2025.09.02
注目の人! 好井まさお。「怪談を仕事にして、人生がガラリと変わりました」【前編】
今、世の中は空前の怪談ブーム。そのシーンの中心にいるのが吉本興業所属の芸人、好井まさおさんです。自身の怪談噺YouTubeチャンネル『好井まさおの怪談を浴びる会』が大人気。初の書籍も好評で、全国ライブツアーもソールドアウト続出と、破竹の勢いの好井さんにお話を伺いました。
BY :
- 文/矢吹紘子
- CREDIT :
写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(Web LEON)

『好井まさおの怪談を浴びる会』は好井さんや多彩なゲストたちがさまざまな怪談噺を語るYouTubeチャンネル。好井さんが漫才コンビを解散した2022年12月に開設されるや、登録者数は鰻登りに増え続け、今年7月には54万人を突破。動画総再生数1.4億回超と脅威の数字を叩き出し、着実にファンを増やし続けています。そんなノリにノっている好井まさおさんって、どんな人?
怪談人生の原点は小学生の頃、好きな女子のひと言
好井まさおさん(以下好井) もともと「世にも奇妙な物語」とか「笑ゥせぇるすまん」みたいな番組は好きだっだんですけど、ひとつ覚えているのが小2️の頃の話。好きな子がいたんですよ。ハナモリユミちゃん。でも僕、幼稚園の頃からずっとおしゃべりなのに、その初恋の子の前ではうまくしゃべれなかったんです。そのハナモリユミちゃんがある日学校で、「『あなたの知らない世界』観た?」って聞いてきて。
── 懐かしい! おもいっきりテレビの人気コーナーですね。
好井 それで「何それ?」ってなって、録画して観たらめっちゃおもろくて。そこから怖い話にハマっていったっていう。
好井 なんとかLEONっぽく繋がってほっとしました(笑)。あと確か小3の時に、当時にしたらマセてる話を、友達の前でしゃべったことがあって。
── マセた怖い話??
好井 生まれつき心臓の悪い小学生の男の子がいて。ずっと入院しがちな状態だったですけど、4年生の秋頃に再び登校しだして、運動会のクラス対抗リレーにも出ることになったんです。みんな事情を分かってたから、競技中その子が走っている間は、ものすごい人数の生徒や父兄が応援したんですね。でもその数カ月後、男の子は亡くなってしまう。

── うわ〜、確かに大人っぽい怖さですね。
好井 これでみんなに喜んでもらったのが、僕の最初の怪談体験かも。
ブームよりゲストの力。“彷徨える”ファンたちが原動力に
好井 世の中的に流行っているって言われてましたし、怪談イベントも乱発されてましたが、僕自身はけっこう冷めた目で見ていましたね。だからそれが追い風になった感も、正直それほどなくて。今番組がここまでの規模になれたのは、何よりゲストさんの力が一番デカいと思ってます。
── 確かに、『浴びる会』は好井さんが話す回とゲストが話す回がありますが、ゲストの豪華さも魅力のひとつですよね。ピースの又吉直樹さん、千原せいじさん、ゆりやんレトリィバァさんといったお笑いの方々から、元モー娘。の加護亜依さん、俳優の我修院達也さん、ガチャピン&ムックまで、怪談や怖い話のイメージがない人たちがリアルな体験談を話してくれるのを、私も一視聴者として毎回楽しみにしています。
好井 あと昔はテレビで怖い話をやらなくなった影響もあると思います。「(奇跡体験!)アンビリーバボー」の心霊回は毎週ではないし、「世にも奇妙な物語」も特番だけ。そのあたりのファン層が「何か面白いコンテンツないかな」と彷徨った末、うちの番組に辿り着いてくれているのかなと。

好井 特に1年目はすごく大きな存在でしたね。2年目からはおそらく怪談をあまり日常に取り入れていなかった人たちも観てくれるようになってきて。ヒカキンさんとかさらば青春の光、あと多いのが仲里依紗さんのファン。年齢的には当初、30歳から55歳くらいまでの男性が圧倒的だったんですが、今は男女半々になってきていて、20代後半から50代前半がメインになってます。
怪談は男女のコミュニケーションにも有効
好井 わかる、対等になるんですよね。ある30代の男性視聴者さんの話なんですが、コンパでいいなと思った女の子にウチのチャンネルの話をしたら、その子も実は視聴者だったらしくて、僕のライブ来場者に配っているステッカーを持ってて「自分より上手だった(笑)」って。今二人はマジで付き合ってて、交際1年。「結婚式の司会させてよ」って言ってます。
── それはすごい! 夢がありますね(笑)。
好井 それに飲みの席なんかで怪談を話すと、自分のターンが長くなるじゃないですか。自分に矢印が向きやすくなるし、連絡先の交換成功率が高くなる。まあ話のチョイスにもよりますけど。
好井 心霊とヒトコワがちょうど半々になるように計算してます。週の前半を前者、木曜を挟んで金土日は後者が多め。で、真ん中の木曜に総集編を持ってくるっていうバランス。ヒトコワってお化けを信じていない人にも響きやすいんですよ。「この事件の裏側知ってる?」とか、「知り合いのファッション業界関係者が体験した話やねんけど〜」って切り出したら、みんなグイッてケツが上がるじゃないですか。テーマ的にも身近なものが多いぶん、会話のネタにも使いやすいのかなと。

怖い話の好みで相手の性格や趣向も見えてくる
好井 あと僕の持ちネタでもうひとつ、若手の頃に同期の芸人の家で遭遇した「黄色いパーカーの男」ってのもあって。
── 実際にあった通り魔事件に巻き込まれそうになったってヤツですね。
好井 この2つがそれぞれ心霊とヒトコワで、人によって好みがくっきり分かれるんですよ。どっちが好きかで「この人はこういう感じの人なんだ」って分かるというか。
好井 僕もそっちの方が、多分話が合う。それは「黄色いパーカー」が好きな人は話が合わないというわけじゃなくて、後者はよりリアルな裏話を聞きたいタイプなんです。でもそういう人の中には、悪口を聞きたい人もいたりするでしょ。僕、39歳でコンビを解散して、「ここからは嫌な仕事は一切やめよう」って自分に誓ったんです。しんどい人とは付き合わないし、悪口を言う人、言わされる人とも完全に縁を切ったので。それにこの類の話ってハッピーエンドがなくて、100%バッドエンドなのでキツいですよね。
── 何よりも人が一番怖いという説もありますし。
好井 いやいや、僕も最初はそう思っていたんですけど、お化けめっちゃ怖いですよ。公にしていないけど、やっぱり怖いなっていう話も山ほど経験してますから。
好井 あまり言及しにくいのですが、身近で亡くなった人が出てきて、しかも6人同時に見た、みたいな。あとは僕の娘に関する話とか、家系にまつわる話。それは今後YouTubeがもう少しドカンといった時に「実はこういう家柄なんです」って出すカードとして、50歳くらいまでは温存しておこうかと。

好井の声が頭の中で再生される怪談本にしたかった
好井 一冊目だったので、自分の名刺がわりになる本を出そうと思ったんです。チャンネルで反響があった話に、言っていないことや考えを加筆して、プラス4、5本ほど新しいネタを入れて。文章も、頭の中で好井がしゃべっている音声で再生される文字にしたくて。
── 本当にそのまんまでした。
好井 最初はパソコンで書こうと思って、開いてみたんですけど無理でした。パソコンを使ったことがなかったから、小さい「っ」とか入力できひんし、カギカッコどこやねんってなって。
好井 スマホでフリック入力。正直、10日もかからなかったです。ほんまは400ページくらい書いたんですよ。で、そこから半分ぐらい削って。
── じゃあ2冊目もすぐ出せそうじゃないですか。
好井 次があるとしたら『浴びる会』を全面に出さず、「ナニソレ」本を出そうかと思ってます。オチがなくて、意味もわからない不思議な話のことなんですけど、YouTubeでまだ話せてない話の数が一番多いのが、このジャンルなんですよ。
好井 というか、すでにいろんなところでパクられてるらしいんですよ。商標登録せな(笑)。

YouTubeを始めて、働き方もマインドも変わった
好井 そうですね。コンビ解散前の数年は年間800ステージくらいこなして、年収もそこそこあったんです。でも、それを全部切ってでも他のところへ行きたいと思ったんです。このまま仕事をもらう側で続けていたら、人生が枯渇する。仕事を作る側になりたいって。今は人生の有意義さを実感しているというか、時間とお金の自由ができた。
正直、今は週3しか働いていないんですよ。あとの3日は家族と遊んだり、細々とした作業をしたり。で、残りの1日はマジで何もしない。例え次の日に締め切りがあっても、その日は絶対空けてます。最初の半年間は不安でしたよ、「この時間なんやねん?」って。でもその1日が、自分にとってめっちゃ大事やったんです。
── 気持ちの余裕という意味で、必要な時間だったのですね。仕事のスタンスも変わりましたか?
好井 もうね、嫌な仕事はバンバン断ってます。興味があるのは自分の好きなYouTubeとライブ、あとファッション友達と何か作ることくらい。でも今回LEONからお話をもらって、「おもろそうやん」って。
好井 漫才も本当にやりたかったし、怪談もビジネス的に始めたつもりは全然なくて。今、めちゃくちゃ楽しいです。だからもしもこの先、YouTubeが全然再生されなくなったとしても、この活動はたぶん続くんですよ、10年ぐらいは。
※後編に続きます。

● 好井まさお(よしい・まさお)
1984年生まれ。大阪府出身。NSC東京校を卒業後、2007年に井下昌城(現・井下大活躍)とお笑いコンビ「井下好井」を結成。並行して『人志松本のゾッとする話』などに出演するなど、怪談師や俳優としても活躍。2022年12月31日に解散。現在は『好井まさおの怪談を浴びる会』のほか、ファッションに特化した『好井&カナメクト』などのYouTubeチャンネルを運営。初の著書『好井まさおの怪談を浴びる会』(KADOKAWA)が発売中。今後は全国ツアー「劇場版 好井まさおの怪談を浴びる会」公演(9月13日仙台電力ホール、10月18日広島JMSアステールプラザ大ホール)が控えている。
YouTube/好井まさおの怪談を浴びる会