2023.05.13
俳優・鈴木亮平(40歳)「キャリアを重ねて、いい意味で適当になった」
鈴木亮平さんの境地は、“前向きな開き直り”。「『まあ、いいっか』って開き直るようになった。一生懸命やってダメだったら、『今の自分のタイミングではダメだった』と考える。落ち込む必要はないし、違うところで取り返せばいい」
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文/池田鉄平(ライター・編集者) 写真/長田 慶

世間の評価に左右されない、鈴木亮平さんの価値観
しかし、そんな世間の評価に左右されない、独自の価値観を鈴木は口にした。

それはプロとしての責任ではなくて、好きなものに対する、「“ゲームがうまくなりたい”という突き詰めたい欲に似ている」と例え話を交えながら表現してくれた。
「こんな技があるのに練習不足で技が出せなくて負けたら嫌ですよね。それってプロだからどうとかじゃなくて、好きだからっていうシンプルな行動だと思うんです。それに僕は何かを創造できるような天才タイプではない。だからこそ、本番で結果を残して信頼を得ようと、できる限りの準備をして臨みたいと思っています」
「悪いことや失敗は、“未来への投資”だと思っている」
そんな鈴木だったが、芸能界の門をたたいても、入り口は厳重に閉ざされていた。芸能事務所・制作会社にプロフィール用紙を持って回ったが、50社以上に断られる。それでも自分の夢を諦める事はなかった鈴木は、努力と忍耐の末、望んでいた事務所に入ることができた。ブレークのきっかけとなった朝ドラ『花子とアン』のオーディションでヒロインの夫役を勝ち取ると、俳優・鈴木亮平という名前が世間に浸透していった。
焦燥感に駆られることも多かった下積み時代。それでも、追い求めた夢を諦めなかった原動力とは。

そんな鈴木の生き方や仕事への姿勢は、さまざまな人に影響を与えている。
「何を考えて、何を見て、どんな生き方をすれば、鈴木亮平さんになれるんだろうと真剣に考えてしまう」
俳優・鈴木亮平を撮影したことのある知人のカメラマンが、そんな感情が浮かぶと言っていた。その話を本人に伝えてみると、
「そんな成熟した人間じゃないですよ(笑)。その方に見えていた自分がいい自分だったのかもしれません。自分が好きなお芝居に対しては、ものすごく頑張れるんですけど、そんなに好きじゃないことに対しては、“めんどくさい”と思ってしまう。本当にダメな男ですよ」

「待っているだけじゃ、救えない命がある」という信念を持ち、事故や災害現場に駆け付け、死者を1人も出さないことを使命として持ちながら行動する、物語の主人公・チーフドクターの喜多見を鈴木が演じる。放送当時、多くの反響を呼んだこの作品が劇場版として帰ってきた。
「その人を本気で生きる」ことを意識した役作り
「最初にオファーをいただいた際に“理想の上司像”を見せてほしいと言われました。時代によって求められるリーダー像も変わると言えますが、メンバーが自分らしく働ける環境を作ることが重要だと思っています。リーダーが率先して頑張り、背中を見せることで、チームメンバーを鼓舞する姿勢を強く意識しました」
リアリティーあふれるオペシーンも見どころの1つだ。通常、医療ドラマではプロの医者の手元を撮影するが、鈴木は自らオペシーンを演じることにこだわった。「それが当然だと思っていた」と語る鈴木には、医療従事者へのリスペクトと役に真摯に向き合う姿勢があった。

劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』では、緊張感漂う難手術のシーンがクライマックスを飾った。台本12ページにおよぶ医療用語の応酬をこなしながら、手と身体も同時に動かしてリアリティーを出すという難しいシーン。こうした緊迫する場面では、どのような意識を持って演じているのだろうか。
心がけているのは「リラックスした環境作り」
そうした境地に至ったのは、キャリアを積んだからこそなのか? 素朴な疑問を投げかけると、予想外の答えがかえってきた。

『まあ、いいっか』って開き直るようになったんです。それは、“前向きな開き直り”というか。自分だって完璧じゃないから行き届かないとこもある。それで緊張して演技がうまくいかないのも、その人の責任でもあります。全部を自分が負う必要ないよなって、思いながらやっています」
そういった気持ちの変化も含めて、主演として作品を背負う気持ちも変化している。
成功した経験、失敗した経験も含めて、プレッシャーとの向き合い方も変わってきたのだという。

トータルでの出来を大切にしています。自分の力量は自分がいちばん理解しているので、悪い意味でもプレッシャーをあまり感じなくなりましたね。これも経験かもしれません」
40代は、周りが止めたくなるような“新しい挑戦”に挑みたい

これまで、表現力の幅を広げるために、難しい役柄にも挑戦してきた。そんな鈴木にとって、「新しい事に挑戦する」とは、どんな意味が込められているのか。
「自分ができるかできないか、わからないところに挑んでいく姿勢ですね。これは自分にできるなって思ったら挑戦じゃない。それよりも、『次はそんな挑戦をするの?』って周りがちょっとこう止めたくなるようなことです。昔から、そういう癖がありますね。
周りから、『無理でしょ』って言われれば言われるほど、『いや、自分にはできるぞ』という気持ちで挑戦する。その過程にこそ充実感があるんです。大きな変化を求めて歩んでいく生き方には憧れますし、自分もそうありたいなと思います」
そう語る、俳優・鈴木亮平の姿には、「安全な場所で待っていたら、救える命も救えなくなる」という危険な場所にも恐れずに飛び込んでいく、喜多見チーフドクターの生き様そのものと重なってみえた。
インタビューも終わり、テーブルの上に用意されていたキャンディーを口に入れながら、「美味しいけど、なめながらだとすごく話しにくいんですよね」と自然体の笑みを見せて、次の現場へと向かっていった。
俳優・鈴木亮平は、すがすがしいほどの覚悟を秘めながらも、今日をしなやかに生きている。
