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2024.01.05

いま、海外富裕層ツーリストの間で「日本で行くべき場所リスト」が複数出回っているって本当⁉

コロナ禍を経てインバウンドは完全復調目前。そこで注目したいのが旅慣れた富裕層のツーリストたち。なぜなら彼らの動向には我々日本人、とりわけモテたいオヤジさんたちも学ぶべきところが多いから。最新のラグジュアリー系インバウンドに関するリアルな情報をリポートする企画、その後編です。

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編集・文/矢吹紘子

旅慣れた富裕層訪日旅行者の動向には、イケてるおじさまを目指すビジネスパーソンにとっての学びがたくさん。そんなひと味違う目線で、現代日本のインバウンドを考察する本企画。前編(こちら)に引き続き、ライター業のかたわら通訳案内士としてVIPゲストのアテンドを行なう筆者が、自身の経験とハイクラス向け旅行エージェントへの取材で明らかになったリアルな情報をリポートします。
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▲2022年秋京都にオープンしたインテリアブランド「POJ Studio」の路面店は、日本のモノづくりに関心のあるインバウンド層のマストスポット。©︎Ben Richards
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ゲストの“和文化耐性”を見定めつつグラデーションをつけた宿選びを

富裕層の宿泊先アレンジには、モテたいオヤジさんにとってのヒントが隠されています。鍵となるのは「グラデーションをつけて宿を選ぶ」というスキル。具体的には「リッツカールトン」「フォーシーズンズ」といった外資のラグジュアリーホテルを基本としつつも、日本ならではの旅館に泊まってみたい欲求を満たすべく“濃淡”をつけるのだと、訪日富裕層の紹介制トラベルエージェンシーを主宰する山田ひろみさん。

「いきなりどジャパニーズの宿に案内してしまうと、日本文化に慣れていないゲストは戸惑ってしまうので、徐々にレベルを上げるのがコツです。東京から始まる滞在なら、最初は『アマン東京』に数泊し、温泉のリクエストがあれば、伝統的な建築の中にライブラリー併設のラウンジを備えた伊豆・修善寺の『あさば』のような、モダンな要素もある旅館で馴染んでもらう。モダナイズされた和という意味では『星のや東京』も優秀で、そこから『柳生の庄』などへとグラデーションを描いて後半へ向けて濃度を高めていく。金沢方面なら、名物女将・中道幸子さんも評判の加賀・山代温泉の『べにや無何有』へ。食事のメニューが和食に慣れていない人にも親しみやすいので、そこからスタートし、よりオーセンティックな『かよう亭』に、といった具合ですね」(山田さん)。

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つまりは相手の許容範囲を先読みし、狭めのストライクゾーンだったとしてもこちら側の誘導で徐々に広げ満足感を高めるということ。うーむ、聞けば聞くほどこのテクニック、デートにも応用できそうじゃないですか。
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▲ご存知修善寺の旅館「あさば」はこの春リニューアル。現代アーティスト・李禹煥の作品が並ぶサロンや、ダイヤモンドチェアが並ぶライブラリー併設のラウンジなど、モダンな解釈を加えた和の空間に、ラグジュアリー慣れした海外ゲストも大満足。
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▲山代温泉の「べにや無何有」は全16室とほどよいサイズ感で、全室に源泉露天風呂を備える。温泉と薬草を取り入れた「円庭施術院」でのスパトリートメントもハイレベル。
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これは目線を変えると、彼らに適した宿がないロケーションには、富裕層を呼び込むのは難しいということ。逆に宿泊施設次第でこれからブレイクしそうなポテンシャルの高いエリアもあるということで要注目です。2022年に英国の名門・ハロウ校と、東北初となるラグジュアリーホテル「インターコンチネンタルホテル安比高原リゾート」が開業した岩手の安比高原は、“ネクスト・ニセコ“としてインバウンド人気も鰻登り。アート好きにはマストの直島も、全室スイートの露天風呂付き客室を備えた本格旅館「直島旅館 ろ霞」が誕生したことで、これまで以上に注目度が上がっているのだといいます。
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「直島旅館 ろ霞」は直島初の本格旅館として2022年に開業。京都芸術大学教授の後藤繁雄氏によるキュレーションのもと、日本の若手現代アーティストの作品を取り入れご当地感もたっぷり。
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キーワードは“セレンディピティ”ビジネスや投資のヒント探しも!

ここまでアクティビティ、食、宿と、旅の目線としては王道のフィールドに焦点を当ててきました。ですが実はもうひとつ、特に欧米からの富裕層の旅行を語るうえで隠れたポイントがあるのです。それはズバリ“応援欲求“。「欧米にはチャリティ文化が根付いているうえ、当然ながら経済的に余裕のある彼らにとって、ドネーションはごく自然なこと。コンセプトに共感したり心を動かされ、寄付や融資をもちかける人も多いんです」(山田さん)。

この記事の前編では若手を応援したいというモチベーションが飲食店選びのひとつの視点になるとお伝えしましたが、話はさらに一歩進んで、実際に金銭面でサポートするケースもあるのです。私自身の経験としては、数百年以上の歴史がある通常非公開のお寺で受けた座禅体験の際、国宝級の文化財や建物を次世代に継ぐべく尽力する住職に心を打たれたゲストが多額の寄付を申し出た、なんてケースも確かにありました。
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どんなシーンでも物を言うのはやはり人間力。清廉な住職の人柄に触れ、心を動かされる人が多いのも納得だ。写真)shutterstock
またアーティスト本人やキュレーターに会える可能性がある小規模なギャラリーも、作り手や仕掛け人側との交流という特別感が加算されるためプラスαの評価に繋がります。西陣の元織物工房を開放した展示スペースのある書店「二手舎」は、台湾出身の店主との交流を通じ、ひと味違う目線から日本文化を見つめ直すきっかけになったとの声も。
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▲写真集専門の予約制書店兼ギャラリー「二手舎 京都」は、台湾人店主・アマンダさんが流暢な英語で対応。インテリアの一部は購入可能。台湾茶と抹茶を融合したティーセレモニー「台日茶席」もスタートした。©Tomohiro Ueno
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さらに私自身の経験で言うと、アートや建築などものづくりをしているゲストをアテンドする機会が急増中なのです。その結果、〈POJ STUDIO〉など欧米で知名度の高い日本のブランドをピンポイントに回ることも増えました。そして日本で街歩きをしながら地元の人たちと触れ合ううちに、将来的に日本に店を開いたり、セカンドハウスを持つことを検討し始める人がなんと多いことか。

特に味わい深い町家が数多く残されている京都は注目度が高く、滞在中に不動産の価格をチェックしたり、リノベ系のレストランやショップへ下見を兼ねて行ってみたいとリクエストされることも一度や二度ではなかったり。
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▲日本の職人と協働しながら工芸品やクラフトアイテムを展開するインテリアブランド「POJ STUDIO」初の路面店。清水エリアながら路地を入った静かなロケーションで、建物は築100年。土壁などもそのままリノベーションされている。©︎Ben Richards 
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要はどんなにお金持ちでも、というかむしろお金持ちだからこそ、人との繋がりや温もりを大切にしているということ。ついでに言うと食や宿のスポットを紹介する際も、信頼する人が本当に好きな店を求める傾向が強く、同時に富裕層同士の横の繋がりを生かした情報収集も盛んに行なっています。

聞けば彼らの間で「日本で行くべき場所リスト」なるものが複数出回っているという噂もあり、実際私のところにもそちら経由でアテンドの依頼がきたことがあるくらい。ただしセキュリティには人一倍気を遣い、身分を明かさずにコードネームを使いながら旅する人たちもいるくらいなので、「○○さんに紹介されて〜」なんて軽々しく実名を出すのはご法度。その合理性としたたかさ、さすがというしかありません!
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“通好み”以上の知識欲を満たすべくセンスの合うプロを頼る傾向が

国内の景気が停滞している今、客単価が高い富裕層インバウンドの動向を旅行業界全体が固唾を飲んで見守っているのは一目瞭然です。では実際問題、彼らを呼び込むにはどうすればいいのか? まず無視できないのが旅やフード系インフルエンサーの影響力。例えばリトアニア人女性Aiste Miseviciute氏が主宰するオンラインメディア『LUXEAT』は、日本の食やレストランに関するラグジュアリー系の情報が豊富で、掲載された店に行きたいという過去のゲストからの要望がとりわけ多かったと山田さん。
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『LUXEAT』を主宰するMiseviciuteはトップモデルとして活躍後、フードジャーナリストに転身。ジャーナリストEvelina Gasiunaite氏などとコラボレートしながら同メディアを運営する。日本のトップシェフとのコネクションも豊富で、その繋がりを生かし旅のコンサルも行う。
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地の“不利”を逆手に取り、意外性のあるコンテンツをウリにしたツアーも徐々に増えています。私が実際に体験したのは、日本三大稲荷のひとつ、豊川稲荷こと妙厳寺を巻き込んだプロジェクト。室町時代1441年に創建され、商売繁盛に御利益があると信仰を集める曹洞宗の仏教寺院と周辺商店街エリアを舞台に、食やライブパフォーマンス、墨絵アーティスト西元祐貴氏によるアートなどを組み込んだ「叶-KANAE-」プロジェクトがローンチ。訪日富裕層をターゲットにした地域一体型のツアーとして売り出し中です。

また同じく名古屋からのアクセスでいうと、中山道の宿場町・妻籠宿は今、日本で一番インバウンド率が高いエリアのひとつ。場所柄ハイキングコースには事欠かないこともあり、宿のバリエーションというポイントをクリアすれば、今後富裕層の間でもブレイクする可能性を秘めています。
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▲インバウンド客が大好きな鳥居や、1000体あまりの狐たちが立ち並ぶ霊狐塚が見応えのある豊川稲荷(妙厳寺)。「叶-KANAE-」プロジェクトの最上級プラン単価は100万円と、なかなかチャレンジング。
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▲妻籠宿は中山道の42番目の宿場町。江戸時代の古い建物が数多く残されており、1976年に日本初の重要伝統的建造物保存地区に選ばれた。(写真)shutterstock
こういったツアーやスポットが注目される背景には、旅行者自身の興味がセグメント化され、さらにマニアックな“何か”を求める傾向が強くなっていることがあげられます。1980年代の日本のレトロゲームにフォーカスしたツアーや、第二次世界大戦前後の日米関係についての知識を深めたいという小学生のアテンドなど、山田さんが今年インバウンド復活後に扱った案件のトピックを聞くと、そのバリエーションと興味のレベルの深さにびっくり。

またニッチ化の傾向はショッピングにも如実に現れていて、日本人のわたしたちからしても「?」なお願いもしばしば。ここ最近で最も戸惑ったのは、畳職人が履く作業靴(写真をご参照あれ)を探してほしいというリクエスト。富裕層の心を掴むのは、決してハイブランドや高級品だけではないのです。
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LEON.JP 矢吹紘子 海外富裕層ツーリスト ワークマン
▲「ワークマン」で販売されている「建さん作業靴Ⅱ」680円。某マルチビリオネア一家のご子息がいたく気に入り、近隣を探し回った思い出が(笑)。改めて見ると確かにシンプルでお洒落、かも!
2回に分けてお届けしたインバウンド富裕層にまつわるアレやコレ、いかがでしたでしょうか? 季節はちょうど年始のホリデーシーズン。お正月を日本で過ごしたセレブリティの目撃情報も多数! ということで貴兄もぜひ彼らの動きに目を光らせ、知識をアップデイトしてみてください。
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LEON.JP 矢吹紘子 海外富裕層ツーリスト 山田ひろみ

● 山田ひろみ (Romy)

紹介制のトラベルエージェンシー「ROJY」ファウンダー、CEO。幼少期をLAで過ごし、MTVやAppleなどの米国系企業でマーケティングに携わる。海外富裕層、クリエイター、デザイナー、ハイブランド企業等向けのキュレーション、企画、イベント運営、コンサルティングを専門とする同社を設立。
HP/https://rojy.tokyo

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● 矢吹紘子(やぶき・ひろこ)

ライター、編集者、通訳案内士。小誌のほか『BRUTUS』『POPEYE』などライフスタイル誌を中心に記事を執筆・編集。ロンドン大学で修士課程修了後、プライベート通訳としても活動。京都を拠点に海外からのVIPゲストの旅のキュレーションやアテンドを行なっている。
Instagram/@tokyoai_hiroko

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