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2020.11.07

「星野リゾート」の現状にみる、GoToトラベルの効果とは?

Go Toトラベルキャンペーンの効果を、「星野リゾート」と「プリンスホテル」の直近の業績から検証。さらに、新規開業施設から、Go To終了後のホテルのあり方のヒントを探る!

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文/森川天喜(フリージャーナリスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
▲ 星野リゾートが10月22日にオープンした自転車をテーマにした「BEB5土浦」。宿泊費は、2名1室で1名あたり税・サービス料別1泊6000円~。(写真提供/星野リゾート)
コロナ感染防止か経済優先か。政府が進めるGo Toトラベルキャンペーン(以下、Go To)をめぐって世論が割れている。10月からはGo Toに東京発着も加わったが、実際、どれくらいのインパクトがあるのか。リゾート運営大手の星野リゾートとホテル大手のプリンスホテルの直近の業績から、Go Toの効果を読み解く。

また、記事の後半では、コロナ期におけるホテルのあり方のベンチマークになりうる、直近の新規開業施設を紹介する。
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マイクロツーリズムの重要性

まず、10月13日に開催された星野リゾートのプレス発表会で公表された業績の数字を見ていくが、数字を読み解くうえでキーワードとなるのが、星野佳路代表が提唱する「マイクロツーリズム」だ。マイクロツーリズムは、「県内旅行と誤解されることが多いが、お客様が自宅から1~2時間で行けるエリアの旅行であり、軽井沢であれば、県境をまたいだ前橋や高崎あたりまでが商圏として含まれる」(星野代表)という。

このマイクロツーリズムの重要性について星野代表は、「感染拡大を防止しながら地域経済を両立する、新たな旅のあり方の1つ。これまで私たちは、遠方のお客様に来ていただけるようサービスを充実させてきたが、コロナ感染拡大を受け、食事やアクティビティの内容をマイクロツーリズム商圏のお客様に来ていただけるようアジャストさせた。マイクロツーリズム商圏のお客様は、年に4回、5回とリピートしてくださる可能性があり、今回のように、旅行業が危機的な状況になったときに下支えとなる」と説く。
▲ 「星のや京都」の8月稼働内訳。(写真提供/星野リゾート)
4月以降、星野リゾートはマイクロツーリズム市場への訴求を進めたが、その効果が如実に表れたのが、「星のや京都」だ。8月の稼働実績を昨年比で見ると、昨年はインバウンドが47.3%と全体の半数近くを占めたのに対し、マイクロツーリズムは9.4%にすぎなかったが、今年はマイクロツーリズムが39.9%と、ゼロになったインバウンド消失分を埋めるのに貢献。稼働率も91.8%に達した。

星のや東京」においても、昨年8月のマイクロツーリズムは9.2%にすぎなかったが、今年は53.0%と大幅な伸びを見せた。だが、東京は圧倒的なインバウンド市場であり、同施設のインバウンドは昨年ベースで77.2%にも上っていた。マイクロツーリズムだけではインバウンド消失分をカバーするには至らず、稼働率で見ると60%弱にとどまった。

では、次にGo Toの効果を見てみよう。10月分の客室予約が、どのようなペースで埋まっていったかを示すブッキングカーブを見ると、「星のや京都」は、例年であれば6月末時点で、すでに半数の部屋が埋まっていたところ、今年は20%に届かずにいた。しかし、Go Toに参加した8月後半から一気に予約が進み、10月に入ると昨年の実績を上回る97%に達した。

他方、「星のや東京」は、5月から9月上旬まで20%の予約率から動きがなかったが、東京発着Go Toが予約に加わった9月18日を境に伸び、10月上旬時点では約40%まで上昇した。それでも、昨年実績の90%には遠く及ばず、10月28日時点で集計した10月の稼働率実績は約45%と前述の8月実績を下回った。この数値を見る限り、「星のや東京」におけるGo Toの恩恵は限定的ということになる。

星野リゾート全体の業績を9月ベースで見ると、国内外40施設中、約67%に当たる27施設で昨年レベルを回復している。施設ごとの回復傾向としては、マイクロツーリズム市場をターゲットにしやすい立地にあるリゾート系施設や、宿泊そのものが滞在目的となるディスティネーション型施設の回復は早い。一方で、インバウンドやビジネスユースが消失した東京をはじめとする都市部や、そもそもマイクロツーリズムが成立しづらい離島部などは、引き続き回復に向けた個別の処方箋が必要となる。

こうした傾向は、プリンスホテルにおいてもほぼ同様であり、「軽井沢は、Go Toの影響もあり、11月の予約状況がすでに昨年を上回っている。一方で都内は、現時点の客室稼働率は3割程度に留まっている。また、同じ都内でもザ・プリンス パークタワー東京(芝公園)ザ・プリンス さくらタワー東京(高輪)など、滞在そのものが目的となるアーバンリゾート型の施設は需要の回復が早いが、池袋や新宿など、これまでインバウンドやビジネス中心だったホテルは、回復が遅れている」(プリンスホテル広報)という。

なお、両社の話を聞く中で興味深かったのは、いずれもコロナ下においては自社サイト経由の予約が堅調だという。星野代表は「4~6月は大手エージェントの活動が止まったが、その間も自社サイト経由の予約が淡々と入っている印象だった。一昨年、昨年に比べて、自社サイト経由の予約は確実に増えている」と話し、プリンスホテル広報も「自社サイト経由のご予約だと前日までキャンセル料が発生せず、コロナ感染拡大の状況を注視しながらご予約いただける。前日に予約が入るケースも多い」という。
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コロナ期のホテル滞在のあり方

ウィズコロナ期において、各社とも集客に智恵を絞っているが、その基本は、やはり安心・安全という部分に対して真摯に取り組みつつ、そのうえで、それをいかに差別化した形で情報発信できるかということに尽きると思われる。その意味でのベンチマークになりうる施設が、このほど2つオープンしたので紹介したい。

1つ目は10月8日に都内の恵比寿にオープンした「プリンス スマートイン 恵比寿」だ。プリンス スマートイン(以下、PSI)は、プリンスホテルが若年層(デジタル世代)顧客の取り込みを狙って立ち上げた新ブランドで、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)を活用し、予約からチェックアウトまでを可能な限りスマートフォンのみで完結させる「シームレスなサービス提供」をコンセプトにしたホテルだ。このコンセプトを形にした結果、人との接触が少なく、ウィズコロナ時代のニューノーマルに適合したホテルになった。

PSIを利用する手順としては、まず、PSI専用アプリをダウンロードし、アプリ経由で予約する。チェックインはホテルエントランスのチェックイン機で行い、その際、ルームキーの形態として、アプリにルームキーをダウンロードする「スマートキー」か、従来型の「カードキー」のいずれかを選択する。スマートキーを選択すると、自分のスマホがそのままルームキーとして使えるようになる。

チェックアウト時はアプリに表示されるチェックアウトボタンを押すだけでよく、その他の操作は必要ない。さらに、「今後は顔認証によるチェックイン機能を導入するので、チェックイン機の画面にタッチする回数も、今より少なくて済むようになる」(プリンスホテルPSI事業部長の前田朋子氏)という。

PSI恵比寿は、都内のホテルが苦しい状況でのスタートとなったが、「今のところGo Toを使ったお客様が中心で、ビジネスユースの連泊も多い」(前田氏)という。テレワーク需要を上手く取り込んだ格好だ。

同ホテルのADR(平均客室単価)1万円台という価格は、現在のビジネスホテル等、宿泊特化型ホテルの相場からすると必ずしも安くはないものの、AIアシスタントのAlexaを搭載したスマートスピーカーが各客室に設置されているなどの目新しさや、恵比寿駅近くという立地の良さ、さらに10泊すると1泊無料になるなどのお得感がテレワーク需要を呼び込んだのかもしれない。
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自転車をテーマにした星野リゾートのホテル

次に紹介するのは、10月22日にグランドオープン(3月にソフトオープン)した星野リゾートの「BEB5土浦」だ。全長180kmに及ぶサイクリングロード「つくば霞ヶ浦りんりんロード」が近隣にある立地を生かした、自転車をテーマにしたホテルで、「ハマる輪泊(りんぱく)」を合言葉にしている。

BEB5土浦総支配人の宮越俊輔氏は、同ホテルについて、「コロナ下において、通勤に自転車を利用する人が増えるなど、3密回避の手段として自転車が注目されている。りんりんロードは全長180kmもあるので、宿泊すれば1日目は霞ヶ浦、2日目は筑波山へ自転車で出かけるといった楽しみ方もできる。また、自転車上級者だけでなく、今まで自転車に興味のなかったお客様が、手ぶらで来ても楽しめるサイクリングアクティビティなども用意している。気軽に自転車を楽しめるホテルにしたい」と話す。

現在、多くの宿泊業者が多かれ少なかれGo Toの恩恵を受けていると思われるが、問題は、いつかはキャンペーンが終わるということだ。正規の値段に戻ったときに、いかにして需要を維持するのか、早くも考えなければならない時期に来ている。PSI恵比寿、BEB5土浦ともに、テレワーク・ワーケーションでの連泊利用が多いというあたりに、そのヒントがありそうだ。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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