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2025.10.05

ミシュラン2つ星シェフが手がけたバーとは? 「ガストロ・バー」という新潮流を知る

東京のダイニングシーンを盛り上げる新章とも言えるのが「バー」。飲んで酔うだけではなく、バーテンダーが紡ぎ出す物語に没入できるような「ガストロ・バー」に注目したい。

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文・編集/秋山 都(編集者・ライター)
CREDIT :

撮影/長谷川直紀(SUDDEN FROG)

つい先日、「ミシュランガイド東京2026」が発表になりました。新しく星を獲得したお店、依然として三つ星に輝き続けるレストランなど綺羅星のようなリストを眺めながら、ふとため息がもれました。

「東京のレストラン、どこも高くなったなぁ」

価格の高騰は飲食店に始まった話ではなく、材料も人件費も上がっているのだから、レストランで支払う金額が上がるのは当たり前。と、アタマではわかっているのですが、私の収入は上がってない。ちょっと前は3万円あればほとんどの高級店で食事できましたが、今や5万円でも足りないお店が増えてきました。食にただならぬ情熱を傾ける私の同業者同士の食事ならまだしも、デートやビジネスの会食で1食にひとり5万円……って(汗)。ちょっとリアリティのない価格ではないでしょうか。

お酒を飲みたい心も、胃袋も満たしてくれるバー、それが「ガストロ・バー」

SUDDEN FROG ガストロバー
▲ ミシュラン二つ星の「フロリレージュ」川手寛康シェフがフードメニューをディレクションしているバー「SODDEN FROG」。
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さあ、ではどうする? デートや会食の場として私が新たに提案したいのは「バー」です。バーといえば、もちろんお酒を飲む場所ですが、最近は以前のようにカウンターに横並びになって渋くグラスを傾ける店だけではなく、フードメニューが充実していたり、またカクテル自体がコース仕立てになっているなど、創意工夫に富んだ店が増えてきています。さらに日本のバーは「Asia’s 50 Best Bars」などの世界的なランキングでも評価されるなど、クオリティの高さでも知られていますから、その味わいの良さについても太鼓判を押せます。なにより価格の面において、レストランよりだいぶ割安に、同じくらいの(いえ、時にはそれ以上の?)満足感を味わえるのだから、行かない手はないかと。

ここではレストランに比肩するほどの満足感を味わえるバーについて「ガストロ・バー」と命名しました。欧米圏では料理に重きを置いた酒場のことをガストロ・パブなどと称することがありますが、「ガストロ・バー」について私は「バーテンダーの創造性を軸に、カクテルと料理を同格に扱い、両者のペアリングや物語性によって一夜の体験をデザインする場」と定義。ガストロとは胃袋の意味ですが、充実したフードメニューによって胃袋も肝臓も心地よく満たしてくれるお店はもちろん、ガストロノミー的なアプローチからカクテルをデザインしコース仕立てで供するようなバーも「ガストロ・バー」の範疇であると考えています。
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「The SG Club 参階 - Sangai」(東京・渋谷)

そこで、本記事では私の考える「ガストロ・バー」を最近オープンしたバーのなかから2軒ピックアップしました。
まず1軒目は日本が世界に誇るバーテンダー、後閑信吾さんが率いる「The SG Club」の新店。「The SG Club」 はこれまで、地下が「Sip」、1Fが「Guzzle」、2Fが「Savor」という三層構造で、TPOに応じた多彩なバーの愉しみ方を提案してきました。そこに新たに加わった 3Fの「The SG Club 参階 - Sangai」は、カクテルのコース・エクスペリエンスに特化しているユニークなバーです。
The SG Club 参階 - Sangai ガストロバー
▲ わずか8席のカウンターのみで1回90分のカクテルコースのみを展開する「The SG Club 参階 - Sangai」。
贅沢に屋久杉とオークを使ったカウンター、煉瓦の壁面、バックバーに置かれた盆栽……静謐な和の趣きを大切にしつつも、どこか世界を感じさせるのは、20代でNYへ旅立ち、世界で活躍してきた後閑さんのグローバルな感性のたまもの。わずか8席のカウンターで、90分間のセッションを1日に数回開催する、完全予約制のバーです。
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「The SG Club 参階 - Sangai」
▲ 世界を飛び回る後閑信吾さんが日本へ帰国時にはここでカクテルを作ってくれるのも魅力のひとつ。撮影/長谷川 潤
そんな「参階」のコンセプトは「テロワール×テロワール」。日本の各地から旬の食材を選り抜き、そこに世界各地の素材を掛け合わせて “対話” を紡ぐようにカクテルを仕立てます。たとえばオープン間もない、ある日のコースは「沖縄×リマ」、「秋田×アテネ」、「山梨×ロンドン」、「熊本×チアパス」、「愛知×コニャック」の5杯でした。
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後閑さん、そして永峯侑弥さんらバーテンダーが自ら日本の各地を旅して見つけた食材を基に、世界の食材や料理の技法、調味料を掛け合わせたカクテルはどこまでも自由。ほの暗い空間は茶事の夜咄*をも思わせ、
8名限定という少人数制の緊張感と親密さが同居するなか、バーテンダーの意図を推しはかりながら飲むのは、まるでひとつの壮大な物語に没入していくような感覚でした。最初は5杯も飲むの? とちょっと及び腰でしたが、ポーションがさほど大きくないのと、味わいに緩急がついているので、最後まで飲んでもほろ酔いになる程度(まあ個人差はありますが)。心配な方はお腹に少し何か入れてから訪れるとよいかも。
* よばなし/炉の季節である11月~3月頃に行われ、和ろうそくや行灯の明かりのもとで、静かに茶を味わう特別な茶事。
「The SG Club 参階 - Sangai」

参階(SANGAI)

住所/東京都渋谷区神南1-7-8 豊産ビル3F
コース開始時間/水曜~日曜の17:30~、20:00~の2部制(要予約)
定休/月曜・火曜
予約/https://www.tablecheck.com/shops/sangai/reserve
メニュー/おまかせカクテル5杯1万6500円(サ別)。プレミアムフルーツを使ったアラカルトやクラシックカクテルの追加オーダーも可能。

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「SODDEN FROG」(東京・麻布台)

続きまして、25年8月麻布台ヒルズにオープンした「SODDEN FROG」。直訳すれば「びしょ濡れの蛙」というユーモラスなネーミングですが、そこには“井の中の蛙が想像力の力で新たな世界を拡げていく”という遊び心のあるメッセージが込められているのだとか。プロデュースを手掛けるのは、ミシュラン二つ星に輝くレストラン「フロリレージュ」の川手寛康シェフ。料理とカクテルを響き合わせる、新しいバーのかたちを提案しています。
SODDEN FROG バー フロリレージュ ガストロ・バー
▲ ある日の「おつまみメニュー」。「和牛のカルパッチョ」(中央)ほか、「ズッキーニのフラン」、「ほうれんそうのタコス」、クルトンをすし飯に見立てた鮪の鮨のような一皿など創意工夫に富んだ構成。
小皿で提供されるタパス風の料理は、「フロリレージュ」で初期のスペシャリテとして人気を博した「牛骨髄のフラン」のほか、お腹をあたためてくれそうな鶏白湯のにゅうめん、和牛のカルパッチョなど多彩。夕方には予約制で9皿の「おつまみコース」も提供され、カクテルとのマリアージュを探しながら味わう時間は日常の延長にはない、特別な体験になるでしょう。デートならば、「これとこのカクテルってどう?」などと会話が弾むから、自然と距離も縮まること間違いなし。
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SODDEN FROG バー フロリレージュ ガストロ・バー
▲ 「フロリレージュ」で川手シェフの仕事を間近に見ながら、食材をカクテルへ仕立てるアプローチの着想を得たと語る高田真之助さん。
バーテンダー髙田真之助さんによるカクテルは、旬の食材を用いながら、甘味・酸味・苦味・旨味という四つの味覚を軸に組み立てられ、一杯ごとに物語を紡ぐような仕立て。たとえば桜や甘酒リキュール、あずきや米麹を使った蒸留酒を合わせ、和菓子の余韻をグラスに閉じ込めた「Mizu Yokan」や、燻製バターを添えたウイスキーカクテル「Smoky Frog」など、香りや口当たりの意外性が楽しめるカクテルがラインナップしています。ミクソロジストの児島由光さんによるモクテル(ノンアルコールカクテル)も、野菜やハーブがふんだんに使われ、華やかなプレゼンテーションが目を引きます。これならアルコールを控えたい日も盛り上がりそう。
店内は曲線を描くオープンカウンターを中心に据えた23席のみのコージーな空間。どの席からもバーテンダーの所作を間近に眺められ、静謐ながら温かみのあるインテリアは、大人の夜にふさわしい落ち着きと艶を漂わせています。隣り合ったカウンターで目と手が交わる瞬間すら、特別な一瞬に感じられることでしょう。
SODDEN FROG バー フロリレージュ ガストロ・バー
▲ 左から、モクテル担当の児島由光さん、バーテンダーの高田真之助さん。川手シェフの指揮のもとに厨房を預かる阿久津一輝シェフ。


SODDEN FROG バー フロリレージュ ガストロ・バー

SODDEN FROG

住所/東京都港区虎ノ門5-10-7 麻布台ヒルズ ガーデンプラザD 3F
予約・問い合わせ/03-6809-2112
営業時間/16:00~23:30 
定休/日曜・月曜
メニュー/小皿料理9皿の「おつまみコース」(6500円)ほか

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秋山 都(編集者・ライター)
東京生まれ。 富裕層向けライフスタイル誌「セブンシーズ」、「Harper’s BAZAAR日本版」、「東京カレンダー」誌で編集長を歴任。 アマゾン・ジャパンでファッション・エディトリアル・ディレクターを務めたのちに独立。「WebLEON」では食いしん坊担当として、食・酒・旅など人生の快楽的側面を追求しております。好物はハイボールとタルタルステーキ。趣味はハシゴ酒。

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