
ブレゲ”第4の柱”を担う「タイプ XX」ニューモデル
1775年、天才時計技師 アブラアン-ルイ・ブレゲが創業したブレゲは、時計業界きっての老舗でありながら、今なお革新を続ける先進ブランドだ。トゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーといった数多の複雑機構の発明で知られ、昨今では、最高品質かつ優美なドレスウォッチを揃える「クラシック」コレクション、創業者の傑作懐中時計をインスピレーションとする「トラディション」コレクション、航海用精密時計のDNAを今に受け継ぐ「マリーン」コレクションが人気の三本柱。時計通の圧倒的な支持を集めている。
そんなブレゲが今年の6月、「タイプ XX」のニューモデルをパリで発表したことは記憶に新しいだろう。航空の歴史とあまりに密接な、特別な個性をもつこのパイロットウォッチは、すぐさまワールドワイドな話題となった。
──ここではLEON.JPの編集長・石井が体験したパリでの発表の様子とブレゲの心臓部であるマニュファクチュール取材を通して、話題の新「タイプ XX」が、ブレゲの“第四の柱”たる実力を秘めたモデルであることを確認していきたい。
ブレゲと航空業界の深い関係を学ぶ旅


ここでは航空業界のパイオニアのひとりであり、ブレゲの創業者、アブラアン-ルイ・ブレゲの玄孫(孫の孫)にあたるルイ-シャルル・ブレゲの偉業を垣間見ることができた。時計製造の歴史の“祖”たる家系のルイ-シャルルが、当時最先端の航空科学に魅せられたという事実に、先進性のDNAを感じたのは言うまでもないだろう。
ちなみにヘリコプターの前身となるジャイロプレーンの発明もルイ-シャルルによるもの。世界的な飛行イベントでの新技術飛行機によるフライトなどで名を馳せていった彼は、1911年、ブレゲ・アビエーション社を設立するのだが、そこで生み出された飛行機が世界で活躍していくとともに、機体に装備する時計やパイロットが身に付ける時計を時計製造会社としてのブレゲから購入することで、ブレゲと“空”の深い関係が構築されていくことになった。

ここではブレゲ製造の貴重なコックピットウォッチから、「タイプ XX」の第1〜第3世代(1953〜2022年)を見ることができたのだが、歴史的資料とともに時系列で展示されていた計器や腕時計を見るにつけ、極度の緊張のなかで激務を強いられるパイロットの、まさに生死をわかつ“時間”の概念に想いを馳せることとなった。
飛行時間のみならず、燃料消費、方位測定、果てはさまざまな作戦遂行の面からも正確な時間計測が必須であることは自明だが、それはイコール、精緻なクロノグラフ機能の開発・進化であり、1930年代にすでにクロノグラフ機能搭載の腕時計を数多く製造していたブレゲは、1954年、フランス空軍に納入を開始することとなる。
夜光の数字と針を配したブラックダイヤル、気圧や速度変化に耐えるムーブメント、回転ベゼル、そしてフライバック機能を有するクロノグラフを備えた軍用の「タイプ 20」である。
“栄華を極めたパリ”の雰囲気のなか、発表された新「タイプ XX」

ちなみにプティ・パレは、1900年に開催されたパリ万博に合わせて建設された美術館であり、館そのものも芸術作品とされる場所。パリ文化の栄華を彷彿とさせる場所での発表会、それに付随した特別なディナーは、ブレゲにとって「タイプ XX」がいかに重要な存在であるかの裏返しでもあった。

それぞれの詳細は過日LEON.JPでも紹介したので参照してほしいが、個人的には軍用モデルの系譜であり、“XX”ではなく、当時用いられていたアラビア数字の“20”を冠した「タイプ 20 クロノグラフ 2057」の印象がことのほか強かった。
原型のスタイルを忠実に保ちながらも、ブラック仕上げのダイヤルやミントグリーンの夜行塗料は視認性も高いうえにファッション感度の側面からも良好で、ポワル(梨)型のリュウズ、ツーカウンターのレトロ感も好感触。3時位置の30分積算計が9時位置のスモールセコンドよりほんのわずか大きいことさえ魅力に映った。
目盛りの刻みがないベゼルがシックシンプルな雰囲気を醸すため、カジュアルなスタイルだけでなく、スーツやジャケットといった装いに合わせても、嫌味のないハズシになるだろうと期待したのだ。

それぞれ高精度な3万6000振動/時、精緻なコントロールを可能とするコラムホイール、摩耗や磁気に強いシリコンパーツの採用、60時間の長時間パワーリザーブを有し、何より両モデルともゼロリセットとクロノグラフの再スタートが瞬時に行われるフライバック機能を有する。
パイロットにとっての利点が現代に生きる我々にとっての利点にもなる──そんな空へのロマンを所有することは、少年ゴコロを持つ大人にとって何事にも変え難い喜びとなるだろう。
続く後編では、今回ご紹介した「タイプ XX」を含むブレゲの名作の数々を生み出してきた“心臓部”、ブレゲ・マニュファクチュール取材の模様をお届けする。
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