岩手の山奥に佇む、和洋の魅力を融合した最高にオススメの宿「山人」

今回選んだのは、岩手県の湯川温泉にある「山人」（やまど）という宿。ここ、本当に、とっておき、なのです。

というのも、「山人」は先代から宿泊業を引き継いだご主人が、20年にわたって国内外のさまざまな宿を泊まり歩いて、自分の理想を形にしたもの。どこかヨーロッパのプチホテルのような洗練された雰囲気があり、それでいて日本の宿ならではの風情もある。その双方のバランスが絶妙で、とても洒落ているのです。

まず立地が素晴らしい。湯川温泉は岩手県と秋田県の境目に位置する山深いところ。「山人」は、その何もなかった川沿いの広大な敷地を選んで建てられた。なので、川の向こうは切り立った山の斜面で、そこに木々がうっそうと茂る。澄明で清冽な川には岩魚や山女魚が泳ぎ、カルガモやカモシカなどの鳥獣たちが訪れる。こんなふうに、豊かな大自然に囲まれた、とても静かな宿なのです。

客室は離れ3棟からなるわずか12部屋。そのどれもが川に面していて心地よく、窓を開け放っても誰にも見られる心配はない。広い敷地のなか、各棟が渡り廊下で結ばれ、夜になって明かりが灯ると、なんとも幻想的な雰囲気になるのもいい。

各客室は、客間とベッドルームのツイン、あるいはメゾネットタイプの広々とした造り。客間は温もりのある木造りの和風モダンデザインで、ベッドもたっぷりとしていて寝心地が良い。

そして、全室に備えられた半露天の温泉からは、草木や花や月や星が眺められ、ゆったりと湯を楽しめるのです。

貸し切り温泉の露天風呂は、川に突き出したまさに露天の造りで、ほかではちょっと味わえない開放感がある。そんなお風呂にふたりで入れば、まさに非日常の楽しさが味わえちゃいます。

また、この地は夏には豊かな緑を、冬には一面の雪景色を、というように、四季折々の景色を愛でられる。全12部屋の客室も棟ごとに違ったしつらえで、何度訪れても新鮮に楽しめる。だから「山人」は遊び好きな大人の男が行きつけにするのにも最高なのですね。

そして、最高に素晴らしいのが、食事です。野菜は契約農家の新鮮な朝採り。肉は自家農園の「山人ファーム」で飼育した地鶏の「南部かしわ」や岩手牛。魚は地の川魚のほかに、日本各地の旬の魚介類も使う。

その夕餉が出色なのです。たとえば、ある日の夕餉。まず懐石風の先付け。次いで、岩魚の刺身。それで、和風なんだなぁ、なんて思っていると、次がバーニャカウダ。しかもソースは岩魚が隠し味になっていて、ほかでは味わえない深い滋味がある。で、次が南部かしわの唐揚げのワゴンサービスと驚きの展開で、その野趣のある美味しさがうれしい。

と、次がフルーツのソルベとまたまた驚きの展開で、さわやかに口をリセットしてくれる。そこから再び、卵とじだの、岩手牛だのと、量も美味しさもたっぷり。それで最後の岩魚の出汁茶漬けが本当に美味。こんな驚きと美味しさのあるコース料理は、東京の一流レストランでも味わえないでしょう。

朝食はオーダー形式で、和と洋を選ぶことができて、これまた美味。自家製のパンや蜂蜜も素晴らしく美味しいです。

ちなみに、こんな素敵な宿なのに、宿泊料金は安すぎ。まさに“お金じゃなくてセンス”な素晴らしさです。

つまり、「山人」であれば、都会育ちの若い女子にも、ヨーロッパの高級ホテルに泊まり慣れているようなマダムな大人女史にも、完璧にオールマイティ。だから幾つもの恋を同時にしているオヤジさんにも、うってつけです。あ、でも女性に「この前に夏に来た時さぁ」とか言って「私は冬しか来たことがないわよ」なぁんてなったら、たいへん。やはり、罰当たりな恋は慎むべき、かもしれないですね。