脳科学者 中野信子さんはオヤジの悩みにこう答える

人がそれぞれ抱える悩みに対し、脳科学者の視点でユニークに答えた新刊にちなみ、Web LEON読者オヤジさん方に向けたインタビューをしてきました! どうやら〇〇はモテるらしいですぞ。
日本人は冒険できないのではなく、それが生存戦略だった?
中野信子さん(以下、中野) 相談者の方は皆さんすごく真面目なんですよね。基本的に文字メディアに親しんでいる方々なので、克己心があるといいますか、昨日よりは今日、今日より明日をよくしたいという思いがあるんです。悩みがないことをむしろ恥じる人もいるくらいなんですよ。
── 確かに、悩みや質問そのものも、ユニークだったり視点が面白かったりしましたが、総じて謙虚さを感じました。
お悩み相談の場で、自分を良くしようという美しい気持ちをダシにして、私が「あなたはこうあるべき」と言うのは、おこがましいと思っています。「自分をもっと良くしたい」という思いをもつこと自体が面白い働きだし。
── 面白い働き、ですか。
中野 そう、自分の様子を客観的に見るという機能は、他の動物にはなかなか見られないものですから。
自分の働きを客観的に見て、それを「もっとこうあるべき」と先々を想像し、今の状態とマッチングして分析して「こうしよう、ああしよう、ああなりたい」と考えている。その仕組みは非常に複雑で面白い。それを私はすごいなあと思いながら観察し、なんとなく言語化して話していると、お悩み相談をされる方がみんな癒されるみたいなんです。
中野 私は癒そうとしているわけではなく、「そんなことができてすごいですね」という気持ちでいるんです。もっと「こんなことで悩んでいます」ということを誇らしく思ってほしい、そういう気持ちで答えています。
── なかでも失敗が怖くて挑戦ができず、無難な人生を歩んできたという相談者の不安に対して「世界で起こる災害の20%は日本で起きているという災害大国に暮らす日本人。だからビビリは日本人の生存戦略だった」と答えていたのは、目から鱗が落ちる思いでした。
そして、色々とお辛いかもしれないけど、結構みんな辛いです、ってことを共有できたら少しは気持ちが軽くなるかなと思って書いているところもありますね。
── 不安みたいなものは歳を重ねると薄れてくるとも書かれていましたね。
中野 それは「意外と大丈夫だった」という思いや成功体験によって、余裕が生まれるからなのかなと思います。例えば、私には子供がいませんが、お子さんを産み育てた方からは「1人目は非常に気を遣って育てたけれども、3、4人目ともなると、手を抜いても問題ないところがわかった」という話を聞くことがあります。同一人物でも現象への対応が、経験によって変わるということはあります。
目新しい人が現れた時にパッと飛びつきやすいのが男性です

中野 モテたいという気持ちはとても大事だと思いますよ。ただ加齢によりホルモンなどの分泌量も減るし、合成能力が低くなるので、少しずつ薄れていくかもしれませんね。
中野 男女差は、薄れていくことに関してはないようですね。ただ、ドーパミンの感受性に性差があるので、違うように見えるかもしれません。目新しい人が現れた時にパッと飛びつきやすいのが男性です。パートナーがいても、カエルが虻を食べるみたいな感じで「飛び込んできたエサはとりあえず食べます」みたいな(笑)。でも、そのままその新しい人を愛し続けるかというと、そうではないでしょうね。
とはいえ、男女でパキッと分れるわけではなく、性差よりも個人差の方が大きい。女性にも新しい人に飛びつく人もいれば、男性でも浮気をしない人もいます。
── それは何か成分の作用によるものですか。
中野 脳内で働くいくつもの神経伝達物質が関係してくるのですが、最も影響しているのは、ドーパミンの受容体の関係です。女性は新しい刺激よりも安心を求めることが多いようです。セロトニンの合成能力が低いので、いつでも「確かめたい」という気持ちが働くんです。
中野 そうそう。自分といない時に相手は何をしているんだろうと思ってしまうのは、そういうことです。まあ、“虻”を捕まえているかもしれないですけど(笑)。でも男性としては、パートナーを蔑ろにしているわけじゃない。虻が来たら食べちゃうだけで、それはパートナーの価値を1ミリも毀損しない。裏切っているわけでもないんです。
── 男性にとっては裏切りの行為ではないと。確かに、“浮気と本気は別”なんて嘯く男性も結構いるような……。それはどういう感覚なんでしょうか。
中野 パートナーは“一緒にいる人”なんです。例えば、お母さんとか妹って縁は切れないじゃないですか。それと同じ感覚でしょうね。だから一度パートナーになってしまうと、その相手にはあまりセクシャルにはアクティブにならないかもしれないですね。
── 身内のような存在になってしまうんですね。「ジャパン・セックスサーベイ2024」の調査では、現在パートナー以外の人とセックスをしている人が、男性では約63%、女性は約40%となっていました。不倫に対して世間の非難は強い割に、半数近い男女が浮気をしているということになりますが、パートナーがいる方がモテるんでしょうか。

── 他の人にも選ばれた実績がある男性を、女性は選びがちであると。それで何らかのきっかけがあると歯止めが効かず、ついイケナイ恋愛に走ってしまう、そういうことでしょうか。
── 理性なんてものはそんなに効きの良いブレーキではないんですね(笑)。
中野 モテたいんだったら、女性と関係をもつ時に責任を感じて振る舞う人の方がモテますよって話です。ここでの責任は、結婚ということだけではありません。マメに連絡してあげるなり、経済的に誠意を見せるなり、仕事でサポートするなり、愛情を注ぐなり、相手の求めるものを見極めてお支払いされたらいかがでしょうかと思います。それができる男性は間違いなくモテるはずです。
誰かを叩いても、マイナスの状態にいる自分は変えられない
中野 もちろん気持ち良いから叩くんですけど、それはゼロからプラスへの気持ちよさではありません。
自分がマイナスの状態にいるから、得している(ように思える)人を引きずり下ろしてスカッとしたい、なんとか自分に近づけて安心したいんです。そんなことをしても状況は変わらないし、リスクですらあるんですけど。でも仕方ないですね。
── また、弱いものに向けてイライラを発散する、いわゆる“ぶつかりおじさん”などもニュースなどで見かけます。
とはいえ、こういった人は女性や体格の小さい人など明らかな弱者に対しては強い態度で接するものの、自分よりも体格の大きな人や、いかつい強面の人に対してはぶつかっていかないのです。そのあたりも、第三者としての立場から見ればかなり恥ずかしい振る舞いではあるのですが、本人たちは自覚していないようですね。
ただ、実際に体当たりしてくるぶつかりおじさんは見てわかりますが、物理的にアグレッションを向けて来るわけでなくとも、ぶつかりおじさんのように、弱く見える相手に対してだけ言うことや態度がキツい人、というのも結構います。これは、人間という生物種の闇だなと思いますね。
傷に寄り添える男は、容姿やスペックに関係なくモテると思います

でも、たいていの男性にはできないのです。だから、できる人がもしいたら、チャンスなんですよ。女性の気持ちや不調に寄り添える男の人がいたら他の男性をはるかに引き離してモテるはずです。一人勝ちできると言ってもいいでしょう
中野 理解しきれなくても、寄り添っているフリでもいいですけどね。女性には必ずどこかに傷があるので、傷に寄り添える男性は容姿やスペックに関係なくモテると思います。
── わからなくても寄り添うフリくらいはしろよと。確かにつらい時に「大丈夫? 僕に何かできることはある?」なんて言ってもらえたら、少しでも「スキ♡」ってなりますね(笑)。
中野 そう思うでしょう? 痛みがわかる人という時点で「ハートポイント」のようなものが上がるんじゃないですか。恋愛的な気持ちに至らないまでも、自分に優しくしてくれた相手には、そっと良い情報を与えるとか、その人の仕事を応援する、みたいな気持ちになるじゃないですか。LEON読者の皆さんには、ぜひ女の気持ちがわかるイケてるオヤジになってほしいと思っています。
── ありがとうございます! その気持ち、読者の皆様に届けます!

● 中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都生まれ。1998年に東京大学工学部応用化学科卒業し、08年東京大学の大学院医学系研究科、脳神経医学専攻博士課程を修了。同年に、フランス国立研究所ニューロスピンにて博士研究員として勤務し、2010年に帰国。研究・執筆を中心に活動したのち、2013年からは東日本国際大学客員教授、横浜市立大学客員准教授に就任し、2015年、東日本国際大学教授に就任。現在、脳科学や心理学をテーマに研究や執筆・講演活動を精力的に行っている。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。

『悩脳と生きる 脳科学で答える人生相談』(文藝春秋)
失敗が怖い、恋ができない、人間関係の拗れ、SNS疲れ……。ままならない悩みに、脳科学者・中野信子氏が科学的視点で回答。「週刊文春WOMAN」人気連載の書籍化で、読者からだけでなく、俳優、ミュージシャン、芸人、棋士など有名人から寄せられたお悩みも。各章末にはゲストとの対面相談も収録。読み進めるうちに、心の奥にあるモヤモヤが晴れていく一冊!