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2017.06.12

猿が騒ぐと雨が降る?雨の前に起こる不思議なこと

かつて、日本には雨の兆しを告げる多くの言い伝えがあった。今や天気予報を見れば数日先の天気まで把握できてしまうが、昔の日本人は熊や猿などの動物、あるいは風や雲の様子から雨を予期していた。生活のために誕生した、雨の到来を知らせる数々の言い伝えは、そんな当時の背景をも伝える「物語」として今に残る。

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文/畑中 章宏(作家・民俗学者)

「ごん狐」や「手袋を買いに」で知られる童話作家の新美南吉に、『煙の好きな若君の話』という作品がある。尾張の城主の若君である甚左(じんざ)は、三河の城主の姫君との輿入れの直前に出奔して、放浪をはじめる。

甚左が渥美半島の亀崎港で、三河に向かう船を待っているとき、こんな場面を見聞きした。信州から来た薬商人と、三河へ灸をすえてもらいにいく百姓が、沖のほうを向いて、虹の話をしていた。

「薬商人は晩の虹は雨がふるしるしだといいました。百姓は晩虹は晴れるしるしだといいました。」

虹と天気の相関でいえば、「朝虹は雨、夕虹は晴れ」だという地方が多いが、信州の薬売りは「晩の虹は降雨の徴候だ」と主張したのである。

降雨をめぐるこうした言い伝えが日本には他にもたくさんある。その背景には、日本に水田農耕を生業にする者が多かったことがある。
「朝焼けの日は雨になる。入道雲が湧くと夕立がくる。雲が高いと晴れ、低いと雨になる。北に向かう雲は雨、南に向かう雲は晴れ。うろこ雲ができた次の日は雨。蒸し暑い南風の次の日は雨になる。遠くの山並がはっきり見えるのは雨の兆し。月や太陽にカサがかかれば雨になる。海面に泡が浮くと強い雨と風が吹く……」などなど。

身近な動物の動作をめぐっても、ネコが顔を洗ったり、ツバメが低く飛ぶと雨になるなどといわれてきた。どちらとも、湿度の増加と関連がある指摘するむきがある。

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熊を殺すと雨が降る?

熊を殺すと雨が降る?

作家でイラストレーターの遠藤ケイが、山に暮らす人々の仕事や猟法・漁法、食事や禁忌を綴った『熊を殺すと雨が降る――失われゆく山の民俗』という本がある。

タイトルになっている「熊を殺すと雨が降る」は狩猟集団「マタギ」の口伝(くでん)で、山の神が清らかな山を汚したことに怒り、雨や雪を降らせて、血を洗い流しているのだという。“科学的”には、熊は天気が崩れる前に多量に餌を取る習性があり、このときに撃たれることが多いからだと説明される。

山の民の同様の言い伝えに、「山で猿が騒ぐと、明日は雨降りになる」というのもある。こちらのほうも、猿は雨に濡れるのを極端に嫌うこと習性にもとづくらしい。雨が何日も降り続くと猿は巣にこもり、餌が採れずに痩せ細ってしまう。そこで「猿撃ちは雨降り前、雨上がりの猿は撃つな」といわれる。

豪雨の前に聞こえる川の話し声

農耕や狩猟の目安として雨の兆しを感知する以外に、豪雨をめぐる口伝も少なくない。木曽川・揖斐川・長良川の木曾三川の流域には、豪雨の際に、川の上流から怪異な声を聴いたという伝承が数多く残る。民俗学者の柳田国男は、『日本の昔話』や『妖怪談義』のなかで、尾張国の話として木曾川で起こった、「やろか水」を紹介している。

井堀(いぼり)という村で大雨が降り続き、木曾川が増水して、村人たちが水番をしていた。そんなある夜のこと、対岸の淵からしきりに、「やろうか、やろうか」としきりに呼ぶ声がする。村人たちは気味悪く思うばかりで、どうすることもできずに顔を見合わせていた。しかしその声がいつまでも止まないので、人夫の一人が「よこさば、よこせ」と返事をしたところ、流れは急に増し、大水が押し寄せて、一帯の低地を海のようにしてしまった――。

「やろうか、やろうか」という不思議な声は、上流で発生した土石流の轟音が、下流にまで聞こえてきたものではないかと説明される。

現代の私たちは、雨具の準備を怠らないため、天気予報を気にするぐらいのものである。こうした雨情を愛でる習俗は都市文化が広まった近世にもあった。それは、生活の糧を得るため、天災から逃れるために、雨の予兆にじゅうぶんな注意を払い、豊かな口承文化を受けついできたのである。

これから先は、人間生活の利便のために創造された人工知能や人工生命たちが、雨にまつわる新しい口伝を生み出していくかもしれない。
1959年初版発行の『日本残酷物語』を、畑中氏が解説。『日本残酷物語』は刊行当時、そのセンセーショナルなタイトルと内容が話題となった。歴史や教科書には決して載ることのない声なき声を拾い集めた名著だ。『『日本残酷物語』を読む』には、その誕生から、作り手の人間模様までが描かれている。
1959年初版発行の『日本残酷物語』を、畑中氏が解説。『日本残酷物語』は刊行当時、そのセンセーショナルなタイトルと内容が話題となった。歴史や教科書には決して載ることのない声なき声を拾い集めた名著だ。『『日本残酷物語』を読む』には、その誕生から、作り手の人間模様までが描かれている。

● 畑中章宏 / 作家・民俗学者

1962年生まれ。日本人の民間信仰や民衆史をとおして、現代社会を考える活動を展開。著書に『柳田国男と今和次郎』『『日本残酷物語』を読む』(平凡社)、『災害と妖怪』『津波と観音』(亜紀書房)、『ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか』『蚕』(晶文社)、『天災と日本人』(筑摩書房)ほか。

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