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2025.11.24

理系女子(リケジョ)の知見が美味さの秘密? 「ルース クリス ステーキ ハウス」の厚切りフィレにその源流を見る

ルース クリス ステーキハウスといえば表面はクリスピー、中はしっとりなアメリカンステーキのパイオニア、60周年を迎えた同店ですがその美味さの秘密に改めてLEON渡辺が迫りました。

CREDIT :

文/渡辺 豪(LEON)

ルース クリス ステーキ ハウス 厚切りフィレ
アメリカのステーキハウスがここ数年、上陸し続けていますが、なかでもクラシックなアメリカンステーキを食べられるのが「ルース クリス ステーキハウス」。舌を噛みそうな店名ですが、ちょっと歴史から話していきましょうか。
ルース クリス ステーキハウス
時は1965年、ところはルイジアナ州ニューオーリンズ、創業者のルース・ファーテルさんは、化学の先生でした。が、ある日、新聞で「クリスのステーキハウス、売ります」という広告を見て起業を決意したそう。シングルマザーでもあったルースさんは息子二人をどうやって大学まで卒業させるかということに悩んでいたそうで一大決意で起業。レストランのビジネスも未経験ながら手探りのなかでステーキハウスを創業しました。これが、“クリスのステーキハウス”という地元でも知られた名店の名前を残した(契約上の理由もあったらしいですが)、歴史のはじまりでした。
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ルース クリス ステーキハウス
起業にあたり、肉の切り方から学んだルースさんですが、バターで味付けするいわゆるアメリカンステーキのスタイルを早々に広めた一人でもあります。これは、完全に渡辺の憶測なのですが、この仕上げは彼女の生業でもあった化学的な知見やアプローチもあったのでは、と考えています。なぜなら──

(1) バターの融点は30~40度
(2) プレートの表面温度が250度(500度のオーブンで焼かれて提供されることから類推)
(3) バターの香気がたつのは約120度
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ルース クリス ステーキハウス Tボーンステーキ
つまり、熱した皿に載せられた固形バターが溶けて脂肪分が蒸発しアロマになる。上の写真にもある肉のまわりの、あの“ジュワっ”は、“風味が温度で変わる”という化学的知見によって生み出された“バターアロマエクスプロージョン”なのでは、と考えてしまいます。必殺技みたいですが、文字通りこれが彼女の必殺技となり多くのお客様を魅了していきました。

聞けば、ルースクリスのエイジングは、なんとずっとウェットエイジングだそうですが、このウェットエイジングビーフの欠点を補うべくバターが使われたのでは、というのが渡辺の推測です。
写真は一般的なドライエイジングの肉、肉の表面を乾燥させてアミノ酸数値を高める方法で、表面は要トリミング(ルースクリスのものではありませんよ)。
▲ 写真は一般的なドライエイジングの肉、肉の表面を乾燥させてアミノ酸数値を高める方法で、表面は要トリミング(ルースクリスのものではありませんよ)。
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周りに見えるのが、真空パックされた牛肉たち。ルースさんがもっている牛肉もしっとりした質感で、これぞウェットエイジングの肉の顔。
▲ 周りに見えるのが、真空パックされた牛肉たち。ルースさんがもっている牛肉もしっとりした質感で、これぞウェットエイジングの肉の顔。
ウェットエイジングは、真空パックに入れられるため肉が乾燥しない、歩留まり高し(ドライみたいに表面をトリミングしなくていいのでのコスト安)。肉は柔らかくなる、という特徴が。一方、デメリットとしては常に湿度を保った熟成のため、香りはミネラルや酸味寄りで熟成香の観点ではドライに加えて弱め。表面も水分が多いため焼き香がつきにくいなどなど……で、恐らく、それを解決し、かつ風味設計にもなりうる味付けだったのでしょう(渡辺の推測ですよ)。
ルース クリス ステーキハウス Tボーンステーキ
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上の写真はTボーンですが、熱々のお皿に塊のバターを乗せ、お肉をその上に。こうすることでプレートの上で熱されたバターと肉汁が混ざり、自然と乳化し最高の肉汁バターソースが完成するのです。写真のバターは赤い肉汁と混ざってちょっとトロっとしているのがわかりますかね。

塊のバターというのもポイントで、これが溶かされた澄ましバターだと(ニューヨーク系はほぼ澄ましバターかな?)乳たんぱくはほぼ無し、あくまで固形のバターを使うことで香りが立ちやすく、お客様の前でジュウジュウと音と香りを上げる演出も可能なわけです。これも、バターの乳脂肪の効果を最大限に生かした、理にかなった演出なのです。

この記事校正をいただいた10planning&coordinationの中嶋さんから「ルイジアナはフランスの植民地だったのでその影響もあるかもしれませんね」とバター仕上げについてコメントをいただきました。調べたところ、確かにアロゼやモンテオブールといったバター調理に類似していますね。恐らく文化的背景もあったのでしょう。

ちなみにルイジアナの語源は、Louis(時の王ルイ14世)&Anna(どなたでしょう?)でルイジアナとなったそうですわ。めちゃくちゃフランスですね(笑)。

※ちなみにタイトルの理系女子の知見は、中嶋さんの“ルースクリスは理系女子のサイエンスなんですね”というコメントから拝借しました。
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ルース クリス ステーキハウス
さて、そんな工夫もあって絶好調だったルースさんのお店、1976年に火事で全焼……が、すぐに近所で別物件を探して営業開始。が、クリスのステーキハウスの名前は当初の物件でしか使えない契約だったらしく、そこに自分の名前をプラス。

だから、「ルースの“クリスステーキハウス”」になったらしい。この名前、実はそういう意味があったんだって。
ルース クリス ステーキハウス ロゴ
その後、人気は絶えず、全米に広がるステーキのフランチャイズビジネスを展開。この人気の秘密、ステーキが美味い、のは当然ですが、ビジネスとしての魅力はその調理法にあったと思われます。
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調理・クオリティの均一化

ルース クリスの美味さは、前述のバター仕上げだけでなく、高熱のブロイラーにもあり。その加熱温度、なんと980度。生のまま塩コショウなどの下味をつけてそのままプレートにいれて投入。ここで、糖質とタンパク質が過熱による反応“メイラード反応”を起こします。アミノ酸(たんぱく質)と糖が過熱によって、複雑な香りと味の分子を生み出す反応です。

生肉って基本、無臭に近いですが、焼いたら香ばしさが生まれますよね。ナッツやトースト、はちみつやらなんやら言われますが、これこそがステーキ肉の旨味なんです。フライパンではなくブロイラー調理にすることで、メイラード反応の最速化(効率化)、と誰が調理してもある程度同じクオリティに仕上がりやすい、としたのだと考えます。

これも、渡辺の推測ではありますが、FCビジネスとしての仕組みをこの調理法の確立で作ったのではないでしょうか。ちなみに、このメイラード反応の最速、最大化に高温ブロイラーを使うというのも実はルースさんが化学の知識があったから、ではないかと推量しております。

さて、前段、長くなってしまいましたが、個人的にアメリカンステーキの歴史とスタイル、そしてガツンとくる味わいの秘密は機会があらば掘って考察したい、と考えていたので久しぶりにお店にお邪魔できたのは、とても興味深かったです。
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ルース クリス ステーキハウス
今回、お邪魔したのは、プレス・メディアを対象とした60周年のスペシャルコースのお披露目なのですが、厚切りのフィレは旨味たっぷりで最高に美味しかったです。運動量が少なく、内臓にぶらさがってるだけの部位でもあるので、個体によっては味が淡白だったりしますが、そこはさすがのルースクリス! 高温ブロイラーのおかげで旨味ゴリゴリのヒレ肉に。

ヒレは、最高品質の「USDA プライム」! 11月末までのこのスペシャルコースは、上にのっているクラストがトリュフクラストだそうですが肉が美味いので、12月に入ってから行って通常バージョンのステーキを食べてもらっても十分美味しいです(笑)。でも、この内容で1万6500円だからお得かと思います。
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上の宣材写真より大きいフィレ肉(笑)。通常は、広報用写真よりも小さいポーションが来ますがこの厚みでお越しいただきました。感謝。
▲ 上の宣材写真より大きいフィレ肉(笑)。通常は、広報用写真よりも小さいポーションが来ますがこの厚みでお越しいただきました。感謝。
個人的にはオイスターなどのシーフード食べ比べクラブケーキ、ジャンボホタテ、ロックフェラーオイスターがワイン泥棒でした。
▲ 個人的にはオイスターなどのシーフード食べ比べクラブケーキ、ジャンボホタテ、ロックフェラーオイスターがワイン泥棒でした。
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バターと肉、加熱と肉、やっぱり、肉は化学で美味いんだ、という仮説のもとにルース クリス ステーキハウスの魅力をお伝えしました。

さて、LEON本誌でも年明けの1月25日発売号で、肉特集を行いますのでぜひご覧ください。インスタでは得られない、誌面だからこその肉特集やりまっせ。

さて、というわけで、お肉を食べたくなったら、まずはバターとブロイラーに想いをはせてルースクリスへ。素敵なお店です。
ルース クリス ステーキハウス

■ ルース クリス ステーキハウス

住所/東京都千代田区霞が関3-2-6 東京倶楽部ビルディング101
TEL/03-3501-0822
HP/https://www.ruthschris.co.jp

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