
一路、高級時計製造の発祥の地へ
1999年以降、より良い環境作りのため、設備投資と工房の拡張、近代化を進め、それまで各所に点在していた製造部門をひと所に統一。それにより製造、仕上げ、組み立てといった実に細やかな各工程とそこに携わる職人たちがより密接となり、細部へのこだわりへの理解が一層深まったという。
ちなみに面取りにはいくつかの手法があるが、ブレゲでは、もっとも集中力と労力を必要とする手作業が選択されている。極小のパーツの内角・外角をヤスリで磨き分け、さらに木材ツールで光沢を引き出し、美しい艶を纏わせる──これらを完全手作業で行うというのだから、いやはや気が遠くなる。実際に筆者も体験させていただいたが、結果は……職人たちへの敬意の念が深まることとなった。
時計界のチャンピオンシップを獲得するために
手動のギヨシェ彫り機を用いて、文字盤やケース、ローターにさまざまな装飾模様を施していくのだが、ここでもマニュファクチュールの一体化が好影響を生んでいる。数々の名作を手掛けてきた熟練職人と未来ある若手がひとつの部屋で作業をすることで、技術の研鑽が進み、伝統的な技術がしっかりと継承されていくのだ。

ムーブメントの設計者は、ムーブメントのネジごとにそれを締め付けるトルクを厳格に定めているが、無論それは正確な時を刻み、各機能を正常に動かすために必須のもので、いわば時計という機械の根本に繋がるルール。これまでは連綿と継承されてきた組み立て職人たちの手の感覚に委ねられるものであったが、ブレゲはなんと、各所のネジに最適なトルクに調整できるネジ回しそのものを開発。この特殊な工具によって、上述の“ルール”が完璧な状態で守られることとなった。ほかにも特殊な注油機を開発するなど、伝統技法と最新のテクノロジーを掛け合わせることで、日進月歩な技術向上が計られていたのである。
今回のブレゲ・マニュファクチュール取材によってわかったこと。それは、天才時計技師 アブラアン-ルイ・ブレゲに端を発するブレゲの時計作りが、そのDNAを継承しつつ最新テクノロジーのサポートをもって、さらなる高次元で飛躍中だということ。それはさながら、高い技術を持ったプレイヤーが整備された環境で研鑽を積み、緻密な戦略をもって勝利に邁進するフットボールチームのようであった。前編で報じた新「タイプ XX」の投入も含め、ブレゲは、時計界のチャンピオンシップを当分明け渡す気はないようである。