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2023.03.21

松たか子「ホントに私、面白いことはできないし、面白くもないし、無理です」と言ったのに

すでに初舞台から30年のキャリアを誇るベテラン女優でありながら、今も清廉で飾るところないキャラクターが魅力の松たか子さん。初めてのコントへの挑戦は松尾スズキさんからの熱烈オファーで実現しました。

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文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリング/梅山弘子(KiKi inc.) ヘアメイク/須賀元子 編集/森本 泉(LEON.JP)

松たか子 LEON.JP
歌舞伎界の名家に生まれ、16歳で初舞台を踏んだのち、大ヒットドラマ「ロングバケーション」(1996)への出演で一躍注目を集めたのが19歳の時。以降、数々のドラマや舞台に出演を続け、日本を代表する女優のひとりとなった松たか子さん。

今も、清廉で飾るところがなく、ありのままの自分で作品に挑み続ける彼女が、3月25日にWOWOWで放送・配信される、松尾スズキさん作・演出のコントドラマ「松尾スズキと30分強の女優」に出演します。コントは初めてという松さんに、挑戦した理由や撮影の舞台裏、そして、デビュー30周年を迎える心境などを伺いました。

「絶対できないから」と言ってずっと逃げていた

── 「松尾スズキと30分強の女優」は、松尾さんが毎回ひとりの女優さんと組んでコントを繰り広げるオムニバスコントドラマの第3弾です。“コントと松さん”というのは意外な組み合わせのように思えますが、やろうと思われたのはなぜですか?

松たか子さん(以下、松) 実は前々からお話はいただいていたものの、「絶対できないから無理です」と言ってずっと逃げていたんです。「ホントに私、面白いことはできないし、面白くもないし、無理です。他のことを頑張るので、勘弁してください!」って(笑)。それで松尾さんにも納得していただけていたと思っていたんですけどね……違ったんだな、と思って。

── というのは?

 2019年の舞台「世界は一人」では共演者として、2021年の「パ・ラパパンパン」では演出家としての松尾さんとご一緒して、私の器用じゃないところも含め、松尾さんの前ではもう何も取り繕うものがない、全部見られているなと感じまして。そのうえでまたオファーをいただいて、今回は、もうやらない理由が見つからなくて(笑)、これはやってみるしかないって思い切りました。

── かなりの覚悟だったのでしょうか?

 やると決めて以降は、緊張はしましたけれど、あまり悩むこともなく、粛々とその日を迎える感じでした。
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松たか子 LEON.JP
── 実際に撮影に臨んでみての感想は?

 ホントに必死でしたね。でもずっと楽しかったです。例えば、オムニバスのひとつに、私が夢について語る「夢 ドリーム 2023 松たか子」というインタビューものがあるんです。松尾さんからは、「タクシーの後部座席で見るコマーシャル(電子広告)のような、意識の高い人たちみたいな感じでやってください」と言われたのですが、実際に語る内容はどうでもいいような夢の話で。

で、その話を、カメラの横で真剣に聞くインタビュアーを演じているのが松尾さんなんです。カメラには私しか映りませんけど、松尾さんが目の前でずっと、力強く頷きながら聞いてくださっている(笑)。それがもう反則的に可笑しくて、演じることに必死なだけでなく、笑いをこらえるのにも必死でした。
── コントの登場人物になりきるのは、お芝居の役作りとはまた違うのかなと思うのですが。

 みなさんきっとそう思われますよね。でも、私はお芝居とコントをやり分けるようことが、あまり器用にはできなかったんです。ただ、ドラマの時は、「あそこ、ああしたほうがよかったかな」などと思って、それを引きずったままの顔が映ってしまうのはまずいという意識があるので、映像は切り替えが大事だとは思っていて。今回もそれに近い意味で、とにかく1日1日を着実に終わらせていこうと匍匐前進で進んだ感じでした。

── コントの内容もさることながら、見る側としては、松さんが、こんなこともあんなことも大真面目にやってらっしゃる、というのが面白かったのですが。

 松尾さんが、「そのままやってくれれば面白いようにするから」と言ってくださったので、自分としては必死にやっているだけだったんですけど、その姿がたぶん面白いのかな……。松尾さんをはじめ、大人計画のみなさんがチームで引っ張ってくださったので、その力が大きいんだと思います。私としては、この作品に出ること自体が挑戦でしたね。
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松たか子 LEON.JP
▲ ブラウス4万2900円、パンツ6万4900円/ともにUJOH(M)

“月9”の読み方すら知らず、「げっく?」なんて言っていた

── 松さんにとって、松尾さんはどんな方ですか?

 松尾さんは、作家で演出家で、役者さんでもありますよね。今回も、松尾さんご自身セリフも多いし動きも大変で、お互い、演じる側として一生懸命やっている者同士ではあったのですが、そう思っていると急に、作家であり演出家のすごくシビアに物事を見る目になる時があって。

ある瞬間、その引いた目になる時はドキッとするし、「あ、怖い」と思います。でもその両方があるから魅力的で、油断ならない相手という感じですね。

── 松さんは、今年でデビュー30周年を迎えられますが、率直なお気持ちは?

 30年……ですね。いやぁホントにお仕事をくださる方がいてくれたおかげで、今日までこられたなぁと思います。私の場合は出所がはっきりしすぎていて、「で、だからなんなの?」っていうところからのスタートだったので。そうした(役者の家系という)背景があってのチャンスもあれば、それとは関係のない方たちと出会えたこともよかったし。今回の松尾さんみたいに、あきらめずに声をかけてくださる方々がいてくれたおかげで、つながってきたのだろうと思います。
── 10代後半でのデビュー以降、傍からは順調にキャリアを重ねてきた印象ですが、ご自身はどう感じていますか。

 ある意味、選択した状況に思いがけず流され始めたことで、環境が変わっていったところがあったと思います。最初は、舞台でちゃんと立てる人になりたいなぁと思ってお芝居を始めたのですが、18歳の時、映像をやるか、舞台をやるかを選択する局面があったんです。

私は、初めて連続ドラマに出たのが「ロングバケーション」というドラマだったのですが、その時にちょうど舞台のチャンスもあって、私は当然舞台をやるつもりでいたんですね。けれどなぜか……父が言ったか、母が言ったのか定かに覚えていないのですが、「(ドラマは)今だけのチャンスかもしれない」みたいなことを親に言われたんです。

で、「ああ、そうなの?」と思って、テレビの流儀も知らないまま、「まぁでも、お芝居をする場所かぁ」ぐらいの感覚で出させていただいて。当時の私は、“月9”の読み方すら知らず、「げっく?」なんて言っていたし(笑)、実際、ドラマの現場は舞台以上に未知の世界でした。

でも、その現場でいろいろ教えていただけたのは、ホントに恵まれていたなと思うんです。もしあの時、タイミングが違ったら、また別の進み方をしたかもしれないし、出会った人も変わってきたかもしれない。今となっては、ああ、それでよかったのかなと思えるポイントですね。
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── 松さんの中で、舞台と映像は全然違うものという感覚ですか?

 取り組む姿勢はあまり変わらないです。舞台の「今度こそ一番よくなるように」という気持ちは、映像の「今日も一回一回終わらせてOKをもらうぞ」という気持ちと同じで、どちらも一生懸命やるだけなので。そのコツコツ進んでいく感じは一緒な気がします。

ただ、決定的に違うのは、舞台(での自分)というのは毎日違って、できなかったり、今日できても次の日できるとは限らなかったりすることです。

映像は、監督の「オッケー」をもらえたら、あとはもう監督にお任せし、それを重ねていくものなので。自分がどう思っても撮り直せないと思うぶん、「あのシーン、どうだったかな……」と(不安に)思うと、それが映ってしまうような怖さもあります。

その意味では、映像はよりスピードが速い俊敏なイメージで、舞台はより持続力が鍛えられるものという気がします。

自分の想像力の中だけにおさまっているのはもったいない

── その後、ドラマの仕事もどんどん増えるなか、舞台への気持ちはどう変化していきましたか?

 舞台に関しても、「ロンバケ」の少しあとに、改めて舞台のお芝居の勉強をちゃんとしたいな、修行をしたいなと思う機会が自分に訪れたんです。それで、20代の頃は、年に1本は舞台をやりたいというふうに、仕事の配分を決めようとしていました。

けれど、30代、40代と経験を重ねるにつれて、そうそう計画通りにうまくいくものではないかもなぁと思い始めて。それよりも、出会いのタイミングと、「やりたいな」「これはやるべきかな」という自分の思いに正直でいたほうがいいと思うようになったんです。

だから今は、あまり配分も考えず、巡りあわせに身をゆだねていて、その流れの中で松尾さんとのコントも始まったという感じです。

──  結果としてその方が面白い仕事に出会える?

 そうですね。今回の「30分強の女優」も、自分では思いつかない世界を考える人がいて、その世界に呼んでもらえる驚きと、逆に、私で大丈夫ですか!? というドキドキがありました。でも、そこに飛び込んだら面白かった、ということの繰り返しです。

ならば、自分の想像力の中だけにおさまっているのはもったいないから、その世界に行ってみたいなと思ったら、行けるように努力をする。それはずっと変わらないような気がします。
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── 4月14日からは、コロナで中断されていた松本白鸚さんの主演舞台『ラ・マンチャの男』のファイナル公演が再開します。松さんが約10年ぶりに参加され、親子共演が見られることでも注目されています。

 私はこれまで、再演を重ねた経験自体がそれほど多くないんです。そんな中で「ラ・マンチャ」は、私にとても多くの経験をさせてくれた作品です。それに、同じ役でも同じようにやるんじゃなくて、やっぱり毎回違う。同じことをやるように見えて、毎回新しいことに挑戦できる、舞台って不思議な世界だなと思います。

── 公演再開に向けて、お父様と何か話したりしていますか。

 いえ、特に話してはいないです。父は年齢も年齢ですし、身体的なケアなど、いろんなことを心配する必要はあるんですけど、そうやって心配をしていて、今まで何度となく(手を前に伸ばす身振りで)「お~い!(待ってくれ~)」って置いていかれたことがあるので(笑)。

それよりも今は自分の心配をして、とにかく今回が一番よくなるように、自分の精一杯をぶつけたいと思っています。

── 最後に、松さんが思うカッコいい大人像について伺えますか?

 どうでしょうね……正しくて完璧な人はカッコいいのかもしれないけど、私は、それだけじゃない隙やユーモアがあるチャーミングな部分を持っている人に惹かれてしまうし、自分もそうありたいなと思うんです。誰に対しても、ユーモアを忘れずに接することができる人が私はカッコいいと思いますね。
松たか子 LEON.JP

松たか子

1977年6月10日生まれ。東京都出身。1993年歌舞伎座「人情噺文七元結」で初舞台。 翌94年大河ドラマ「花の乱」で初テレビ出演後、「ロングバケーション」(96)「ラブジェネレーション」(97)「HERO」(01) などヒットドラマに多数出演。近年も「カルテット」(17)「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)などが話題に。その他代表作に映画『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』『告白』『夢売るふたり』、舞台『ハムレット 』『天涯の花』『ラ・マンチャの男 』『モーツァルト! 』『ミス・サイゴン』など多数。 歌手としての実力も評価され、アニメの吹き替えをした『アナと雪の女王』も大ヒット。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞や読売演劇大賞・最優秀女優賞等を受賞。

松尾スズキと30分強の女優 松たか子の乱

大人計画主宰、シアターコクーンの芸術監督、コントの名手・松尾スズキが毎回ひとりの女優とがっぷり四つに組んで繰り広げる至極のWOWOWオリジナルコントドラマ! 子どもの頃お母さんに顔で叱られた経験は誰にでもあるはず。そんな体験をマダムK(松たか子)が提供する倶楽部に湯浅(松尾スズキ)が友達の紹介で訪れる。「顔だけ倶楽部」/100年後を舞台にしたSF「スニーキー狩り」シリーズの前日譚。バルマン(松尾スズキ)が傷を負いながらたどり着いた辺境の地で何が起きるのか。「スニーキー・ビギニング『傷』」ほか。
3月25日(土)21:30~ WOWOWにて放送・配信
HP/松尾スズキと30分強の女優

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