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2021.10.14

同性カップルの子どもがなぜアートになるのか? アートで未来を問いかける

テクノロジーの進化とともに、アートの世界も拡張を続けています。「NFT」や「AR」など、耳にするものの実際はよくわからない最新のアートについて、メディアアート研究者・高橋裕行さんに伺いました。

CREDIT :

文/浜野雪江

アートを見ると未来がわかる?

今、拡張するアートの世界では何が起きているのでしょうか? 近年登場してきた注目のアートやその楽しみ方などについて、文化の土壌を耕す“水やり係”を自認する、メディアアート研究者でキュレーターの高橋裕行さんに伺いました。

前々回の「NFT」、前回の「AR」と「VR」に続いて、「スペキュラティブデザイン」について教えていただきます。

未来への問いかけが込められたスペキュラティブデザイン

── 今回は「スペキュラティブデザイン」がテーマとのことですが、どういったアートなのでしょう? 耳慣れない言葉ですが……。

高橋裕行(以下、高橋) 言葉で説明する前に、まずこの絵を見てみてください。
▲ 「(IM)POSSIBLE BABY/(不)可能な子供」長谷川 愛 2015年
── 2人の女性と2人の女の子が描かれていますね。歳の離れた姉妹ですか?

高橋 これは、長谷川 愛さんの「(IM)POSSIBLE BABY/(不)可能な子供」という作品で、実在する同性カップルの一部の遺伝子から、できうる子供の容姿や性格を推測して、子供の姿をCGで作成した「家族写真」なんです。

近い未来には女性の体細胞から精子を、男性の体細胞から卵子を造ることだって技術的には可能だそうですが、倫理的に許されていません。今はまだ“不可能”な子供ですが、遺伝子データ上での子供の推測なら同性間でもできる。実現しない“その先の未来”を見せることで、なぜいけないのか? 倫理とは何か? など、様々な問いを投げかけている作品です。

── アートを通して倫理を提起されると、受け手としては立ち止まるフックになりますね。

高橋 スペキュラティブデザインは、未来を見通し提示することで思考するきっかけを与え、問いを創造するというものです。RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)のアンソニー・ダンとフィオーナ・レイビーという教授が提唱しました。

制作する際にテクノロジーをちゃんと調べ、「ほぼ確実に来る未来」から「可能性としてはあり得る未来」までの広いレンジで考えて、そのなかで、望ましい未来を呈示していくということをしています。SFの実体化、と言えば伝わりやすいでしょうか。

この手法自体は学んで習得できるので、長谷川さんのようにスペキュラティブデザインを積極的に扱うアーティストが今後増えてくるかもしれないです。
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難解なアート作品はどのように鑑賞すべきか

── 作品の深みがわかるとまた印象が変わってきますね。ただ、「(IM)POSSIBLE BABY/(不)可能な子供」も一見しただけでは意図を正しく汲むのが難しいですが、コンセプトの強い作品を展示する際は同時に解説されているものですか?

高橋 意図は隠されていることが多いかもしれませんね。アーティストトークやキャプションで明かされることもあると思うけれど、言ってしまうともったいない部分もあるので。観客が勝手に考えてくれる部分もあるのに、先に答え合わせをしちゃうと面白くない。だから匂わせてる、みたいな場合も多いです。

── 一見して意図が掴みにくい作品を鑑賞するコツみたいなものはありますか?
▲ 「私はイルカを産みたい…」長谷川 愛 2011-2013年 他の動物同様、人間は子どもを産み育てることが遺伝子的に組み込まれているが、人口過剰と地球環境問題ために、最適な状況で子育てをすることは困難になりつつある。そこでこの絵は、人間が絶滅危惧種(例えば、サメ、マグロ、イルカなど)を代理出産することを提案しているのだとか。子どもを産みたい、そして、美味しいものが食べたいという欲求をどう満たすか、もしくは価値観を転換できるのか? そんな疑問が投げかけられています。
高橋 僕は、作品は“夢”みたいなものだと思っていて。夢って、見ているときはただ見て、起きてから「なんであんな夢を見たんだろう?」って意味を考えたりしますよね。その、後で考えるというのが、僕はけっこう大事だと思っていて。展覧会を見る時も、会場では作品をよく見て感じることに専念し、意味はあとで自分の中で時間をかけて解釈していけばいいと思います。その場でわからなくても良いんじゃないかな。

── そんなに急いで解決しなくてもいいんだと思うと、見る側もより自由に楽しめそうです。先生はアートの未来がどうなると思っていますか。

高橋 どんな環境や文化においても、人は芸術をつくると思うんです。現にこれまでも、資源に乏しい島でだってヤシの実を加工して楽器を作ったりしていますよね。そういう意味では、22世紀がどんなに困難な時代になっても人はテクノロジーを使って遊び心を発揮し、社会問題を提起して、その時代らしい創作活動をしていくと思いますよ。

● 高橋裕行(たかはし・ひろゆき)

キュレーター。多摩美術大学非常勤講師。1975年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科助手、SKIPシティ映像ミュージアムキュレーターを経て、現在はフリーランスのキュレーター。内外で、さまざまな展覧会やワークショプの企画、制作、運営を行う。2015年〜2020年まで、伊勢丹ココイクでワークショップを主体とした幼児向けの教室のディレクションを行う。2016年、のと里山空港アートナイトでは、アーティスト集団ライゾマティクスとともに、空港滑走路を用いたアートプロジェクトをディレクション。著書に、『コミュニケーションのデザイン史』(フィルムアート社、2015年)がある。

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