーでいられる人は信用できるなぁと思います

── ところで7月19日に55歳を迎えられたとのことですが、年齢を重ねたことにより、変化を感じることはありますか?
宮藤 そうですね、年齢は感じています。たぶんホルモン的なものが足りなくなってきているんだな。集中力が落ちて以前の半分くらいの時間しか集中できなくなっているんですが、それは精神とか気持ちの問題というより、肉体がそれに耐えられなくなっているから働ける時間がどんどん少なくなったと、そんな気がしています。

あと自分の発想に驚かなくなったというか、自分に飽きてきちゃったっていうのも感じます。前はもっと自分で考えたことに自分で笑ってたような気がするんだけど、最近はそれがなくなってきてるなって。これも俺、何らかのホルモンのような気がするんですよね。

── それでも仕事は大忙しです。

宮藤 それは、若いうちに苦労というか、数をいっぱいやって、対処してきた経験が活かされているような気はします。あの時にやりたくない仕事もやっててよかった(笑)。あれをやったおかげでなんとかする能力が身についたんじゃないかな。これは経験値が増えていることのいいところですね。前に比べたら傷つかなくなったし。それが良くないのかもしれないけど。

── 面白いと思うことも年齢によって違ってきますか?
宮藤 変化も感じますし、やっぱり初めてのことが減ってるし。映画でも「これ20代の時に観てたらもっとグッと来てたのかなぁ。でもこれに似てるの、知っちゃってるからなぁ」とかね、そういうことは正直あります。

今一番の悩みは、新しいものを見る時間がない。みんなどうしているんだろう。あんなにいっぱい選択肢があって、サブスクがあって、あれ見た? とか言われるんですけど、見てないですよ。俺、作る側なんだから見る時間あるわけないじゃん! って思うんですけど(笑)。

でも本当は見なきゃダメですよね。両方できている人はすごい。新鮮な気持ちでずっと新しいものを追いかけられる人、ミーハーでいられる人は信用できるなぁと思います。

それでも僕、話題になっている作品は、なるべく1回は頑張って観ています。そしてこれは俺にはわからない世界だと思ったら、もう観たってことにしちゃって(笑)。
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── ただ視聴者としては、宮藤さんの作品にいつも新鮮な視点と笑い、ユーモアさを感じています。今日のような取材の時にも笑いを挟んでくださる。これはもう子供の頃から意識していることですか。

宮藤 面白く話せる人とか、話の面白い人に憧れてたので、そうじゃないとダメなんじゃないかっていうのは以前から思っていました。脚本家はそうじゃなくてもいいんですけど(笑)。映画の撮影現場だって、俺は面白いこと言う必要がないのに面白いこと言おうとしてたりして、面白いことを言わない監督の方がいい映画撮るし(笑)。面白いこと言う仕事じゃないのになとは思うんだけど。

でもやっぱり高田文夫先生もそうだし、みうらじゅんさんとかもそうですけど、先輩がいつもそうやって余計なことしてるから(笑)。やっぱりこの人たちって面白いもんなぁ、負けたくないなぁって思っちゃいますよね~。
── 台本を書く時にも笑いの要素は大事にされているんですか?

宮藤 最初に台本を読む役者さんに、まずは面白がってもらわなきゃいけないですから。稽古場でみんなで面白がって、それをお客さんの前でやって面白がってもらって。ちょっとでも「これ、何が面白いんだろうね」という時間がなるべくないように、共有していきたいなとは思っています。

若い作家が作ったものを見て、「みんな笑ってるけどどうしよう、俺わかんないぞ」と思うこともありますけど、それは、俺らが若い時はおじさんたちだってわかってなかったから、しょうがないよなって思うしかない。でも世代を越えて面白いものもありますしね。ずっと面白いものは面白いと思うし。
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これだけ揃ったら次はないだろうと思っています

── 観客にはこの作品をどんな体験として届けたいですか。

宮藤 他では観られないものを、良くも悪くも観てもらえるんじゃないかな。そこは前提として意識してます。
まあ、こんなにはっきりしたものだったら他と間違いようがないけど、何にも似ていないものを目指しているかもしれないですね。

あと、なんて言うのかな、ウェルカムすぎても嫌なんですよね。ここはちょっと自分のめんどくさいところなんですけど、最初からわ~って盛り上がられてもダメなんです。
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── 盛り上がっちゃダメなんですか(笑)?

宮藤 最終的には盛り上がってほしいんですけど、全部伝わったら全部伝わったで「本当かよ」ってちょっと思っちゃう。全部伝わらないぐらいの方が、未来があるような気がして、作っているかもしれないですね。
── この作品を楽しみにしている方に伝えたいことは?

宮藤 楽しみにしてください。楽しむなとは言っていないので(笑)、楽しんではほしいです。

僕が毎回最後のつもりでって言うのには理由があるんですが、いつも本当にベストのキャスティングでやれているから。毎回その公演に対してのベストというか、そういうふうになるように頑張っているというのもあるんですけど、だから毎回「最後でいいや」ってなるので。今回は特にそうなんですけど、これだけ揃ったら次はないだろうと思っています。

── それでは最後に、宮藤さんの思うカッコいい大人はどんな人ですか? 30代の頃だと思うんですが、何かの記事に「カッコつけるのがカッコ悪いと思う」とあったのですが。

宮藤 いかにも30代の俺が、言いそうですね。
── アハハハ!

宮藤 今はもうカッコつけてないとダメです。やっぱりカッコつけてないとカッコ悪いですもん。横山 剣さんだって、カッコつけてなかったら、ああはならないですよ。

でも、カッコつけてるな~って思われたくないって気持ちはまだあります。けど、本当にカッコつけなかったら目も当てられないと思います。

── 自然体で格好がついているカッコ良さ、みたいなものでしょうか。


宮藤 そうですね、剣さんは本当にカッコいい。駐車場からカッコいいクルマに乗って出てきた剣さんを見かけたけど、偶然会ってもめちゃめちゃ格好が良いというのは、本当のカッコよさですよね。
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● 宮藤官九郎(くどう・かんくろう)

1970年、宮城県生まれ。1991年より「大人計画」に参加。脚本家、俳優、監督、ミュージシャン、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。脚本家として2001年公開の映画『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞ほか多数の脚本賞を受賞。テレビドラマでも「木更津キャッツアイ」「タイガー&ドラゴン」「あまちゃん」「いだてん〜東京オリムピック噺〜」「季節のない街」「不適切にもほどがある!」「新宿野戦病院」など多くの人気作の脚本を手がける。パンクコントバンド「グループ魂」ではギターを担当し、12/26(金)LINE CUBE SHIBUYAにてワンマンライブも開催。

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大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』

宮藤官九郎作・演出の「大パルコ人」シリーズ4年ぶりの新作となる第5弾。シリーズ史上初めて現代の物語となり、「親バカ」をテーマに離婚調停、親権をめぐる夫婦の泥沼の争いを、ロックに乗せて表現する。音楽は、バンド・怒髪天の上原子友康、銀杏BOYZの峯田和伸が担当。主役の夫婦は、シリーズ第1作目以来、16年ぶりの出演となる阿部サダヲがミュージカル俳優の夫を、松たか子が演歌歌手の妻を演じる。また、その長男役を銀杏BOYZの峯田和伸、次男役を朝ドラ「ブギウギ」の黒崎煌代が演じ、他に三宅弘城、荒川良々、少路勇介、よーかいくん、中山千聖、宮藤官九郎、藤井隆が出演する。
PARCO劇場  2025年11月6日(木)~30日(日)ほか。
公式HP/オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』 

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