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2025.05.18

【試乗リポート】ヒョンデ「インスター」は日本のEV市場の黒船になるか!?

韓国の現代自動車(ヒョンデ)のBEV(電気自動車)第4弾がコンパクトSUVの「インスター」。そのユニークなデザインに目を奪われがちだが、装備内容、走行性能、そして価格といずれも日本のメーカーにとって脅威となる驚きの出来栄えだった。

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文/藤野太一(自動車ジャーナリスト)

サイズ、性能、価格のバランスがピカイチ! 日本のメーカーにとっては脅威⁉

現代自動車(ヒョンデ) インスター
かつて現代自動車は“ヒュンダイ”という呼び名で日本市場でも販売されていたが、業績はふるわず一度撤退した過去がある。しかし、いまでは現代グループはトヨタ、VWグループにつぐ世界第3位の自動車メーカーにまで躍進。そして、2022年に呼び名を“ヒョンデ”へと変更し、日本市場への再参入を果たした。現在国内ではFCEV(燃料電池車)またはBEVとゼロエミッションビークルのみを販売する戦略をとっている。

そしてこの「インスター」は現ラインアップにおいて最小コンパクトという位置づけのモデル。ベースは韓国の軽自動車規格に準拠した小型車キャスパーで、そのBEV版にあたる。本国での車名はキャスパーエレクトリック、日本や欧州ではインスターとなっている。
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▲ ヒョンデの最小コンパクトEV、インスター。スリーサイズは全長3830mm、全幅1610mm、全高1615mm。

シートベンチレーションまで! 上位モデルに匹敵する充実装備

全長3830mm、全幅1610mmという最近では珍しい5ナンバーサイズはいかにも市街地で使いやすそうなもの。エクステリアでは、フロントマスクの目にあたる部分が、四角いピクセルデザインのウインカーランプになっている。その下にある丸型のLEDランプがデイタイムライト&ヘッドランプである。

大きく張り出した前後のフェンダーがボディデザインに抑揚を与えており、また後席のドアハンドルをウインドウ部に収め、そこにフロントマスクのようなアイコンをあしらうなど遊び心も効いている。
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リアまわりでは、ブレーキランプがピクセルデザインに。丸型の意匠の中央にある2本のランプがウインカーになっている。
▲ リアまわりでは、ブレーキランプがピクセルデザインに。丸型の意匠の中央にある2本のランプがウインカーになっている。
フロントのナンバープレートの脇に配置された充電ポート。150kWの急速充電器(CHAdeMO)に対応しており、約30分で10〜80%まで充電が可能。
▲ フロントのナンバープレートの脇に配置された充電ポート。150kWの急速充電器(CHAdeMO)に対応しており、約30分で10〜80%まで充電が可能。
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インテリアには、10.25インチのデジタルメータークラスターとダッシュボード中央にも同じく10.25インチのディスプレイを配置している。シフトレバーはコラム式、前席はベンチシートになっており左右への移動もしやすい。またあえて乗車定員を4名とし、後席にはリクライニング機構とスライド調整機能を搭載しており、この外観からは想像できないほどの広々とした空間を実現している。
明るく開放感のあるインテリア。ベンチシート&コラム式シフトで左右のウォークスルーが可能。
▲ 明るく開放感のあるインテリア。ベンチシート&コラム式シフトで左右のウォークスルーが可能。
BEVだけにフロアはフラットで広々とした空間。後席は前後に80mmずつスライドしシートバックは14°ずつリクライニングが可能。
▲ BEVだけにフロアはフラットで広々とした空間。後席は前後に80mmずつスライドしシートバックは14°ずつリクライニングが可能。
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さらにシートアレンジの多彩さもこのクルマのセールポイント。運転席/助手席をはじめ、5:5分割可倒式の後席まで、すべてのシートバックのフルフォールディングが可能。サーフボードなどの長尺モノの搭載はもちろんアレンジを加えれば車中泊もできそうだ。

最上位グレードの「Lounge」には、シートヒーターだけでなくシートベンチレーションまでも標準装備するなどクラスを超えた充実ぶり。さらに前席だけでなく後席用にもType-CのUSBポートが備わる。ちなみに車内外で電気機器を使用できる「V2L(Vehicle to Load)」機能は、エントリーモデルを含め全車に標準装備だ。
全席&後席すべてをフラットにした状態。長尺ものの搭載はもちろん車中泊もできそうなスペースが生まれる。
▲ 前席&後席すべてをフラットにした状態。長尺ものの搭載はもちろん車中泊もできそうなスペースが生まれる。
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コンソール下部にあるコンセントで家電も使用できる、最大電力容量は1360W。USBポートも備わる。
▲ コンソール下部にあるコンセントで家電も使用できる、最大電力容量は1360W。USBポートも備わる。
グレードは3つのバリエーションがある。エントリーグレードの「Casual」は、駆動用バッテリー容量が42kWhで最高出力97PS、最大トルク147Nmを発揮。中位の「Voyage」と最上位グレードの「Lounge」はバッテリー容量49kWhで最高出力115PS、最大トルク147Nmと同一。一充電走行距離は「Voyage」と「Lounge」が458kmとなっている。

また最新のADAS(先進運転支援システム)も標準装備。高速道路で前方車両との車間距離を維持する高速道路ドライビングアシスト(HDA)をはじめ、前進、後退時などにペダルの踏み間違いによる急加速を抑制する、ペダル踏み間違いセーフティアシスト(PMSA)をヒョンデとして初採用する。
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ウインカーを作動するとメーター内に後方の映像が映し出されるのだが、右左折時の巻き込み予防策としてもとても有用だと感じた。

最上位グレードの「Lounge」でもほぼ300万円

走行性能に関しては、日本に独自の開発チームをおいてチューニングを施したという。ジョイント部の突き上げがきつい首都高速などでもテストを行い日本仕様では足回りをソフトに、またステアリングシステムにも変更が加えられている。

ホイールベースの短いコンパクトサイズゆえ乗り心地にはそれほど期待していなかったが、フロアの強化や厚いドアガラスを採用するなど音、振動対策が施されており、クラスを超えた快適性を実現している。

そしてスペックは取り立ててすごいわけではないが、加速性能も不足はない。アクセルペダルに力を込めればBEVらしくスムーズにスピードがのる。また、回生ブレーキの強度は4段階もしくは自動モードの中から選択可能だ。自動モードでは先行車やナビの情報をもとに自動的に回生ブレーキのレベルを調整し、停止まで行ってくれる。
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現代自動車(ヒョンデ) インスター
車両価格はこれだけの内容でエントリーの「Casual」が284万9000円、「Voyage」が335万5000円、最上位の「Lounge」でも357万5000円。先日2025年度のCEV補助金が発表されたが、インスターは3グレードとも56万2000円も受けられるというから、最上位の「Lounge」でもほぼ300万円。実際、300台を超える先行予約があり、約7割の人が「Lounge」を選んでいるのも合点がいく。

ヒョンデによると日本の一般道の8割以上は1970年以前に整備されたもので、当時は登録車の99%が5ナンバーだったという。それがいまでは5ナンバーはわずかに3割。要は道は広くなっていないのに、街を走るクルマだけがどんどん大きくなっているということだ。
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サイズ、性能、価格のバランスを鑑みればまだ閉鎖的な日本のEV市場において黒船になりうるモデルかもしれない。それを日本のメーカーでなく、ヒョンデに提示されていることに時代の転換期を感じずにはいられない。
藤野太一(自動車ジャーナリスト)
大学卒業後、自動車情報誌「カーセンサー」、「カーセンサーエッジ」の編集デスクを経てフリーの編集者兼ライターに。最新の電気自動車からクラシックカーまで幅広い解説をはじめ、自動車関連のビジネスマンを取材する機会も多くビジネス誌やライフスタイル誌にも寄稿する。またマーケティングの観点からレース取材なども積極的に行う。JMS(日本モータースポーツ記者会)所属。写真/安井宏充

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