
「あなたが2019年にもっとも印象的だったお店はどこですか?」
私のこたえはこちら↓。
京都で昨年7月にオープンしたお店。カウンターでわずか12席のお店ですが、私はここにいまの日本の飲食店の‟ちょっと未来”が凝縮されているように思うのです。どんなお店か、気になるでしょう?
◆LURRA°(京都・東山)

1.世界で活躍した3人の若者が集結

いずれも京都に縁のある人ではありません。東京生まれ、東京育ちでフランスの三ツ星店「ミシェル・ブラス」や大阪のやはり星付き名店でサーヴィスの腕を磨いた宮下拓己さん、米国人と日本人の両親のもとに生まれ、アメリカ、東京、そしてあの「noma」のキッチンでも修業したシェフのジェイカブ・キアーさん、世界をめぐり、オーストラリアでミクソロジーに出会ったことをきっかけに料理とカクテルのペアリングの可能性を模索しはじめた堺部雄介さん。この3人がニュージーランドのトップレストランClooneyで出会い、この「LURRA°」を舞台に、日本の季節と文化、そして食を世界へと発信するため、京都を出発点に選んだのでした。
世界で仕事をしていた彼らは、多言語でのコミュニケーションが可能です。英語、仏語、韓国語……ますますインバウンドの需要が増えているこの時期に、マルチリンガルであるという要素はこれからのレストランの強みにもなっていくでしょう。
そして彼ら3人はもちろん、キッチンのスタッフみんなが対等に話し合っている姿も印象的でした。飲食店の厨房といえば、手は出さないものの足は出す(蹴る)など、厳しい上下関係があることでも知られています。上下関係=悪とは言い切れないものの、過度な因習にとらわれずフランクな関係を築くという点も‟ちょっと未来”なのでは、と。
2.火力は薪だけという斬新な厨房



3.日本の食材をユニークなLURRA°料理へ昇華

これが、いわゆるイノベーティブというジャンルになるのでしょうが、非常にユニークで、ここにしかないものばかり。野菜やハーブ類はシェフのジェイカブさんが自ら大原の農園まで摘みに行き、吟味してきた食材をお客の目の前で芸術的な一皿に仕立てます。
よくイノベーティブな料理の感想を求められた際、「おいしいっていうより面白いって感じ」と、直截な表現を避ける(飲み会に来た女の子を「美人というよりかわいい系かな」と濁すのと同じ)ことがありますが、ここ「LURRA°」の料理に関しては「面白い」と評する必要はありません。世界でここにしかない、ユニークなおいしさです。
ではここで秋のコースの一例を見ていただきましょう(撮影は19年11月でした)。







4.想像を超えるペアリングテクニック
たとえば前ページのドーナッツにあわせたカクテル。これは飲むと「カルアミルク」の味がするのですが、コーヒーもコーヒーリキュールも使用していないのです。じゃあ何からできているのか? それはまさに冒険! ご自分でお試しください。

「10年に渡り、世界のトップレストランで働いてきた僕らが海外から日本を改めて見つめ、京都は日本の魂が息づく街で、自然に囲まれて四季折々の季節感を持ち、そしてユニークな食材や文化的背景を持つ国際都市であると思いました。日本の心髄ともいえる京都から、食文化を世界へ向けて発信していきたいと考えています」(宮下拓己さん)
他の京都の飲食店のように「おいでやす」も「おおきに」もないけれど、「こんばんは」「Good Evening」と迎えてくれて、日本の魅力を凝縮して表現してくれるショーケースのような場所……いままでは京都へ出かければちょっと無理して高い和食を食べていましたが、あえて和食を食べないという選択肢もアリなんじゃないかな。
ニッポンという美しい国の良さを再発見できたように感じる、不思議な魅力に満ちた一軒です。

◆ LURRA°
住所/京都府京都市東山区石泉院町396
問い合わせ/050-3196-1433
営業時間/17:30~、20:30~の一斉スタート二部制
定休/月曜
要予約(予約はHPから)
コース+ドリンクペアリング7杯で2万5000円(税・サ別)。