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2021.10.02

「見たことのない、けど、見たくなる」テレビ東京の深夜番組がいま面白い!

フジテレビ:13~49歳など各局が「コア層」を年齢で設定する中、テレビ東京は「テレ東が大好きであらゆる番組を毎週欠かさず見てくださるテレ東ファンの方々、テレ東マニア」と定義したというから、注目したい。

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文/スージー鈴木(評論家)

記事提供/東洋経済ONLINE
「ネットニュースっていつまで“世帯”視聴率を記事にするんやろう?その指標あんま関係ないねんけど。。。」「コア視聴率はスポンサー的にも局的にも世帯視聴率より今や重要な指標なんです。そのコア視聴率が3時間横並びでトップやんたんです。」(原文ママ)

上記は話題になった松本人志のツイートからの抜粋(6月14日)。このツイートで「コア視聴率」という言葉を知った人も多いだろう。「対象世帯のうち、その番組を見た世帯の割合」(=世帯視聴率)ではなく、「テレビ局が狙いたい人々=『コア層』の中で、その番組を見た人々の割合」という意味だ。
写真提供/shutterstock

テレ東が狙う独特な「コア層」

マイナビニュースの記事「長寿番組相次ぎ終了、かまいたち躍進、早朝帯開発…民放キー局10月改編動向」(9月10日)によれば、各局の「コア層」の呼称と年齢設定は以下の通り。

・日本テレビ:「コアターゲット」:13~49歳
・TBS:「新ファミリーコア」:4~49歳
・フジテレビ:「キー特性」:13~49歳
・テレビ朝日:「ファミリーターゲット」:13~59歳

そんな中、この秋の改編に向けて、テレビ東京が設定した「コア層」も発表されたのだが、呼称が「テレ東コア」で、かつ、定義が「他局のように性別や年齢層で区切って視聴率の数値を出すものではなく、『テレ東が大好きであらゆる番組を毎週欠かさず見てくださるテレ東ファンの方々、テレ東マニア』」だというのだ。

テレビ東京・大庭竹修編成部長の言葉──「今まで週に5時間見てた人に10時間見てもらえるような、どんどんファンを深くしていくことをやって視聴率につなげていければ。濃いファンを増やすことが一番いいのではないか」。
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私はこの記事を見てけっこう驚き、また、テレビ東京が、「テレ東」というブランドや「テレ東らしさ」で勝負しようとしている姿勢に、ある種の爽快感のようなものを抱いたのだ。

また、その萌芽は、テレビ東京の最近の深夜ドラマに表れていると見たのである。とにかく面白く、個性的で──ちょっと「変」なのだ。

私はかつてこの連載で、テレビ東京の『池の水ぜんぶ抜く大作戦』シリーズを取り上げ、その成功の要因を、「『見たいもの』を見せるのではなく、『見たこともないもの』を『見たいもの』に転換」したことにあると書いた。

テレビ東京の最近の深夜ドラマには「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」があふれている。

その嚆矢となったのが、『孤独のグルメ』シリーズである。輸入雑貨商・井之頭五郎(松重豊)が営業先で見つけた食堂に入って、何かを食べるだけのドラマなのだが、これが相変わらず見せて、魅せる。

このシリーズの成功要因は、「人、それも中年男性が、おいしそうに何かを食べるのを見るのが、こんなにも楽しいのか」という発見だと思う。もちろん松重豊の演技や演出力もあろうが、成功の根幹には、「中年男性の食事シーン」が「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」だと見抜いたセンスがある。

ほかに食事に着目したドラマが『お耳に合いましたら。』。こちらは食堂メシではなく「チェンメシ」(=チェーン店のグルメ)。築地銀だこ、ドムドムハンバーガー、ドミノ・ピザなどの「チェンメシ」がストーリーのキーになっていて、登場人物がこれらの「チェンメシ」をおいしそうに食べる。
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サウナ、バッティングセンターなどの意欲作

「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」として、一部の中年男性には「気持ちよさそうにサウナに入っている姿」もあろう。『サ道2021』は、全国の「サウナー」(サウナ好き)の見える化と拡大に貢献した『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』(講談社)の実写化。原田泰造、三宅弘城、磯村勇斗らが、サウナ後にくつろいでいる姿を見るだけで和んでしまう。

テレビ東京の深夜ドラマで、この夏、私が最も楽しんだのは、『八月の夜はバッティングセンターで。』。バッティングセンターに来た悩める女性とともに、伊藤智弘(仲村トオル)が、野球の試合の最中にワープして、人生を指南するドラマ(と書いても伝わりづらいだろうが)。

脚本のポイントは、終盤、プロ野球OBの「レジェンド」が一瞬登場することだ。里崎智也、山本昌、吉見一起、古田敦也、上原浩治など。彼らが突然試合に現れ、含蓄のある一言を発するのだが、このあたり、野球ファンの私としては、まさに「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」だった。

これ以外にも、門脇麦が終始困ったような表情をし続ける『うきわ―友達以上、不倫未満―』や『八月の夜はバッティングセンターで。』の後継、片桐はいり初主演連ドラ『東京放置食堂』、実在のバラエティ番組のドラマ化『家、ついて行ってイイですか?』など、意欲作が勢ぞろいだ。

このような活発な動きの背景にあるのは、テレビ東京の企画力だと思う。元テレビ東京のプロデューサー、佐久間宣行は自著『できないことはやりません~テレ東的開き直り仕事術~』(講談社)において「お金や人材では他局との間に圧倒的戦力差がある以上、同じ土俵で勝負しても勝ち目はありません」としたうえで、こう語っている。

「他局がやらないことをやる」
「お金がないから内容や企画で勝負」
これがテレ東のDNAに刻まれた「テレ東らしさ」です。

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深夜ドラマの企画力が他へ波及

加えて興味深いのは、テレビ東京の最近の深夜ドラマでは、ドラマの内容だけではなく、ドラマを軸とした広告や他メディアとの連携構造、言わばビジネススキームにまでに、企画力が発揮されている点だ。

『お耳に合いましたら。』は、主人公・高村美園(伊藤万理華)が「ポッドキャストパーソナリティ」という設定になっていて、「チェンメシ」の魅力について、Spotifyで語るシーンがドラマ内に埋め込まれている。さらには、ご丁寧にもその音源がSpotifyに用意されていて、実際に聴くことができる。つまりは「チェンメシ」だけでなく、Spotifyのプロモーションにもなっている。

AdverTimesの記事「『八月のシンデレラナイン』ドラマ化の思惑 広告vsコンテンツの枠を超えて」(8月25日)によれば、『八月の夜はバッティングセンターで。』は、スマホ向けゲーム『八月のシンデレラナイン』(ハチナイ)のマーケティング施策の一環として企画されたものだという。

『ハチナイ』は「野球型青春体験ゲーム」らしいのだが、ここで注目すべきは、ドラマの内容がゲームをダイレクトに反映したものではなく、適度な距離感を持っていて、結果、先に書いたように、ドラマとしても自立的な魅力を保っていることである(後継の『東京放置食堂』も、ゲーム『放置少女~百花繚乱の萌姫たち~』が「原案」なのだが、内容はかなり独自のものだ)。

『サ道2021』で流れる、サウナを舞台とした生命保険のCMも含めて、つまり、「テレビで見たことのない、けど、見たくなるもの」を軸として、ドラマと広告と他メディアとの新しい連携のあり方を生み出すのが、現在のテレビ東京ならではの企画力であり、ひいてはシン「テレ東らしさ」なのだ。

気がつけば私は「テレ東が大好きであらゆる番組を毎週欠かさず見てくださるテレ東ファンの方々、テレ東マニア」になったのかもしれない。もう54歳なので「コア層」に入れてくれない局も多いようだが、「テレ東コア」にはカウントされそうな感じだ。

秋からのテレビ東京に期待が高まる。深夜ドラマの企画力が他の時間帯にも波及して、いよいよ実体化していくシン「テレ東らしさ」と、それに惹かれる「テレ東コア」、ひいては「テレ東ハードコア」層が、局の命運を握る秋へ。

スージー鈴木さんの連載の記事一覧はコチラ

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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