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2024.02.04

サーフミュージックを築いたジャック・ジョンソン「今はパーフェクトな波に乗れているよ」

サーファーたちの聖地と呼ばれるハワイ・ノースショア生まれ。アコースティックギターをベースに、自然と寄り添うサウンドを発表し、21世紀のサーフミュージックのスタンダードを築いた存在として、日本でも人気を博すジャック・ジョンソン。実に13年ぶりとなる単独来日公演に向けて、ハワイから独占メッセージを届けてくれました。

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文/松永尚久 通訳/Miho Haraguchi

昔は、ツアー中は緊張の連続だった。今は、オフショアで快適な波に乗れていると思う

サーフミュージックを築いたジャック・ジョンソン「今はパーフェクトな波に乗れているよ」
(c)Morgan Maassen
幼い頃から海、そしてサーフィンに親しみ、プロサーファーを志すものの、ケガを理由にリタイア。その後、趣味の延長で始めた音楽が、口コミでジワジワと世界に広まり、2001年にデビューアルバムを発表。05年にリリースしたアルバム『イン・ビトウィーン・ドリームス』は、日本でもヒットチャート上位にランクインし、サーフミュージックのムーブメントを築いた、ジャック・ジョンソン。

現在では、音楽だけでなく、家族と自然に寄り添ったシンプルなライフスタイルも注目されている、カルチャーアイコン的な存在になったジャック。実に13年ぶりとなる単独公演が、2月に東京と大阪で開催される。発売と同時にソールドアウトとなった、超プレミアムなステージ。そこに向けた思い、そして、ジャックの「カッコいい」人間像にも迫った、スペシャルなインタビューを独占公開します。
サーフミュージックを築いたジャック・ジョンソン「今はパーフェクトな波に乗れているよ」
(c)Kizzy O’Neal
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── 2023年はどんな1年でしたか? 地元・ハワイではマウイ島の災害が発生しましたが。

ジャック・ジョンソン(以下ジャック) 僕にとってはいい年だったよ。ツアーをいくつかこなした後、ハワイに帰って結構長くこっちで過ごせたから。いつも、子どもたちの学校がない時にツアーに出るようにしていて、今は家に戻って普通の生活を送っているんだ。

でも、マウイの火事は悲しい出来事だったね。マウイ島には親しい友人がたくさん住んでいるし。だから、彼らが何を必要としているかに耳を傾けて、十分に支援できるようにしようと心がけているんだ。

── 音楽活動的には、どんな1年でしたか?

ジャック やはり音楽活動のメインはツアーだった。そして今は、僕がいるこのスタジオによく来て、小さなアイデアを書き出してるんだ。僕が新しい曲を作るプロセスには3つのパートがあって、パート1はスタジオに入って、この音楽は誰にも聴かれないと自分に思い込ませて好きなものを書く。実際、僕がここで作った曲のほとんどは誰にも聴かれてないしね。今ドラムの上に座っているんだけど、まずはドラムビートから初めて、それから壁にかけてあるギターを取ってきて、何かやってみる。

パート2では、その曲を共有したいと思えるものにするんだ。パート3で、最終バージョンをレコーディングして、仕上げて完成させる。今は、そのパート1の段階に入ろうとしているところなんだよ。

── ちなみに今いるのは、(地元ハワイにある自身のスタジオ)マンゴー・ツリー?

ジャック マンゴー・ツリーは、1マイルほど離れた所だよ。ここは、僕が主に1人でレコーディングをするスタジオなんだ。まだ新譜を作るまではいってなくて、その前の段階としてスケッチを描いているところ。

でも僕は、このパートが好きなんだよね。他の誰のためでもなく、自分自身のために何かを作る。それをちょっと子どもたちに聴かせたり、一緒にレコーディングもして楽しむんだ。今は、子どもたち以外の誰かとシェアできるような音源は全然できていない。それはまた次の段階だからね。

── 新曲のアイデアは、ツアー中に思い浮かぶこともあったのでは? 同時に、最新作『ミート・ザ・ムーンライト』を再確認できるいい機会になったのでは?

ジャック 面白い質問だね。実はレコーディングが終わると、僕はしばらくその作品を聴かない。制作中は毎日スタジオにいてその曲のことばかり考えているから、最後までリスナーとしては聴けないんだ。

制作する側だとどうしても入り込んでしまって、いつまでも作業を続けようとしたり、自分自身では完成の目処がつけられない。そういう時は、もうこれで完成だっていうのを誰か第三者に教えてもらう必要があるんだよ。

また僕の場合、完成してから一年近くは、曲を聴くたびにまだ変更したい部分が見えてきたり、ベースやドラムが十分な音量かどうかが気になってしまったりする。

だから、今になってようやく、クルマに乗っている時に久しぶりに聴くことができて、プロデューサーのブレイク・ミルズにメールしたんだ。「やっとアルバムを聴いてみたんだけど、制作を手伝ってくれて本当にありがとう。今まで気づかなかったけど、僕はこのアルバムをかなり気に入っている」ってね。

それくらい自分でもいいアルバムだと思えた。彼とコラボできたのは楽しかったし、本当に才能あるプロデューサーだし、音楽だけでなく、友人としてお互いを知る時間をもてたことは、すごく幸運だったと思う。
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日本のオーディエンスはすごくアットホーム。僕のショーの一部になってくれる

サーフミュージックを築いたジャック・ジョンソン「今はパーフェクトな波に乗れているよ」
(c)Morgan Maassen
── その最新アルバムを携えての音楽の旅が、日本を含むアジア地域でフィナーレを迎えます。

ジャック そうだね。アジアツアーの後で、4月に開催されるオーストラリアのバイロン・ベイ・フェスティバルでフィナーレを迎えるんだ。日本には何度も行ったことがあるけれど、実はアジアの他の場所には行ったことがないんだよね。

ツアーと私生活のバランスを取るのってすごく難しくて、長すぎると家族と過ごす時間がなくなってしまうから、行けてない場所が世界にたくさんあって。それに、あまりに多くのショーを一度にやりすぎると、視野が狭くなって圧倒されてしまうんだ。だから、行きたいと思っていたのにツアー日程に入れられなかった場所もいくつかある。でも今回は、休みの期間も長くあったから、いろんな場所に行ってみることにした。

日本とハワイってすごく密接な繋がりがあるし、お互いの文化が重なり合っていると思う。初めて日本に来た時、まるでホームにいるような感覚になったし、伝統も素晴らしくて、日本で友達になった人たちとはあっと言う間に親友になれた。

── 日本のオーディエンスの印象は?

ジャック 演奏していてすごく近さを感じる。僕が慣れ親しんできたものと深く結びついているからね。文化的な繋がりがあるから音楽もなじみやすく、そのおかげで演奏がしやすいと感じるのかもしれない。

僕が日本で一番気に入っているのは、心地よさとやりやすさ。オーディエンスはすごくアットホームで、ショーの一部になるために参加してくれている。一緒に歌ってほしいと思えば歌ってくれるし、静かな曲を演奏すれば、敬意を払って歌詞に耳を傾けてくれるし、それは本当にありがたい。

日本以外では、その2つのどちらかを選ばなければいけない場所もあるからね。人々に曲を聴くことに集中してもらうことは容易ではないし、パーティーみたいに楽しく過ごしたいだけで、静かな曲を聴きたがらない人もいるから。

日本では、僕らバンドのエネルギーに喜んでついてくれる人が多いんだ。静かな瞬間も、盛り上がる瞬間も一緒になってそれを経験できる。日本で演奏する時は、観客の皆んなと繋がっていると実感することができるんだよね。
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── 今回のツアーを波のサイズに例えるなら?

ジャック 良い質問だね。長年のツアーを振り返ってみると、3rdアルバム『イン・ビトウィーン・ドリームス』をリリースした時が、自分のキャリアのピークになると感じていた。

僕は、すべての物事には自然な流れがあると思っている。アーティストの場合、自分自身とあえて競争し続けることで、より大きな存在になり続け、人気を維持したいと思う人も多いけれど、僕は違っていて。物事がある時点まで成長するのも、そこに辿り着けたことも自然の流れだと受け止めていた。

だから、その波にあえて立ち向かおうとか、もっと自分と競おうとは思わなかったんだ。ただ、この仕事を続けられていることに感謝しているし、幸運だと感じている。人々のために音楽を演奏することは、とても名誉なこと。

同時に、ものすごくエネルギーがいることでもある。神経が張り詰めるし、多くの人やエネルギーと接することで緊張感も生まれるから。僕にとって、3rdアルバムの頃(2005年前後)は緊張の連続だった。

でも今は、ほどよい規模・距離で人々のために音楽を演奏する、いいバランスを保つことができている。ストレスも少ないし、神経をすり減らすこともない。当時の波のサイズは、20フィート(約6メートル)くらいあった。でも今は、4〜6フィート(約1.5メートル)まで落ちて、オフショアで快適でパーフェクトな波に乗れていると思うね(笑)。

僕の頭の中を占めているのは、サーフィンと農業教育プロジェクトと音楽ツアー

サーフミュージックを築いたジャック・ジョンソン「今はパーフェクトな波に乗れているよ」
(c)Morgan Maassen
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── また、妻のキムとともに、ハワイで教育ボランティア団体「コクア・ハワイ財団」を立ち上げてますね。

ジャック ツアーがない時は、それが僕の仕事の主体となっている。子どもたちとコミュニティのための学習農場があって、遠足で彼らがスクールバスでやってきて、いろいろなものを見て周るんだ。

小さい子どもは、蝶を見たり、ミツバチを見たり、その巣を覗くこともできる。年長の子には、食べ物を自分たちで育てるプログラムがあるんだ。農場に来て、食べ物を育て、収穫した材料を使って料理を作り、それらがどこから来るのか、健康的な習慣とはどのようなものなのかを学ぶんだよ。

バランスが取れているのはすごくよいことで、この活動を挟んでいるからこそひと休みできて、またツアーに出るのが楽しみになる。サーフィン以外で僕の頭の中を占めているのは、このプロジェクトとツアーだね。

── 公演では、その活動を日本のオーディエンスに紹介する予定?

ジャック 考えてはなかったけど、それはよいアイデアだね。ハワイでショーをする時は、いつも地元のミュージシャンを招いて「コクア・フェスティバル」をやるんだ。プロジェクトの資金集めになるし、いろいろな情報も得られる。

ツアーでも、その地域で素晴らしい活動をしている人に注目が集まるように、音楽に限らず紹介するようにしているんだけれど。日本の皆んながハワイに遊びに来た時に、コクアの農場でボランティア活動をしたくなったりとか、日本公演でアナウンスできたらいいね。

── ツアー終了後の、2024年の音楽活動は?

ジャック 2023年はツアーもあったし、コクアがスタートして20年ということもあって、たくさんのプロジェクトをやった。だから今年は、家族のために時間を費やしたいと思っている。

── じゃあ、次のアルバムは来年以降になりそうですね。

ジャック そうだね。まず「今書いている楽曲は誰にも聴かれていない」と思い込ませる段階まで自分をもっていかないといけないから。ツアー中は、それができない。人に聴かれることを考えすぎて、音を編集しすぎてしまったり、自然なところから曲が生まれなくなってしまうんだよ。

取材を受けている期間や大観衆の視線がある時は、それが難しいから。より純粋に曲が書ける状態に、まずは自分を戻すことから始めないと。だから、次のアルバムは早くて2025年になるだろうね。
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流れるようなスマートさで道を切り開いたジミ・ヘンドリックスはクールだね

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(c)Morgan Maassen
── 音楽活動を開始して20年以上が経過。キャリアを通じて、得たもの、なくしたものは?

ジャック 以前は、ステージで人前に立つと心臓の鼓動が早くなって、ずっと緊張していた。でも今は、バンドメンバーと顔を見合わせることができるくらい余裕をもって演奏できるし、落ち着いていられるんだ。

緊張感から得られるエネルギーも、それはそれでよいものなんだけどね。特に最初のうちは、新しい顔ぶれと経験を分かちあう興奮がある。でも今はよい意味で、波が20フィートから4〜6フィートになったように、興奮というよりも、今この瞬間、この場所で活動できていることに感謝できるようになっているんだ。

── もうすぐ50代に。今後のライフプランは?

ジャック まだ50じゃないよ(笑)! もうすぐ49だから50まではまだまだ(笑)。でも、現実はすぐ50代に突入するわけだけど、これといってライフプランがあったり、何かを変えたいとは思わないんだよね。ただ音楽を作り続け、僕が人々に提供できるものを提供して、コクアの仕事を続けたい。

音楽から得られる注目に執着しすぎると、作品が衰退していく。もしくは音楽への関心が薄れてしまった時に不健康になりかねないから、音楽とそれ以外のバランスをとりながら楽しむのは大切だと思う。僕の音楽を聴きにきてくれる皆んなからは、いつもエネルギーを与えてもらっているよ。

── 最後に。あなたの思う、カッコいい人とは?

ジャック ミュージシャンのジミ・ヘンドリックスとサーファーのトム・カレン。子どもの頃はずっとトム・カレンになりたいと思っていたんだ。サーフ界のボブ・マーリーみたいな感じで、すごくカッコよく見えた。どんな波が来ても彼が微調整するだけで、すぐに自分の世界に変えてしまう。あの常に流れているようなサーフィンスタイルが好きで。

ジミ・ヘンドリックスも音楽で同じようなことをしていた。彼らのカッコよさは、サーフボードとギターで常に流れるようなスマートさで、道を切り開いてきたこと。ジミ・ヘンドリックスはワイルドで知られていたけれど、僕の中では、バランスを保つために即興で調整し、流れに乗る技をもっている部分がクールだと思うんだ。

── ジャックの生み出す音楽を含めたカルチャーにも、クールさやスピリットが宿っていると思いますよ。

ジャック ありがとう!

── では、日本で会えるのを楽しみにしています。

ジャック 僕も楽しみにしているよ。キヲツケテ。またね。
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● ジャック・ジョンソン(Jack Johnson)

1975年ハワイ・オアフ島ノースショア生まれ。幼い頃からサーフィンに親しみ、高校生の頃に、ケリー・スレイターやロブ・マチャドなどと肩を並べるサーファーとして注目されていたものの、ケガのためにリタイヤ。その後、趣味であった音楽や映像製作の世界へ進み、99年に初のサーフムービー『シッカー・ザン・ウォーター』を発表、同年にはGラヴとの共演曲を発表し、ベン・ハーパー主宰レーベルとも契約を果たす。そして01年のデビューアルバム『ブラッシュファイアー・フェアリーテイルズ』でメジャー契約。サーファーたちの口コミをきっかけに、人気は世界に拡大。05年発表の3rd『イン・ビトゥーン・ドリームス』では、全米で200万枚、日本でも20万枚以上をセールスし、音楽シーンに「サーフミュージック」というジャンルを確立させた。環境問題にも真剣に取り組み、妻のキムとともに「コクア・ハワイ財団」を設立。子どもたちへの農業教育プロジェクトなどを展開している。プライベートでは3児の父親。来日公演は、18年のフジロックフェスティバル以来となる。

来日公演/2024年2月26日(月) Zepp Osaka Bayside、2月28日(水) 東京ガーデンシアター OPEN18:00/START19:00
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サーフミュージックを築いたジャック・ジョンソン「今はパーフェクトな波に乗れているよ」

『ミート・ザ・ムーンライト』/ユニバーサル

2022年発表の通算8作目となるオリジナルアルバム。フィオナ・アップル、アラバマ・シェイクスなどを手掛けてきたブレイク・ミルズをプロデューサーに迎え、LAとハワイにて制作された。夢を見るだけではなく、今、目の前に広がる美しい光景にもっと感謝しなくてはいけないというメッセージを伝えるタイトル曲など、日々溢れるさまざまな情報に惑わされずに、自分の視点で物事を判断してほしいという真摯な思いを、アコースティックをメインにしたシンプルなバンドサウンド、独特の鼻にかかったソフトでメロウな歌声で響かせる。2860円(税込)
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