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2022.08.21

ただ美味しいマグロを食べに行く。あとは何もしない

駿河湾に浮かぶ美しい月を愛で、最上級のマグロをたらふく食べる。ただそれだけのために作られたのが焼津にある「月と鮪 石上」という宿。大人の旅はシンプル・イズ・ベストなのですぞ。

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文/只野仁志

▲ 1日5組限定の美食宿「月と鮪  石上」。
旅の目的と言えば食と観光。とはいえ大混雑の名所巡りの末に、量ばかり多くて代わり映えのしない料理を出されたのではがっかり。大事な人と行く旅であればなおさら、心に残る特別な時間を過ごしたいものです。もちろん贅沢三昧の高級リゾートも良いでしょうが、今回ご紹介するのは静岡県・焼津市にある5室しかない小さな宿。

焼津は高級魚として知られるミナミマグロの水揚げ量日本一を誇る街。その外れ、海と山に挟まれた小さな集落にひっそりと建つ「月と鮪  石上」は、美味しいマグロを余すところなく食べつくし、あとはのんびりと何もしない時間を楽しんでいただきたいという宿。これぞひとつの理想的な大人の旅のあり方かも。

駿河湾に浮かぶ「月」と焼津漁港で獲れる「鮪」がテーマ

その前身は60年以上にわたって代々この地で続いてきた料理旅館「石上」。現在の女将さんが、息子たちに代を引き継ぐことを念頭に宿の大リニューアルを敢行。この7月から新しい宿へと生まれ変わりました。

「月と鮪」とは不思議な名前に思えますが、それがこの宿のコンセプト。駿河湾に浮かぶ「月」と焼津漁港で獲れる「鮪」をテーマに、宿と料理を再編集したのです。
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▲ 「満月のダイニング」を象徴する、海に面した丸い窓。時の移ろいとともに色と表情を変えていく駿河湾の変化を眺めながら食事が楽しめる。
▲ 日が落ちてしばらくの間、逢魔が時とも呼ばれる時間になると、暮れなずむ海と空の色を反映して窓の一帯がブルーに染まる。妖しくも美しい光景は必見。
新たに作られた食事処「満月のダイニング」は駿河湾に面した東側に大きな丸い窓が開いており、海から登る美しい月を眺めることができます。特にひと月に数日だけ訪れる満月の夜には、海面に映る月光が一筋の道となって絵のようなムーンロード描くとか。

そんな絶景を眺めながら焼津漁港で獲れる最上級のミナミマグロを心ゆくまで堪能できるのがこの宿の魅力なのです。
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ゆっくりと快適に過ごすためのさまざまな工夫

▲ 窓から山を望む部屋。ワ―ケーションテーブルも備え付けられているが、テレビは置かれていない。
リニューアルされた客室はシンプルながら心落ち着く和洋室の空間。窓の外には日本の原風景ともいうべき海と山の素朴な景色が広がります。室内は柱や梁・天井の濃い茶色と、漆喰の壁の鮮烈な白との対比が印象的です。畳は和紙製。イグサに比べて目が細かく肌触りが良いのでゴロっと寝転んでも体に優しい感覚です。
椅子も「畳ずり」という畳の上に置くための低い椅子が備えられています。テレビはあえて置かず、その分、外から聞こえる鳥や虫の声など自然の音を楽しんでもらいたいと言います。ベッドはシモンズ社製。固めのマットが寝心地よく、ゆっくりと体を休めることができます。
▲ こちらは海を望む部屋。5つの部屋にはそれぞれ「月の眉」「弓張月」「小望月」「寝待月」「下弦月」と月の形にちなんだ名前が付けられている。
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宿の周囲に観光施設があるわけではなく、それゆえ館内でできるだけゆっくりと快適に過ごしてもらいたいというのが宿の希望。そのための工夫が随所になされています。

例えば共有スペース「山月のラウンジ」。海に面した「満月のダイニング」とは反対の山側に面した16畳ほどのスペースには、座り心地の良い椅子やソファが置かれ、お茶やコーヒーが自由に飲めるセットも用意されています。またライブラリーには家具や建築に関する興味深い本がセレクトされ並んでいます。
▲ 「山のラウンジ」には座り心地のいい椅子とソファ、そしてセレクトされた本も並び、ゆっくりと過ごせる。
窓の外には緑豊かな山並みが迫ります。朝は鶯をはじめとする鳥たちの囀りが、昼は蝉時雨が、夜にはカエルの合唱が耳をつんざくばかりに聞こえてきます。都会暮らしに慣れた身にはまさに驚くほどの大音量。これが自然の本来の姿なのかと改めて驚かされます。日がな一日、読書三昧で過ごせば、心も体も随分とリセットできそうです。
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館内に目を向ければ、女将さんが活ける季節の草花が随所に配され心を和ませてくれます。また塵ひとつなく掃き清められた飴色に光る廊下の美しさには感動すら覚えます。この檜の廊下は以前の料理旅館時代のものを常連客の希望もあってそのまま残したそう。古きものと新しきものが美しく融合されています。
▲ 焼津では毎日75トンの温泉が湧くそう。温泉は塩化物泉で、肌に優しい弱アルカリ性。
新たに作られた温泉も、浴室は小さいながら光が全体に入る気持ちのいい空間。焼津の温泉は泉質が良いことでも知られ、わざわざ訪れる人もいるそう。ここでもつい長湯をしてしまいそうです。
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マグロのさまざまな部位を楽しめる「鮪尽くし」のコース

▲ 焼津漁港に水揚げされた中でも極上のミナミマグロを提供。
自慢の料理を作るのは長男・将士さんと次男・翼さんの石上ブラザーズ。元々料理旅館時代もその料理は高い評価を得ていましたが、今回のリニューアルを機に一新。ミシュランガイド東京1つ星の人気レストラン「sio」の鳥羽周作シェフが監修に入り、料理の内容はもちろん、コースの構成、見せ方、出し方などあらゆる面で意見やアイデアを交換したそう。それらを踏まえて、皆で「わざわざ焼津まで来る価値のある料理」を目指してコースを考え抜いたと言います。
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マグロのさまざまな部位を楽しめる「鮪尽くし」のコース料理は全12品。いずれも素材の良さを最大限に生かしながら、必ずどこかにヒネリを加えた手の込んだ品が並びます。あくまで和の料理でありながら、素材の組み合わせや料理の見せ方によって、ときにフレンチやイタリアンのような国籍を超えた広がりも感じさせます。
最後はその場で点てるお抹茶で〆るなど、全体がしっかりとストーリーを感じさせる構成で、美味しいだけでなく、意外性もある、ワクワクするようなコース料理に仕上がりました。
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余計なものを削ぎ落すことで生まれた居心地の良い空間

美味しいマグロを食べた後は、ただゆっくりと為すがままに過ごすのがこの宿の流儀。山のラウンジに向かうもよし。温泉に浸かるも、部屋でゴロリとするもよし。ここには自分の心と体を休め、日ごろの疲れを癒しリセットするための最適な空間が用意されています。
▲ のれんの〇2つは旅館のロゴ。○は月を表す。ひとつは空の月。もうひとつは「鮪」という漢字に含まれる「月」を「海の月」に見立てた。
そのために女将さんが考えたのは、いかに削ぎ落すか。豊かな時間を過ごすために必要なのは詰め込むことではなく、むしろ本当に必要なものを見極め、それ以外は捨て去ること。その潔い決断を突き詰めた結果、宿はよりシンプルで、洗練された佇まいを得ることとなりました。
▲ 女将さんの石上智子さん(中央)と長男・将士さん(左)、次男・翼さん(右)の3人で宿を運営。
「別荘みたいに使っていただけたらうれしいです」と女将さん。確かにこの宿には料理好きのご主人がいるセンスのいい別荘に招かれたような心地よいプライベート感があります。田舎をもたない都会生活者にとっては魅力的な帰省先になりそうです。

月と鮪  石上

住所/静岡県焼津市小浜 1047番地
焼津駅 (東海道線)よりタクシーで10分ほど
料金/3万円~(1名1泊2食付き・税別)
予約は2名~。一棟貸切りプランもあり。
HP/【公式HP】月と鮪 石上
TEL/054-627-1636

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