2025.05.31
気弱な夫を豪快に罵倒する“鬼嫁”MEGUMIになぜ魅かれてしまうのか?
セックスレス夫婦のリアルな攻防戦を描いて大人気となったドラマ「それでも俺は、妻としたい」が映画化されることに。気弱な夫を豪快に罵倒する鬼嫁を演じたMEGUMIさんに理想の夫婦のあり方から幅広く展開している仕事の話まで伺いました。
- CREDIT :
文/木村千鶴 写真/内田裕介 スタイリング/ミク ヘアメイク/エノモトマサノリ 編集/森本 泉(Web LEON)

私が罵倒すればするほど監督も奥さんも笑うんで
MEGUMIさん(以下、敬称略) 周囲の方々、そしてSNSを通してファンの方たちからも予想を超えた反響をいただいて、本当に良かったなと思っています。足立紳監督をはじめとする今回のチームは普段映画を撮っていらっしゃる方たちですから、皆さん最初から映画にしたいねと言っていらっしゃって。それを聞いていた私としては、大変うれしかったですね。
── 風間俊介さん演じる柳田豪太、MEGUMIさん演じる妻のチカ、嶋田鉄太さん演じる息子の太郎、この3人は本当の親子のように見えてくるのですが、原作が足立監督の私小説ということで、監督から「こうしてほしい」といった指示があったのですか。
MEGUMI 監督は具体的な演出をほとんどなさらないんですけど、ただ私が(豪太を)罵倒すればするほど笑って喜ばれるし、奥様も現場によく来てくださって、やっぱり笑っていたから「正気の沙汰じゃねえな」と思いました(笑)。何とも言えない実録物と言いますか、不思議な気持ちで演じましたね。
でも最初に監督も含めてみんなで話し合ったんです。これを見た人たちが苦しくなったらいけないし、ちゃんと笑えるものにしないとよくないよねと。そのうえで、チカはキツい言い方をした方が面白いだろうし、切れ味という意味でもズバーンと言った方が痛快。豪太(夫)もニタニタしていて響いていない感じが、たぶん見ていらっしゃる方のツボに少し入ったのかなと思います。

MEGUMI 役では一方的に罵倒していましたけど、裏ではお互いを支え合っていました。撮影期間は映画もドラマ(全12話)も含めて1カ月ちょっと、ワンシーンをワンカットで撮る監督なので、一話ごとに膨大なセリフを喋るんですよ。風間くんも私も他の仕事もたくさんあって、何とか立っているという感じのなか、毎日めちゃくちゃ追い詰められていました。
「風間くんは今日本で一番頑張ってる!」とか「MEGUMIさんはこの先いいことしかないよ!」ってお互いに言葉で励まし合って(笑)。風間くんには支えていただきました。
私が彼をダメな人間にしてしまったと思っているのでは
MEGUMI チカは、“自分が彼をこうしてしまったと”思っていたんじゃないでしょうか。豪太は脚本家ですが、彼の若い時は、花形で才能があると周囲から言われていたわけで。チカも自分から好きになって、付き合って結婚した人だったけど、日々の生活の中で彼の才能がいつの間にかダメになってしまった。彼を自分がダメな人間にしちゃったと。だからいつまでも相手にするし、無視しないでずっと向き合っている。でもそれは愛しているとか大好きじゃなくて、後悔とか、母性とか、なんかそういう複雑な心情が入り混じっているのじゃないでしょうか。
息子も自閉傾向があって、チカはその面倒を一生懸命見ているし、本当に余白のない日々の中だけど、堪えるし、豪太が何かにチャレンジしようとした時やいい仕事が来た時も喜ぶし。そこはチカの母性って感じですかねぇ。

MEGUMI ドラマって夫婦であれ家族であれ、素敵に描くのがひとつの形ですけど、今回は本当に生々しく、ドキュメンタリーのように描いていて。でも、これもひとつの新しいエンタテインメントの形だなと思いました。「まあ〜結婚ってこういうもんだよね(笑)」って言いながら観てもらえたらとてもうれしいです。
MEGUMI 本当にねえ(笑)。監督の家のお風呂に何回も入って、布団で寝て、だんだん何がどこにあるかも分かってくるし、もう不思議! 毎日通っていたから、足立家の人間になってそこで生活しているみたいな感じでした。たまに物を取りに監督の実のお子さんも帰って来て、監督の奥さんもよくいらっしゃっていたし、何なんだろう、これはと(笑)。一生ない経験です。
── あのお風呂のシーンは印象的でしたね(笑)。
MEGUMI ひたすら風呂に入れって言われて、また? なんで私ばっかりお風呂なんだよと(笑)。まあ、チカは自分の時間をお風呂の中で確保しているっていうことなんですが、グラビア時代ばりにお風呂に入っていましたね。お風呂の撮影って実は結構大掛かりな準備が必要で大変なんです。でもここは監督のこだわりで絶対やりたいんだって。たぶん自分の奥さんにお風呂に逃げられていたんでしょうね〜(笑)。
すべての活動は女性に向けてやっています
MEGUMI 真面目に思い詰めてしまうだけなのはちょっともったいない気もしますよね。シリアスに捉えちゃうだけだと、どんどん心の距離ができる気もしますから、少し心を軽くしてギャグ化するのもいいのかもしれません。
── 先ほども忙しい合間を縫っての撮影と伺いましたが、俳優の仕事に加えて、プロデューサーや実業家という一面もお持ちですよね? 息抜きはできていますか。
MEGUMI 今は仕事ばかりしていますが、毎日じゃなくても丁寧にご飯を作って、掃除して、窓を開けてお花を活けてと、当たり前の生活のことをちゃんとするとすっごくスッキリしてどんどん元気になっていきます。それが息抜きですね。あとは、今スペインとの2拠点生活をしていますので、向こうでは予定を立てずに赴くままに、寝たければ寝る、食べたければ食べるという生活。自分のアイデアだけを頼りに生きている日々なので、どんどん元気になっていくんですよね。

MEGUMI 最近ヨーロッパの仕事が増えていて、現在はスペインと日本の合作映画を準備しているので、その打ち合わせやスタッフとのコミュニケーションのためにも拠点があった方が良かったという理由はもちろんあります。でも基本的には自分を守るために行っているのかな。
MEGUMI 実はずっと前から色んなことを並行してやっているんですけど、表に出ていないだけで。以前からフリーペーパーを作ったり子供服のブランドを立ち上げたりとかしていたんです。もちろん中には失敗して続かなかったこともある。誰かと出会って「やりましょうよ」という話になったことを本当にやってきただけのことで、今始まったことじゃないんですよ。それがスタイルっていうか、性格みたいなものですかね。やらずにいられない(笑)。
── その行動力の裏にはどんな思いがあるのでしょう?
MEGUMI まだまだ女性が活躍しやすい環境にはないですよね。何かをすれば“強い女性だ”と言われてしまうし、子育てにしても負担が多く大変。日本人女性の自己肯定感は世界最下位というニュースも見ました。だからこそ、私がガンガンいろんなことをしていくことで、「こういう人もいるんだ、私も何かしてみよう」と思ってもらえたらいいなと思っているんです。
自分が作る作品は必ず女性を主人公にして、彼女たちがサバイブして成長する物語にすると決めていますし、すべての活動は女性に向けてやっています。

今どきの若い人たちは先生だと思っています
MEGUMI そうですね。そんなに責任を負いすぎなくていいよってことかな。チカは自分のせいで豪太も息子もこうなっちゃったって思い込んで、自分で八方塞がりにしちゃっているところがある。そうじゃなくて、誰かに任せればいいんです。旦那も自分で責任を取ればいいし、子供だって実は自分で成長していくんですよ。
チカだけじゃなく、女性ってなんでも抱え込んで自分でやろうとするところがあると思うんです。でも家族って、各々勝手にやって、手はつないでいるけどみんな違う方向を見ていていいんじゃないですか? チカは自分の人生にもうちょっとフォーカスしてもいいんじゃないのかな、と。勝手に背負ってあんなに機嫌が悪いんだったら、好きなことをやった方がいいよねと思いました。
── それはMEGUMIさん自身が、背負いすぎずにいろんな人と関わりながら手を繋いでやってきたからでしょうか。
MEGUMI そうですね。みんな誰かとコラボしているつもりといいますか。今やっている長編映画も大掛かりなコラボレーションだと思うし、ジャパンナイト(MEGUMIさんがファウンダーを務める、カンヌ国際映画祭の会期中に開催されるイベント)も縁があって生まれて、そこから始めていることです。でも今はいろんなものが大きくなっちゃっているから、それに対しては全部自分が責任を取ると言っています。もう怖くないっていうか、そうなったというか。
MEGUMI 怖くなくなりました。私のポジションで「どうしよう」ってオロオロしていたらみんなが不安になっちゃうから、とりあえず「行くぞ〜! オラー!!」みたいな感じで女武将っぽくやっています(笑)。
映像や映画を作っていると、信じられないような問題がたくさん起きるんですよ。お金のこともそうだし、キャスティングも、イベントでもそう。そういうことを経て免疫がついて、これでいいのかなと思いながらも、多少のことでは動じなくなってしまう。その部分では可愛げがなくなっちゃって、それが悩みですけどね(笑)。カッコいいとか言われちゃうんですが、それとモテって全然違うじゃないですか。

MEGUMI 女の人にパワーを与えたいという気持ちをとても大事にしています。あとはスタッフをリスペクトすることですかね。初心者の人や20代の子でも的を射たことを言う時もあり、学ぶこともたくさんあるから、ちゃんと話を聞く姿勢は大事です。じゃないとどんどん嫌なババアみたいになっちゃう(笑)。
MEGUMI そうですね。息子は今16歳ですけれども、私より正しいことを言うこともあるし、私の愚かさを優しく指摘してくれることもあって、ハッとさせられます。
今の若い人たちって私たちの時代と違って情報が多いし、ボーダーレス感がエグいじゃないですか。オタクであって、ロックバンドもやっているみたいな、自分の時代にはいなかった、自由に泳げるスイマーみたいな人がいっぱいいるから。
時代が違うんだから私の考えを押し付けちゃいけないと思って、若い方に自分で会いに行って、ご飯をごちそうして話を聞いて教えてもらっています。若い方は先生だと思っています。
── その姿勢が、MEGUMIさんのカッコよさと可愛さがバランスよく共存している理由かもしれません。ありがとうございました。

MEGUMI
1981年⽣まれ。岡⼭県出⾝。⼥優。プロデューサー。『台⾵家族』『ひとよ』(19)への出演でブルーリボ ン賞助演⼥優賞を受賞。 近年では映像
のプロデューサーとしても活躍の場を広げており、映像集団「BABEL LABEL」にプロデューサーとして参加。2023年、2024年には「キレイはこれでつくれます」(ダイヤモンド社)、「⼼に効く美容」(講談社)を出版し話題に。

『劇場版 それでも俺は、妻としたい』
今年1月から放映され大きな話題となったドラマ「それでも俺は、妻としたい」(テレビ大阪・全12話)に、未公開シーンを追加して劇場公開用に編集したディレクターズカット版。柳田豪太、42歳。売れない脚本家で収入もなく、浮気するような勇気もなければ風俗に行くような金もない。性欲を処理するためには妻とするしかないのだが、妻のチカにお願いすることが空よりも高いハードルとなっている。日中働いているチカの代わりに不登校気味の息子・太郎の面倒を見ているがそれもチカには「当たり前だろうが」と一蹴されてしまう。豪太はあの手この手を使ってセックスしようと奮闘するが、チカはそんな豪太をとことん罵倒する。「したい」夫と「したくない」妻、夜の営みをめぐる攻防戦の結末やいかに……。原作・監督・脚本/足立 紳。夫・豪太役で風間俊介、妻・チカ役でMEGUMIがそれぞれ主演を務め、嶋田鉄太、吉本実憂、熊谷真実、近藤芳正、内田慈らが共演。
5月30日全国ロードショー
公式HP/【劇場版】それ妻 - それでも俺は、妻としたい