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2018.07.26

東京の夜の経済は、バブル期以来の再活性化なるか!?

2020年のオリンピック開催までに、夜の経済振興が急務とされる東京。それには今後、何が必要で、何が問題か。『「夜遊び」の経済学』の著書・木曽 崇氏とともに考察してみました。

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取材・文/和田真由子 取材協力/木曽 崇(国際カジノ研究所所長)

2020年のオリンピック開催に向けて、再開発や建設ラッシュが続く東京。世界中や日本各地からやってくる観光客に、東京をどう楽しんでもらうか(おカネを落としてもらうか)が、東京都に限らず日本の重要な課題となっており、それを「夜」に焦点化して考える「ナイトタイムエコノミー振興論」が、いま注目されています。
東京のナイトシーンは今後、どのように変容していくのか? 『「夜遊び」の経済学』を著し、「日本の夜の活性化が私の天職です」と語る、国際カジノ研究所所長の木曽崇氏とともに考えてみました。

東京五輪を突破口に “夜遊び消費”が拡大

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“粛清”という大義名分で、何度も行政による規制が入る新宿・歌舞伎町。
はじめに、「ナイトタイムエコノミー」とは、日没後から翌朝までの間に行われるさまざまな「アフターファイブの経済活動」の総称を指す。夜間に消費される物やサービスの供給産業とそれを支えるインフラなどの産業を指し、狭義には飲食店、音楽のライブハウスやナイトクラブ、劇場、深夜交通サービスなどから、広義には酒・たばこ・宿泊業・メディア産業なども含まれ、その経済規模や経済波及力はかなり大きい。「こうした夜の産業によるナイトタイムエコノミーの振興が、経済的に豊かな都市づくりのための政策の一環として、世界各国で注目を集めつつある」と、木曽さんは言う。
すっかり鳴りを潜めてしまったが、かつては東京にも世界の主要都市が有するような成熟したナイトカルチャーがあった。80年代後半の“行け行けドンドン”と沸いたバブル崩壊後に、芝浦の「ゴールド」や表参道の「真空管」に代表される小箱をベースにクラブカルチャーが一気に開花した90年代前半。夜な夜なスノッブなクリエイターたちや感度の高い若者たちが集まり、交流するクラブは、音楽にとどまらずファッションほか、さまざまな情報の発信基地としての役割も果たした。

しかしながら、そこに経済発展のチャンスが転がっていたことを当時の行政は見出せずにいた。いまでこそ、国も自治体も真剣にナイトタイムエコノミー振興策に取り組んでいるものの、「政策もノウハウもなく悩んでいるという状況で、私もよく官公庁から相談を受けます」と、木曽さん。

2016年に改正されたとはいえ、まだまだ幅を利かせてる風営法や罰則が強化された道路交通法など、法整備がナイトタイムエコノミーの衰退に起因したことは、なんとも皮肉と言えよう。
 
そもそも、夜の産業に対してはいまだ“水商売”という偏見が根強く、公的なナイトタイムエコノミー振興においても「夜の商売を後押しするのか」と反発の憂き目に遭うことが多い。だからこそ、東京五輪とインバウンド需要は、こうしたハードルを突破するための絶好機なのだ。
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渋谷スクランブル交差点の「観光名所化」は、自治体による戦略の成功例

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ハリウッド映画の舞台にも度々登場する渋谷のスクランブル交差点は、TOKYOを象徴する場所のひとつ。
実のところ、国や都よりも、地方自治体の一部には積極的な取り組みが見られる。「ハロウィンに川崎市で行われる国内最大の仮装パレードや、渋谷区によるスクランブル交差点の歩行者天国化、新宿区による歌舞伎町の再生などは、ナイトタイムエコノミーを地域振興・経済活性化に結び付けている成功例でしょう」。他方、東京のお台場のように、昼間は遊べても夜間は楽しめる場所として機能していないエリアも多い。「東京に限りませんが、個人的には、横浜と千葉を含む首都圏にはカジノを含む統合型リゾート(IR)のような集中施設がひとつは必要だと考えています」。先ごろついに参議院本会議で可決、成立したIR実施法案。誘致に名乗りを上げる自治体のなかに、いまのところ東京都の名はない。

東京のナイトタイムエコノミー発展には
深夜交通網の敷設が不可欠

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夜も賑わいを見せる、ロンドン中心部のピカデリーサーカス。
しかし、ナイトタイムエコノミーの活性化に必要不可欠な“深夜交通網”も、首都圏にIRができなければ実現が難しい。「実際、猪瀬都政時代に、ニューヨークやロンドンのような地下鉄の24時間運行を検討したものの、インフラ整備の段階で莫大なコストと時間を要することが判明して頓挫しました」。2007年の道路交通法改正による酒酔い運転の罰則強化が、終電の時間帯以降に営まれる店から客足を遠のかせた一因となったのに疑いの余地はないが、将来的に自動運転カーの実用化が進めば、深夜地下鉄に代わる夜遊び人たちの足として役立つだろう。
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“財布のひもがゆるむ”夜の
消費機会を増やしていくことが大事

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深夜も地下鉄が動いているニューヨークでは、終電を気にすることなくブロードウェイミュージカルを楽しめる。
ナイトタイムエコノミーの舞台となる場が酒や女性への依存から離れ、もっと多様化すれば、新たな消費も生まれる。「 良質なショーエンタテイメントなども充実すれば、カップル向けのデートコースとして成立し、大人の男女の社交場としても機能するでしょう」。
また、昔は京都や吉原などの伝統文化において、ハイエンドな層に向けた夜遊びのビジネスがあったが、戦後の日本は高度成長期からずっと“一億総中流社会”が指針となっていた。「半世紀以上経過した現代も、まだそこにしばられている。もはや実態として総中流は崩れ、中間層は上下に分離しており、夜遊びのビジネスも頭を切り替えていく必要があります」
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「ANAインターコンチネンタルホテル東京」のガーデンプールは今年も盛況。9月30日(日)まで、毎週木曜日にはDJパーティーも。
例えば、去年から人気を呼んでいるホテルの「ナイトプール」。「夜間のプールの入場料だけで5000円以上も払う人が多いことに衝撃を受けた業界人も多いでしょうが、インスタ映えする幻想的な小道具などで従来なかった価値の提供に成功したわけで、そこに女性たちが飛びつき、女性たちを取り巻くように男性も集まるという構図が生まれた」。夜は財布のひもがゆるみやすく、消費機会さえあれば人々の消費意欲は高いのだ。
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遊び場の選択肢が増えるほど
お客の側も選別されるようになる

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「遊興施設には、高額なVIPシートがもっとあって然るべし」と木曽氏。
現代はもはや、“横並び、皆一緒”という時代ではない。再来年の東京五輪でもチケット代の設定は幅広く、VIP席はかなり高額なBOXシートなどができるという。「プロ野球などのスポーツ観戦でも、もっと“高くていい席”の設定があって良いと思いますね」
遊び上手で余裕のある大人にとっては、選択肢が増えるのは喜ばしいことだが、ビジネスの目線がそのように変わるということは、お客の側も選別されるのが当然に。「ラグジュアリーな物やサービスに対しては、相応の金額が支払われて当たり前と思わなくてはいけない。“悪平等”ではなく“利益貢献度に応じて平等”ということですね」
今後、東京のナイトタイムエコノミーは、世界や日本各地から集まるそうした大人たちによって牽引され、国・自治体が講じる施策と相まって徐々に息を吹き返すはずである。

なにより、ナイトタイムエコノミーの再活性化は、東京がカルチャーの発信源として再び世界の表舞台へと返り咲くことも意味する。
現代の朝活や健康志向のブームと共存しながらも、夜のカルチャーと消費も盛んであればこそ、真に成熟した都市と言えるのだ。

■ 木曽 崇(国際カジノ研究所所長)

76年、広島県生まれ。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。在学中からクラブイベントのプロデュースなどに関わる。米国大手カジノ事業者にて内部監査業務を務めた後に帰国し、国内外の各種カジノ関連プロジェクトに携わる。2011年に国際カジノ研究所を開設。著書に『「夜遊び」の経済学』(光文社新書、2017年6月刊)。

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