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2023.09.23

韓国発ナイト・テンポ「僕が昭和ポップスに魅了されたのは……」

1980年代を中心に当時の日本が放った輝ける名曲の数々をアップデイトし「シティ・ポップ」ブームを生み出した、韓国発のプロデューサー&DJのナイト・テンポ。彼が見る「オヤジ世代」のカッコよさとは? LEONのためのプレイリストも公開!

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文/松永尚久 写真/内田裕介(Ucci) 編集/菊地奈緒(LEON.JP)

ナイト・テンポが、小泉今日子、中山美穂らが参加のオリジナルアルバムを発表!

早見優と共演するナイト・テンポ
▲ 早見優と共演するナイト・テンポ。©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.
竹内まりや「プラスティック・ラヴ」や、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」などのリバイバルヒットをきっかけに、世界中で注目されるようになってきた1980年代を中心にした日本のポップス。その音楽の魅力にいち早く着眼し、「昭和グルーヴ・シリーズ」を立ち上げ、さまざまな名曲の数々をリエディット(再構築)してきた、ナイト・テンポ。

今夏開催のフェス「SUMMER SONIC 2023」でも熱狂を巻き起こした彼が完成させたオリジナルアルバム『Neo Standard』には、小泉今日子、中山美穂、野宮真貴、鈴木杏樹など、LEON世代のハートを熱狂させたアーティストがヴォーカリストとして参加。彼女らと当時を回顧するのではなく、ともに未来へ進んでいくための躍動的なダンスミュージックを作り上げました。
韓国発ナイト・テンポ「僕が昭和ポップスに魅了されたのは……」
── まず、なぜ「昭和」や「1980年代」の日本のポップスに興味をもったのですか?

僕は現在30代半ばなのですが、物心ついた頃から日本の音楽や文化に接する機会が多かったのです。韓国では、日常的に日本の文化や製品がたくさん出回っていましたから。その中で、80年代の音楽に興味をもち始めたのは、93年頃からです。

── リアルタイムの90年代ではなく、時代を遡った音楽に惹かれた理由は?

当時の韓国は、ちょっと情報の入るタイミングが遅く、その頃から80年代のカセットテープが出回るようになっていました。でも、聴いた時にレトロな音楽だなと感じたので、日本の方の感覚と近いものがあると思います。

── アメリカなどさまざまな国の音楽が溢れていた中で、昭和ポップスに魅力を感じたというのがユニークですね。

洋楽を耳にして育ってきた世代ではあるのですが、日本の当時の音楽にシンパシーを感じていました。同じアジア人ですから、ベースとなる「いい音楽」のポイントが一緒なのだと思うのです。

── やがて、昭和ポップスをリエディットするようになり、ここ4、5年で国内外から大きな注目を集めるようになりました。

最初は趣味で始めたことで、たまたまSNSで紹介されたことをきっかけに、瞬く間にネットで広がったという感じです。当時(2010年代前半)、アメリカなどの海外ではヴェイパー・ウェイヴという80年代の掘り起こされていない音楽を取り入れた楽曲を発表する風潮があって、そこで日本のポップスも取り上げられる機会が増えていました。

またビジュアル的にも、特にフランス系の映画監督が80年代テイストの作品を発表していて注目を集めていました。そういう流れの中で、アップしていた自分の作品が引っかかって、注目していただくようになったのです。

── 趣味の延長が世界に広がっていく様子を、どのように感じてましたか?

正直に言うと、最初は注目度が上がることにそれほど興味がなかったのです。でも、もともとミュージシャン活動をしてみたかったので、それまでやっていた仕事をお休みして、本腰を入れて取り組んだら、運よくいろんな所から声をかけてもらえるようになりました。

── 以前はどんなお仕事を?

ソフトウェアのエンジニアだったんです。ロボットの腕のソフトや銀行のATMや、アプリの開発などをしていました。

── それが音楽に結びついた部分はありますか?

ないです。でも、稼ぎがよく体力もそんなに駆使しない仕事ですし、人材不足でもあるので、歳を重ねたら復職してもいいかなぁという程度です。

── (笑)。日本語も上手で驚きます。

日本語も韓国語も言葉の作りがほぼ同じだから、コツを掴んだら、特に勉強しなくても話せるようにはなります。敬語は、ちょっと難しいですが、このコロナ禍で日本のスタッフとリモートで話す機会が増えたおかげで、かなり習得できたのかなって思います(笑)。
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オヤジ世代にとって、過去(昭和)を自慢できる流れになってきている!

韓国発ナイト・テンポ「僕が昭和ポップスに魅了されたのは……」
── 海外でもDJ活動をしていますよね。L.A.のフェスで日本のポップスをプレイしていて、日本語を知らないオーディエンスが熱狂している姿が印象的でした。

自分的にも盛り上がりは不思議でした。「皆さんお元気ですね」という感じ。

── (笑)。でも、それをきっかけに、竹内まりやさんや松原みきさんの楽曲が再注目されて、「シティ・ポップ」と呼ばれるようになり、ブームを築きました。

そもそも80年代の音楽に興味をもっている人はたくさんいて。それを公言するのがオシャレじゃない(時代遅れ)と考えられていた輪の中に、僕が水を一滴垂らしたような。すると、たちまち波紋が広がっていったという感覚ですね。ちょうど、若い世代にレトロ文化が面白いという風潮が出てきて、これまで隠してきた趣味を堂々と言えるようになったのもあると思いますし。

── 確かにオヤジ世代にとって、過去(昭和)を自慢できる流れになってきています。

以前は小規模のバーみたいな限られた空間で、同世代の人たちとこっそり語るだけで終わっていましたが、若い世代が面白がるようになって、もっと広い空間で大手を振って楽しめるようになってきましたよね。

── 現在のナイト・テンポさんのパフォーマンスには、どんな世代が集まっているのですか?

始めた頃は若い世代が中心だったのですが、徐々にリアルタイムを経験した昭和世代も増えてきて、今では半々という感じ。それまでライヴハウスやクラブと縁がなかったのに、自分の音楽をきっかけに初めて足を運んだという人も多いようです。その後、面白さを知って、リピーターになる方もどんどん増えている状況です。

── それはいい話ですね。今まで「ダサい」と思っていたものを、若い世代が「カッコいい」と感じるのがうれしいということもあるのでしょうね。ナイト・テンポさんがSNSで公開している、昭和のカセットや写真集などのコレクションも注目の的では?
韓国発ナイト・テンポ「僕が昭和ポップスに魅了されたのは……」
昔から普通に自分が好きだなと思っているものを単純に集めていただけで。それが数年後に思わぬ価値を生むこともありますが。ヴィンテージのデジタルウォッチなど、2000〜3000円くらいで購入したものが10倍以上の価値に跳ね上がっていたりだとか。ほかの人よりも、面白いと思うタイミングが早いのかもしれませんね。

── なるほど。そういったコレクションから派生して、これまで多くのミュージシャンの名曲をリエディットしたり、共演もしています。キャリアの中で、一番印象的な出来事は?

2019年のフジロックフェスティバルですね。それまでは自宅で自分の好きなものを追求できればいいという趣味の1つとして音楽を制作していて、人前でパフォーマンスすることに興味をもっていませんでした。ましてDJなんてまったく頭になくて。

でも、自分の音楽をお披露目するためには、自分でパフォーマンスするしかないから、しょうがないという気持ちでステージに立ったのです。すると、会場に集まっている方々が笑顔で踊っていて、その姿を目の当たりにしてから真剣に音楽と向き合わなくてはいけないという気持ちが湧き上がってきました。

── 最近は、オリジナルの楽曲制作にも精力的ですね。

そもそもダンスミュージック全般を作っていて。これまではリミックスのほうが、日本で圧倒的に取り上げられて、そこだけで注目されていました。でも実は、「昭和グルーヴ・シリーズ」は自分にとってサブプロジェクトのようなもの。

本来は、もっといろんなタイプの音楽を制作しているという部分を、オリジナル曲では表現しています。今回のオリジナルアルバム『Neo Standard』は、これまでいろんな方とお仕事をさせていただき、その縁を生かして自分が作りたかった音楽(ダンスミュージック)を追求して完成させたものです。
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今の若者はすぐ諦める。オヤジ世代の社会を守ろうとする責任感がカッコいい

韓国発ナイト・テンポ「僕が昭和ポップスに魅了されたのは……」
── 小泉今日子さん、BONNIE PINKさん、土岐麻子さんなどがヴォーカリストとして参加しています。どういう基準で選んだのでしょう?

まず、皆さん歌が上手いというところが大きいですね。ある時期から、日本のポップスはセールスを上げるために、声にいろんな仕掛けをして個性がなくなっていった気がするのです。でも、今回参加いただいた方々は、そういったギミックなしで、ご自身の声で勝負できる。その魅力溢れるヴォーカルを駆使したら自分の楽曲がより光輝くものになると確信してお声がけしました。

── 収録曲のほとんどをヴォーカリストの方が作詞していますよね?

自分がすべてを制作してしまうと、彼女たちはただヴォーカルに参加している、僕だけの作品になってしまう気がしたのです。ヴォーカリストの方にも、新たな表現の1つだと感じてもらいたくて、作詞をお願いしました。

── そんな彼女たちと共演して、長年ショウビズの最前線でキャリアを重ねられる秘訣のようなものを感じましたか?

とにかく勘がいい。実力があるのはもちろんなのですが、時代を読み解くセンスが鋭いからこそ、活動し続けていられるのだろうなと。だから、自分はまだまだだなぁって思います(苦笑)。

── ヴォーカリストの方々の反応はどうでしたか?

皆さん、好きって言ってくれました。仕事を選べる立場のキャリアのある方々ばかりなので、そもそも気に入らなかったら協力していただけなかったと思うし。

── アルバム制作を通じて、次のビジョンは見えましたか?

今回は、学ぶことがたくさんありました。前回のアルバムは、日本のリスナーに向けて完成させた部分があったのですが、今回は僕が合わせる必要はないと考えていたので、特に得られるものが多かった気がします。これからは、もっともっと自分がいいと思う音楽を追求していきたいという思いが、強くなりました。

── 「昭和グルーヴ」や「シティ・ポップ」にこだわらずに?

そうですね。ほかでも、そういう音楽を追求している方々がいらっしゃるので、もうお任せしてもいいのかなって思います。

今回ヴォーカル参加いただいた方とLEON読者の皆さんは同世代になると思いますが、彼女たちは変化していく時代の基準(スタンダード)に柔軟に対応している。現在の心地いい状況から離れてしまうことに対して、恐れをもっていないのです。

だから、「オヤジ世代」と呼ばれる方々も、まだまだ進化していいし、そうしなければいけないと思う。アルバムのアートワークにも記しているのですが、偏見を壊して新しいことに次々とチャレンジしてほしいですね。若い世代には到底追いつけないような「鋭さ」を、皆さんは隠しもっていることを、このアルバムを通じて気づいてもらえたら。

── オヤジ世代は、もっと自分に自信をもっていいというメッセージですね。

今は100歳まで生きられる時代なので、時間はいっぱいあると思います。

── 今の40〜50代の日本人に、カッコいいと感じるポイントはありますか?

カッコいいと感じるのは、自分の周りや社会を「守る力」をずっともち続ける姿勢です。今の若者は、すぐ諦めたりとか、責任感のない人が目立ちます。そういう社会を守ろうとする力をもっていないと、日本もそうですが韓国も終わってしまうと思います。
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日本はリスクを恐れるけれど、韓国は仕掛ける時には勝負に出る!

韓国発ナイト・テンポ「僕が昭和ポップスに魅了されたのは……」
── 現在、韓国は音楽をはじめショウビズの分野で世界を牽引する存在に。日本との違いは、発信力でしょうか?

発信力というよりは、日本の方は、変化を怖がる。例えば、誰かが新しいことを提案しても、横から「リスクがあるからやめておいたほうがいい」という声が出ます。一方、韓国の人たちは仕掛ける時にはリスクを恐れずに勝負に出るんですよ。それでダメになることも多々あるのですが、今はそれが上手くいっている時期なのかなって思います。

── 頭で考える前に行動する力があるということですね。

日本の方は頭の中には熱いものをもっているけれど、それを表現していない。韓国の人はすぐに行動に起こす熱をもっていると思いますね。また、失敗してもくじけない精神ももっているのかなと。

── 10月に全国ツアーも控えています。国境や世代を超えて、熱く盛り上がれる予感がします。

このアルバムのお披露目ツアーになるので、東京公演では参加ヴォーカリストに登場いただこうと思っています。また、地方公演でもその場ならではのパフォーマンスを見せたいと思っていますので、お越しいただけたら、いい思い出になるのでは(笑)。

── (笑)。では、ナイト・テンポさんがオヤジ世代のために作ってくれたプレイリストを聴いて、全国ツアーを待ちたいと思います。

SPECIAL PLAYLIST for LEON

1. Older Girl(1986年)」 1986オメガトライブ

2. Stardust Night(1987年)」 JADOES

3. 「Deja Vu(1983年)」 AB’S

4.Through the night(1984年)」 西城秀樹

5.たそがれに愛をみかけて(1981年)」 宮内淳

6.トワイライト・フリーウェイ(1980年)」 TONY

7. 「グッド・ラック(1978年)」 野口五郎

8. 「Midnight Cruisin'(1982年)」 濱田金吾

9. 「F-L-Y(1980年)」 Spectrum

10.ROOM No.1848(1986年)」村田和人
『Neo Standard』3300円/Victor

『Neo Standard』3300円/Victor

早見優、渡辺満里奈といった1980年代を彩ったアイドルから、秋元薫、当山ひとみなど海外でも評価されているシティ・ポップの伝説ヴォーカリストなども参加。クラブの熱を感じるエレクトロなサウンドにのせ、新しい魅力を響かせている。10月4日にはアナログ、カセットも発売。
HP/https://www.fujipacific.co.jp/nighttempo

Night Tempo(ナイト・テンポ)

● Night Tempo(ナイト・テンポ)

韓国人プロデューサー兼DJ。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」をリエディットしてネットを中心にバイラル・ヒットしたことをきっかけに注目され、2019年より昭和ポップスを現代にアップデイトする「昭和グルーヴ」シリーズを展開。これまで杏里や工藤静香、細川たかしなど、さまざまなミュージシャンの楽曲を再構築してきた。21年にはメジャー初のオリジナルアルバムを発表。23年10月11日(水)、東京・Spotify O-EASTを皮切りに全国ツアー『The Night Tempo Show – Neo Standard』を敢行する。
Instagram/@nighttempo

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