• TOP
  • PEOPLE
  • 池松壮亮が見た庵野秀明監督の凄まじき「仮面ライダー」愛とは?

2023.04.22

池松壮亮が見た庵野秀明監督の凄まじき「仮面ライダー」愛とは?

庵野秀明監督による話題の映画『シン・仮面ライダー』。本郷猛を演じた池松壮亮さんに、通常の制作現場とは違ったという今作の撮影体験への思いと庵野監督について話を伺いました。

CREDIT :

文/SYO  写真/内田裕介(Ucci) 編集/森本 泉(LEON.JP)

池松壮亮 LEON.JP
現在劇場公開中の映画『シン・仮面ライダー』。読者世代なら先刻ご承知の通り、石ノ森章太郎による漫画「仮面ライダー」にリスペクトを捧げ、「エヴァンゲリオン」シリーズで知られる庵野秀明が作り上げた実写オリジナル作品です。

人類の幸福を追求する組織「SHOCKER」(※)によって、人知を超えた力を手にした本郷猛(池松壮亮)。彼はSHOCKERに反旗を翻し、「仮面ライダー」として立ち向かっていきます。幸福とは? 善悪とは? 暴力とは? さまざまな問題を提起する本作でヒーローとして生きた日々について、池松壮亮さんにお話を伺いました。
※今作でSHOKERは「人類を持続可能な幸福へと導く愛の秘密結社」として描かれている。

とにかく撮って撮ってを繰り返す現場

── 池松さんが本編をご覧になったのは、映画公開(3月17日)直前、12日のプレミア上映会だったかと思います。熱気のこもった場でしたが、いかがでしたか?

池松壮亮さん(以下、池松) 前日の11日に初めて観て、翌日のプレミアでもう一度観ました。僕たちが座っていたのが最前列だったので観ている人たちの感じが伝わってこなかったんです。映画祭などでは前後にお客さんがいる場合が多いですが、そうではない環境でした。会場自体に緊張感があるのが分かりました。終映後に挨拶をさせていただいたのですが、振り返って皆さんの顔を見るのが少し怖かったです。その場でたくさんの拍手をいただいて、「ようやく出来上がったんだ」という気持ちになりました。

── こうしたプロモーションの規模感もそうですし、撮影自体もGoProをこぶしに付けてパンチしたり、特殊なものだったかと思います。

池松 印象深かったのは、現場で仮面ライダーになった時にみんなの視線が変わったことです。本当に仮面ライダーを愛してやまない人たちが現場にいてくれたので、変身ポーズやマフラーのなびき方、仮面ライダーをどの角度から撮ったらカッコよく見えるのか、新しく美しく見えるのかをとにかく細かく探っていきました。
PAGE 2
池松壮亮 LEON.JP
── 本作の現場に入る前、周囲の方に「庵野組ってどんな感じ?」と聞かれたのでしょうか。

池松 こちらから聞かなくとも、庵野組ではないですが、前2作を経験した人たちから「非常に特殊」という噂は耳に入ってきていました。庵野さんが総監督として、現場よりも脚本や編集として作られた『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』の噂話ですね。例えばそうそうたる役者たちが集まるシーンで「セリフを2倍の速度でお願いします」と言われたとか。庵野さん本人が現場もすべて指揮するのは実写では2003年以来ですから、庵野さんのことは噂よりもこちらが作品を観て抱く印象が強かったと思います。

── 撮影の序盤では「僕が演出するとアニメっぽくなってしまうから俳優にお任せします」と言われていたそうですね。となると、池松さんご自身が準備していったものを現場ですり合わせるような形でしたか?

池松 すり合わせる時間はもらえなかったですね。俳優に“試す”時間はありませんでした。一旦撮って編集室で見て、また撮り直すことを何度も繰り返しました。それはこの作品ならではでした。これまでやってきた映画作りというものとは違う、この映画における優先事項があったんです。できる限りの様々なパターンの素材を渡して庵野さんがすべてのバランスを決める場でしたから、とにかく準備する暇があったら撮って撮ってを繰り返すという特殊な撮影でした。

── なるほど。つまり、ある種本当に完成するのは“仕上げ”の場だったのですね。

池松 今作は編集室が本当の現場だったのではないかと思います。僕も編集は0からもう一度映画を構築し直す場であって良いと思っていますが、日本のシステムではそのことはほぼ不可能です。

何度もリテイクを繰り返して、現場の僕たちはどこに向かっているのかわからないトンネルにいる状況が続き、味わったことのない苦しみがありました。そういった状況の中でもなんとか、良いものを生み出す過程だと鼓舞しあい、長いトンネルを抜けてようやく完成しました。
PAGE 3
池松壮亮 LEON.JP

庵野監督は皆さんが期待するままの人

── では、トンネルを抜けたと感じたのは撮影後のアフレコの場だったのでしょうか。

池松 完成してしばらくたってからだったと思います。トンネルを抜けたと感じたらまた次のトンネルだったなんてことの連続でしたから(笑)。様々な紆余曲折、過程を見てきましたから、実際に完成したものを見た時も「本当にこれで出来上がりなのか? 庵野さんはピリオドを打ったのか?」と思ってしまいました(笑)。

── ある種の実感を得られるのはお客さんの元にわたって興行が始まってからかもしれませんね(取材は劇場公開前に実施)。

池松 だと思っています。自分が実感を持っているかどうかはそこまで重要なことではないかなと思いますが、ここからが本当のこの作品のスタートです。もう僕たちの手は離れてしまうので祈るのみですが、多くの人に長く楽しんでもらえるものに、これからなっていってほしいと思っています。僕もこれからゆっくり振り返って実感していこうと思っています。
── 池松さんご自身は、本作に関わるまで庵野秀明さんの作品・作風についてどのような印象をお持ちでしたか?

池松 やはりユニークでスペシャルですよね。強烈にストイックかつ独自の視点と映像作りが特徴的です。今回の脚本からも感じましたし、実際にご本人と話していても思いますが、強烈にピュアな人だという印象です。ものづくりに対してひたすらに向き合っているし、毎日フラットな状態と潜った状態を行き来していて、凄まじかったです。現場と現場以外でもまた全然違いましたし、面白いくらいにこれまでの作品を観てきた皆さんが期待するまんまの人だと感じました。作品に嘘がなく、すべて捧げているからこそ、出来上がるものに力があるんだと思います。

── 『シン・仮面ライダー』は暴力の残酷さにも踏み込んで描いていますよね。何度も本郷のグローブやブーツが血に染まる描写が印象的でした。

池松 あれも何度も繰り返しては捨てて……最後に血のりを付けて撮ったものが使われています。血の表現にたどり着いたときは、僕も「これだ」と思いましたね。まさにひとつ、『シン・仮面ライダー』を掴んだ瞬間だったと思います。
PAGE 4
池松壮亮 LEON.JP
── 「黙祷をささげる」という描写ともリンクしますよね。

池松 黙祷は脚本段階からありました。本郷は暴力性に対する葛藤を最初から最後の最後まで続けている人物です。仮面を脱いだ時は、目の前で父親を殺されたトラウマから「暴力をふるいたくない」という想いにかられていて、仮面を被った時は制御できない暴力性が溢れてくる。その生きることと殺すこと、生きることの矛盾、対極にあるものを乗り越えることがこの作品においての真の「変身」に見えればいいなと考えていました。

仮面ライダーはヒーローであり、ヒーローは暴力を伴うもの。強大な力を持つ仮面と、暴力に必死に抗う本郷が融合して互いが引っ張り合いながらも、だんだんバランスが合っていき、そして「変身」する── 。それが『シン・仮面ライダー』という今作のヒーローの大きな軸だったかとは思います。

真のカッコ良さは他者が評価するもの

── 単純な敵・味方の構造ではない点も本作の重要なポイントかと思います。ライダーも、敵対するSHOCKERのオーグ(※)たちも幸福に対する考え方や行動が違うだけなのだ、という。
※オーグとは他の生物のプラーナ(生命力)を圧縮して、人体に埋め込んでいく人体強化手術を受けた、いわゆる怪人たちのこと。
池松 面白い発想だなと思いました。SHOCKERが人類の幸福を謳っている組織である一方、本郷はヒーローでありたいとか地球を守りたいなんてことをまったく思っていない。本郷とSHOCKERの立場が、従来のヒーローと敵の関係性とは本作では逆転しているんですよね。

本郷は「ただ隣にいる誰かを守れる人間ではありたい。もうこれ以上大切な人の死を目の当たりにしたくない。でも守るという行為には暴力が伴う。暴力は当然連鎖するもので、そこに巻き込まれたくない」と言いながら、その何層もの矛盾に苦しんでいる。でも、SHOCKERのような「人の自由を奪うところに幸福がある」という考え方はいわゆる独裁支配ですから、民主主義とは遠いところにあると思います。ここにも世界の縮図が見て取れます。
── いまお話しいただいた部分も含めて『シン・仮面ライダー』は「現代性」という言葉とセットで語られるかと思います。池松さんの見解はいかがですか?

池松 そう感じます。ヒーローモノの仮面を被って人や世界の真実をついた普遍的な物語に、見事に現代社会に浮遊するものを取り入れていますし、現代性にも普遍性にもアプローチした、人が変身する物語だと思います。

50年前の、風力で変身するサスティナブルで人の心を持った影のヒーローを甦らせるのは今だったと思います。戦うことへの苦悩を乗り越え、変身し、人から人へ信じて託す、継承の物語だったと思います。石ノ森章太郎さんと庵野秀明監督というふたりの別種の天才が時代を越えて手を組んだ作品になりました。
PAGE 5
池松壮亮 LEON.JP
── 最後に、LEONの恒例質問をさせて下さい。池松さんが思う、カッコいい大人とは?

池松 せっかくなので『シン・仮面ライダー』コラボにさせていただいて、答えてみてもいいですか? カッコいい大人とは、あるいはカッコいいヒーローとは、「自分のことをヒーローだと思っていない」ことだと思います。

街ですれ違う人の中に、誰かのために何かをやってあげたい人は必ずいると思います。例えば子どもや親、妻や夫、友だちのためでも恋人のためでも、見知らぬ誰か隣の人のためでも「誰かのために動く」ことができる人の中に真のヒーローがいるはず。決してカッコいいからとか、ヒーローになりたいからという動機ではなくです。

「ヒーロー」とは本来、自分たちが偶像のように求めてきたものですから、つまり結果です。自覚的なものには真のヒーローは宿らないのかもしれません。「格好つける」ロマンもありますが、真のカッコ良さは他者が評価するもので、本人においては無自覚であるように感じます。
池松壮亮 LEON.JP

● 池松壮亮(いけまつ・そうすけ)

1990年生まれ、福岡県出身。 2003年、『ラストサムライ』で映画デビューし注目を集める。以降、映画を中心に活躍し、第93回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞など数々の映画賞を受賞。主な出演作に映画『愛の渦』『紙の月』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『斬、』『宮本から君へ』『アジアの天使』『ちょっと思い出しただけ』、テレビドラマでは「MOZU」シリーズ、「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」「シリーズ・横溝正史短編集」などに出演。

池松壮亮 LEON.JP

『シン・仮面ライダー』

望まぬ力を背負わされ、人でなくなった男。与えられた幸福論に、疑問を抱いた女。SHOCKERの手によって高い殺傷能力を持つオーグメントと化した本郷猛(池松壮亮)は、組織から生まれるも反旗を翻した緑川ルリ子(浜辺美波)の導きで脱走。迫りくる刺客たちとの壮絶な戦いに巻き込まれていく。

正義とは? 悪とは? 暴力の応酬に、終わりは来るのか。

力を得てもなお、“人”であろうとする本郷。自由を得て、“心”を取り戻したルリ子。運命を狂わされたふたりが選ぶ道は。
絶賛公開中
HP/『シン・仮面ライダー』公式サイト

●LEON.JPがお届けする注目の人インタビュー連載「PEOPLE NOW」はこちらです。
●特集「大人の“いい恋”してますか?」はこちらから。
PAGE 6

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        池松壮亮が見た庵野秀明監督の凄まじき「仮面ライダー」愛とは? | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト