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2025.05.21

【試乗リポート】ラストオーダー迫る! BMWアルピナの最終モデルB3 GT& B4 GTを味わい尽くす

BMWの協力のもと約60年にわたって独自のモデルをつくり続けてきたアルピナが今年大きな転機を迎える。2025年末をもってアルピナブランドはBMWグループへと譲渡され、現アルピナ社が開発を手掛ける“BMWアルピナ”は終焉を迎える。その最終モデルとなる「B3 GT」と「B4 GT」を試した。

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文/藤野太一(自動車ジャーナリスト)

秘伝のレシピによって生み出されてきた“BMWアルピナ”

BMWアルピナ
2022年3月、驚きのニュースが流れてきた。「BMWグループがALPINAブランドを取得」。それはアルピナのブランド商標権をBMW本社が取得し、2025年末をもっておよそ60年におよぶ両社の協力関係を終了するというものだった。

ドイツミュンヘン西部、ブッフローエに本拠を置くアルピナ社。正確にはアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限/合資会社は、BMWの協力のもとエンジンやボディの提供をうけ、それをベースに“アルピナ・マジック”と称されるボーフェンジーペン家に伝わる秘伝のレシピによって独自の“BMWアルピナ”を生み出してきた。その集大成となるのが今回試乗した「B3 GT」と「B4 GT」である。
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BMW3シリーズセダン&ツーリングをベースとした「B3 GT リムジン」(左)と「B3 GT ツーリング」。
▲ BMW3シリーズセダン&ツーリングをベースとした「B3 GT リムジン」(左)と「B3 GT ツーリング」。
4シリーズグランクーペをベースとした「B4 GT」。
▲ 4シリーズグランクーペをベースとした「B4 GT」。
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これまでにもBMW3シリーズセダン&ツーリングをベースとした「B3」と、4シリーズグランクーペをベースとした「B4」というモデルがラインアップされていた。この「B3 GT」と「B4 GT」は、ベースとなるBMWモデルのマイナーチェンジを受けてのファイナルバージョンということになる。
フロントバンパー下端の左右に配置された黒い整流板がカナード。
▲ フロントバンパー下端の左右に配置された黒い整流板がカナード。
アルピナはこれまでにも「GT」の名を冠したモデルを用意してきたが、その名のとおりより速く、より快適にグランドツーリング性能が高められている。エクステリアでのわかりやすい差異といえばフロントバンパーの左右に備わるカナードとスプリッターだ。これは決してコスメティックな意味合いで装着されているものではない。
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アルピナは瞬間的な最高速度をうたうことはない、カタログに記載されるのはその速度で走り続けられるという“巡航最⾼速度”で、B3 GT(リムジン)は308km/h、B4 GTは305km/hとなっている。

300km/hで巡航することを見据えて空力テストが行われており、その結果B3 GTとB4 GTとでは異なるデザインのカナードを備えている。さらに新デザインのリヤディフューザーと組み合わせることで、トータルとしてのエアロダイナミクス性能を高めている。
4本出しのマフラーの一体となったデザインのリヤディフューザーもエアロダイナミクス性能を向上させている。
▲ 4本出しのマフラーの一体となったデザインのリヤディフューザーもエアロダイナミクス性能を向上させている。
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そしてエンジンは、M3/M4が搭載するS58型3ℓ直列6気筒ツインターボ。BMWマニアのあいだでは型式に「S」がつくエンジンはMモデル専用の特別なものと認知されているが、アルピナはそのスペシャルエンジンにさらに独自のハードウエア変更およびエンジンマッピングの変更を実施。最高出力529PSと最大トルク730Nmを発揮する。

ちなみにM3/M4の最高出力は530PS、最大トルクは650Nm。最高出力を追い求めるのではなく、トルクを増強しドライバビリティを高めるのがこれまで同様にアルピナの流儀だ。
ステアリングにはアルピナ独自の最高級ラヴァリナ・レザーを採用。ステッチも手作業で仕上げられておりBMWモデルとは一線を画す手触りに。
▲ ステアリングにはアルピナ独自の最高級ラヴァリナ・レザーを採用。ステッチも手作業で仕上げられておりBMWモデルとは一線を画す手触りに。
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BMWと同じくシフトセレクターの脇にあるエンジンスタート/ストップボタンで始動する。決して騒々しくはない、どこか威厳をたたえたような、只者ではない雰囲気が伝わってくる。

トランスミッションは8速ATだが、これも出力向上にあわせて高トルク対応型へと変更されている。そっとアクセルに力を込めるとぐっとトルクが立ち上がり、そしてスムーズで途切れることのない波に乗るようなフィーリングを市街地から高速道路までさまざまなシーンで味わうことができる。
シフトセレクターの脇にはシリアルナッバーの入った製造番号プレートが備わる。エンジンルーム内に配されたバッジにも、このシリアルナンバーが刻印されている。
▲ シフトセレクターの脇にはシリアルナンバーの入った製造番号プレートが備わる。エンジンルーム内に配されたバッジにも、このシリアルナンバーが刻印されている。
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シートにも独自のラヴァリナ・レザーを採用。コンフォート性と適度なホールド感を兼ね備えていることで快適なロングドライブをサポート。
▲ シートにも独自のラヴァリナ・レザーを採用。コンフォート性と適度なホールド感を兼ね備えていることで快適なロングドライブをサポート。

足回りの絶妙な味付け。これぞアルピナ・マジック

これぞアルピナ・マジックともいわれるシャシーセッティングはもちろん健在。B3 GTのエンジンフードを開けると、補強材であるど迫力のドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラットが目に飛び込んでくる。これは従来のB4専用品だったがB3にも採用された。これによりフロントエンドの剛性をさらに高め、B3 GTではこれにあわせてリヤスタビライザーも強化しており、ステアリングのレスポンスと精度を向上させている。
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エンジンフードを開けると目に飛び込んでくるアルピナ独自のドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラット。ボルトの締め付けトルクまで厳密に管理されているという。フロントエンドの剛性を高め、ステアリングの精度を向上させる。
▲ エンジンフードを開けると目に飛び込んでくるのが左右に配置されたアルピナ独自のドーム・バルクヘッド・レインフォースメント・ストラット。ボルトの締め付けトルクまで厳密に管理されているという。フロントエンドの剛性を高め、ステアリングの精度を向上させる。
スポーツ性能を高めたからといって、それと引き換えにコンフォート性能を損なうのはアルピナの本懐ではない。走行モードには「スポーツプラス」「スポーツ」「コンフォート」に加えてアルピナ独自の快適性重視モード「コンフォートプラス」が設定されているが、これがまた絶妙。アルピナオリジナルの20インチ鍛造ホイールを装着しているが、それを忘れさせてしまうほどの乗り心地を実現している。

このGTでは従来モデルよりもメリハリのあるセッティングになっているように感じた。「スポーツ」か「コンフォート」か「コンフォートプラス」か(他にもスポーツプラスやインディビデュアルなどもあるが)、その日の気分や走行するシーンに合わせて走行モードを変えてみるのも楽しい。
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アルピナ・オリジナルの20インチ鍛造ホイール。カラーはGT専用のオロ・テクニコ。タイヤもアルピナ専用開発のピレリPゼロ。
▲ アルピナ・オリジナルの20インチ鍛造ホイール。カラーはGT専用のオロ・テクニコ。タイヤもアルピナ専用開発のピレリPゼロ。
大型のキドニーグリルが特徴的なB4 GT。
▲ 大型のキドニーグリルが特徴的なB4 GT。
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一方でB4GTではフロントアクスルには、マウントが強化された新しいスタビライザーを採用。可変スポーツ・ステアリングとアクティブ・ダイナミック・ダンピング・コントロールのセットアップも大幅に変更されている。走行モードはB3 GTと同様の選択肢が用意されているが、B4 GTのほうがよりスポーティな味付けになされている。
B4GTの特徴は、サッシュレスドアのいわゆる4ドアクーペであること。ドアを開閉する際に窓枠がないためクーペライクなスタイリッシュなデザインを演出できる。
▲ B4GTの特徴は、サッシュレスドアのいわゆる4ドアクーペであること。ドアを開閉する際に窓枠がないためクーペライクなスタイリッシュなデザインを演出できる。
実は電気自動車のi4とプラットフォームに相関性があるようで明らかにフロア剛性はこちらのほうが高く感じる。その特性にあわせたダンバーとスプリングを選択することでアジリティ性を高めている。
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「B3 GT」、「B4 GT」ともに駆動方式は4WD。リヤ重視の完全可変式の四輪駆動システムと電子制御式リミテッド・スリップ・ディファレンシャルの組み合わせで、ドライバーの意のままになる正確なハンドリング性能を実現。
▲ 「B3 GT」、「B4 GT」ともに駆動方式は4WD。リヤ重視の完全可変式の四輪駆動システムと電子制御式リミテッド・スリップ・ディファレンシャルの組み合わせで、ドライバーの意のままになる正確なハンドリング性能を実現。

レストラン“アルピナ”のラストオーダーはもう間もなく

「B3 GT」か「B4 GT」か。どちらも4ドアでボディ形状が違うだけかといえば、実はそうではない。佇まいも含めてアルピナ伝統のアンダーステイトメントさを求めるのならば「B3 GT」のリムジン(セダン)もしくはツーリング(ワゴン)という選択になるだろう。実際に乗り味もB4に比べればしなやかに感じられた。

一方で押し出しの強いキドニーグリルを備えた「B4 GT」はそのルックスともあいまってよりスポーティな味付けとなっている。ひとつの歴史の最後を飾るにふさわしい華のあるモデルといえるだろう。
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独自のラヴァリナ・レザーをはじめ、手に違和感を与えないようデザインされたステアリングホイールのステッチなどはアルピナ伝統のもの。フロアマットやラゲッジ・コンパートメントマットにまで縁取りのステッチが施されている。実はベースとなる新型のBMW 3シリーズおよび4シリーズではシフトセレクターが廃止されたが、アルピナではあえてクラシックなギア・セレクターを引き続き採用している。
▲ 独自のラヴァリナ・レザーをはじめ、手に違和感を与えないようデザインされたステアリングホイールのステッチなどはアルピナ伝統のもの。フロアマットやラゲッジ・コンパートメントマットにまで縁取りのステッチが施されている。実はベースとなる新型のBMW 3シリーズおよび4シリーズではシフトセレクターが廃止されたが、アルピナではあえてクラシックなギア・セレクターを引き続き採用している。
約60年つくり続けられたアルピナの哲学を端的に言葉にすると、「快適性に重点を置いたインテリア、想像を超えるドライビング・パフォーマンス、そしてスポーティでありながらも控え目な外観」である。爆音を放つマフラーも、ド派手なエアロパーツも、レーシングカーさながらのインテリアも、それらはアルピナにはふさわしくない。その哲学は最後まで貫かれ、そしてこの「B3 GT」と「B4 GT」で結実している。

ドイツの小さな自動車メーカーが仕立てる、酸いも甘いもよく知る自動車グルメのための逸品。レストラン“アルピナ”のラストオーダーの時間はもう間もなくです。
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藤野太一(自動車ジャーナリスト)
大学卒業後、自動車情報誌「カーセンサー」、「カーセンサーエッジ」の編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。最新の電気自動車からクラシックカーまで幅広い解説をはじめ、自動車関連のビジネスマンを取材する機会も多くビジネス誌やライフスタイル誌にも寄稿する。またマーケティングの観点からレース取材なども積極的に行う。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属。写真/安井宏充

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