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2018.04.10

世界的カーデザイナー、和田智が語るカーデザインの潮流

ファッションと同様、クルマのデザインもモードとしての側面があり、時代や文化の影響を受けながら変化を繰り返してきた。しかし、時の流れに消費されない絶対的な美を湛えたカーデザインが存在するのも事実。ここでは、かつてアウディ・デザインに籍を置き、「A6」をはじめ、アウディの主力モデルのデザインを次々に手がけ、現在のアウディ・デザインの礎を築いたカー&プロダクトデザイナー、和田智氏に、「美しい自動車のデザイン」とは何かについて語ってもらった。

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文/小川フミオ 写真/岡村昌宏(ポートレート) 画像協力/AUDI AG

私がアウディで学んだこと

現在はクルマのみならず、さまざまなプロダクトのデザインを手がけている和田氏
現在はクルマのみならず、さまざまなプロダクトのデザインを手がけている和田氏
私は、東京の美術大学を出たあと、日産自動車にデザイナーとして入社。英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートに留学。そして1998年にアウディに入社しました。

私がアウディで手がけたモデルは、「A6」(2005)、「Q7」(同)、それに「A5」(2007)といった量産車と、「アバンティッシモ」(2001)や「パイクスピーククワトロ」(2003)といったコンセプトカーです。

アウディでよく覚えていることは、当時デザインディレクターだったワルター(Walter Maria de’ Silva)とA6のグリルを手がけたときです。
「シングルフレーム」と名づけたフロントグリルの参考にしたのは(アウディの前身である)アウトウニオンが1936年に手がけていたグランプリカー「タイプC」でした。

なぜこれを例に出したかというと、欧州のメーカーは自社デザインをヘリティッジとして大事にしていると言いたいからです。過去の人の声を聴くところに、クリエイションの根源があると思います。
アウディの前身であるアウトユニオンが1936年にデビューさせたグランプリカー「タイプC」
アウディの前身であるアウトユニオンが1936年にデビューさせたグランプリカー「タイプC」
今も昔も、日本のメーカーは基本、“クラシック”にネガティブです。新しいもの、新しいものを作ろうと懸命で。しかし、時代が大きく変わろうとしているときに“新しい”の一方通行はとても危険だと考えています。

日本のメーカーもだいぶ長い歴史を刻むようになってきましたし、過去にいいデザインを残しています。自社のヘリティッジを“再訪”することでいいデザインが生まれる可能性があるのではないでしょうか。“温故知新“、そして”原点回帰“。見失ってしまった大切なものを探らなければなりません。
和田氏の代表作の一つ、初代アウディA7スポーツバック。クーペのように流麗なフォルムが美しい
和田氏の代表作の一つ、初代アウディA7スポーツバック。クーペのように流麗なフォルムが美しい

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大事なのはダイナミズム

大事なのはダイナミズム

自動車デザインは寸法など数字で決まるものではありません。私がクルマをデザインするとき考えることは、“生気や動き”をどう感じさせるか、なんです。サイドビューにおいて4つの車輪をどこに配置して、ピラーの位置などを考えます。プロポーションの重要性です。ただ数式化されているわけではないので、そこにデザイナーはイマジネーションを働かせるのです。

メルセデス・ベンツやBMWはキャビンを後ろにずらすことで古典的なプロポーションに固執しています。「Sクラス」や「7シリーズ」に代表されるセダンは代表例です。

いっぽう1980年代にいわゆる空力デザインが全盛となったとき、合理的にフロントノーズを短くして“キャブフォワード”のデザインを採用するメーカーがいくつも現れました。それを見て“古典を否定すればロマンがデザインから失われる”と嘆くデザイナーたちもいました。
事実としてみるならば、デザインにはある種の“方便”という側面はあります。米国西海岸で毎年開催されているペブルビーチのコンコース・デレガンスや、イタリア・コモ湖のコンコルソ・デレガンツァ。これらは高級クラシックカーの美しさを競うショーです。ここに自動車メーカーはコンセプトカーを出展することが往々にしてあります。

2017年のペブルビーチをみると、インフィニティの「プロトタイプ9コンセプト」とか、メルセデス・マイバッハの「ビジョン6カブリオレ」などが好例です。これらはあえてクラシックな高級車を好む人たちをターゲットと想定してデザインされています。
いっぽう、年初に米ラスベガスで開催される“もうひとつの自動車ショー”といわれるCES(消費者家電ショー)ではまったくちがう傾向のモデルが出ています。たとえばトヨタ自動車の「eパレットコンセプト」。箱に車輪がついたような電気で走るコンセプトカーと、ペブルビーチやビラデステのものとではデザインのイディオムがまったく違います。

どちらの方向性も興味深いのですが、クルマは人の暮らしや街並を美しくするという役割も持っていると思うのです。だから、どの方向性であろうと、人間味やロマンを感じさせてくれるデザインが待ち望まれているように感じています。
自らデザインした初代A7スポーツバックのミニュチュアカーを手に、カーデザインについて語ってくれた
自らデザインした初代A7スポーツバックのミニュチュアカーを手に、カーデザインについて語ってくれた

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いいデザインの見分けかた

いいデザインの見分けかた

私が好きなモデルは何か。例えば、ジョルジェット・ジュージアーロ(ジョルジェット・ジウジアーロ)さんが率いるイタルデザインが手がけた初代フォルクスワーゲン「ゴルフ」(1975)です。そもそもジョルジェット・ジウジアーロさんの作品を見て自動車デザイナーになる決意をしたので、彼は永遠のアイドルです。初代フィアット「パンダ」(1980)も好きでした。
もうひとつ、鮮烈に覚えているのが、ゴルフの実車が見たくて出かけていった販売店のショールームで、いすゞ「ピアッツァ」(1981)と出合ったときです。初代ピアッツァもジュージアーロさんの作品です。ゴルフとピアッツァを同じひとがデザインした事実こそ、自動車デザイナーの仕事の幅と奥行きを感じ、この道で生きていこうと決意するにいたったわけです。
私が考えるグッドデザインとはなにか。ひとことでいうと、心のこもったデザイン。社会性と美しさをバランスよく兼ね備えたデザインです。例えば、アウディだったら、「A2」(1999)はみごとでした。

アルミニウムのスペースフレーム構造は、軽量で、燃費に優れたクルマを作りたいという熱意の表れ。オリジナリティあるスタイリングは、ロジカルでありながら気品高い情緒を持ち合わせていました。だからあと何年たってもA2は古くさく見えないと思います。心のあるデザインはタイムレスなのです。
和田氏が自らデザインした「ISSEY MIYAKE」の新作時計。シンプルでタイムレスなデザインが美しい
和田氏が自らデザインした「ISSEY MIYAKE」の新作時計。シンプルでタイムレスなデザインが美しい
私は“いいデザインってなんでしょうか?”と尋ねられたら、あなたに欲しいクルマがあるなら、自分の街で乗るところを想像してみてください、と応えます。

あなたの暮らしや街の中にあって、違和感なく美しく自然に溶け込んでいる。それがいいデザインなのです。美は日常生活にあるものだから、ものの美しさを判断するものさし(クライテリア)を持つことが、いいデザインに出合えるカギなのです。

“美しいデザインは、暮らしや社会を良くする。”

“売れてるから買う”といった付和雷同型の価値観ではいいデザインに出合えないかもしれません。デザイナーは、“誠心誠意”心をこめたクルマをデザインするべきだし、ユーザーはそれをしっかり受け止めてほしいです。

● 和田 智

カー&プロダクトデザイナー、(株)SWdesign 代表取締役(株)BALMUDA 外部デザインディレクター。日産自動車にて初代セフィーロ、初代「プレセア」などのデザインを担当。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・ アート留学後にドイツ・アウディ AG/アウディ・デザインへ移籍。「A6」「Q7」「A5」「A1」「A7」 などの主力車種を担当。2009年アウディから独立し、自身のデザインスタジオ「SWdesign」を設立。カーデザインを中心に「新しい時代のミニマルなものや暮らし」を提案している。

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