2022.11.05
アラン・デュカス氏が語る、成功の秘訣とフランス料理の未来とは?
言わずと知れたフランス料理界の重鎮、アラン・デュカス氏。約3年ぶりに来日を果たした氏に、コロナ禍における活動から自身の料理哲学、そして偉大なシェフとして成功するのに必要な資質についてまで伺いました!
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文/鳥海美奈子 写真/トヨダリョウ
「コロナ禍でレストランがクローズしても、自分の進むべき道を進み続けた」
デュカス たとえどんな状況であろうと、私はいつでも自分の進むべき道を進み、継続することを大切にしています。レストランは閉まっていても、他にもやることはたくさんありますから、とにかく継続、継続、継続でした。絶対に立ち止まることはありません。明日は常に今日より素晴らしいに違いないと信じて、目標に向かって進み続けていました。
デュカス この店の料理のテーマはコンテンポラリーです。一般にフレンチというと脂やクリームたっぷりの重い料理、というイメージを抱く人も多いかもしれません。でも、ここでは動物由来のプロテインはなるべく少なくして、植物由来のものを使うなど、脂質や塩分、糖分を控えた料理を提供しています。
デュカス トリュフやオリーブオイルは海外のものですが、食材のほとんどは日本産です。その土地のものを食べるというのは今、世界的にも主流になりつつある価値観です。とはいえ時代に合った、進化した料理をみなさん求めていますから、現在の消費者のニーズに応えるという意味でもこういった意識は大切です。
デュカス 野菜の皮や根など、普通なら捨ててしまうところもすべて煮出してブイヨンに使用しています。それこそが、この店のナチュラリテ(自然)のコンセプトなんです。食物を大切にし、すべてを使い切ってフードロスをなくすこと。現代に生きる私たちは、貴重な自然や地球の資源を料理に使わせてもらっているのだという感覚をもつことが大事です。料理人も消費者も、地球の命を大なり小なり担っているということです。
「世界に向けて、常に目を見開いておくことが大切」
デュカス 「レストランKEI」のケイ・コバヤシ(小林 圭氏)です。ケイは15年にわたり私のもとで働き、最後はパリの「プラザ・アテネ」で5年間スーシェフも務めました。彼はフランス人以外で初めて3つ星を獲得したシェフです。それがどれだけ素晴らしいことか、わかるでしょう?
彼は和食とフレンチの技術と思想、その両方を融合した料理を作り、それによって和食に対してもフランス料理に対しても、まったく新しいビジョンを提示しました。そしてもうひとり、私が最も信頼する日本人シェフが「ベージュ アラン・デュカス 東京」のケイ・コジマ(小島 景氏)です。日本の食材についても、彼から多くのことを教わりました。
デュカス やはりどれだけ好奇心が強いか、です。たとえ競合店でもさまざまなレストランに行って、とにかく料理を食べること。私は、世界に向けて目を見開いていなさい、といつもスタッフ全員に言っています。才能に国籍は関係ないですし、料理というのは常に進化しています。今はインターネットもありますから、世界で何が起こっているかということを常に意識することが重要です。
デュカス ミシュランとは美しい星、いわばひとつの報酬です。まずは、自分の店をどのように成功させるかに全労力を注ぎます。そうすれば自然に星は付いてくるのです。決してそれが目的になってはいけません。
デュカス みんな私に対して「いつも仕事している」「忙しそうだ」と言うけれど、実は私はまだ仕事を始めていないんだよ(笑)。これからスタートするんだ。
── そうなんですか(笑)。では、これから何を始めるんでしょう?
デュカス 私はレストランの他にショコラティエをもっていますが、それもより進化させていきたい。それに、9月にはパリに高級サブレの店をオープンしたばかり。10カ月間もかけて準備をして、コーヒーも焙煎からすべて自分たちで手掛けています。さらにジェラートの店も立ち上げました。今まであるものとはまったく違う概念のジェラートを作っていて、まさに世界最高峰の味わいです。
デュカス 今は秘密というか、あえて説明しないでおきましょう。いつか東京にもサブレとジェラートの店を出しますから、ぜひその味を体験してみてください。
デュカス 常に大事なのは、目標を立てたらそれを決して見失わないことです。そして自分と同じビジョンを共有できるいろんな人たちを巻き込んで、共に歩むこと。パリにある私の料理学校「レコール・デュカス」には74の国籍の生徒がいます。協力関係にある、パートナーシップを結んでいる国は世界80カ国にのぼります。文化の違いこそが豊かな創造性を生み出し、それを互いに調和させるコーディネート的な役割を私が担っているんです。
デュカス 私はバッグのコレクターなんですよ。このレストランのメニューのカバーには、鹿革に漆で模様をつける日本の伝統工芸品の「印伝」を使っています。老舗の職人がいらっしゃるのですが、特別にお願いすることができました。
印伝は最高品質の革製品で、私はまさに日本のエルメスだと思っています。それで何年もかけて構想を練って、たくさんあるデザイン画のなかからストーリー性豊かな絵柄を選び、特注のバッグをお願いしたんです。それを今回の来日で、ようやく引き取ることができます。世界にひとつの”デュカスモデル”です。
日本とフランスの共通点は、こういった職人技を大切にするというところですね。これを実際に使うのが今からとても楽しみです。
Profile
アラン・デュカス(Alain Ducasse)
1956年9月13日、フランス南西部ランド県生まれ。1972年、16歳でフランス料理の修行を始める。フランス各地の有名レストランで研鑽を積み、1981年、25歳でレストラン「ラ・テラス」を統括し、1984年、ミシュラン2つ星獲得に貢献。1987年、31歳でモナコ公国のレストラン「ルイ・キャーンズ」の指揮を任される。1990年、史上最年少で3つ星を獲得。1996年、パリでレストラン「アラン・デュカス」開店。1997年、再び3つ星を獲得した。その後、NYや東京にもレストランをオープンするなど、精力的に活動を続ける。2020年、パレスホテル東京のフランス料理「エステール」がミシュラン1つ星を獲得した。
■ Esterre(エステール)
住所/東京都千代田区丸の内1-1-1 パレスホテル東京 6F
営業/ランチ11:30〜13:30(L.O.)、ディナー18:00〜20:00(L.O.) 定休/月・火曜
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