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2022.08.15

第23回

「ムーンフェイズ」を語れたら時計通? 宇宙へのロマンが詰まった機構です

文字盤の上の月のことを「ムーンフェイズ」と呼びます。目を引くユニークなディテールだけに知っている人も多いでしょうが、その仕組みまで説明することはできますか? 意外と知られていない、ムーンフェイズのスゴさをご紹介します。

CREDIT :

文/渋谷康人

文字盤の上で月が満ち欠けするムーンフェイズ

▲ ブランパンのレディースモデルのムーンフェイズには、目と鼻と口、さらに眉毛やまつ毛、えくぼまで描かれている。「ヴィルレ デイト ムーンフェイズ」自動巻き、18Kレッドゴールドケース(33.2mm)、アリゲーターストラップ。249万7000円/ブランパン(ブランパン ブティック銀座)
▲ ブランパンのレディースモデルのムーンフェイズには、目と鼻と口、さらに眉毛やまつ毛、えくぼまで描かれている。「ヴィルレ デイト ムーンフェイズ」自動巻き、18Kレッドゴールドケース(33.2mm)、アリゲーターストラップ。249万7000円/ブランパン(ブランパン ブティック銀座)
機械式時計の中で特に目を引くディテールのひとつが「ムーンフェイズ」でしょう。その名前を知らなくても、“文字盤の上のお月様”と言われればピンと来るはず。

ムーンフェイズは見た目がユニークなだけでなく、機械式時計の中でも高度な技術が必要とされる「7大複雑機構」のひとつにも数えられています(レトログラードはこちら)。

今回は、意外と知らないムーンフェイズについて、レクチャーいたします。
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ムーンフェイズ=月の顔、ではない??

時計好きの方ならムーンフェイズと聞くと、文字盤の中にある“月のモチーフが付いた小さなディスクが中で回転するインダイヤル”をすぐに思い浮かべると思います。

月のモチーフの中には目や口や鼻が付いて顔にしたもの、つまり月を擬人化して絵本の中の「お月様」のように表現したものもあります。そのため「ムーンフェイス」と思っている人もいるようです。

しかし、この「フェイズ(phase)」とは日本語で「位相」のこと。月が満月なのか上弦なのか下弦なのか三日月なのか新月なのか、その状態を表す機構のことです。
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なぜ、月は規則正しく満ち欠けをするのか

ところで、なぜ月は毎晩見るたびに、満月からほとんど見えない新月まで、その見え方が変わるのでしょう?

それは、月が自転しながら地球の周りを公転していて、地球から見た太陽と月の位置関係が変わるからです。月と太陽と地球の位置関係で、月のどこにどのくらい太陽の光が当たるかが変わります。

太陽・月・地球が並ぶと月は影になって、地球からは真っ黒く見えます。これが新月。その反対の位置にある時には、地球からはまん丸く見える。これが満月ということです。

この「月の満ち欠け」は、平均すると「29日と12時間44分28秒」という周期で起こります。人はこの月の満ち欠けが規則正しく起きることに気づき、この周期を元に暦を作りました。これが太陰暦です。

太陰暦は日本でも明治5年までは使われていましたが、現在では太陽と地球の運行に基づいたグレゴリオ暦が採用されています。
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月の満ち欠けを文字盤上に再現

ムーンフェイズという表示機構は、この規則正しい月の満ち欠けを、歯車輪列と月をモチーフにした円盤の動きで再現したものです。「29日と12時間44分28秒」という周期は「44分28秒」を切り捨ててしまえば「29.5日」になります。

この周期、つまり29.5日で1回転する歯車を作り、その上に満月を描いたディスクを載せ、その一部を覆って満ち欠けを再現すれば、月のこの周期を再現できることになります。

しかし、0.5歯という歯車は作れません。そこで一般的なムーンフェイズは、この29.5の倍数の59歯の歯車と、その上に2つの月を描いたディスクを載せて回転させているのです。
▲ 日付表示と一体化されたロンジンのムーンフェイズ。「ロンジン マスターコレクション」自動巻き、SSケース(40mm)、アリゲーターストラップ。33万8800円/ロンジン
▲ 日付表示と一体化されたロンジンのムーンフェイズ。「ロンジン マスターコレクション」自動巻き、SSケース(40mm)、アリゲーターストラップ。33万8800円/ロンジン
ただ、この59歯の歯車を使った一般的なムーンフェイズの表示機構は、1日当たり切り捨てた「44分28秒」の誤差が生まれてしまうので、計算すると約2年8カ月で1日分、月の動きと表示がズレてしまいます。

この59歯の歯車を使う方法は、現存する16世紀の天文機構付きの置き時計の時代から、スタンダードとして使われてきました。天才ブレゲもこの方法でムーンフェイズを作っていましたし、現代の時計のムーンフェイズ機構も、ほとんどがこの方法を採用しています。
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より正確さを追求した精密ムーンフェイズも登場

約2年8カ月で1日ズレる。この誤差をあなたはどう思いますか? 恐らくは、「月齢なんて使うものじゃないから、ひとつの“動く装飾”と考えて、楽しめばいい」という人がほとんどだと思います。

でも、いつの時代でも時計技術者は、より優れた表示の精度・正確さを追求せずにはいられないようです。機械式時計ブームが起きた1990年代以降、彼らはより正確なムーンフェイズ機構の開発に真剣に取り組みました。

そして30年経った現在、高級な機械式時計のムーンフェイズの精度は、従来の40倍「122年と46日で1日の誤差」がスタンダードになりました。

特に高性能なムーンフェイズとして知られるのが、IWCやA.ランゲ&ゾーネ。
▲ IWCは、北半球から見える月相と南半球から見える月相のふたつのムーンフェイズ表示を備えるのが特徴。「ビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレ ンダー」自動巻き、SSケース(46.2mm)、カーフストラップ。6気圧防水。391万500円/IWC
▲ IWCは、北半球から見える月相と南半球から見える月相のふたつのムーンフェイズ表示を備えるのが特徴。「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー」自動巻き、18Kレッドゴールドケース(44.2mm)、アリゲーターストラップ。524万7000円/IWC ※9月1日以降価格変更
IWCは北半球と南半球の月相を表示するダブル・ムーンムーンフェイズが特徴で、実際の月の満ち欠けとの間に生じる誤差が577.5年間でたった1日分です。
一方、A.ランゲ&ゾーネは、1058年で1日の誤差という精度のムーンフェイズ機構を開発し、製品化しました。
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宇宙とつながるメカニズム

さて、ムーンフェイズの仕組みをおさらいしたところで、この機構にはどんな価値があるのでしょうか?

それは、時計の原点であり宇宙に直接つながるメカニズムであること。そして、人が宇宙に対して抱くロマンが詰まった機構、とも言えるでしょう。

そもそも時計は「規則正しい時間の流れ、季節の移り変わり=宇宙の法則」を再現する機械です。

目視で知ることができる月の満ち欠けは、人類が最初に発見した宇宙の法則のひとつと考えられます。世界中で月に関する神話や物語が存在するのもそのためでしょう。

ムーンフェイズにはそんな、ロマンチックなストーリー、そして、人類が“時”というものを知った歴史が、込められているのです。
※掲載商品はすべて税込み価格です

■ お問合せ 

IWC 0120-05-1868
A. ランゲ&ゾーネ 0120-23-1845
ブランパン ブティック銀座 03-6254-7233
ロンジン 03-6254-7351

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