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2021.05.15

アラン・デュカスの禅問答のような「お題」に答えて完成したスパークリング日本酒。そのお味は?

フレンチの巨匠アラン・デュカスが日本の酒蔵と組んでスパークリング日本酒を開発、この度、無事発売となりました。デュカス氏から禅問答のような「お題」を出された蔵元、山梨銘醸の醸造責任者、北原亮庫さんに話を伺いました。

CREDIT :

文/仲山今日子

アラン・デュカス
▲ フランス料理の帝王、アラン・デュカス氏(左)と、デュカスグループを統括するソムリエ、ジェラール・マルジョン氏(右)。
泡といえばシャンパンでしょ!と思っている皆さま。確かにその通りではあるのですが、実は今、世界から注目を集め始めている「泡」といえば、発泡性の日本酒。世界で20のミシュランの星を持つ「フランス料理の帝王」も、山梨県で発泡日本酒を造り始めたそうなんです。そんな噂を聞きつけて、酒蔵までお邪魔してきました!

やってきたのは「七賢」で知られる山梨県の著名な日本酒メーカー、山梨銘醸。蔵があるのは、ウイスキー愛好家の方でしたらピンとくるでしょう、古くから名水の里として知られている白州町です。筆者が山梨県のテレビ局で働いていた時代に、新酒の初しぼりなどの季節ネタ取材でもお世話になった1750年創業の老舗蔵元は、敷地内に天皇陛下が行幸の際に滞在された部屋もある、由緒正しさを誇ります。
Alain Ducasse Sparkling Sake(アラン・デュカス スパークリング サケ)
Alain Ducasse Sparkling Sake(アラン・デュカス スパークリング サケ)。容量720ml/アルコール分12度/価格5500円(税込)。
こちらの蔵で4月29日に晴れてリリースを迎えたのがフレンチの巨匠アラン・デュカス氏との共同開発で生まれた発砲日本酒「Alain Ducasse Sparkling Sake(アラン・デュカス スパークリング サケ)」です。

この山梨銘醸、現在の醸造責任者は、13代目の北原対馬氏の弟、亮庫氏。現在37歳、ちなみに、サッカーの中田英寿氏の高校の後輩にあたり、若い頃はプロサッカー選手を目指していたんだとか。
山梨銘醸、現在の醸造責任者は、13代目の北原対馬氏の弟、亮庫氏
▲ 取材時はちょうど桜が満開。蔵を見守り続けた桜の古木の前に立つ北原亮庫氏。
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北原氏とデュカス氏の出会いは、2018年にさかのぼります。若手杜氏として日本酒のアワードで受賞したことから、ちょうどオリジナルブランドの日本酒メーカーを探していたアラン・デュカス氏との出会いが生まれました。

すぐさま、その年の11月に、世界に展開するデュカス グループのソムリエ部門の責任者、ジェラール・マルジョン氏が蔵を訪れ、製造工程などを視察して全商品を試飲。その後はコロナ禍のあおりも受けて、オンラインでのやりとりを重ねてきたそう。

3月に行われたプレス発表会では、満足そうに完成した日本酒を味わうデュカス氏がオンライン中継で生出演しましたが、フランス料理の帝王を満足させる日本酒を作るというのは、なかなかに難しそう。それに、オンラインでのやりとりで、どのように味を作っていったのでしょう?

それには、既存の日本酒作りと違った着想をもつ、北原氏の強みが、最大限生かされていました。酒造りというと、通常は、どのような米を使い、どれくらいまで磨いて……と、スペックありきで考えがち。でも、デュカス氏のアプローチはまったく違ったのだといいます。北原氏に、ここだけの開発秘話をお聞きしましたよ!

まるで禅問答? 巨匠デュカス氏が出した酒造りの「お題」とは?

▲ 伝統的な蓋麹法の良さを取り入れつつ、合理的に行えるように工夫している。
──コロナ禍もあり、色々な意味で前代未聞の日本酒造りだったようですね。

北原氏(以下、北原)   そうなんです。実は、完成品を飲んでいただいたのはプレス発表会が初。一緒に日本酒を作ることが決まった後、サンプルをいくつか送って、その中から選んでもらったのが、発泡日本酒だったのです。そこで、発泡日本酒を作るという方向性だけは定まりましたが、あとはデュカス氏からもらった20のキーワードに沿って、こちらでイメージをふくらませて仕上げていった形です。

──キーワード? 普通は、精米歩合がどれくらいで、日本酒度がどれくらいで……という話になりそうですけれど、どんなキーワードだったんですか?

北原 そうなんです、通常そうやって具体的な数値でリクエストが来たりして話を詰めていく部分もあるのですが、いただいたキーワードは、とてもユニークなものでした。
──どれどれ、見せていただきましょう、「安らか、ミリメートル単位の酸味、エネルギーを与える、世界中で成功する……」うーん、私だったら正直困惑します(笑)。具体的な作り方ではなくて、むしろ飲んだ人にどう感じてもらいたいか、というイメージが綴られている印象ですね。

北原 そうですね、私もちょっとびっくりしました(笑)。でも、そのぶん自由に発想をふくらませられる、というメリットもありました。私も蔵に戻って酒造りを始めた当初は、どれくらい酒米を磨くか、というところから発想して、具体的な日本酒の形に落とし込んでいたのですが、2018年から3年間リリースした、キース・ヘリング美術館とのコラボレーションで、絵から感じる視覚的なイメージを日本酒に落とし込む経験ができたのが、今回役に立ったように思います。

日本酒は基本的に減点方式で、雑味がなく、理想的な型にいかに近いか、で評価されます。しかし、マルジョン氏がいらした時にも感じたのですが、ソムリエの方は、型にはまらず、自由に個性ある日本酒を楽しんでいるように思います。どう楽しんでほしいか、というイメージから発想する視点は、これからの日本酒を考えるうえで、とても大切なように思えるのです。
▲今回使った米は、地元産の「ひとごこち」骨格がはっきりとしていて、熟成にも耐える酒が仕上がる。
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── なるほど、数値至上主義にならない、ということですね。

北原 はい、今は精米歩合の競争のようになって、中には1%を切る日本酒も生まれてきていますが、99%以上を磨き落としてしまうわけですから、ロスも多いですし、それが本質的な味にどこまで影響しているか、という部分もあります。そうではなくて、どんなイメージの味を作るか、今回のデュカス氏からのキーワードのように、自由に発想して、今の時代に世界で求められる味を作っていくことが、日本酒が世界に広まっていくキーワードでもあるように思うのです。

──そして完成したこの日本酒、初回発売分は完売、5月10日リリースの第二回もまもなく完売という人気ぶりなのですね。

北原 はい、このあとは第三回5月27日に、第四回を7月下旬に発売後、秋からまた仕込み始める予定です。クオリティを保つために、四合瓶で2000本ずつの小規模の仕込みで続けていこうと思います。今回、特別に取っておきましたので、飲んでみてください(注ぐ)。

──泡がきめ細かくてエレガントですね。シャンパンと比べると、やや甘味を感じますが、芯にすっきりとした酸があり、最後に綺麗な水の透明感が残るので、後味が軽やかですね。発泡日本酒というと、甘いイメージがあって、食前にカクテル感覚でいただいたのですが、こちらは食中でもしっかりと楽しめそうです
▲洗米は自動制御で。蔵人の平均年齢は30代後半、若手の間で知識を共有しながら酒造りを行う。
北原 こちらに限らず、うちの日本酒に共通するスタイルは「水の味を表現する日本酒」なんです。すぐそばにある甲斐駒ヶ岳は花崗岩でできた山。その地層を通った水が、敷地内から湧き出していて、うちの日本酒は100%これで醸しています。人間が必要とする理想的なミネラルバランスの軟水で、この水がうちの蔵のアイデンティティです。

それに加え、いかにデュカス氏からのキーワードを生かせるか。特に難しかったのが、「世界中で成功する」という部分です。世界を驚かせることは比較的簡単ですが、成功するためには、飲んで納得してもらい、また飲みたいと思ってもらわなくてはならない。

──その考えのもと、造りも既存の考えとは大きく違う造りにしたのだとか。

北原 そうなんです、通常うちの蔵では、一つのタンクで仕込んだ日本酒をそのまま瓶詰めします。しかし、今回は3通りの日本酒を仕込み、それをブレンドしています。1つ目は、桜の樽で1カ月寝かせて香りをつけた純米酒。2つ目は、ワインを飲み慣れている方にも楽しんでいただけるよう、ワインのような重層的な味が生み出せる貴醸酒(仕込み水の一部を日本酒で醸す)。3つ目は、シャンパンと同じ瓶内二次発酵をする際に、ワインに含まれるリンゴ酸を作る酵母を使った日本酒のもろみを加えています。

シャンパンの場合は、砂糖と酵母を加えれば良いのですが、日本酒と呼ぶためには、こういったものは加えられないので、二次発酵のためだけに日本酒を醸してもろみごと加える、という手法を取りました。
▲今回のために特別に作った桜の木樽。この中で一カ月ほど寝かせて香りを纏わせる。
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──手間を考えるだけでクラクラしてきます。でも、その甲斐あってプレス発表会でデュカス氏は「日本のエレガンスとフランスの生活芸術とのマリアージュ」と、絶賛でしたね。

北原 はい、まさに一発勝負だったので緊張しました。デュカス氏はあの時に、おそらく初めてスパークリングの日本酒を召し上がったのではないかと思うのですが、シャンパンのように多くの人に楽しんでもらえそう、とおっしゃっていただけて、ほっとしました。

──それにしても、発想の源には、ワインやウイスキーに通じる考えが色々とあるようですね。

北原 そうですね、山梨はワインの生産地でもありますし、最近日本酒「IWA」をリリースされた、元ドン・ペリニョンの醸造責任者、リシャール・ジェフロワ氏や、近所に蒸溜所がある、サントリーの名誉チーフブレンダー、輿水精一氏も蔵を訪れてくださっています。こういった方々との交流で学んだことが、今回の日本酒造りにも生きたと思います。

──水のみならず、アイデアという意味でも、山梨の地の「テロワール」が反映されている気がして、以前山梨に住んでいた一人としてもうれしいです。ありがとうございました!

既存の発想に捉われず、新しい日本酒造りを行なっている北原氏。そして、北原氏のように、さまざまなスタイルで工夫し、より良いものをと研鑽を重ねている日本酒の酒蔵もきっと少なくないはず。日本酒のみに限りませんが、この逆風の中でも頑張っている酒蔵・各種酒造メーカーを、外飲みは無理でも、ウチ飲みでおいしく応援したいものです。
▲老舗の風格漂う山梨銘醸の正面玄関。将来的には海外展開も視野に入れている。

山梨銘醸株式会社

住所/山梨県北杜市白州町台ケ原2283
お問い合わせ/TEL 0551-35-2236
HP/https://shop.sake-shichiken.co.jp/products/197

● 仲山今日子(なかやま・きょうこ)

テレビ山梨・テレビ神奈川アナウンサーなどを経て、World Restaurant Awards審査員。現在、食と旅をテーマに日本とシンガポールの雑誌に日本語・英語で執筆中。趣味は秘境旅行、キリマンジャロ登頂など、訪れた国は50カ国以上。ワインエキスパート、日本酒唎酒師の資格取得。IG:kyokonakayamatv

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