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2023.10.14

小日向文世「ダメオヤジたちの“わちゃわちゃ”を楽しんでください」

優しく微笑んでいながら腹には一物ありそうな人物を演じさせるならこの人、小日向文世さん。普通っぽい佇まいも、唯一無二の個性と感じさせる稀有な存在です。そんな彼と、負けず劣らず個性的な“オヤジ”俳優陣による舞台が上演されます。ダメで愛しい登場人物たちが織りなす物語と、演じる小日向さんの意気込みとは──。

CREDIT :

編集・文/アキヤマケイコ 写真/内田裕介(Ucci)

レジェンド“オヤジ”俳優にまた会える! 伝説の舞台を再再演

小日向文世 LEON.JP
小日向文世、高橋克実、浅野和之、大谷亮介、平田満という、演劇界を代表する俳優による舞台『海をゆく者』が、12月7日から東京・PARCO劇場を皮切りに上演されます。アイルランドの気鋭の劇作家、コナー・マクファーソンが手がけた「21世紀のクリスマスキャロル」と評される傑作で、2006年に発表して以来、世界中で上演されている、笑いありサスペンスありのクリスマス・ファンタジーです。

日本では2009年、2014年に上演され大好評を博し、今回、9年ぶりとなる再再演となりました。高橋さん以外は初演から同じキャスト、しかも現在、平均年齢70歳目前となったベテラン俳優たちが繰り広げる、丁々発止のやりとりも注目されます。

物語の舞台は、クリスマスイブのアイルランド・ダブリン北部。古びた家に住む大酒飲みの兄・リチャードと、酒で多くのものを失い今は禁酒中の弟・シャーキーが、近所の友人アイヴァンと一緒に過ごしていたところ、もう一人の友人ニッキーが、酒場で出会ったというロックハートという男を連れてきます。実はその男、シャーキーにとって忘れたくても忘れられない男だった……。小日向さんは、その謎めいた男、ロックハートを演じます。
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古希で現役バリバリの俳優たちが、丁々発止やり合います

小日向文世 LEON.JP
── 3回目の上演となる『海をゆく者』ですが、まず大好評だった初演・再演で印象に残っていることを教えてください。

小日向文世さん(以下 小日向) この作品は、とにかくセリフの量が膨大で、初演はまずそれとの格闘でした。加えて5人でポーカーをする場面があって、俺はいくら賭ける、じゃあ俺はそれに上乗せして賭ける、じゃあ俺は降りる……って、テンポよくやりとりしながら芝居を進めていかなくちゃならない。それが難しくて、決まった稽古時間以外にも、集まって自主練したくらいです。

5年後に再演した時は、セリフはある程度、体に残っていたんですが、本番で、僕が酔っ払っている芝居をしている時に足元をよく見ていなくて、舞台から落っこったことがあります。すごい勢いで舞台に戻ったから、お客さんは演出だと思ったらしいですけど。幸い、すり傷程度ですんだからよかったんですが、ヒヤッとしましたね。

── さらに9年を経て再再演が決まり、どんなお気持ちですか。

小日向 再演の評判がよかったから、「もしかしたら、またやるかも」くらいは思っていたけれど、まさか実現するとはね。でもお話がきた時は、前回、前々回が大変だったこともすっかり忘れて、うれしかったですよ。こんなふうに、初演からほぼ同じ、しかも今回の公演中に続々と古希(70歳)を迎えるメンバーが、元気にまた集まれるっていうのは、すごいことだなと。皆、体の変化とか、どう感じているのかな。同世代だからこそ、ざっくばらんに話したいですね。

── 長年、第一線で活躍されている方々ばかりですね。

小日向 全員、小劇場出身で、知り合った頃は20代だったのが、この間のことのように思えるんですけどね。僕は23歳で劇団「オンシアター自由劇場」に入ったのですが、当時、座長の串田和美さんが、すごく大人に思えた。でも串田さんは僕より12歳年上だから、35歳だったんですよね。その頃の僕からしたら、70歳近くなった俳優が集まって芝居をするなんて、考えられなかったな。
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仲間同士、大酒飲んでご機嫌になる……共感できる人も多いのでは?

小日向文世 LEON.JP
── 俳優陣はもちろんですが、作品そのものも魅力的ですよね。

小日向 ストレート・プレイ(会話劇)でありながら、ファンタジーが同居している珍しい作品です。アイルランドの小さな街で、決して幸せな人生を送っているとは言い難い男たちが、クリスマスイブに家に集まって、浮かれて、お酒を飲んでベロベロになって、ポーカーに興じる。僕が演じるロックハートは、バーで誘われて後から家にやってくるんですが、実は偶然じゃなくて……という役割です。ロックハートは、最初からやりたいと思った大好きな役。ちょっと不思議な存在で、やり甲斐がある。また他の役も、それぞれにドラマがあって、葛藤を抱えていたり嫉妬深かったり。すごく人間臭くて面白いんです。

── 普段は“イケおじ“の皆さんですが、演じるのは“ダメオヤジ”ですね。

小日向 そうそう。登場人物は、酒と賭け事が大好きな、無邪気で、みっともない人たちばかり。リチャードなんか、目が見えなくなってトイレまで弟に頼るようになっているんだけど、お尻に乾いたウ●コがついているのをブラシでこすって落としたことまで、仲間に嬉しそうに話してしまうくらい。野郎しかいないから、全然、カッコつけないんです。途中から来た紳士然としたロックハートを、他の皆がポーカーでカモろうとしているのも見え見えだし。

ここに女性が1人混じっていたら、ちょっと無理しちゃうんでしょうけど、それがまったくなくて、何でもかんでもさらけ出す。暮らしは恵まれてないんだけど、仲間同士、大好きなウイスキーを飲めるのがうれしくて楽しくて、ワイワイしちゃう。そういうところがとてもいいし、舞台を観るお客さんにも共感してもらえるんじゃないかな。ダメだけど、なんだか可愛いオヤジたちですよね。

しかもそれを、70歳近い俳優が集まって演じるんだから、自分たちでも「よくやるよな」って思います。とにかく、セリフを飛ばさないようにしないと。セリフの掛け合いがあっての作品だから、そこはしっかりしないとね。
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どうしようもない人生の中の幸せ。それを感じてほしい

小日向文世 LEON.JP
── この年齢で、3回目を演じるからこそ、感じるものはありますか?

小日向 仲間同士、ただ大酒飲んで賭け事してというだけじゃなくて、最後はクリスマスの朝らしい、ちょっとした神の祝福が訪れるんです。貧しくてどうしようもないオヤジたち、日々何が楽しいのっていう生活をしている人たちにも、生きている幸せを感じる瞬間がある。そんな温かいものが根底に流れているのがこの作品です。

改めてこの作品を演じる時は、前回より「人生って何だろうな」って考えるのかもしれないですね。一緒に俳優を続けてきた仲間を見て、「ああ、こいつも年取ったな」って思うだろうし、自分も70歳近くなって、以前より死について考えるようになったから「人生ってあっという間だな」って思うだろうし。実際、再演から今までの9年間も、すぐ過ぎたように感じますからね。ただセリフを覚えないといけないから、感慨に浸ってばかりじゃあいられないですけど。

みっともなさもさらけ出す。それもカッコいいと思えるようになりました

小日向文世 LEON.JP
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── LEON.JPでは毎回、「カッコいい大人の男とは?」とお伺いしています。小日向さんはすでに十分、カッコいい大人なのですが、若い頃に想像していたカッコいい大人になれた、近づけたと思いますか?

小日向 若い頃、カッコいいなと思っていたのは、自分の考えとか生き方を、理路整然と 話せる人でした。言葉ってものすごく大事だと思っているんですが、それをきちんと使って相手に伝えられる人というのかな。教養があるうえに、その人の人生も積み重ねて、言葉にできる、そういう人ですね。

俳優だったら芝居だけしていればいい、と思わずに、人生、世の中、政治、何でもいいんですけど、自分の考えをしっかり言葉で伝えられる。そういう“頭のいい人”に憧れていました。

── 小日向さんもそういう人に見えますが……。

小日向  いやいや、全然(笑)。僕は劣等生でしたからね。高校時代に麻雀に明け暮れて受験から逃げちゃったくらいだから。後になって、その罰が随分当たったなと思いました。自分の息子たちなんか、ちゃんと大学を出ているし、たまに話すと、「僕よりずっと教養があるな、勉強したんだな」と羨ましくなりますもん。

でも、この歳になって、みっともないことも含めて、自分をさらけ出して頑張っている人もカッコいいのかな、と思うようにもなりました。見栄やプライドを振り払って、老いて衰えている部分があることも受け入れて、今の素の自分で必死にやれる人というのかな。

僕自身、自分を良く見せようとカッコつけても、どうせすぐバレちゃうな、と分かってきましたからね。だから今となっては、みっともなくていいから、周りから「一生懸命やっているな」って見てもらえる感じでいいと思っています。また、そういう人物を演じるのも楽しいですしね。

── まさにこの『海をゆく者』のオヤジたちのような。

小日向 そう、愛すべきダメオヤジ。でも“愛すべき”ってところが、とても大事なんですけどね。実際には、こういうオヤジたちって、近くにいたら周囲の人は迷惑するかもしれないですし、現実は厳しくて、救いもないかもしれない。

だから、舞台という虚構の世界だけでも、そういうオヤジたちを愛せる、あったかい気持ちになってもらえればと思っています。
小日向文世 LEON.JP
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PARCO劇場開場50周年シリーズ『海をゆく者』

■ PARCO劇場開場50周年シリーズ『海をゆく者』

作:コナー・マクファーソン 翻訳:小田島恒志 演出:栗山民也
アイルランド演劇界をリードする劇作家コナー・マクファーソンの出世作にして代表作。2006年にロンドンのナショナル・シアターで初公演、ローレンス・オリヴィエ賞“BEST PLAY”、トニー賞“BEST PLAY”他三部門に輝く。日本では2009年、演出家・栗山民也のもとに、演劇界を代表するバイプレーヤー5人(小日向文世、吉田鋼太郎、浅野和之、大谷亮介、平田満)が集結、その丁々発止のセリフの応酬と円熟味のある芝居で話題を集める。2014年に同じメンバーで再演。今回の再再演では、吉田鋼太郎に代わって高橋克実が初参加、新たな魅力を添える。12/7〜東京・PARCO劇場を皮切りに、新潟、豊橋、岡山、福岡、広島、大阪と巡演。

小日向文世(こひなた・ふみよ)

● 小日向文世(こひなた・ふみよ)

1954年生まれ、北海道出身。東京写真専門学校を卒業後、1977年にオンシアター自由劇場に入団。1996年の同劇団解散まで中核的存在として活躍。解散後は、映像の場へと活動の場を広げる。2004年映画『銀のエンゼル』、2008年連続TVドラマ『あしたの、喜多善男』でそれぞれ初主演。2012年度に第19回読売演劇大賞「最優秀男優賞」を受賞、2013年度に、第86回キネマ旬報ベスト・テン『助演男優賞』を受賞。2023年10月期のTBS連続ドラマ『下剋上球児』に出演中。

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