2025.12.11
ダンサー・西島数博「若い頃より50代の今のほうが体が動く。進化しているのかな(笑)」
ジャンルを飛び越えてマルチに活躍するダンサー・西島数博さん。「若い頃にできなかった動きができるようになっている」「同世代に驚かれるほど疲れない」と語る、50代になった彼の現在地に迫りました。
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写真/半沢克夫 文/島田恵美 編集/菊地奈緒(Web LEON) プロデュース/Kaori Oguri
余白があるものに興味がある。自分の作品もそうありたくて、ゴールを決めないで作っていくんです

西島数博さん(以下、西島) コンサート形式で僕がMCをしながら、踊る司会者のような感じでさまざまなアーティストとコラボレーションしていくものになります。ちょっと紅白歌合戦のような感じで、これまでやっていない新しいスタイルに挑戦します。
── 共演するアーティストにはどんな方が?
西島 ライオンキングの初代シンバ役を務めた坂元健児さんや、ブギウギピアニストとして世界で活躍する斎藤圭土さん、そのほかタップダンサーやバレリーナなど、僕を含め10人が共演します。ブルーノートという場でバレリーナがどう踊るのかも面白いと思いますし、ピアノとバイオリンとチェロの生演奏もある。全曲生演奏というのもなかなか贅沢だと思いますよ。
── 料理も特別なメニューを用意するとか?
西島 ええ、ディナーショーみたいにしたくて。実は僕、宮崎の高千穂観光大使をしているんですね。それで肉も野菜もとても美味しいという話をしたら、「じゃあ、西島さんのスペシャルプレートを作りましょう」と(笑)。ワインを飲みながらつまめるものが揃ったワンプレートなので、食べて、飲んで、ショーを観て、満たされていただけたら。

── いいですね。1月23日から東京・青山で始まる『心言葉』はどんな公演ですか?
西島 宮沢賢治へのオマージュ作品です。彼の「永久の未完成、これ完成である」という言葉が、僕は大好きなんですよ。完璧さとか完成されたものにはあまり魅力を感じなくて、これからもっと変わっていくのを想像できるような、余白があるものに興味がある。自分の作品もそうありたくて、ゴールを決めないで作っていくんです。
西島 目標やゴールをあえて設定しないんです。そういう世界観で作っているので、宮澤賢治の言葉の朗読があって、ピアノの演奏があって、僕がダンスパフォーマンスをする。結果として、それがなんのジャンルかわからないものになっていれば正解なんです。
── では、もうそこに居合わせて体感するしかないみたいな?
西島 そうですね。東京の青山に始まり、故郷の宮崎県日向市、沖縄のギャラリー、さらに京都では平安神宮の参道の近くにあるレストランで、その空間を使った新しいパフォーマンスとしてやらせてもらいます。だから会場が変わると演出も変わる。まさに“永久の未完成”という感じです。
── 同じタイトルの公演でも、会場によってまったく違ったものが観られるわけですね。
西島 ええ。宮崎、沖縄、京都では、映像プロジェクションも使います。それも映像クリエイターじゃなく写真家が作っているので、よくあるプロジェクションマッピングとは違う、写真と写真がクロスしていって違う写真に見えてくるような幻想的なものになります。
終わらせる気持ちでやっていないから達成感はない。作品すべてが積み重なっていく途中、まだ過程なんです


── それが、先ほどの“余白を残す”とか“永久の未完成”という考えのもと、アウトプットされていくと?
西島 稽古も本番も何が起きるかわからないですからね。即興的にその時に感じたまま体が動く。今日の撮影にしてもゼロプランで僕は来ていて、こういう空間やカメラマンの方がいて、今回のような写真が生まれてくる。もっと何かやりたくなるくらいが一番よくて、それは未完成だから。「OK!できた」じゃなく、「もっと何かやりたいよね」と思ってもらえる自分でありたいし、そういう作品を作っていきたいですね。
── でも、公演で千秋楽を迎えた時には、完成というか、やりきった感があるのでは?
西島 千秋楽が来ても終わったとは感じません。たとえば、「LOVE IS ALL」というこれまで5回やっている公演があるんですが、表現は毎回違ってもコンセプトは変わらずラブイズオール、愛がすべて。軸は変わらずクリエーションが変わっていく。だから終わらないんですね、今までの作品すべて。全部が積み重なっていっている途中という感覚なんです。
西島 ええ。その流れの中で、この作品をやりたくなった、あの時これをやったからもう一回引っ張り出してみようとなる。だからなんだろう……ずーっと作り続けている感じですね。公演ごとに終わらせる気持ちでやっていないから、達成感みたいなものはないんです。感じたことがないし、やり切ったみたいに思ったことがない。
── 達成感が一度もないとは驚きです。
西島 でも一方で、10代の頃にこんな舞台が作れるようになりたいと想像したことは、結果的にすべてやれているんですよね。たぶん、当時から自分が想像できることには可能性があるとわかっていたんじゃないかな。そこに向かってやるべきことをやってきたから、今ここにいるという自負はあります。だから、今も繰り返しやり続けている。まだ過程なんです。
若い時にできなかった動きができるようになっている。50代でも進化しているんです(笑)

西島 年齢を重ねると体が変わると多くの方が思っていますよね? でも、僕の体感としては、若い時にできなかったことができるようになっている。つまり、進化しているんですよ。
── えっ、具体的にどういうことですか?
西島 「もっとこういう動きができたらいいのに」と思っていたことができるようになっているということです。若い頃は、やってもやっても納得がいかなかった。それが今はできていて、「こういう風に動きたかったんだ」と納得できているんです。
── むしろ思い通りに動けるようになっていると?
西島 ええ。たとえば、今回の撮影中に脚を真上まで上げましたが、あれは若い頃にはできなかったし、できないと思っていたんです。でも、それが今はできている。加齢で体は硬くなると言われますが、昔のほうが硬かった。だから進化しちゃっているんです、体が(笑)。
西島 体力も今のほうがありますね(笑)。先日の公演でも毎日出ずっぱりで全然疲れなくて、周りから「なんでそんなにできるんですか?」と。20代30代で同じことをしたら、僕もたぶん息切れしています。でもね、なんかもう楽しくなっちゃった感じなんですよ(笑)。
── えっ、どういうことですか。以前は楽しくなかったと?
西島 いや、そうじゃなくて、若い頃は当然、先生や先輩方にいろいろ指示や注意をされますよね? それに応えようと必死だったけれど、それがなくなって、今は自分でプロデュースをしている。やりたい方向に努力するだけなので、もう楽しいしかないっていう(笑)。
── なるほど。言われた通りにやる必要がなくなると、変な力みは抜けそうですよね。肩に力が入らないというか。
西島 まさにそんな感じですね。こうしなさいと言われて舞台に出ると、「さっきこう言われたから」となって、やっぱり頭と体のバランスが悪くなる。そうではなく自分自身で、「あのシーンはこういう風にやりたい」、「昨日はこうなったけど、今日はこういう風にやってみたい」と思い描きながら体を動かすと、気持ちがそこにうまくハマっていくんですよ。
西島 そうですね。「昔よりいい踊りをしている」と言ってもらえることが多いんですが、そういうことなのかもしれない。自分自身も安定しているし、お客さん側からも気持ちよく見えるんじゃないかな。
食べたいものを食べ、行きたい所に行き、会いたい人に会う。とにかく我慢はしません

西島 睡眠はとれていますが、どちらかというとショートスリーパーです。ドンと眠りに落ちて、パッと目が覚める。でも、寝る時は本当によく寝ます。なぜか無性に眠くなる日があるんですよ。その時はもう、これ以上は寝れないというくらい寝る(笑)。
── なんかすごく動物的ですね。じゃあ、ストレスは溜まらない?
西島 ストレスを溜めない生活を心がけています。食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み、行きたい所に行き、会いたい人に会う(笑)。とにかく我慢はしない。
── そもそも溜めないようにしていることがコツなわけですね。
西島 ええ。無理していないので暴飲暴食みたいなことにはならないんです。やけくそになることがないから。
── それが一番のメンテナンス法ということですね。でも、ダンサーとしては当たり前でも、私たちの側からしたらスゴイと思うことが何かありそうですが……。
── 「食べたいものを食べる」とのことですが、食生活についても教えてください。
西島 普段は野菜中心で炭水化物は少なめ、白いご飯はあまり食べないです。でも、おいしい和食屋さんに行ったら別ですよ。そこはさっき言った通りで、食べたい時は食べるんです(笑)。ただ、基本はおかずしか食べない感じですね、お酒を飲むので。
── どんなお酒を?
西島 ワインとかビール、シャンパンも好きですし、焼酎や日本酒も。ワインなら1本空ける時もあるし、日本酒だったらちびちび飲む。そのあたりは自由ですね。
── お酒を楽しむために炭水化物を控えているんですか?
── 作品作りと一緒で、なんでも終わせたくないっていう(笑)。
西島 そう(笑)。だから、「グラッパください」とかになっちゃうんです、食後酒を。
── 食べたくない時もあるんですか?
西島 朝から何も食べてない日もあります。お腹が空いていないのに、朝だから食べなきゃとか、昼だからランチしなきゃというのは嫌なんです。だから団体行動はできないタイプですね(笑)。でも、そういう感覚で過ごしているとだいたい1日1食で大丈夫です。
── なんか自然にファスティングをしているみたいですね。
西島 そういう感じにちょっと近いかもしれないです。
夫婦というより友達っぽい。お互い自由というか、一緒の食事も約束はせず、当日の朝に決めたり

西島 もちろんです。ただ毎日じゃなく、月に2~3回ですね。スケジュールがバラバラですし、撮影が長引いて時間が読めないことも多いので、決めておくと「ごめん、まだ終わらない」とかストレスになってくる。そこは決めないほうがいいねと自由にしています。
── なるほど。そこでもストレスを溜めない心がけが徹底していると。
── そういう時のメニューはどう決めるんですか?
西島 食べたいものがだいたい似ているんです、パクチーとかタイフードが2人とも大好き。お酒も好きなので、次の日に撮影がない時は、夜中2時3時までペチャクチャおしゃべりしながら飲んで食べて、ワイン1本なんてあっという間です。2本いっちゃう時もありますね(笑)。
── なんかすごく楽しそうなんですが(笑)。食生活や健康面に関して、真矢さんからアドバイスをもらうことはありますか?
西島 あまりないですね。「よかったら食べてみない?」くらいはありますけど、「これを食べたほうがいい」とか「こうしたほうがいいよ」とか押し付け合うことはないです。
西島 ええ、お互い自由を愛してます……というと、ちょっとなんか面白いですけど(笑)。すれ違いでうまくいかなくなるとよく言うじゃないですか。でも、僕らはすれ違いでうまくいっているんですよね。クリスマスとか誕生日とか、要所要所ではお互い何かやろうとしますが、それも仕事が空いていたらどう?という感じで、無理に約束するわけじゃない。
── お互いを尊重して、ストレスなく楽しく向き合うルールが、夫婦関係の中で構築されているんですね。
西島 友達っぽいですけどね、夫婦というより。結婚してもう17年になるんですが、あっという間だったなと思います。
カッコいいオヤジ像は岩城滉一さんや世良公則さん。内面はしなやかな男臭い大人になりたいですね

西島 普通に顔を洗って、お風呂から出たら保湿ケアをするくらいです。仕事上、メイクもしますし、初舞台が3歳なので、子どもの頃からメイクを落とすためにクレンジングはしていて、その後化粧水をつけるというのを当たり前にやってきているので、あまり特別なことはないですね。
── 確かに、男性でも舞台に立つ方はそうですよね。
西島 ええ。汗をかく仕事だから清潔にしておきたいから顔を洗う。髪もそうですが、自分が気持ち悪いでしょ? 稽古後にそのまま寝るとか絶対できないのと一緒で、清潔に保つのは当たり前で特別じゃないんです。
── スキンケアの当たり前のレベルが、一般男性と比較するとおのずと高くなっているわけですね。そのほかに生活習慣での心がけはありますか?
西島 お風呂は好きですね。いろいろ入浴剤を入れて半身浴を長く楽しんだり、稽古や舞台がなく汗をかいていない日は、いつもよりお風呂場を温かくしてサウナっぽくしたり。
西島 僕が10代の頃に憧れていたカッコいい大人の男のイメージは、岩城滉一さんや世良公則さん。50代になったら絶対ああいう感じになりたいと思っていましたけど、ついに間に合わなかったっていう(笑)。
── いやでも、昔の50代は今の60代とも言いますから(笑)。でも、間に合ったとならないところが、達成感を感じたことがない西島さんらしいですね。その2人に憧れるのは、男らしさというところで?
西島 そう、男臭さみたいなところですね。ただ、僕の中では、そこに内面のしなやかさも含まれるんです。しなやかな考え方ができるということは、固まりきってなく自由なわけで、すごく男っぽさを感じます。大人の男にとって大事な魅力だと思いますね。
── しなやかな考え方なら、西島さんはすでにかなり実践している気がしますが。
西島 その部分に関しては、もしかしたら近づけているのかも(笑)。でもこれから先、60代になった時にはもっと自分の理想に近づけていたらいいなと。さっきも言いましたけど、まだまだ過程ですからね。
● 西島数博(にしじま・かずひろ)
1971年、宮崎県日向市生まれ。3歳よりクラシックバレエを始め、90年渡仏。以降、フランス国際バレエコンクール第1位を受賞するなど、パリを拠点に国内外の舞台に多数出演。帰国後は、スターダンサーズバレエ団に所属しながら、TVドラマ「池袋ウエストゲートパーク」に出演するなど、俳優として芸能界でも活動。ダンサーであると同時に演出・振付家として、ジャンルに縛られず幅広いアーティストとコラボレーションしながら、常に新しい表現を模索し続けている。公演会場でのフード&ドリンクメニューを考案するなど、食を含めた総合プロデュースも多数。2023年より宮崎県高千穂町の観光大使を務める。
■ 『KAZUHIRO NISHIJIMA produce XMAS SPECIAL LIVE 2025 at BLUE NOTE PLACE』
パリを拠点に世界の舞台に立ち、多岐に渡る活躍を続けている西島数博が、ダンサー兼MCとして、ヴォーカル、ピアノ、タップ、バレエ、ヴァイオリン、チェロなど、多ジャンルの幅広いアーティストたちとともに贈る一夜限りの豪華なスペシャルライブ。自身が観光大使を務める宮崎県高千穂町の地元食材を使ったスペシャルコラボプレートも登場!
BLUE NOTE PLACE
2025年12月16日(火)[1st」17:30開場、18:15開演 [2st]19:45開場、20:30開演 ※公演時間は60分。入替あり。
HP/https://www.bluenoteplace.jp/live/kazuhiro-nishijima-251216

■ 『心言葉 —宮沢賢治へのオマージュ—』
「銀河鉄道の夜」「雨ニモマケズ」で知られる宮沢賢治の名言と、幻想的な空間でのドラマティックな演出で好評を博した舞台がバージョンアップ。ジュノンスーパーボーイコンテスト受賞後、役者として映画や舞台で活躍する木戸邑弥の朗読、兄弟ピアノデュオ「レ・フレール」斎藤圭土の演奏、ダンサー西島数博の身体表現で魅せる宮沢賢治の夢あふれる世界。
BAROOM
2026年1月23日(金)18:00開場、19:00開演 1月24日(土)14:00開場、15:00開演
HP/https://baroom.tokyo/events/shk8876zsuyq
※1月28日宮崎・日向、1月30、31日沖縄、2月6、7日京都で順次公演予定。詳細は西島数博オフィシャルインスタグラムでチェック。














