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2025.12.20

町田啓太インタビュー。「逆境の中で戦っていた20代の頃を思って役作りに生かした」

俳優の町田啓太さんが人間ドラマの名手である池井戸潤さん原作の連続ドラマW 池井戸潤スペシャル「かばん屋の相続」(WOWOW)に出演。組織の抑圧と戦う若き銀行員を演じました。役作りには自身が20代で経験した逆境の中で戦った思いが生かされていたようです。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリング/石川英治 ヘアメイク/Kohey(HAKU) 編集/森本 泉(Web LEON)

町田啓太 池井戸潤 かばん屋の相続 WebLEON LEON


力強くも繊細な演技と、漂う気品で見る人を魅了する俳優の町田啓太さんが、池井戸潤さん原作の連続ドラマW 池井戸潤スペシャル 「かばん屋の相続」(WOWOWにて12月27、28日放送・配信)に出演。全4話で1話完結のオムニバスドラマのうち、第1話「十年目のクリスマス」で、銀行の融資課に勤める永島慎司役を演じます。


人間ドラマの名手である池井戸作品に初めて挑んで感じたことや、自分が演じる役に対して常に抱く思い、15年のキャリアを積み、30代半ばを迎えたいまを見据える役者としての新たな地平について伺いました。

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しっかり物語に絡む役が増えてきたことで、考える時間や深さも増してきた

── 近年の町田さんは、テレビドラマや映画に加え、Netflix作品の「今際の国のアリス」、「幽☆遊☆白書」、「グラスハート」など配信ドラマでの活躍もひっきりなしです。デビューから15年が経ち、演技を長く続けてきたなかで、仕事に対する意識はどのように変化してきましたか?


町田啓太さん(以下、町田) 僕はプライムタイムで主演をやらせていただいたのは2022年の連続ドラマ(「テッパチ!」)が初めてで、もっと若い時は、ドラマも部分部分での出演だったり、物語への絡み方も少ないことが多かったんです。


それが、しっかり物語に絡む役柄を演じたり、大河ドラマ(「光る君へ」)や配信ドラマなど、長期間にわたってじっくり取り組む作品に挑戦する機会が増えて、1つひとつの役の比重が重くなったぶん、考える時間や深さも増してきたと感じます。本当は役の大小に関わらず、考えなければいけないことは全部一緒なのかもしれないですけど、そのあたりの感覚はやはり変わってきたように思います。


加えて、「グラスハート」で演じたカリスマギタリストであったり、Netflix映画『10DANCE』(12月18日配信)の競技ダンサー役のように、特殊技能が必要な時には相当練習しないと演じるのが難しかったりするのですが、そうしたハードルに対して臆せず挑めるようになってきたとも思います。

町田啓太 池井戸潤 かばん屋の相続 WebLEON LEON


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── 作品における役の比重が増すにつれ、責任感も増すものでしょうか。

町田 それはおのずと芽生えてきます。単純に共演の俳優さんを見ても、「(自分と)ひと回りも違うんだ!」みたいな若い俳優さんが当たり前に現場にいますし、年齢的にも任せてもらえることが増えたので、もう先輩方に甘えてばかりではいられないなと。

むしろ、これまで自分が年上の方に支えられ、甘えさせてもらったように、僕も若い彼らに対して何かできるようにならなきゃいけないなと考えたりしますね。
── 忙しい中でも常に前向きに仕事に向かうために、心の持ちようとして心がけていることはありますか?

町田 正直なところ、忙しすぎると色々な面で前向きになれないこともありますからね(笑)。なので、そういう時はリセットする意味で、前向きになれなくてもしょうがないと思って1回諦めます。

── それは納得のいく演技ができないとか、そういうことでしょうか。


町田 それも含めていっぱいあります(笑)。自分の演技に納得がいったことなんてほとんどないですし、納得がいったなと思う時に限って、あまり良くなかったと言われたりもするので、その納得感はあまり指針にはならないんです。


例えば、アイデアがたくさん生まれてくれればいいんですが、全然何も思い浮かばず、なんでこんなにもいろんなことがひらめかないんだろう……みたいに絶望する時もあるし。そういう時は1回諦めて、どんなに忙しくても別のことをします(笑)。


たぶん、僕はいったんこうと思うと思考が固まりがちだったり、ちょっと力みすぎてる部分もあるので、最近はもう、それも自分だと思って諦めるようにしています。

── 根がとても真面目でいらっしゃる?

町田 いえいえ、全然。僕、そんなに真面目でもないです。グダグダ言うこともあるし、単純に、(やるべきことをクリアして)安心安全に過ごしたいタイプなんです(笑)。
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池井戸作品は組織の中で抑圧されている人々の戦うエネルギーが胸を打つ

── 今回、12月27日放送・配信の第1話「十年目のクリスマス」で池井戸作品に初挑戦されましたが、今までご覧になって好きな池井戸氏原作の映像作品や、その印象をどう受け止めていますか?


町田 僕も「半沢直樹」や「下町ロケット」をはじめ、好きな映像作品は数々あります。池井戸さんの小説は、銀行や企業を舞台にしたものが多いですよね。そこで描かれる、組織の中で抑圧されている人々が抑圧と向き合い、戦うところから出てくるエネルギーがすごく高い作風が多いなと。そうした人間のエネルギーが、多くの方に届いて胸を打つんだろうなと思うんです。


「十年目のクリスマス」も銀行の中の話で、僕からすると、ホントにこんなことがあるのかな!? と驚くぐらいリアルな内部事情や、情感溢れるドラマティックなストーリーが熱量高く描かれています。


それだけでも面白いのは間違いないのですが、今回の物語は、仕事上の関係を介しながらも家族の話や人情の部分が際立っていて、とても温かい上に考えさせられる、僕もすごく好きな話です。最初に台本を読んだ時は、よくぞ60分という短い尺の中にこれだけの要素を盛り込んだなと驚いたし、演じ手としてその世界観に入れるのが本当に楽しみでした。

── 銀行の融資課に勤める永島を演じるにあたってどのように役作りをしたのでしょう。

町田 どんな職種の職場にもいろんな人がいると思うので、まずは銀行員だからこうというステレオタイプな決めつけはせず、池井戸さんが描く永島慎司という役を素直にやれたらいいなと思いました。

永島はとてもまっすぐで、上層部の上司にも自分の意見を言える強い意思があり、長年の付き合いがある取引先の中小企業に対して上司が融資を断ると決めても、先方の事情に親身に寄り添い、諦めずに別の方法を探るような人。そういう彼の実直さを大事にしたいと思いながら演じました。
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── ご自身も、永島に対して好感を持ちましたか?


町田 そうですね。僕は役を演じる時は毎回、自分がそのキャラクターの一番の理解者になろうと思っているので。ちょっと上から目線的な考え方に聞こえるかもしれないですけど、どんな役も「愛おしいな」と思っています。今回の永島もまさにそうでした。

── 演じながら、ご自分に近いと感じたところはありますか?


町田 物語の中で永島は不可解な事象に直面し、真相を追い求めていく展開があるのですが、僕も何か不信感をもったりすると気になっちゃうタイプなので、そこはすごくわかります。


それと僕も、当時の永島くんと同じ20代半ばの頃、自分の力ではどうしようもないアクシデントに見舞われ挫折を味わったので、そういう気持ちもすごくよくわかる。そしてともに30代半ばになり、彼の気持ちに今の自分の感覚を重ねてアプローチできることがたくさんあったなと思います。

── 先ほど、組織の抑圧と戦うことで生まれるエネルギーがあるというお話がありましたが、20代の頃の永島も、ある意味逆境の中で戦っていたのでしょうか。

町田 そうだと思います。そういうところを諦めずに乗り越えていく信念や、曲げられない部分も彼にはあるなと感じます。

── ご自身はいかがですか?

町田 ありますね、もちろん。そういうところもこのキャラクターに投影できればいいなと思っていました。
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── 今回は銀行員の役ということで、スーツの着こなしで工夫したり、気を配った点はありますか? 

町田 スーツでも、ジャケットはボタンを留めずに前を開いて着ることがありますが、今回演じた永島は銀行員ですし、舞台が20年近く前の日本という時代背景もあるので、できる限りきちっとした印象になるように、基本的にジャケットのボタンは閉めていました。

また、過去パートで演じた20代の頃と、10年ほど経った37歳の時の着こなしでは、スーツの色味やサイズも変えていこうということで、若い時はタイトな感じのものを、30代では少しゆったりめのスーツを着ています。
── ドラマや映画の役でスーツを着る機会は多いのでしょうか。

町田 とても多いです。僕は20代前半の頃から35歳ぐらいに見られがちだったので(笑)、役者の仕事でもビジネスマンみたいな役が多く、ビジネススーツを着ることが本当に多かったですね。逆に学生の役はあまりやったことがなくて、学生服を着た記憶はほとんどないです。

30代半ばは絶妙な大人の年齢。変化の最中にいる今、家族の話を演じたい

── 永島がかつて仕事を通じて親しく接した神室電機の社長を演じた上川隆也さんからはどのような刺激を受けましたか。


町田 上川さんは穏やかで朗らかで、とても紳士的な方。空港近くの平和島のロケでは、とても近距離で飛行機が飛んでいたのですが、上川さんも僕も飛行機が大好きで。頭上を飛行機が通ると「あれは何々だね」と機体の話をしてくださったり、マニアックな飛行機話で盛り上がりました(笑)。


お芝居においては、上川さん演じる神室の表現を受けて新しく浮かんでくるアイデアがあったり、自分が思っていたのとは違う永島の感情表現が生まれたりするのはやはりとても楽しかったです。


ほんの10日間でしたが、お芝居の話もいろいろお聞きできたし、最終日にはパーソナルな話もさせてもらえて、お話を聞けば聞くほど素敵な方で。お芝居のことや現場の居方だけでなく、何気ない返答も「承りました」というふうに、とても丁寧で綺麗な言葉を使われるところも見習わなければと思いました。

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── その上川さんと、後半はかなり緊迫したシーンが続きそうです。

町田 人は一面ではなく多面的で、いろんな顔を持っていますよね。今回は、それも含めた人との向き合い方や関わりをすごく丁寧に、時に大胆に表現しています。

人間ドラマではあるけれど、ミステリーやサスペンスのような謎解き要素があるのもこのドラマの大きな魅力です。見てくださる方たちが永島を通して一緒に真相を追ってくれたらうれしいですし、原作にはないオリジナルのシーンもあるので楽しみにしていてほしいですね。

── 今後も続々と作品が控えていますが、この先、30代後半や40代でどのような役をやりたいと考えていますか?


町田 いろんな世界観があるので、まだやっていないことをたくさんやってみたい思いはもちろんあります。僕はヒーローにもなったことがないから、1回ぐらい変身もしてみたいですし(笑)。というのは半分冗談ですが、それぐらい未知のものにも思いきって挑戦してみると、きっとそこでしか味わえない何かがあるし、発見もあると思うので。


あとは最近、家族がいる設定の役を演じることが増えてきましたが、よりそういう家族の話をやりたいです。僕がすごく好きなアメリカのドラマで、「THIS IS US/ディス・イズ・アス」という作品があるのですが、人生で直面する苦悩や挫折、悲喜こもごもをリアルに描いた人間ドラマで、最高のホームドラマだなと思っているんです。同じ日に生まれた36歳の登場人物たちの話なんですけど。

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── まさにご自身と同年代の話ですね。


町田 そうなんです。30代半ばって、大人だけれど揺れ動く、絶妙な大人の年齢という感じが僕はしていて。自分の家族を見ても、親もそろそろ定年退職を迎える世代だし、おじいちゃんおばあちゃんも体の不調が出てくるなどいろんなことがあります。


この先40代になっていくと、またさらなる変化はあるんでしょうけれど、家族はやっぱりスペシャルな存在ですし、変化の最中にいる今、家族の話を思いきりやれたら、この先40代や50代になった時にすごく大きな糧になると思うので、チャレンジしてみたいなと思っています。

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● 町田啓太(まちだ・けいた)

1990年7月4日生まれ。俳優。2010年に舞台作品で俳優デビュー。以後、数多くのドラマ、映画、舞台、広告などに多数出演。近年の主な出演作に、大河ドラマ「青天を衝け」、「光る君へ」、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」、「幽☆遊☆白書」、「グラスハート」、ドラマ「失踪人捜索班 消えた真実」、映画『チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』、『太陽とボレロ』、『ミステリと言う勿れ』など。12月18日よりNetflix映画『10DANCE』(W主演)配信。


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連続ドラマW  池井戸潤スペシャル  「かばん屋の相続」

「空飛ぶタイヤ」「下町ロケット」「アキラとあきら」など連続ドラマWの歴史を何度も彩り、多くの感動を呼んできた池井戸潤。彼が2005年から2008年にかけて発表した6つの短編から4編をドラマ化。1話完結のオムニバスドラマで、それぞれの主演を、町田啓太、菅生新樹、伊藤淳史、藤原丈一郎の4人が務める。第1話は、会社が倒産したのになぜか羽振りがよさそうな電機メーカーの元社長の真相を調べようとする銀行マン(町田)を描く「十年目のクリスマス」、第2話は、資金繰りに苦戦する女性社長を支えようと奔走する新人行員(菅生)を描く「芥のごとく」、第3話は、銀行から融資を見送られながら独力で多額の融資を取り付けた印刷会社社長の資金繰りを調べる融資課長(伊藤)を描く「セールストーク」、第4話は、会社の相続を巡る兄弟の対立の渦中で奮闘する信金マン(藤原)を描く「かばん屋の相続」。4編とも主人公は働く男たちであり、この社会で懸命に生きる人々すべてが抱える“苦悩と葛藤”“ささやかな希望”がリアルに描かれる。
WOWOWにて12月27、28日午後10時から2夜連続放送・配信。第1話は無料放送。

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