2020.07.17

ホラー映画なんていらねえよ、夏

映画好きで知られる作家の樋口毅宏さんがコロナ渦中のおウチ時間を楽しむ参考にと、これまでに観てきた映画や大好きな監督について思い入れたっぷりに綴る連載です。今回はホラー映画の前売り券に付いてきた変なおまけのお話からスタートです。

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文/樋口毅宏 イラスト/ゴトウイサク

作家の樋口毅宏さんがこれまでに観てきた映画や監督について思いを綴る連載です。

■Theme04 ホラー映画の前売り券おまけ

子どもの頃はホラー映画ばかり観に行った。当時は映画の前売券を買うと、おまけがよく付いてきた。そのため、おまけ目当てに前売券を買うことが多々あった。 いま僕の手元には、おまけが3つある。
懐かしさを感じるより、こんなものを後生大事に取っておいたのかと我ながら呆れた。 ひとつずつ解説していきます。

『デモンズ』の目玉 
封がされていて中を開けると、暗い場所でも光るシールが出てきた。こういうの流行っていたなあ。今の子たちにはさっぱりわからないだろうけど。 『デモンズ』(85)は中学3年生のとき、今だとサンシャイン通りの池袋HUMAXシネマズの場所にあった池袋東宝で観た。

『サスペリア』(77)の世界的大ヒットによりイタリアンホラーがブームになり、その流れで作られたB級ホラー作品。 仮面を付けると顔に傷が付いてそこからデモンズ(怪物)になってしまうという他愛もないストーリー。

今考えてみると、仮面を使ってバケモノになっちゃうって『ジョジョの奇妙な冒険』のコンセプトじゃないか。 ジョジョの連載スタートは86年。いまネットで検索したらやはり同じことを書いている人を散見した。ですよねえ。

『悪魔のいけにえ2』 カレンダー付きペーパーカッター 
74年の1作目は何度もリバイバルされ、40周年記念版が作られるほど伝説化した名作なのに、86年に作られた本作はほとんどなかったことに。 さらにこの後、地味にシリーズ化されたけど知っている人のほうが少ない。 ちなみに監督はトビー・フーパー。『ポルター・ガイスト』は小5のときに池袋スカラ座で観た。『スペース・バンパイア』には、おぎおぎしました。 

『霊幻道士』 キョンシーの息子 
キョンシーってわかります? 中国版ゾンビみたいなものです。おでこにお札を貼ると、ぴょんぴょん飛び跳ねる動きが止まる。 これは中3のとき、やっぱり東宝東和だった。同時代の少年たちが角川映画にハマっていく中、『サンゲリア』(80)とか『ヘルナイト』(81)とか『バタリアン』(86)とか『ガバリン』(86)とか、東宝東和が仕掛けた空前のホラー映画ブームに僕もずっぽりハメられた。 
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脱線していいですか? これは語らずにはいられない。東宝東和のいいかげんなホラー映画の中でも、その際たる作品が『サランドラ』だ。
77年製作。日本公開は84年。「全米38州で上映禁止!」「目が破れます」などの煽りコピーで日本でヒットした、とんだ一杯食わせもの。 

前売り券の特典はアイプロテクター(何それ)。平日にもかかわらず劇場は超満員。だけど徹頭徹尾クソつまらない。上映終了と同時に観客から「えぇ〜っ⁉︎」という怒りと絶望の溜め息が今も耳朶にこびり付いている。

どうしてこんなヘボ映画が「全米38州で上映禁止!」になったかというと、ストーリーにある原爆被爆者への差別助長だと、後で聞いた。「目が破れます」は……わからない。思い出せない。しょうもない。 監督はウェス・クレイヴン。

この後、まさか手に鉤爪を嵌めたフレディが活躍する『エルム街の悪夢』(84)シリーズ、ポストホラー映画の頂点『スクリーム』(96。大傑作)シリーズで名を残すようになるなんて思いもしなかった。 『エルム街の悪夢』はあの楳図かずお先生の『神の左手悪魔の右手』にも大きく影響を与えた。 

どうでもいいけどタイトルがケネディ暗殺のダブルミーニングと気付いたのはずいぶん大人になってからでした。 

あともうひとつ。ジョニー・デップは『エルム街の悪夢』がデビュー作で、部屋中に血を噴き上げて死ぬ。ウェス監督は後にインタビューで、「ジョニーがあんなに売れると思わなかった。すごく繊細な人だからこの業界でやっていけるとは思わなかった」と語っていた。
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脱線終了。閑話休題。香港の『霊幻道士』から派生した、台湾の『幽玄道士』に出てくる美少女テンテンは持て囃され、シリーズ化し、お札グッズやコスプレが多数作られていた。いま調べてみたら、八卦橋、お札、大図鑑などを特典とした、3万3000円もするコンプリートDVDボックスまであるんですね。 

ところで僕、前売券を買っておきながらこの映画を観ていないんです。同じクラスの渡辺くんに500円で売っちゃった。なんでそんなことをしたんだろう。 

思い出した。前売券に付いてくるおまけ目当てに買ったのに、あまりのしょぼさに急激にイヤになって、結局その後も34年間観てないんです。だってこれよ。ひどくない?
▲『霊幻道士』キョンシーの息子のケースを取ると、表はケバケバ。裏がスポンジのクリーナー?
で、高校生になっても『13日の金曜日』シリーズと『エルム街の悪夢』シリーズは追いかけた。 80年代後半頃から「ホラー映画」というジャンルは、特殊メイクの発展とともに「スプラッター・ムービー」に模様替えする(専門家に言わせるとスプラッター・ムービーは1960年代からあると指摘されていますが、ここは便宜上使わせて下さい)。

『死霊のはらわた』を初めて観たときの衝撃は凄かった。『死霊のえじき』(86)もジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』シリーズの中ではもっともグロテスクな描写が多い。 でも、やがてホラー映画は世間から飽きられていった。

日本に次のホラー映画ブームが来るのは、98年からの『リング』シリーズと2000年からの『呪怨』シリーズまで待たなければならなかった。しかし正直なところ、僕自身はあまりハマらなかった。 

近年は、リメイクされた『サスペリア』(18)、『ヘレディタリー/継承』(18)といった最新型のホラー映画を観た。面白かったはずだが、あまり思い出せない。どうしてか。 

感受性の減退か、純真な心の喪失か。そんなもの、はじめからなかったか。 

まさか、「現実の世界では、生きている人間のほうがオバケよりずっと怖いってわかっちゃったから」なんて、ヤボなことを言うつもり? 

ああ、気が付いたらつまらないオッサンになっていました。

●樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』(交通新聞社)。
公式twitter https://mobile.twitter.com/byezoushigaya/

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