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2021.03.27

『鬼滅の刃』大ヒットに、令和の新しい価値観をみた!

『鬼滅の刃』の主人公「竈門炭治郎」は、常識人で思いやりがあり、チームのために奉仕する従来の名脇役タイプ。『スラムダンク』の「桜木花道」とは一線を画す炭治郎のキャラクター設定は、令和の時代を見事に写し出している!?

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文/井上大輔(マーケター、ソフトバンク株式会社 コミュニケーション本部メディア統括部長)

記事提供/東洋経済ONLINE
社会人になってから長い間『暗黒時代』が続きました。そこから抜け出せたのは、『生きる知恵としてのマーケティング』のおかげです」

数々のグローバル企業でマーケターとして活躍している井上大輔氏は、自らの経験を振り返って語る。

「マーケティングのエッセンスを『生きる知恵』として人生に活かせば、仕事・キャリア・プライベートのすべてで『求められる人』になれると気づいたんです」

そんな「生きる知恵」を解説する書籍『マーケターのように生きろ:「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』を上梓した井上氏は、「昭和までの全体主義」「平成の個人主義」に続く「新しい価値観」が萌芽しているという。「マーケターのような生き方」とも言えるその価値観を解説してもらった。
撮影/今井康一

『鬼滅の刃』大ヒットの裏にある「価値観の変化」とは

国民的な大ヒットとなった『鬼滅の刃』ですが、プロトタイプにあたる『鬼殺の流』では、別のキャラクターが主人公だったことをご存じでしょうか。

その後、さまざまな考察を経て最終的に「竈門炭治郎」が世界の中心にすえられたのだと思いますが、往年の少年ジャンプファンの目には、この主人公は少し異色に映ります。

これまでのジャンプ漫画であれば、主人公は型破りながら愛嬌があり、どこか奇跡を起こしてくれそうな「我妻善逸」でしょう。『スラムダンク』で言うと「桜木花道」です。

対して炭治郎は、常識人で思いやりがあり、チームのために奉仕する従来の名脇役タイプです。同じく『スラムダンク』で言うと、「木暮先輩」でしょうか。

この炭治郎のキャラクター設定は、しかしこの令和の時代を見事に写し出しています。その裏にあるのは「日本人の新しい信仰」なのです。

日本人は無宗教だと言われます。NHKが2018年に行った調査によると、実に62%の人が「信仰する宗教がない」と答えています。

世界最大の統計データプラットフォーム、statistaの調べによると、アメリカでは信仰する宗教がないと答えた人の割合が2020年現在で約20%です。ソースが違うので単純比較はできませんが、信仰する宗教がないという人の割合は、実際に日本ではかなり高いことがわかります。

しかし、日本人は本当に何も信仰していないのでしょうか? 日本人が書いた世界的ベストセラーの元祖とも言える、新渡戸稲造の『武士道』には、本来文字どおり「武士の道徳」だった武士道が、階級を超えて広く日本人に尊ばれる宗教のようなものになっていった過程が記されています。

実際に新渡戸の説く武士道の教えをひもといてみると、今でもそれが私たちの社会に深く根ざしていることが見てとれます。例えば武士道の「7つの徳」の1つである「礼」は、「目上の人」という概念や礼儀作法の大切さを教えます。

令和に生きる私たちも、年長者には敬語を使ったり、食事の席では上座を譲ったりするでしょう。

また、7つの徳の中で最も上位に位置するとされる「忠」は、主君や国(藩)に対する忠義の大切さを説きます。この武士道最大の美徳は、「社畜」と揶揄される日本人の組織への忠誠心に、今でも垣間見ることができます。
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「やるべき」「やるべからず」を自分だけで決める恐怖

こうした礼儀作法や暗黙のルールは時に煩わしくもありますが、一方でそうしたものがまったくない世界を想像してみてください。すべての「やるべき」「やるべからず」を自分自身で考え、判断し、その責任をとることを求められる世界です。

ドイツの心理学者エーリッヒ・フロムは、そうした状況に恐怖し、そこから逃れようとする人間の心理を、「自由からの逃走」という言葉で表現しました。この「自由からの逃走」は、時にヒトラーのような独裁者の台頭を招いてしまいます。

実はこれこそが、まさに今世界中で起こっていることなのではないでしょうか。

アメリカにおける無宗教の割合は、日本よりずっと低いとお話ししました。しかし、近年急速に高まっており、直近の10年だけで6ポイントも上昇しています。それと呼応するように、事実やデータ、論理に基づかず、断定口調で強論を述べる政治家、陰謀論、フェイクニュースが跋扈するようになりました。その背景には、「やるべき」「やるべからず」を決める心の拠りどころがほしいという悲痛な叫びが潜んでいるのではないでしょうか。

日本はどうでしょう。もとより無宗教だった日本において、同じ文脈で急速に力を失っているのは、社会の奥に潜んでいた武士道の価値観です。礼儀作法がナンセンスとされ、組織への忠義が「社畜」と罵られる。そんな、これまでの価値観が崩れ落ちつつある世界において、その代わりに私たちが拠りどころとするべきものはいったい何なのでしょうか。

それが明確には存在しない、というのが、現在の日本が抱える不安でもあり、同時に希望でもあると私は考えます。扇動的なリーダー、陰謀論、フェイクニュースに多くの国民が流される、といったようなことは、日本では起きていません。そして、伝統的な価値観にとって変わる新しい考え方も、いくつか萌芽しています。

「自分の好きなことを追求する」「好きなことをして生きていく」というのは、そんな新しい価値観の1つです。この価値観の主導者は1人ではありません。自己啓発書やソーシャルメディア、オンラインサロンなどで同時多発的に説かれ、多くの人の支持を集めて、1つの時代の潮流になっています。

そして、そんな価値観に触発され、実際にそれを実践した何人かは、新しいヒーロー、時代の寵児になっています。この新しい価値観が、まさに日本にとっての希望だと考えるゆえんです。

「自分の好きなことを追求する」という価値観は、100万人に1人の天才を世に生み出すためのものだと私は考えます。そうして生み出された天才は、社会に大きな価値をもたらし、時に世の中を変革します。その意味で、生み出された天才にとってはもちろん、その恩恵を享受する社会にとっても価値あるものです。

しかし、それは同時に、残りの99万9999人を置き去りにしてしまうという危険性も孕んでいます。

また、多様性の大切さが叫ばれる昨今です。たった1つの価値観で、社会全体を覆い尽くせるような時代ではありません。昭和の伝統的な価値観とも、平成の革新的な価値観ともまた違う、令和のまったく新しい価値観。そんな第三極が今、求められているのです。
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「人の役に立ちたい」という令和の新しい価値観

ボランティアでやっているキャリア相談などで若い人たちと話をしていると、「人の役に立ちたい」という気持ちを持っている人が多いことに驚きます。くだんのオンラインサロンに参加している人たちの中には、自分自身がサロン主のような突き抜けた存在になりたい、という人もいますが、サロン主を応援したい、コミュニティーに貢献したい、という心持ちの人がそれ以上に多いと聞きます。

ここに見られるのは、「自分がやりたいこと」を追求する価値観とは対照的な、「人が自分にやってほしいと思うこと」を追求する価値観です。

「たまたま近くにいたから」と利用されるのでも、「他に誰も頼れないから」と依存されるのでもなく、「他でもないあなたに」と頼られること。そして、それゆえに重視され、感謝され、その結果として報酬にも恵まれること。これこそが仕事における、なかんずく人生における幸せだと考える価値観です。

そして、このような、「人の役に立ちたい」という心持ちは、決して個性を否定するものではありません。「自分が最もやりたいこと」は世界に1つかもしれませんが、「最も多くの人が自分にやってほしいと思っていること」も世界に1つです。

世界には、埋められることを待っている欠けたピースがたくさん存在します。そんな中で、自分にしか埋められないピースを探す。それも、最大のピースを探す。それを探索するプロセスを「個性の探求」と呼ばずして何と呼びましょう。

天職を英語で「コーリング」と言いますが、個性や天職は「みんながあなたを呼ぶ声」なのかもしれません。いや、それは自分自身で見つけるものだ、という生き方・考え方もあるでしょう。私はそれを「芸術家のように生きる」と呼んでいます。

それに対して、相手からスタートし、相手の期待に応えることで自分の個性を見つける生き方を、「マーケターように生きる」と呼んでいます。なぜなら、マーケティングはつねに相手(顧客)からスタートし、自分たちにしかできないやり方で相手の期待に応えることを追求する営みだからです。
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「鬼滅の刃」の大ヒットが照らす令和の希望

このような価値観は、明治・大正・昭和的な「全体主義」とは明確に異なります。「全体(社会や会社)のために個が存在する」と考えるのが昭和の全体主義、「個人の自己実現のために社会や会社がある」と考えるのが平成の個人主義でした。

令和の新しい価値観は、これらいずれとも異なります。それは、個と全体がお互いを支え合う「ホールネス」の価値観です。

ホールネスは、私たちの身体と臓器の関係性に象徴されます。例えば膵臓は小さな臓器ですが、それなくしては身体全体が立ち行きません。しかし、同時に、身体全体がなければ、膵臓は単体では存在できません。

このように個と全体がお互いを支え合う「ホールネス」の価値観において、コミュニティーや社会全体への自分の貢献を考える。これが令和の新しい価値観なのではないでしょうか。

『鬼滅の刃』主人公の竈門炭治郎は、つねに自分を顧みず、人のために戦い・生きる奉仕の人ですが、「柱」を頂点とした組織の階層構造には果敢に挑みかかります。「柱」だからといって、それだけで相手を尊敬したりはしません。個と全体が支えあうホールネスの価値観においては、個と全体に優劣はないからです。

竈門炭治郎が映し出す世界は、新しい日本人の信仰であり、令和の希望なのだと私は考えます。

『マーケターのように生きろ:「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』

「個」の時代だと言われます。在宅勤務が急速に普及し、副業も一段とやりやすくなりました。インターネット経由で単発の仕事を請け負う「ギグワーク」も一般的になってきました。こうして働き方が多様になるのは、働き手にとってはいいことのようにも思われますが、見方によってはとても過酷なことだとも言えます。頭抜けて優秀なフリーランスに、事務や営業の仕事までを外注するのが一般的になったら、多くの人が会社での居場所を失ってしまうでしょう。(中略)

そうだとすると、「表現できる自分」なんて持っていない人は、どうすればいいのでしょうか? そもそも自分を表現するなんて性に合わないという人は? あるいは、そうしたくても才能がないと自覚していたり、1度は挑戦してむなしくも挫折した人は? そういった人たちは、誰も際立った「個」を持つことはできないのでしょうか?

それは違います。 そんな人には、「相手をよく知り、その期待に応える」という生き方があります。 自分を表現するのではなく、人の期待に応えることを追求するのです。そのために、まずは相手をよく知り、相手が何を求めているかに思いをめぐらせます。そして、自分にできる精一杯でそれに応えます。 この本では、そんな生き方を「マーケターのように生きる」と呼んでいます。マーケティングとは、そうして「常に相手からスタートする」という考え方を体現したものだからです。(「はじめに」より抜粋)

著者/井上大輔 東洋経済新報社 定価 1760円(税込)
※書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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