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2025.06.20

桜井ユキ「恐ろしい出来事を“怖い”と言いつつ、楽しんでしまうのが人間」

日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実話をもとに、医療の最前線で闘った人々の姿を描いた映画『フロントライン』(公開中)。本作で報道記者・上野を演じた桜井ユキさんに、作品への想い、役を通して考えたこと、そして当時の自身の経験について伺いました。今だからこそ語れる、桜井さんのホンネとは──。

CREDIT :

文/岡本ハナ 写真/瀬津貴裕(biswa.) スタイリング/道端亜未 ヘアメイク/石川奈緒記 編集/鎌倉ひよこ

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実力派俳優としてめきめきと力をつけ、「だから私は推しました」(NHK)、「コンフィデンスマンJP」(フジテレビ系)、「虎に翼」(NHK)など話題作に次々出演。直近では「しあわせは食べて寝て待て」(NHK)でのイメージを覆す好演で話題となった桜井ユキさん。

今回は、6月13日より公開中の映画『フロントライン』にて報道記者・上野を演じたことへの想い、名優・小栗旬との共演、そして撮影の裏話など、たっぷりお話を伺いました。思わず見とれてしまう美しさをもちながら、とびっきりの笑顔で迎えてくれるその姿に、こちらまで頬が緩んでしまいます。
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姉御肌? そうかもしれません(笑)

── 『LEON』は、大人の男性が読者層なのですが、桜井さんにとって‟カッコいい大人”の男性像はどんな人ですか?

桜井ユキさん(以下、敬称略) アル・パチーノです‼ 食い気味にごめんなさい(笑)。スーツを着ている男性ってすごく素敵ですよね。女性のスーツ姿もカッコいいですが、男性のスーツ姿は格別! スーツを着こなすためのネクタイなど、ひとつひとつの要素が"カッコよさ"を作り上げていますよね。男性にとって武器のようなものなんじゃないかなって思います。

── では、内面についてはどうでしょう?

桜井 自分を強く大きく魅せたい人はいらっしゃると思うのですが、自然体でいてほしいです。無邪気で少年っぽさをずっと持っている男性は魅力的だし素敵だと思いますね。

── 桜井さんは、姉御肌タイプ?

桜井 意識していなかったけれど旦那さんが年下なので、意外とそうかもしれませんね(笑)。
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人は「怖い」と言いつつ、心の内では楽しんでいるという側面がある

── 今回の映画『フロントライン』は日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実話をもとにした作品ですが、初めて脚本を読んだ時の感想は?

桜井 これは脚本なので、すべてが事実ではないにしても「こんな凄まじい状況が本当に起きていたのか……」と、知らずに過ごしていたことへの怖さを感じました。パンデミック当時の記憶も入り乱れ、さまざまな感情が押し寄せて……焦燥感に襲われました。あれは、言葉では簡単に言い表せないほどの感情です。

── 桜井さんはそんな凄まじい現場に切り込む報道記者の役ですよね。役作りで意識したことを教えてください。

桜井 脚本を読んだ時、船内や病院で奮闘するスタッフたちの姿に深く引き込まれました。だからこそ、私が演じる報道記者・上野というキャラクターを、最初は少し疎ましく感じてしまったんです。台詞を読んでいても「えっ、こんな状況でコレを言うの?」と戸惑う場面が何度もあって。でも、ひと呼吸置いて上野の役割を考えた時、この作品の中で‟最も視聴者に寄り添える存在“なのでは、と思いました。だからこそ、頭で考えすぎず、素直に物事を受け止めながら、ありのまま演じることを意識しました。
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── ‟寄り添える存在“というのは?

桜井 小栗旬さん演じるDMAT(災害派遣医療チーム)の結城に対して無礼な態度を取ったり、船内の出来事をまるでイベントのように面白がったりする場面があるのですが、それって実は私たちにも潜在的にある感覚だと思うんです。

現実でも、恐ろしい出来事が起こった時に「怖い」と言いつつ、どこかでそれを楽しんでしまうことってありませんか? 上野というキャラクターも、そんな側面をもっているんです。だからこそ、報道する立場として「よりキャッチーに伝えよう」とする姿勢には、そうした心理が反映されているのかもしれません。

── そんな上野が徐々に変化していきますよね。

桜井 そうなんです。結城の真っ直ぐさに対して、ふと自分を恥ずかしく思う瞬間や変化を意識しながら、上野という存在を演じました。現場にいる人たちの勇気や彼らの真っすぐな言葉に触れたり、"事実"を知った時に、初めてハッとさせられるんですよね。

でも、それはパンデミック当時の私たちと同じだと思います。亡くなられた方々の報道がされて、初めて「事態の深刻さ」や「世の中で何が起きているのか」を実感した人も多いはず。

上野は、そんな現実を突きつけられても、しっかりと受け止め、柔軟に切り替えられる人物。その姿勢が、とても人間らしいなと感じました。だからこそ、上野というキャラクターを過度に際立たせようとは思いませんでしたし、この作品全体を立体的に見せるための‟ひとつのパーツ“として彼女を捉えました。まぁ嫌な感じのする女性ではありますけど(笑)、個人的には好きな人間ですね。
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家族と過ごせる何気ない毎日がどれほど尊いものなのか

── 演じるうえで、特に心に残ったシーンを教えてください。

桜井 やはり小栗さん演じる結城と対峙するシーンですね。結城は、何かを力説するわけでも、「自分たちの行動が正しい」と主張するわけでもなく、ただ「医療を届けたい」という気持ちを淡々と語るだけ。とてもシンプルなシーンですが、結城の真っ直ぐな表情と落ち着きには、強く胸を打たれるものがあります。船内の凄まじい様子を実際に見ずとも、その緊張感や空気をあらわすリアリティが伝わり、上野は気づかされ変わるんです。作品をご覧になった方々の記憶にも深く残るほどのシーンだと思います。

── いち観客として、一番印象的なシーンは?

桜井 池松壮亮さんが演じる医師の真田が家に帰ってきて、奥様に「おかえり」と言われるシーンです。奥には子どもがいて、久しぶりに日常へ戻った瞬間の二人の表情が、とても印象的でした。あの空気感が、忘れられません。私自身も夫がいるので、家族と過ごせる何気ない毎日がどれほど尊いものなのかを、改めて実感しました。

作中の前半から中盤にかけて、船内の緊迫した状況や病院での壮絶な現場が続きます。だからこそ、このシーンがより際立つんですよね。
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── 本作を観たことで、パンデミック当時の気持ちを思い出しましたか?

桜井 コロナ専門病棟で看護師として勤務していた実姉との当時の記憶が蘇りました。家族が“感染のリスクがある存在”として扱われることは、本当に辛かったですね。身近なことだった分、作品の中でも気持ちがより深く入りました。

── 当時、ご自身の価値観に変化はありましたか?

桜井 ガラリと変わりましたね。当時の私は、友達や家族とは「いつでも会える」と思っていたので、自分から積極的に会おうとするタイプではなかったんです。でも、人と会えない期間が長くなるにつれ、ようやく人とのつながりの大切さに気づいて……。そのことに、絶望的な気持ちになりました。だからこそ、パンデミックが収束した後は、自分から積極的に連絡を取るようになりました。これからも、日常のありがたみを忘れずに生きていきたいなと思います。
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この人はどこまで救ってくれるんだろう。その人物は……

── 撮影中の裏話を教えてください。

桜井 撮影中に、一度だけ体調を崩してしまったんです。朝になって声が出ないことに気づいた瞬間、すぐにマネジャーさんに電話して、初めて撮影を飛ばしてしまったんです……。でも、その日は小栗さん演じる結城と対峙する重要なシーン。さらに、小栗さんが先に現場入りされる日だったので、もう向かっていたらどうしよう……と気がかりで仕方がなかったです。こんなことは初めてだったので、申し訳ない気持ちで押し潰されそうでした。

── それは心苦しいですね。

桜井 私は小栗さんと同じ事務所の笠原秀幸さんと仲が良く、その日の夕方に笠原さんからメールが届いて「小栗先輩から伝言です」と……。もう、心臓がバクバクしてしまいました(汗)。でも、続きを読むと、本当にあたたかい文面で、思わず胸がいっぱいになりました。
── どんな内容だったのですか?

桜井 「本当に気になさらないでください。今は体調を第一にして、ゆっくり休んでください。また次回の撮影でお会いしましょう。お大事に。」そんな優しさに溢れた言葉をいただき、本当に救われました。

さらに、後日改めてお詫びした際には、「全然全然! ちょうどクルマで向かってたんだけど、そのままUターンしたよ」と、笑顔で話してくださって……。どこまで救ってくれるんだろうと感激しました。頼りがいがあって、思いやりのある座長だなと、改めて感じました。
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疲れるのも仕事のうち。頑張ることで現場が円滑に進むのであれば……

── 桜井さんの処世術とは?

桜井 大事なことはいろいろありますが、私がダントツで大切にしているのは‟笑顔“! 撮影は朝から晩まで続くことが多く、どうしても疲労が蓄積してくるので、現場の空気が少しピリつくことも。役者は気を遣われやすい立場なので、だからこそ私たちが発する雰囲気次第では現場の空気が良くも悪くも変えることができると思うんです。

もちろん、常にテンションを上げ続ける必要はないけれど、共演者やスタッフさんなど、たくさんの方とひとつのものをつくりあげる仕事なので、表情を柔らかくして、笑顔を心がけていますね。

── ご自身が疲弊されたときは、どんな対処法を?

桜井 疲れるのも仕事のうち! 私ひとりが少し頑張ることで現場が円滑に進み、作品がカタチになるのであれば、そんな疲れも乗り越えられます。  

現場ではいろいろな立場の人がいますが、どんな人に対しても委縮してしまうような環境を作りたくないんです。そのためにも、できる限りポジティブマインドでいます♪
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── では、リラックス方法は?

桜井 私、自転車がすごく好きなんです。自宅から撮影現場が近いと、自転車で移動することもありますよ。自転車に乗ると、景色が流れていくじゃないですか。あの感覚がすごく好きで、時間があると公園のサイクリングコースを走ったりもします。風に乗って木々の香りがふと漂ってくる瞬間が、すごく癒されるんです。

── ひとり旅もお好きだそうですね。ご主人やお友達とは一緒に行かないのですか?

桜井 この旅はひとりで行きたいな、と思う時はひとりで行きますね。一緒に行きたいって言われても「ごめんなさい!」ってなることもあります(笑)。

── お気に入りのスポットは?

桜井 今までいろんな場所を巡ってきましたが、衝撃を受けるほど大感動したスポットが2つあるんです。ひとつは、宮崎・高千穂峡。透き通るような美しい水が流れていて、そこにいるだけでパワーをもらえる場所でした。澄んだ空気を深く吸い込むと、心まで洗われるような感覚になって……たまらなく素晴らしかったです。

ふたつめは、奈良・土津川村。厳かな雰囲気の神社、渓流、山の景色、全て本当に素晴らしいほどの美しさで、訪れた時の感動が今でも忘れられません。どちらも、また絶対に行きたい場所です。
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桜井ユキ

1987年生まれ。福岡県出身。24歳のデビュー以来、話題のドラマや映画に多数出演。NHK主演ドラマ「だから私は推しました」(19)では「放送文化基金賞」演技賞を受賞。近年の代表作に「虎に翼」(24)、「ライオンの隠れ家」(24)、「しあわせは食べて寝て待て」(25)、「#真相をお話しします」(25)などがある。

桜井ユキ フロントライン 映画 邦画

『フロントライン』

日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実話を基に、未知のウイルスに最前線で立ち向かった災害派遣医療チーム「DMAT」の医師・看護師たちの奮闘を描く。出演/小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、森七菜、桜井ユキ ほか 
公式HP/『フロントライン』

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