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2025.10.05

【試乗リポート】最後のピュアV8エンジン!? マクラーレンがスゴい理由

長野県軽井沢で行われたマクラーレンのオールラインナップ試乗会を取材。今回は750S、アルトゥーラ、GTSを乗り比べて、それぞれの違いを体感してきた。

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文/藤野太一(自動車ジャーナリスト)
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写真/マクラーレン・オートモーティブ 撮影協力/白糸ハイランドウェイ 編集/森本 泉(Web LEON)

【試乗リポート】最後のピュアV8エンジン!? マクラーレンがスゴい理由
9月、長野県軽井沢でマクラーレンのオールラインナップ試乗会が開催された。現在のマクラーレンの主たるラインナップは、V8スーパーカーの「750S」とそのオープン版である「750Sスパイダー」、V6ハイブリッドスーパーカーの「アルトゥーラ」と「アルトゥーラスパイダー」、グランツーリスモスーパーカーの「GTS」の5モデルとなっている。今回は750S、アルトゥーラ、GTSを乗り比べて、それぞれの違いを体感してきた。

SUVはつくらない!? 量産メーカーばなれしたこだわりが満載

マクラーレンほどピュアな量産スーパーカーメーカーはない。いきなりそう断言するのもなんだが、そう思わせる根拠をいくつか挙げてみる。まずF1チーム直系の自動車メーカーである。そもそも自動車メーカーがF1をはじめたわけではなく、レーシングチームがルーツとしてあって、のちにその技術を使ってクルマをつくるようになったという流れだ。そういう意味ではフェラーリと通じるところがある。
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マクラーレンはすべての市販モデルにカーボンモノコックを使っている。圧倒的に軽く、高剛性なカーボンモノコックをF1マシンにおいて初めて採用したのもマクラーレンである。量産が難しく、コストのかさむカーボンモノコックをすべてのモデルに使うという徹底したこだわりがみてとれる。

そして、すべてのモデルがミッドシップであり、後輪駆動(2WD)である。乗用車の世界でも500PS超のモデルが珍しくなくなったいま、そのパワーを一般のドライバーが安全に使えるようにするために多くの自動車メーカーは4WDを採用する。

多くの人が雨の日も安心してドライブできるという意味で4WD化はとても重要だが、車両重量は重くなり、ハンドリングの軽快感は損なわれてしまう。マクラーレンは750PSのモデルをも、2WDでありながら一般のドライバーが安心して楽しめるものとして成立させている。

それからこれはポジティブな話であるかは微妙だが、SUVをラインナップしていない。かつては、スーパーカー&ラグジュアリーブランドたるものSUVには手を出さない、などという声も聞かれたものだが、いまではフェラーリもランボルギーニもアストン・マーティンもロールスロイスもベントレーもすべてのブランドがSUVをつくっているし、そのおかげでセールスを大幅にのばしている。おそらく今後マクラーレンもビジネスを拡大していくためにはSUVは避けて通れないだろう。
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現行マクラーレンの主要な5モデル。いずれにも共通するのはサメをモチーフとしたノーズを特徴とし空力性能を追求していること。
▲ 現行マクラーレンの主要な5モデル。いずれにも共通するのはサメをモチーフとしたノーズを特徴とし空力性能を追求していること。
現にこれまでも開発しているという噂はあった。実は今年、マクラーレン・オートモーティブはアブダビのCYVNホールディングス傘下となり新CEOを迎えている。年内にも新体制発表があるというので、どんな戦略が打ち出されるのか注目だ。
今回は「750Sスパイダー」、「アルトゥーラ」、「GTS」の順に試乗することができた。すべてのクルマはおろしたての新車で、内外装にはビスポークプログラム「マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ(MSO)」によるカスタマイズが施されていた。ピュアスーパーカーといってもハードコアなばかりではいられないわけで、最近では自分仕様のオリジナルに仕立てるためにMSOをオーダーするユーザーが増えているという。
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ピュアV8で700PSオーバーの後輪駆動なのに、安心して踏める

まずは鮮やかなオレンジの「750Sスパイダー」に試乗する。MSOによってF1マシンと同じオレンジカラーにブラックのカーボンファイバーパーツを組み合わせたもの。ドアはマクラーレン特有の斜め上に跳ね上がるように開く“ディヘドラルドア”と呼ばれるもの。開くとカーボンモノコックの一部である極太のサイドシルがある。助手席に女性を乗せる際には、いったんそのアルカンターラ素材で覆われたサイドシルに腰掛けてから片足ずつ車内へと誘うようエスコートはマスト。ドアにはオートクローズ機能が搭載されているので外からそっと優しく閉めるのもポイントだ。
ディヘドラルドアを開いた状態の750Sスパイダー。750Sの4リッター V8 ツインターボ・エンジンは、最高出力750PS、最大トルク800Nmを発揮。理想的な重量配分を実現するためドライバーの背後にミッドマウントされる。
▲ ディヘドラルドアを開いた状態の750Sスパイダー。750Sの4ℓ V8 ツインターボ・エンジンは、最高出力750PS、最大トルク800Nmを発揮。0-100km/h加速は2.8秒。理想的な重量配分を実現するためドライバーの背後にミッドマウントされる。
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マクラーレンモデルに共通することだが、インテリアはいたってシンプルな造形。センタースクリーンは必要最低限のサイズで、必要なスイッチが、人間工学的に使いやすい位置にある。シートも骨格がカーボンファイバー製で高剛性であることが伝わってくる。試乗車はエクステリアカラーとのコーディネートで随所にオレンジのアクセントを配色していた。
シンプルな造形の750Sのインテリア。現代のほぼすべてのクルマがステアリングにさまざまなスイッチを配置する時代にあって、運転に集中するため1つのスイッチもない。
▲ シンプルな造形の750Sのインテリア。現代のほぼすべてのクルマがステアリングにさまざまなスイッチを配置する時代にあって、運転に集中するため1つのスイッチもない。
手前に見えるのがカーボンモノコックの一部であるサイドシル。カーボン骨格のシートと同様にアルカンターラ素材で覆われており肌触りはよい。
▲ 手前に見えるのがカーボンモノコックの一部であるサイドシル。カーボン骨格のシートと同様にアルカンターラ素材で覆われており肌触りはよい。
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車名のとおり750PSを発揮する4ℓV8 ツインターボ・エンジンは、ボタン1つで獰猛な音とともに目覚める。Dモードでゆっくりと走り出すが扱いにくさのようなものは感じない。駐車場から公道に出る際に大きめの段差があったが、車高リフトボタンをおせばなんら問題はない。

750Sは今回のラインアップでもっともパワフルなモデルだが、いまや電動化されていないピュアなV8エンジンは絶滅危惧種。音、振動、加速のすべての面において刺激的である。エンジンが刺激的だからといって、クルマとして粗々しいわけではない。

トランスミッションの7速DCTはスムーズに変速してくれるし、何よりも驚くのがカーボンモノコックの恩恵もありスーパーカーとしては存外に乗り心地がいい。

ミッドシップというとフロントが軽いため前輪の接地感が不足するクルマもあるがそれもまったくない。そして後輪駆動を空力によってさらにトラクション性能を高めているため、700馬力オーバーだというのに安心してアクセルペダルを踏みこむことができる。日常のアシはEVで、週末はこのV8、いい組み合わせだと思う。
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750Sスパイダーのルーフは、50km/h以下であれば走行中でも開閉可能。所要時間はわずか11秒。カーボンモノコックゆえクーペに比べて剛性低下もほとんど感じない。
▲ 750Sスパイダーのルーフは、50km/h以下であれば走行中でも開閉可能。所要時間はわずか11秒。カーボンモノコックゆえクーペに比べて剛性低下もほとんど感じない。

モーターのおかげでより軽く、コンパクトに感じられる

次にMSO仕様の艶ありブラックの「アルトゥーラ」に乗る。内外装には先の750Sより濃いオレンジのアクセントカラーが用いられていた。ハイブリッドだからといって特別にかわった雰囲気はない。メーター内にバッテリー残量やEV走行距離などが表示されるくらいだ。
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「アルトゥーラ」のパワートレインは新開発の3ℓV6ツインターボに8速DCTと統合するかたちで最高出力95PS、最大トルク225Nmを発揮する電気モーターを組み合わせている。最高出力700PS、最大トルク720Nm。0-100km/h加速3.0秒、最高速度は330km/h。
アルトゥーラのインテリアもいたってシンプル。ステアリングにスイッチのたぐいは1つもない。メーター内にバッテリー残量やEV走行距離が表示される。
▲ アルトゥーラのインテリアもいたってシンプル。ステアリングにスイッチのたぐいは1つもない。メーター内にバッテリー残量やEV走行距離が表示される。
バッテリー残量が十分であればエレクトリックモードで、EV走行することができる。満充電であれば距離は約30km、速度としては時速130kmくらいまではEV走行が可能となっている。

エンジンは新開発の3ℓV6ツインターボで、8速DCTと統合するかたちで電気モーターを組み合わせている。スルスルと無音で走りだし、750Sのような迫力はない。車両重量は1498kgと、先に乗った750Sスパイダーと比べて60kgほど重いのだが、音もなく走り出し、振動もなく加速していくアルトゥーラのほうがひと回りコンパクトなクルマに感じられた。
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アルトゥーラのシャープなサイドシルエット。ハイブリッドのためシート背後に7.4 kWhのリチウムイオンバッテリーコンパートメントを配置し、それはクロスメンバーとしても機能する設計となっている。
▲ アルトゥーラのシャープなサイドシルエット。ハイブリッドのためシート背後に7.4 kWhのリチウムイオンバッテリーコンパートメントを配置し、それはクロスメンバーとしても機能する設計となっている。
もちろんエンジンが始動すれば、最高出力700PS、最大トルク720Nm。0-100km/h加速3.0秒とまさにスーパーカーのそれである。足回りは750Sに比べるとコンフォートなセッティングがされているようで、荒れた路面の峠道でもバタつくことなく軽快に走る。深夜早朝に出かける際の罪悪感がないというのはやはりいいものだ。都市型スーパーカーである。

目利きが選ぶ、マクラーレンらしさの詰まったモデル

最後はMSO仕様のラヴァグレーに塗られた「GTS」に乗る。これはレッドのラメが入っており、太陽光の下ではきらきらと輝くスペシャルペイント。インテリアを華やかにみせるホワイトのアニリンレザーのシートもとても座りのいいものだった。
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地面とフロントスポイラーのクリアランスを広くとるなど、実用性を重視したGTS。リアにはキャディバックを縦に積めるラゲッジルームを備えている。
▲ 地面とフロントスポイラーのクリアランスを広くとるなど、実用性を重視したGTS。リアにはキャディバックを縦に積めるラゲッジルームを備えている。
このモデルももちろんカーボンモノコックを採用している。GTという車名からもわかるようにコンビニだって気兼ねなくいける高めにデザインされたフロントスポイラーや、後方視界のよさ、リアにはキャディバックが収まるラゲッジスペースを備えるなど、実用性を重視したモデルだ。乗り心地も3モデル中もっともソフトなセッティングになっている。
シンプルな造形はGTSも共通のもの。GTカーであってもステアリングスイッチを置かないのもいかにもマクラーレンらしい走りへのこだわり。
▲ シンプルな造形はGTSも共通のもの。GTカーであってもステアリングスイッチを置かないのもいかにもマクラーレンらしい走りへのこだわり。
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柔らかく上質なアニリンレザーを用いたシート。ガラスルーフは天候に応じて自動で色が変わる仕組み。
▲ 柔らかく上質なアニリンレザーを用いたシート。ガラスルーフは天候に応じて自動で色が変わる仕組み。
それでいて実はエンジンはピュアV8だ。750Sほどのパワーはないが、それでも最高出力635PS、最大トルクは630Nm。0-100km/h加速3.2秒、最高速度は326km/hと、スペックはまったくもってスーパーカーである。個人的には英国車らしいアンダーステイトメントなデザインも好み。どれか1台に乗って帰っていいと言われたらこれを選ぶ。
「モノセルII-T」と呼ばれるカーボンモノコックを採用。これに連続可変電子制御デュアルバルブ・ダンパーを備えたプロアクティブ・ダンピング・コントロール・サスペンションを組み合わせることで、スーパーカーばなれした快適な乗り味を実現している。
▲ 「モノセルII-T」と呼ばれるカーボンモノコックを採用。これに連続可変電子制御デュアルバルブ・ダンパーを備えたプロアクティブ・ダンピング・コントロール・サスペンションを組み合わせることで、スーパーカーばなれした快適な乗り味を実現している。
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これはまだ正式に発表されたものではないが、来年には日本向けの750SとGTSの生産終了が想定される。最新の法規に適合していないためで、おそらくアルトゥーラ以外のモデルの継続生産は難しいだろう。先の新体制の話もあり、今後の展開はそこで明かされることになるのかもしれないが、もしかするとピュアなV8エンジンを搭載するマクラーレンはこれで最後になるのかもしれない。気になる方はお急ぎを。
藤野太一(自動車ジャーナリスト)
大学卒業後、自動車情報誌「カーセンサー」、「カーセンサーエッジ」の編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。最新の電気自動車からクラシックカーまで幅広い解説をはじめ、自動車関連のビジネスマンを取材する機会も多くビジネス誌やライフスタイル誌にも寄稿する。またマーケティングの観点からレース取材なども積極的に行う。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属。写真/安井宏充

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